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死顔     吉村 昭

2010年06月18日 06時00分07秒 | Books
   死顔     吉村  昭

 人の死ぬ間際の様子はどうなのだろう?といった疑問があり、そこを小説家はどのような眼で、心持で見つめ書き表すのであろうと思って、 かつ精緻な文章を書く吉村 昭の この様な本があったので手にしてみました。
 6つの短編と 奥さんである津村節子さんの吉村の最後の様子を書いた一文が纏められている。 どの短編も、死にまつわるものばかりです。 全て抑えられたタッチで書かれており、それでいて読んでいて飽きない。却って通奏低音のような緊張感を読むものが感じているのであろう。
 文中から抜粋 『次兄には家族がいて、かれらに見守られながら死を迎えるのは、次兄にも家族にとっても幸せなのではないか、という思いが胸にわいている。 弟であると言え、次兄とは異なった生活をしてきた私は、むろん次兄と家族との絆よりはるかにそのむすびつきは弱い。そのような私が、悲しみに嘆くかれらの輪の中にはいってゆくことは、死の瞬間というかれらの心が一つにむすびつく時間をみだしてしまうことになるのではないか。』 
 『死の確定し病臥している人の見舞いに行くことはひたすら避けている。それに、病み衰えた人の顔、体を眼にするのは失礼だという気持ちがある。』
 奥さんの津村節子の文章より、『死はこんなにあっさり訪れてくるものなのか。急速に死が近づいてくるのがよくわかる。ありがたいことであだ。』 これは 死の間際の吉村の言葉である。 吉村はこの後延命治療は拒み、自ら体に挿入されていたチューブを引き抜いてしまったそうだ。改めて挿入させることは、この津村節子がこの人の良いようにさせてあげてといって断ったそうである。 
 死の間際の心持が多少は分かったようで、私も少し落ち着いたような気がした。