大方の予想に反し、
昨年のアカデミー賞で4部門にノミネートされた「第9地区」。
Yahooのレビューなどには、
「猫缶(キャットフード)が大好物のエイリアン」と書かれていたり、
「エイリアンを通じてアパルトヘイト問題を描いている」と書かれていたりするので、
お笑い系なのか、社会派系なのかさっぱりわかりませんでしたが、
ようやくわかりました。
結局、そのどちらでもありませんでした。
スラップスティックかと思いきや、ストーリーは意外なほどシリアスで、
エンターテイメント性に満ちあふれており、
そういった意味では、予想をまったく裏切られる映画でした。
この映画では、エイリアンが難民化して、人類に虐げられています。
主人公もヒーローなどではなく、他の映画だったら脇役に出てくるような、
出世に張り切るジコチューでちょっと嫌味なキャラクターです。
「これまでになかったタイプのSF映画」そう評する声もあります。
確かにこれまで、そんな設定のSF映画はありませんでした。
ストーリーも主人公の身体が変異していったり、
エイリアンの高度な科学技術や兵器を手に入れようとする組織に追われたり、
反目しあっていたエイリアンと人間が、
同じ目的のもとに協力しあううちに心を通わせたりと、
どこかの映画で観たことがありそうでありながら、
それらが見事に絡まりあって独特のオリジナリティを生み出しています。
ただこの映画、R12指定だけあって、
最初から最後まで暴力とグロテスクな描写ばかりです。
美しいシーンなど、ただのワンカットもありません。
その点では、好き嫌いがはっきりと分かれるでしょう。
そもそも、エイリアン自体が醜悪な昆虫かエビのような格好で、
映画の冒頭から惜しげもなくその姿を披露します。
そんなわけで、ふと、
人間というのも異星人から見れば醜悪で、
残酷な生きものに見えるのかもしれない。
人間の食事や性生活も、他の異星人から見れば
グロテスクな行為に見えるのかもしれない。
そんなことを感じたのでした。
異文化や異形のものに対する偏見。
そういう意味では、確かにこの映画は、
人種差別問題を描いているといえるかもしれません。