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川端裕人「夏のロケット」(文春文庫)

2009-09-26 22:33:25 | 読書
 川端裕人「夏のロケット」(文春文庫)を読みました。友人から「古本屋で100円で買った本だけど、面白かった。お前にやるよ」と言われてもらった本ですが、これは儲けものでした。科学技術、ものづくりに興味がある人には是非一読をお勧めしたい小説です。

(以下引用)
内容(「BOOK」データベースより)
火星に憧れる高校生だったぼくは、現在は新聞社の科学部担当記者。過激派のミサイル爆発事件の取材で同期の女性記者を手伝ううち、高校時代の天文部ロケット班の仲間の影に気づく。非合法ロケットの打ち上げと事件は関係があるのか。ライトミステリーの筋立てで宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた青春小説。第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞のデビュー作。
(引用終わり)


 ちょっとネタバレになりますが、主人公の「ぼく」はかつての仲間たちと過激派との関係を疑いつつも、手作りのロケットを作って打ち上げる、という仲間たちの非合法ロケット計画に結局は参加してしまいます。彼らの目標はなんと有人宇宙飛行です。果たして無事に成功するのか、は読んでのお楽しみです。

 このロケット制作の模様の描写や、設計から材料、金属加工、燃料などのものづくり、ロシアやアメリカのロケット開発の歴史、商社の宇宙ビジネスの実情など、主人公や仲間たちによって語られるロケットの開発の歴史や技術の話の内容は、非常に具体的かつわかりやすいものになっています。著者はもともとテレビ局で科学技術担当記者などを務めた経験の持ち主であるため、こうした話題については得意分野なのかもしれませんが、著者が膨大かつ綿密な調査を行っていることは疑いないでしょう。
 私も本書を読んで初めて「傾斜機能材」とはどのような材料なのかよく理解することが出来ましたし、今まで「どうせ戦後にソ連がドイツから強奪した技術が基盤になっているんでしょ」と思っていたロシアのロケット技術は、実は帝政ロシア時代から世界でも最先端を走っていたということを知りました。本書は宇宙開発に関する技術と歴史について知る入門書としても使えるような気がします。

 ストーリーはよくできており、ついつい引き込まれてしまいます。私は通勤電車の中で読んだのですが、すっかり没頭してしまったため、電車が下車駅を過ぎたことに気がつかずに2駅ほど乗り過ごしてしまったほどです。
 「小型とはいえ、成層圏にまで達するようなロケットを何度も試射で打ち上げていたら、航空管制当局や米軍などによってあっという間に補足されて計画がバレるんじゃないの?」とか、「マッドサイエンティストのような天才技術者とか、職人気質の町工場の親父さんとか、人物の描き方がちょっと安易すぎないかなあ(良く言えばキャラが立っているからアニメ化とかはやりやすいだろうけど)」など、ちょっとツッコミを入れたくなる点もあります。しかし、そこは良質な大人のためのファンタジーとエンターテイメントだと割り切って、一気に読んでしまうことをお勧めします。