ある知り合いの会社の総務に配属された中堅社員が、
「ぼくは雑用をするためにこの会社に入ったのではありません」
と息巻いて周囲が手を焼いている、という話を知人から聞きました。
その中堅社員は、総務に配属される前は財務系の部署にいました。
財務業務の経験も長く、専門知識も豊富で、
担当していた仕事は、「自分にしかできない」と自負していたそうです。
ところが自分に代わって異動してきた、自分よりも若い後任者が、
何の問題もなく仕事を引き継いでいるのを見て、彼はいたくプライドを傷つけられ、
「もっと自分にしかできないスキルを、はやく身につけなければ・・・」
と焦っているようなのだと、彼の先輩である私の知人は言います。
「こんな部署に長くいるつもりはありません」
などと上司に言いきったというのですから恐れ入ります。
「自分にしかできない仕事」とは何でしょうか。
若いころは誰でも「自分にしかできない仕事」、
「自分が必要とされる仕事」にあこがれ、やりがいを求めます。
そのために勉強し、経験を積む努力は、間違ったことではありません。
会社では「どのくらいできるか」は、評価の重要な基準です。
しかし、会社の仕事において、知識や技術の面で、
「自分にしかできない仕事」などというものはありません。
自分の代わりはいくらでもいるし、今後いくらでも出てきます。
なぜなら、そうでなければ会社は存続しないからです。
それでも、「この人でなければ!」と会社で必要とされるのは、
すべてその人の人間性、「ヒューマンスキル」によるものです。
「円滑な人間関係を築くコミュニケーション力」
「後輩をやる気にさせ、能力を引き出すリーダー力」
「上司をなるほどとうなづかせる説得力」
「他部署と連携し、自分の仕事を円滑に進める調整力」
「この人にしかできない仕事」と評されるのは、
必ずこういったヒューマンスキルを発揮できる人です。
このようなスキルが身についていてこそ、
高度なビジネススキルは活かされ、認められるものです。
そしてそれは、一見すると雑用にほかなりません。
はたからはどんなに華々しく見える仕事や成果も、
大半は雑用と思えるような面倒の積み重ねのうえにあります。
それは、言葉で説明してもわかるものではありません。
「はやくそのことに気がついてほしい」
そう私の知人は言うのでした。
これって、資格ばかりたくさん持っていても、
食べていけるとは限らないのと同じですね。