歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

ベトナム進出ブームに思う

2007-03-08 23:55:02 | Weblog
 日頃から親しくさせていただいている先生が、ベトナムに進出している金型メーカーの視察から帰ってきました。写真は彼からもらったお土産です。ベトナム煙草にしてはまあまあの味でした。さて彼と会って現地の模様を聞いたのですが、とても活況とはいえないとのことで、「やっぱりな」という印象を受けました。

 私がベトナムに進出した日本メーカーを見て回ったのは3年前、そして2年前、ちょうど「中国一極集中リスク」のヘッジ先としてベトナムが注目を集めていた時期です。中国の沿海部と比べて労働者のコストは安いですし、概して人は優秀で定着率も高い、ということは事実だと思いましたが、機械工業が進出するにはあの国はちょっと難しいと思いました。
 ベトナムは人口8000万人の東南アジアの大国ですが、自動車の年間生産台数は3万台にも達しません。最大の自動車メーカーはハノイ近郊に進出しているトヨタ自動車ですが、あのトヨタですら月間の生産台数は1000台に過ぎません(ほとんど手作業で作っています)。機械工業にとっては国内市場は非常に限られているのです。しかも、AFTAの措置により完成車の輸入にかかる関税がいずれ大幅に引き下げられるので、いずれタイなど周辺諸国から安価で性能の良い輸入車が大量に国内市場に流入し、国内市場向けに部品供給を行うメーカーはますます厳しくなることが予想されます。
 このため輸出市場に活路を見出さざるを得ないのですが、基盤産業が脆弱なベトナムでは原材料の国内調達が難しく、輸入に大きく頼ることになります。このため、いかに労働コストが安くとも、コスト面で中国などに対して優位に立つことが難しいのです。

 以上のように、少なくとも機械工業ではベトナムへの進出は必ずしも有利とは言えない要素が多いのですが、どうもマスコミは依然としてベトナム進出ブームを煽っている観があります。ベトナムに限らず「○○ブーム」と報じられている事象については、そのまま鵜呑みにすることは避けた方がよいと思います。

恩師の最終講義

2007-03-06 23:45:03 | Weblog
 私の恩師、湯川武教授の講義を聞きに母校へ行ってきました。仕事が忙しい時期とはいえ、学生時代に大変お世話になった先生の最終講義となると、それどころではありません。通常の授業ではなく記念講演でしたが、学生時代に戻ったような新鮮な気分を感じるとともに、恩師が定年退官されることで私の青春が終わる(やっと)、そんな一抹の寂しさも感じた一時でした。
 専門が中世アラブ史である恩師の講義の内容は、13世紀のアラブの二大政治思想家、イブン・タイミーヤとイブン・ハルドゥーンに関するものでした。現在の私の仕事とは全く関係ない話とはいえ、内容は非常に現代性に富んだもので、大変知的な刺激に満ちたものでした。母校を退官後、恩師は別の大学で教鞭を取られるとのことですが、今後もますますの活躍をお祈りしたいと思います。

北朝鮮の鉱物利権争奪戦

2007-03-05 00:11:34 | 海外ものづくり事情
 北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議は、どう考えても北朝鮮にとって有利な条件で合意されたように思いました。なぜなら核兵器を開発したことで、重油をタダでもらえることになったのですから。ひどい脅しもあったものだと感じると共に、北朝鮮の抜け目なさに妙に関心してしまいました。

 しかしながら、本当に抜け目がないのは欧米そして中国であり、舞台裏では日本人が思いもよらない動きがあったようです。実は6カ国協議の本質は、核ではなく北朝鮮の鉱物資源の争奪戦なのだというのです。
 先日紹介した中村繁夫氏の著書「レアメタル資源争奪戦」には以下の記述が見られます。

(以下引用)
 北朝鮮のレアメタル資源は、すでに中国が押さえたと言われている。タングステン鉱山などは中国の直轄地になっている。北朝鮮問題の本質は核ではなくレアメタル資源であり、6カ国協議が進まないのも資源を独占するためかもしれない。
(引用終わり)

 ほんまかいな、と思ったのですが、今週の「エコノミスト」(2007.3.6)には元外交官(北朝鮮班長)の原田武夫氏が「6カ国協議の真相は北朝鮮の鉱物利権争奪戦」という論文を寄稿しています。やはりこの説は信憑性が高そうです。以下、原田氏の論文からも一部引用します。

(以下引用)
 それでは「北朝鮮問題の本質」とは何か-。それは、北朝鮮がマーケットの観点から見れば潜在的な経済利権の宝庫であり、表向きは「核問題」といった様相を演出しながらも、日本以外の各国が舞台裏で行っているのは、その利権の分配に過ぎないということである。
 山岳地帯を多く含む北朝鮮は、鉱物資源の宝庫である。鉄鉱石や石炭、そして領海では石油すら採掘が可能であるほか、ハイテク製品には不可欠な各種の希少金属(レアメタル)、そして金(ゴールド)といった鉱脈を抱えている。ウランもその例外ではない。
(中略)
 また、鉱山開発や精錬には大量の電力が必要だ。米国が滑り込むことで鉱山資源の分配が事実上ついた北朝鮮で次に必要なのは、大量のエネルギーということになる。だからこそ、日本を除く各国は、今回の会合の冒頭から「エネルギー支援、まず先にありき」という発言を繰り返したのである。
(引用終わり)

 国際政治というものは実に冷徹なものですね。

ASEANにおける日本車生産

2007-03-04 23:15:21 | 海外ものづくり事情
 ASEANへの出張を控え、現地の自動車・部品生産についていろいろとデータを集めているのですが、なかなか興味深い地域です。
 ASEANはタイが牽引する形で自動車生産台数が近年急激に伸びている地域ですが、その多くは現地で生産される日本車なのです。日刊自動車新聞社の「自動車年鑑」をもとに2005年の日本車の生産台数シェアを計算してみたところ、フィリピンが100%、タイとインドネシアが約90%、マレーシアは約70%と、日本車のシェアは圧倒的です。ちなみに北米は約28%、中国は約15%ですから、ASEANでの日本車の優位性は際立っています。もっとも、世界最大の自動車市場である北米で生産される自動車の3台に1台近くが日本車、という事実もすごいことなのですが。
 ASEANにおける日本車の圧倒的な優勢は、やはり進出の歴史が古く、その長い操業の歴史を通じて、日本のものづくりに通じた人材の厚みや裾野の広い産業集積が現地で形成されていることが指摘できるでしょう。現地では部品メーカー、特に素形材メーカーを中心に見て回る予定ですが、面白い話が聞けそうで楽しみです。

                        ASEANにおける自動車生産台数の推移
                       (日刊自動車新聞社「自動車年鑑」より作成)
     
                    各国・地域における日系メーカーの生産台数シェア(2005年)
                   (日刊自動車新聞社「自動車年鑑」より作成)
         

中村繁夫「レアメタル資源争奪戦」

2007-03-03 23:59:44 | 読書
 日本の機械工業が高い国際競争力を有しているからこそ、日本は巨額の外貨を稼ぎ出すことができ、日本人の豊かな生活が成り立っているということは、改めて説明する必要はないと思います。しかし、製品を作るための原材料とエネルギーは外国からの輸入に大きく依存しており、入手できなくなるといかに高い技術を有していても手も足も出ません。その代表例として鉄と石油があるわけですが、あともう1つ、機械工業にとって極めて重要な原材料があります。それはレアメタルです。
 レアメタルは、コンデンサーなど電子材料にとって不可欠な材料として知られますが、機械工業にとっても不可欠な素材です。工具はレアメタルの塊ですし、高張力鋼板など世界最高の品質を誇る日本の鋼材にはバナジウムやボロンなどが添加されています。また高い精度と長寿命を実現する金型を作るには、ニッケルなどが添加された特殊鋼やタングステンを多く含む工具鋼が不可欠です。さらに、航空・宇宙や海洋開発など、日本の機械工業が今後取り組むべき分野は、レアメタルの使用を避けることはできません。

 現在、原材料の価格高騰が大きな問題になっていますが、鉄や石油以上にレアメタルの価格の上昇ぶりはすさまじいものがあります。その背景には、レアメタルが鉄や石油以上に資源の埋蔵が偏在しており、希少性が高いこと、中国などにおける需要増があるわけですが、欧米そして中国がこのレアメタルの確保に向けて熾烈な競争を繰り広げていることを、レアメタルとは何かということから実にわかりやすく解説しているのが、レアメタルの専門商社の社長である中村繁夫氏が今年2月末に著した本書です。「ハイテク日本の生命線を守れ! 」という副題が付いていますが、上記の理由から内容は機械工業全般にとって重要な問題を含んでいます。
 日本はレアメタルの輸入の多くを中国に依存しています。しかし、レアメタルが自国の経済発展に役立たせる重要な戦略物資であることを強く意識しだした中国政府は、輸出規制を強めるばかりか、アフリカや中南米におけるレアメタル鉱山の権益確保に動き出していることは、あまり日本では報じられていないように思います。
 著者の視点が優れているのは、そんな中国の動きを単に「けしからん」と非難するのではなく、ひどい環境汚染をもたらしている中国のレアメタル鉱山(山に苛性ソーダをぶっかけて、溶け出したレアメタルを麓で回収するというすさまじい方法を取っている鉱山もあるそうです)の現状については中国政府も問題視しており、優れた環境技術を有する日本は積極的に協力し、経済的な結びつきを強化すべき、と主張している点です。とはいえ、中国に大きく依存し続けるのはリスクがあり、日本国内での探鉱や備蓄、リサイクル、そしてアフリカや中南米などの産出国との技術供与を通じた関係強化の重要性も著者は主張しています。

 また、著者の日本人論も注目できます。著者は「日本にとって危機意識がなければ日本特有の組織力や展開力が発揮できない。逆説的に聞こえるが、資源がないから日本は生き残れる。」と主張し、オイルショックの際に発揮した日本の省エネ、省資源技術の飛躍的な発展を指摘する一方、金持ち大国となって「金さえあればなんでも買える」という意識を持ってしまった今の日本人の危機意識のなさに警鐘を鳴らしています。
 本書は製造業に従事する方だけでなく、多くの日本人が読むべき本であると私は思います。

レアメタル資源争奪戦―ハイテク日本の生命線を守れ! (単行本) 中村 繁夫 (著)

もう3月になってしまいました

2007-03-01 23:24:39 | Weblog
 仕事に追いまくられている毎日です。この時期は「2月が31日まであればなあ」といつも思います。
 しかし、年度末はただでさえ忙しいのに、今年は3月後半に東南アジア出張を控えており、そのため他の仕事を例年よりも早めに片づけなければならないため、忙しさは半端な状況ではありません。健康にだけは気をつけて乗り切りたいと思います。