〔15.2.4.日経新聞:企業1面〕

自動車部品の値下げ要請見送りがトヨタ自動車だけでなくグループ各社にも広がっている。アイシン精機や豊田自動織機など主要な1次取引先が3日、相次ぎ追随の方針を表明した。この流れがさらに2次、3次へと広がれば、中小企業の利益の下支えになる。大手との業績格差が課題となるなか「還元」で賃上げに踏み切る中小企業が増えるかが次の焦点だ。
トヨタは1月30日、2014年度下期(14年10月~15年3月)に続き15年度上期(4~9月)についても量産車の部品取引価格の改定を見送る方針を固めた。トヨタの1次取引先は約450社。3次まで含めれば数万社に上る取引先の企業群を値下げ要請見送りで支え、政府が求める賃上げをサプライチェーン(供給網)全体で後押しする狙いがある。
3日のグループ各社の決算発表では15年度上期の価格据え置きについてアイシンが「我々も対応する」(伊藤慎太郎常務役員)と同様の措置をとる構えを明確にした。豊田自動織機やジェイテクトも前向きだ。デンソーは明言を避けたが、14年度下期分はトヨタに呼応しており、15年度上期についても方針を変えない可能性が高い。
トヨタにとっての1次取引先であるグループ各社が価格を据え置けば、2次にまで恩恵が行きわたる。
円安による資材価格の高騰などで疲弊しているのは2次、3次の中小企業といわれており還元効果は大きい。輸出でもうかる大企業だけでなく、国内事業中心の中小企業も賃上げ余力が生まれると期待される。
だが、民間主導の富の「トリクルダウン(浸透)」には限界もありそうだ。プレス加工を手掛けるトヨタの2次メーカー幹部は「業績が悪いことに変わりはない。ベースアップ(ベア)は論外。一時金も前年並みかは分からない」とトヨタの動きから一線を画す。
最終製品をつくるトヨタと違い発注者側の戦略に取引が左右される部品メーカーはそもそも利益が出にくい。代わりにトヨタは各社に長期の取引を保証することで互いの競争力を維持してきた。50年以上続けてきた値下げ要請はこうしたあうんの関係に緊張感を持たせる意味もあった。要請見送りが続けば原価改善努力が緩むとの声はトヨタにも取引先にもある。
ただ、政府はデフレ脱却に向けて引き続き企業に賃上げの重要さを訴えていく方針だ。自動車は産業の裾野が広く、業績好調なトヨタの価格改定見送りには「税金がかからない中小企業対策」(経済官庁幹部)との声も漏れる。トヨタも法人減税など政策の恩恵を受けている面がある。
トヨタの15年3月期の連結営業利益は過去最高の2兆7千億円前後となる見通し。日本最大メーカーへの還元期待は投資家も含めて今後も高まっていく。ものづくりの競争力を守りながら、ステークホルダーとどう向き合うか――。2期連続の値下げ要請見送りは「強いトヨタ」故の悩みの写し絵でもある。 (中西豊紀)

自動車部品の値下げ要請見送りがトヨタ自動車だけでなくグループ各社にも広がっている。アイシン精機や豊田自動織機など主要な1次取引先が3日、相次ぎ追随の方針を表明した。この流れがさらに2次、3次へと広がれば、中小企業の利益の下支えになる。大手との業績格差が課題となるなか「還元」で賃上げに踏み切る中小企業が増えるかが次の焦点だ。
トヨタは1月30日、2014年度下期(14年10月~15年3月)に続き15年度上期(4~9月)についても量産車の部品取引価格の改定を見送る方針を固めた。トヨタの1次取引先は約450社。3次まで含めれば数万社に上る取引先の企業群を値下げ要請見送りで支え、政府が求める賃上げをサプライチェーン(供給網)全体で後押しする狙いがある。
3日のグループ各社の決算発表では15年度上期の価格据え置きについてアイシンが「我々も対応する」(伊藤慎太郎常務役員)と同様の措置をとる構えを明確にした。豊田自動織機やジェイテクトも前向きだ。デンソーは明言を避けたが、14年度下期分はトヨタに呼応しており、15年度上期についても方針を変えない可能性が高い。
トヨタにとっての1次取引先であるグループ各社が価格を据え置けば、2次にまで恩恵が行きわたる。
円安による資材価格の高騰などで疲弊しているのは2次、3次の中小企業といわれており還元効果は大きい。輸出でもうかる大企業だけでなく、国内事業中心の中小企業も賃上げ余力が生まれると期待される。
だが、民間主導の富の「トリクルダウン(浸透)」には限界もありそうだ。プレス加工を手掛けるトヨタの2次メーカー幹部は「業績が悪いことに変わりはない。ベースアップ(ベア)は論外。一時金も前年並みかは分からない」とトヨタの動きから一線を画す。
最終製品をつくるトヨタと違い発注者側の戦略に取引が左右される部品メーカーはそもそも利益が出にくい。代わりにトヨタは各社に長期の取引を保証することで互いの競争力を維持してきた。50年以上続けてきた値下げ要請はこうしたあうんの関係に緊張感を持たせる意味もあった。要請見送りが続けば原価改善努力が緩むとの声はトヨタにも取引先にもある。
ただ、政府はデフレ脱却に向けて引き続き企業に賃上げの重要さを訴えていく方針だ。自動車は産業の裾野が広く、業績好調なトヨタの価格改定見送りには「税金がかからない中小企業対策」(経済官庁幹部)との声も漏れる。トヨタも法人減税など政策の恩恵を受けている面がある。
トヨタの15年3月期の連結営業利益は過去最高の2兆7千億円前後となる見通し。日本最大メーカーへの還元期待は投資家も含めて今後も高まっていく。ものづくりの競争力を守りながら、ステークホルダーとどう向き合うか――。2期連続の値下げ要請見送りは「強いトヨタ」故の悩みの写し絵でもある。 (中西豊紀)