大津岐峠の残雪
雪原の端で登山道を探しながら進む、目印やテープは無いので経験者向き
場所に寄っては雪庇が有るので注意、このような雪原が尾根上に無数に有る。
大津岐峠と言えば、この巨大な標柱が有名だが、今回はこの標柱を見つけられなかった
豪雪でも埋まらないように巨大にしたと言うが、雪原歩きで間違えたらしい。
写真は昨年の夏に撮影したもの
だが、後で燧の湯でお会いした方も、大津岐峠に登ったが、この標柱を
発見出来なかったと言う。
もしかしたら豪雪で倒れた? 謎である。
6月26日(日曜日) 午前4時何とか起床、4時から起きて朝食の約束だった
外に出てみると、雲はたれ込めていたが、明るい部分もあり、何とか
持ちそうな気配だった。
花友も起きてきて、ガスコンロでお湯を沸かしている。
二人からインスタント味噌汁とバナナ、水を入れるだけで作れる
おこわ風混ぜご飯の携帯食料を貰った。
出発するときに水を入れておけば、昼までには出来上がると言う訳である。
これは、Kさんが前回の駒の小屋泊まりで試して、味も良いという
事で、今回おすそわけして貰ったのだ。
ウイダーインのエネルギーとおむすびと味噌汁を食べて朝食完了
雨の時、すぐに取り出せるようにレインウェアをザックの一番上に詰め替えた。
5時に出発する予定だったが、私のドジで20分ほど遅れた。
今回のコース図、カシミールの山旅地図を使用した。
「 この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)
数値地図50000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)
数値地図50mメッシュ(標高) 及び数値地図10mメッシュ(火山標高) を使用した。
(承認番号 平22業使、第446号) 」
コース概略 およその目安として
キリンテ登山口から大津岐峠まで 距離5.10Km 所要時間上り3時間30分、下り2時間
大津岐峠から巡視路分岐まで 距離2.55Km 所要時間下り1時間10分、上り1時間20分
巡視路分岐から七入り下山口まで 距離3.90Km 所用時間下り2時間 上り3時間
七入りバス停まで5分(500m)
距離合計およそ12Km 歩行時間6時間45分(食事時間、休憩時間含まず)
これは無雪期のタイム予想なので、残雪期は多めにすると良い。
また、この時期は、蚊やブヨなどが多いので、虫除け対策と、残雪や
ぬかるみが多いので、防水対策も必須です。
大津岐峠から大杉岳に続く大杉林道は、残雪が多く、残雪をつなぐように
登山道が有ると言っても過言ではない。
だが、その雪の溶けた登山道がすばらしいお花畑であった。
5時26分 キリンテ登山口を出発、巨大な蕗の群生する道を行くと、やがて
渓流の小橋を渡る。
いくつかのラショウモンカズラが咲いていた。
岩をはむ清流が白い飛沫をあげて流れている。
手を入れた花友が「冷た-い。」と声を上げる。
そこから先はブナなどの多い樹林帯となり、ホウの木の白い花が頭上に見えた。
右に左にとジグザグを繰り返して登ってゆくこのコース前半は
精神的な難所で、ともすれば嫌になるが、ツクバネソウやムラサキヤシオ
タムシバなどが励ましてくれる。
大津岐峠の巨大な標柱が見えず、一時コースを間違えたかと思ったが
GPSで確認すると確かにコース上を歩いていた。
滑る雪原歩きに気を取られ、気がつくと大津岐峠の合流点はすぎていた。
ブナの多い登山道は、落ち葉も多く保水能力も高いので、ギンリョウソウの
生育に適しているのだろうか。
あっちにもこっちにもギンリョウソウが群がって咲いている。
やがて白い花のユキザサが現れ、標高が高くなると薄緑の花をつけた
ヤマトユキザサが現れた。
花友のIさんが、三種のユキザサの見分け方を説明する。
ヤマトユキザサは、茎は暗紫色で毛が有る、茎に角が無い
ヒロハユキザサは、茎は緑色で二本の角があり、毛は少ない。
どちらも雌雄異株である
確実な見分け方は、茎に角があるかどうかなので、さわってみよう。
(ヤマトユキザサには、希に茎の色が緑色もあるとかで確実に見分けるには)
角を正式には稜と言うらしいが、要は筋状の突起が2本有るかどうかである
普通のユキザサは、花が白いので誰にでも判る、こちらは雌雄同株の両性花
そんなことを言っていると、茎が緑色のヒロハユキザサが現れた。
これからたどる大杉林道の尾根を見渡すと、空は雲に覆われガスが山々にかかり
目印の送電線の鉄塔も見えなかった。
パラパラと雨が落ちてきたので、みんなでレインウェアを着た
ついでに貰ったバナナを行動食として食べた。
アクエリアスを飲むと、汗がどっと噴き出した。
三人で歩くときは、トップがKさん、セカンドはIさん、殿は私である。
Kさんは、地形を読む方向判断に優れていて、花を見つける感覚も鋭い。
「野生の勘」などと謙遜するが、実は人知れず本を読んでいる事を知っている
今回の資料もKさんに渡して読んで貰ってある。
倒れて朽ちかけている大木の根に、シダが繁茂して緑が美しい。
この世で滅びないものは何もない、違うのは滅びるまでの時間の長さである
と言っていた中学時代の理科の先生の言葉をふと思い出した。
あの時は、太陽が滅びるなんて想像も出来なかったし、判らなかった。
同じように見えて、自然は少しずつ形を変えている。
林道の至る所に咲いていた白根葵
「あらーっ、あっち見て、こっちの藪にも沢山咲いているわよ。」
Iさんの声が喜びにあふれている。
「うーん、うーん」とKさんも頷いている。
最初の白根葵は、そっぽばかり向いていたが、だんだん まとまって咲く
白根葵が増えて、真正面からとれる花もいっぱいだった。
白いムシカリの花が、雨に濡れて葉っぱにへばりついていた。
ようやく目指す燕万年青(ツバメオモト)の群生地にたどり着いた。
だが花が無い、花は散って花柄だけが残っている。
この時期を設定した私は、しまったと思ったが、花友が「しょうがないわよ」
となぐさめてくれた。
先を行くトップのKさんが「ツバメオモトが咲いている」と声をあげたのは
それから間もなくだった。
標高と日照時間の違いだろうか、燕万年青の見事な花群落が続いていた。
全く無防備と思えるほど、登山道の脇に咲いているのだ。
濡れたツバメオモトの葉っぱは、緑色が鮮やかで、群がって咲く白い花は
まぶしく見える。
重さを軽減するために持参したミニ三脚が、役に立たない事を知った。
やはり大は小を兼ねるなのだ。
と言うわけで、写真は手持ち撮影となってしまい、かなりボケている。
まあ一番ボケているのは自分なのだが(苦笑)
こちらも無数に咲いていた「ミヤマキスミレ」ふうオオバキスミレ
ところで、この写真を一目見てオカシイと思ったあなたは鋭い。
私は帰ってから気がついた。
ショウジョウバカマの花がポツリポツリと見え出し、イワナシの実がなっていた。
それもだんだん花に変わり、ピンクの筒型の花が可憐だった。
コヨウラクツツジの小さな壺が風に揺れている。
目の前に残雪が現れ、間もなく大津岐峠が近いと思えた。
雪の上に鹿のフンが転がっている。
サンカヨウ(山荷葉) 荷葉とは蓮の葉を表す言葉で、山に咲く蓮の葉
と言う意味である。蓮と書く場合は、花や植物全体をむ差し、荷葉は
葉を言い表わす場合に使うという。
蓮の葉は、葉の裏の中心に葉柄があり、山荷葉も同じように葉柄がついている
おもしろい事に、大小二つの葉の小さい方に花が付くが、小さい葉に
葉柄が無い。 メギ科サンカヨウ属
以上、minoさんの知ったかぶり講座---(笑)
この花は、栂池で見て以来、私の好きな花の一つになった。
那須で、蕾の頃のこの花を見て、マントに包まれたような形に感動した記憶がある
サンカヨウと聞くとソウカヨウと言いたくなる。
笹の道をわけると、目の前に巨大な残雪の雪原が現れた。
大津岐峠到着と言ったのだが、目印のあの標柱が無い。
慎重に雪原に登って見渡したが、見つけられなかった。
時計を見ると9時34分であった。
もう少し先ではと思って、雪原を渡り、次の雪原に行ったが
GPSで確認すると、大津岐峠から大杉林道に入っていた。
「どうする、引き返しますか?」と聞くと「今更あの残雪を歩いて
帰るのは嫌だ」という。
Kさんの頭の中では、すでに勝算が有ったのだろう。
GPSでコースを確認すると、間違いなくコース上だった。
それからは大杉林道の雪原歩きが続いたが、雪のない登山道に
出ると、次から次へと花が咲いていて、三人で歓声を上げた。
ハクサンチドリ・白山千鳥・ラン科ハクサンチドリ属・別名シラネチドリ
江戸時代の草木図説に白山を標本とする原図があったので
白山千鳥と名付けられたという。
千鳥は、花の形が千鳥の飛んでいる姿に似ていることによると言う。
この花のシロバナが、秋田駒ヶ岳の八合目避難小屋前に咲いていたが
誰も見向きもしなかったのには驚いた記憶がある。
ここまでは、写真の説明と登山記を、時間差進行で書きましたが
登山記はここで終了します。
あまり具体的な地名を書くと、貴重な花が盗掘されかねない危険が
有ると花友からも指摘され、自分の苦い経験からもそのように
思いますので、ここからは写真説明のみといたします。
尚、参考の為、各地点の時刻は次の通りです。
キリンテ出発 朝5時26分
大津岐峠着 09時34分
巡視路分岐 12時10分
七入り下山口 14時40分 ぎりぎりでパスに間に合った。
キヌガサソウ・衣笠草・ユリ科ツクバネソウ属 別名花笠草
キヌガサソウの葉は、8~10枚が放射状につく、その葉姿を
昔の貴族などが従者に差させた「衣笠」に見立てたもの
キヌガサソウとサンカヨウのコラボ写真
尾根の残雪は、表面にゴミが亀甲模様を描いていたが、最近の足跡は無かった。
三人とも、このような雪原の登山は初めての経験だったが
雨があまり降らないという幸運にも助けられたと思う。
イワカガミ・岩鏡・イワウメ科イワカガミ属
コバイケイソウ・小梅草・ユリ科シュロソウ属
バイケイソウと似ているが、花が小さいので小が付いた
若芽と根茎は有毒なので注意
イワイチョウ・岩銀杏・ミツガシワ科イワイチョウ属 別名ミズイチョウ
名前の元は、岩場に咲く銀杏の葉に似た葉を持つ花という意味だが
岩場よりも湿地に咲くことが多く、葉っぱもそれほど銀杏に似ているとは
思えない。別名の方が合っている気がする
花弁にヒダがあり、縁は波打っている。ミツガシワのような毛がない
ウラジロヨウラクの白花と思われるが、樹林帯で暗く、ピントが合わず
ボケてしまったが、珍しいのであえて公開する。
コミヤマカタバミ・小深山傍食・カタバミ科カタバミ属
ミヤマカタバミに似ていて草姿が小さいので小が付いた。
ミヤマカタバミは葉の角が尖り気味なのに対して、コミヤマカタバミは
角がやや丸みを帯びている。
カタバミの名前は、日が陰ったときや夜になると、葉が折りたたまれて
片側の葉が食べられたようになるのでつけられたという。
断定は出来ないが、白根葵の白花と思われる蕾も有った
送電線の管理に使う巡視小屋・一般人は利用出来ない
この前の分岐から、七入りに下る送電線巡視路に入る。
以下の写真をご覧いただくと判るが、送電線巡視路は、登山用では
無いので、崩落地や崖の上を歩く難ルートです。
一旦顛落すると、登山者も希なため、発見されない可能性が有ります
登山届けなど、万全な体制で歩きましょう。
できれば複数の人と歩きたい。
崖の上
崩落地のガレ場
急斜面の道が続く
雨で濡れて「スケスケ」になったサンカヨウ
そして頑張った人だけが見られる花が咲いてました
エンレイソウの写真を追加・三枚の萼片と花弁のようなものが1枚ついた
シロバナエンレイソウの奇形のようなエンレイソウ。
おしまい。