阪急電車 有川 浩
今から45年ほど昔、私も西宮北口から仁川まで阪急電車を利用していました。 そう思い返していると、阪急は実に便利な沿線電車でしたね。 北口から神戸三宮、御影から芦屋にかけてのシットリと落ち着いた昭和初期の町並み、十三から大阪梅田、更に京都河原町へと、遊ぶには縦横無尽に連れて行ってくれました。
この小説は、懐かしくも私の高校通学区間を舞台に選んでくれています。この話のようにダイナミックな展開、ハプニングは私にはなかったけれど、淡くも様々な青春時代の思いはこの沿線電車に乗りながら感じて通学していました。
さて、この小説は阪急今津線の宝塚から西宮北口までの8つの各駅毎に、喧嘩あり、失恋あり、出会いあり、様々な事件がおこる。そして後半は今度は前半とは逆に西宮北口から宝塚にかけて前半に起きた物語のそれぞれの落ち着くところがでてくる。 それぞれが最後はまずまずのハッピーエンドといってよいところへ。ここがこの阪急今津線を自分の青春とかけ合わせて懐かしく思い起こさせるこの本の良いところであろう。
例えば、電車の中で若いカップルで 女の子がちょっと男の子に説教くさい注意をしたら、その男の子は、“お前はそんなに偉いのか!”と乗客注目の中で電車のドアを足蹴にする、そして次に着いた駅でさっさと一人降りてしまった。それを観ていたあるおばあちゃん、一言“あんな男捨てちまいな!”と女の子に聞こえるようにつぶやく。 さてこれからどうなったでしょうか、読んでのお楽しみです。
今津線の各駅を表情も実に昔を思い起こさせるべく正確に表現されていて嬉しいです。