日本株と投資信託のお役立ちノート

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(主に日経,ロイター,WSJから引用。賞味期限の短い記事は今後省きます)

欧州にとって試練の年 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏

2015年01月12日 | 欧州
〔15.1.12.日経新聞:オピニオン面〕

 ユーロ圏が債務危機の渦中にあった2011~12年には、欧州連合(EU)加盟国は経済的混乱を乗り切るべく政治的に結束していた。今日、経済は再び懸念すべき状況だが、パニックは去っているため政治的結束も失われてしまった。政権担当者にとっても、域内経済にとっても、今年は試練の年になりそうだ。

 まず、反EU政党が加盟国内で勢力を増すと考えられる。その口火を切りそうなのがギリシャだ。1月25日の総選挙で大衆迎合的な急進左派連合が勝利を収める可能性がある。スペインでは、過去3年間の構造改革が実を結び、今年は高い成長率を実現する可能性はあるものの、失業率は引き続き高止まりするだろう。カタルーニャ州で分離独立の機運再燃が予想され、さらに反体制的な新党の急伸で、10月の総選挙後は政府が一段と弱体化しかねない。

 イタリアとフランスの有権者はこうした状況をにらみつつ、自国政府への圧力を強めるだろう。その結果次第では、欧州で進行中の経済改革は事実上中断しかねない。フランス、英国、ドイツでも反EU政党が人気を得ている。

 とはいえ、欧州で緊縮論が財政出動論より優勢な状況は変わりそうもない。現行政策を主導するドイツのメルケル首相にとって政策を変更すべき理由がないからだ。フランスのオランド大統領の支持率は歴史的に低く、発言力は低下している。英国のキャメロン首相は5月の総選挙で勝利を確実にするため、EU離脱の賛否を問う国民投票の実施を公約に掲げている。強いドイツ、弱いフランス、不在の英国という組み合わせでは、現状維持策になることは確実だ。

 ユーロ圏がデフレに陥る恐れがあるにもかかわらず、メルケル氏の今年の最優先課題は自国の財政均衡の実現であり、他の経済目標はすべてこれに従属する。財政を引き締めれば、ドイツの有権者は他国にも規律を求めるだろう。よってEUで大規模な財政刺激策が講じられる可能性はまずない。いずれはドイツの苦い薬が好結果を生むのかもしれないが、15年に欧州経済の成長や政治的安定の実現に寄与するとは思えない。欧州中央銀行(ECB)が量的緩和に踏み切っても、ドイツが反対すれば、効果は限定的だろう。

 欧州は外交面の難題にも直面している。ロシアとの対決は15年に深刻化するだろう。プーチン大統領はウクライナ問題で譲歩する気がなく、欧米はロシア経済を苦しめる制裁をやめないつもりだ。制裁が自国経済に与える影響を懸念する欧州の人々にとっては、対ロ強硬路線はますます心配のタネとなりそうだ。こうした事情は、欧州と米国の同盟関係にも影を落とす。

 そのうえイスラム国によるテロの脅威で、事態は一段と混迷を深めている。この脅威は、世界で中東以外のどの地域よりも欧州に迫っている。欧州の多数の市民がイラクとシリアで戦闘に参加しているほか、欧州には大規模なイスラム教徒の共同体もある。

 賢明な指導者は、危機を機会に変えなければならないと心得ている。実際に欧州の指導者は債務危機の際に悲劇を防ぐべく結束したし、危険な嵐を切り抜けるための構想と勇気を示してきた。だが危機は過ぎ去ったわけではなく、いまや深刻さを増している。15年は欧州にとって重要な年になると同時に、ますます楽観を許さなくなるだろう。

(イアン・ブレマー氏の寄稿を定期的に掲載します)

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に主導国のない時代を論じた「『Gゼロ』後の世界」など。45歳。 

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