〔15.1.10.日経新聞:アジアBiz面〕
低価格スマートフォン(スマホ)向けLSI(大規模集積回路)で急成長してきた台湾の半導体大手、聯発科技(メディアテック)が、あらゆるモノがネットでつながる「インターネット・オブ・シングス」(IoT)分野で中国スマホ大手の北京小米科技と組む。世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)のため訪米した謝清江総経理に「ポスト・スマホ」戦略を聞いた。
「小米とはIoT分野での協力も広がっていくと考えている。小米との仕事はとても円滑だ。担当者を増やして対応スピードを上げる」
創業から5年で世界3位のスマホメーカーに浮上した小米。スマホだけでなくタブレット(多機能携帯端末)やテレビ、空気清浄機など家電にも領域を広げる。有望市場のIoTにも熱心だ。スピーカーやウエアラブル端末など多くのIoT製品を開発。ネットでつなぐ構想を描く。
メディアテックはLSIの供給で小米の成長を支えたが、謝総経理はIoTでも小米とタッグを組んで市場を開拓する考えを示した。小米のIoT製品が広がるほど、メディアテックも自社の半導体が搭載される製品の領域が広がる。
「自動車分野を開拓する子会社を昨年立ち上げた。詳細はいえないが、少なくとも1社の採用が内定している。営業戦略としては、自動車メーカーと提携する米グーグルと組むこともあれば、単独の場合もある」
新事業の柱として参入の機会をうかがってきた自動車分野だが、具体化は着々と進んでいるようだ。まずは米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した車載機器向けLSIを手掛けるとみられる。インターネットにつながり、音楽の視聴や道案内などができる情報端末だ。
当面は車の基本機能には関わらない。ただ、自動運転が実現すれば、カメラやセンサーの情報を処理して車を制御するなど、IT(情報技術)の役割は一層増す。IT機器向けLSIは車づくりに欠かせない基幹部品となり、自動車産業に食い込む一里塚となる。
「我々の強みは黒物家電で経験を積んできた音楽や映像などマルチメディアの情報処理だ。我々のチップを使い機能が充実した中国メーカーと、世界シェア首位の韓国サムスン電子との技術レベルの差はかなり縮んだ。それがサムスン失速の原因になっている」
ライバルの米クアルコムと比べた優位性を尋ねたところ、強い自負を見せたのがマルチメディアの処理技術だ。DVDプレーヤーなどに搭載するLSIはスマホ向けと並ぶ主力製品。通信に強いクアルコムと戦う武器となると強調した。
「ソニー、グーグルとの関係は長く特別だ。ソニーが新分野のIoT製品を開発するならいつでも協力したい」
ソニーがCESで発表した「アンドロイド」搭載の4Kテレビは、半導体の設計をメディアテックに委ねてコストを削減した。中国メーカー向けの供給が多い同社だが、グローバル企業との取引も増えている。
「我々と、大口顧客の中国メーカーを育成したい中国政府との関係はウィンウィン。政治的な問題はない」
中国当局はクアルコムを独禁法違反の疑いで調査している。中国では同業の展訊通信(スプレッドトラム)が中国政府の支援を受けて猛追するが、中国政府との関係は良好だと強調した。
価格競争激化に危機感 好業績でも新たな柱育成
聯発科技(メディアテック)が新たな事業の柱探しを急ぐのは、ライバルの米クアルコムや中国メーカーとの競争が激化し、これまでのような高収益を見込めなくなるとの危機感があるからだ。
足元の業績は好調だ。9日発表した2014年12月期の連結売上高は2130億台湾ドル(7950億円)と、前の期比で57%増えた。14年7~9月期の連結純利益は前年同期比58%増えた。米調査会社IHSテクノロジーの14年の半導体売上高ランキングで前年の15位から10位に食い込んだ。
躍進したのは性能の割に価格が安いからだ。クアルコムより3~5割安いとされ、北京小米科技(シャオミ)など中国メーカーがこぞって採用。13年の中国でのシェアはクアルコムを抜いた。
ただ、クアルコムも14年からは中国で猛烈な価格攻勢を仕掛け、巻き返しに動いている。中国同業の展訊通信(スプレッドトラム)もシェアを伸ばす。メディアテックの謝清江総経理も「15年前半は価格競争の圧力が最大になる」と身構える。
安価な半導体供給でスマホの価格引き下げを先導したメディアテック。車載機器やインターネット・オブ・シングス(IoT)といった新市場でもスマホの成功モデルを再現できるか。15年はその前哨戦となる。
シリコンバレー=兼松雄一郎、台北=山下和成
低価格スマートフォン(スマホ)向けLSI(大規模集積回路)で急成長してきた台湾の半導体大手、聯発科技(メディアテック)が、あらゆるモノがネットでつながる「インターネット・オブ・シングス」(IoT)分野で中国スマホ大手の北京小米科技と組む。世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)のため訪米した謝清江総経理に「ポスト・スマホ」戦略を聞いた。
「小米とはIoT分野での協力も広がっていくと考えている。小米との仕事はとても円滑だ。担当者を増やして対応スピードを上げる」
創業から5年で世界3位のスマホメーカーに浮上した小米。スマホだけでなくタブレット(多機能携帯端末)やテレビ、空気清浄機など家電にも領域を広げる。有望市場のIoTにも熱心だ。スピーカーやウエアラブル端末など多くのIoT製品を開発。ネットでつなぐ構想を描く。
メディアテックはLSIの供給で小米の成長を支えたが、謝総経理はIoTでも小米とタッグを組んで市場を開拓する考えを示した。小米のIoT製品が広がるほど、メディアテックも自社の半導体が搭載される製品の領域が広がる。
「自動車分野を開拓する子会社を昨年立ち上げた。詳細はいえないが、少なくとも1社の採用が内定している。営業戦略としては、自動車メーカーと提携する米グーグルと組むこともあれば、単独の場合もある」
新事業の柱として参入の機会をうかがってきた自動車分野だが、具体化は着々と進んでいるようだ。まずは米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した車載機器向けLSIを手掛けるとみられる。インターネットにつながり、音楽の視聴や道案内などができる情報端末だ。
当面は車の基本機能には関わらない。ただ、自動運転が実現すれば、カメラやセンサーの情報を処理して車を制御するなど、IT(情報技術)の役割は一層増す。IT機器向けLSIは車づくりに欠かせない基幹部品となり、自動車産業に食い込む一里塚となる。
「我々の強みは黒物家電で経験を積んできた音楽や映像などマルチメディアの情報処理だ。我々のチップを使い機能が充実した中国メーカーと、世界シェア首位の韓国サムスン電子との技術レベルの差はかなり縮んだ。それがサムスン失速の原因になっている」
ライバルの米クアルコムと比べた優位性を尋ねたところ、強い自負を見せたのがマルチメディアの処理技術だ。DVDプレーヤーなどに搭載するLSIはスマホ向けと並ぶ主力製品。通信に強いクアルコムと戦う武器となると強調した。
「ソニー、グーグルとの関係は長く特別だ。ソニーが新分野のIoT製品を開発するならいつでも協力したい」
ソニーがCESで発表した「アンドロイド」搭載の4Kテレビは、半導体の設計をメディアテックに委ねてコストを削減した。中国メーカー向けの供給が多い同社だが、グローバル企業との取引も増えている。
「我々と、大口顧客の中国メーカーを育成したい中国政府との関係はウィンウィン。政治的な問題はない」
中国当局はクアルコムを独禁法違反の疑いで調査している。中国では同業の展訊通信(スプレッドトラム)が中国政府の支援を受けて猛追するが、中国政府との関係は良好だと強調した。
価格競争激化に危機感 好業績でも新たな柱育成
聯発科技(メディアテック)が新たな事業の柱探しを急ぐのは、ライバルの米クアルコムや中国メーカーとの競争が激化し、これまでのような高収益を見込めなくなるとの危機感があるからだ。
足元の業績は好調だ。9日発表した2014年12月期の連結売上高は2130億台湾ドル(7950億円)と、前の期比で57%増えた。14年7~9月期の連結純利益は前年同期比58%増えた。米調査会社IHSテクノロジーの14年の半導体売上高ランキングで前年の15位から10位に食い込んだ。
躍進したのは性能の割に価格が安いからだ。クアルコムより3~5割安いとされ、北京小米科技(シャオミ)など中国メーカーがこぞって採用。13年の中国でのシェアはクアルコムを抜いた。
ただ、クアルコムも14年からは中国で猛烈な価格攻勢を仕掛け、巻き返しに動いている。中国同業の展訊通信(スプレッドトラム)もシェアを伸ばす。メディアテックの謝清江総経理も「15年前半は価格競争の圧力が最大になる」と身構える。
安価な半導体供給でスマホの価格引き下げを先導したメディアテック。車載機器やインターネット・オブ・シングス(IoT)といった新市場でもスマホの成功モデルを再現できるか。15年はその前哨戦となる。
シリコンバレー=兼松雄一郎、台北=山下和成