クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

浅草の“牛すじ煮込み”はどんな味?

2011年02月09日 | グルメ部屋
高校3年生の5月上旬、
「テーブルマナー」と称した校外授業があった。
その名の通り、テーブルマナーを学ぶという授業である。

場所は“浅草ビューホテル”。
現地集合だったのかどうか、もう覚えていない。
高校生の頃、ぼくは初詣に浅草寺を選んでいたから、
浅草は比較的親しみのある町だった。

浅草と言えば雷門、人形焼き、花やしき、競馬、
そして牛すじ煮込みである。
初詣の帰りにたまたま寄った定食屋は、
おっちゃんがたむろする店だった。
おそらく、競馬途中や帰りのおっちゃんがよく使う店なのだろう。

男同士ならともなく、
女の子を連れていると入りづらい。
ましてや、女同士だと敷居がぐっと高くなるかもしれない。
そういう雰囲気の店だった。

しかし、浅草の牛すじ煮込みはうまい。
冷えた体にしみる。
十代なのに、これをつまみに一杯やりたいとさえ思った。

隣のおっちゃんもニコニコしている。
勝ち競馬だったのかもしれない。
言葉を交わすことはなかったが、
心も懐もあたたかい気がした。

テーブルマナーは、そんな牛すじ煮込みは出てこない。
終始、お上品なお料理がお目見えした。
フォークとナイフを使ってお口に運ぶ。

お給仕もしてくれるし、誰も騒がない。
つけっぱなしのテレビもなければ、馬も映らない。
交わす言葉も、心なしか皆横文字。
笑い方も自然と「おほほ」となる。

ちなみに、その日のテーブルマナーの光景は、
卒業アルバムに掲載された。
制服姿のぼくも映っている。
むろん、馬も牛すじ煮込みもない。
どこからともなく、「ざます」言葉が聞こえてきそうである。

テーブルマナーは午前中で終わった。
その後、真っ直ぐ帰るのが学校の決まりになっていた。
しかし、高校生が東京に来て直帰するわけはない。

ぼくらは渋谷に出て、ぶらぶら歩いた。
学生服姿が気になったが、
それはご愛敬というもの。
渋谷で遊んだあと、別の町でカラオケをして帰った。

地元に戻ったときは、時間はだいぶ遅くなっていた。
外はとっくに暗い。
実は、駅の改札口で、
寄り道した生徒を教師たちが待ちかまえていたのだ。

つかまれば、お説教と名簿にチェック。
その「チェック」が何を意味するのかわからない。

たまたまぼくらより少し前に、
同じく寄り道をした同級生たちがいた。
彼らがターゲットとなり、教師たちが追いかけてくる。
当然、隙が生まれる。

一歩タイミングがずれていたら、
ターゲットになっていたのはぼくらの方だった。
当たり馬券を引いたようなものである。
ぼくらは馬のごとく改札口をすり抜け、
夜闇の中へ消えていった。


牛すじ煮込み


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