〔15.1.17.日経新聞:企業2面〕
グーグルグラスの万人受けするとは言いがたい「見た目」も災いした=AP
米グーグルは15日、眼鏡型の情報端末「グーグルグラス」の個人向け販売を中止すると発表した。発表当初は話題を呼んだものの、内蔵カメラによる隠し撮りなどプライバシーの侵害を懸念する声が浮上。「おたく」っぽいデザインも敬遠された。最も有名な「ウエアラブル端末」だったグーグルグラスの挫折は、便利さだけでは埋まらないテクノロジーと社会の溝を浮き彫りにした。
グーグルは米国と英国で「エクスプローラー・エディション」と呼ぶ試作段階の製品を1台1500ドル(約17万4000円)で販売していたが、19日で打ち切る。
入店拒否の店も
グーグルが「グラス」の開発計画を発表したのは2012年。米サンフランシスコ市内で開いた同社のイベントで、共同創業者のセルゲイ・ブリン氏が上空からスカイダイビングした。装着したグラスで撮影した映像を会場のスクリーンに映し出すという派手な演出が話題になった。
ただ、13年にソフトウエア開発者向けの先行販売が始まり、グラスを装着した人が町中に増え始めると、プライバシーの侵害を懸念する声が急速に広がる。
万人受けするとは言いがたい「見た目」も災いし、サンフランシスコなどではグラスを装着したままでの入店を拒否するバーやレストランが出現。「盗撮されているようで……」といった公共の場で使用されることへの不安の声があがった。
グーグルは14年春ごろまでは、グラスを14年中に正式発売すると説明していた。ただ、グーグル自身やアップルなどが腕時計型のウエアラブル端末を大々的に発表して以降は、グーグル社内でも話題に上らなくなり、ネットには開発打ち切り説が度々流れていた。
個人向けはいったん手を引く格好となったグーグルだが、眼鏡型端末そのものをあきらめたわけではない。技術力と常識にとらわれない発想が強みのグーグルが生んだ革新的な製品やサービスが社会と摩擦を起こしたケースは初めてではないが、その都度、軌道修正してきた。
法人利用に道
今回、自動運転車も手掛ける社内の研究開発部門「グーグルX」から独立することになったグラスの開発チームが、活路を見いだそうとしているのが法人市場だ。
米国ではゼネラル・モーターズ(GM)や航空機大手のボーイングなどが製造ラインに試験導入。医療現場での活用事例も増えている。日本でも昨年、日本航空が野村総合研究所と組んで機体整備で実験するなど、関心は高い。
一般に、眼鏡型ウエアラブル端末は眼鏡に多様な情報を映す機能を持ち「倉庫にある多数の在庫から特定の商品を探す」などの使い方をめざしている。業務効率化を期待する声は多い。
グーグルは昨年、グラスを業務用に使う企業向けのソフトを開発するベンチャーなどをパートナーとして認定する制度「グラス・アット・ワーク」をスタート。需要の拡大をにらんだ基盤作りにも力を入れている。
グラス事業を新たに管轄することになったトニー・ファデル氏は「開発チームのこれまでの努力によって消費者や企業にとって何が大事かを学ぶことができた。この学びを今後の製品作りに生かしていく」と語る。
ファデル氏はアップル時代に携帯音楽プレーヤー「iPod」の設計に携わったことで知られ、現在はグーグルが昨年買収した「スマートホーム」関連ベンチャー、米ネスト・ラボのトップも務める。ユーザー視点のものづくりに精通した同氏をお目付け役に据えることで、デザイン面での改善にも期待がかかる。
眼鏡型端末の開発に取り組む日本企業にとっても関心が高いグーグルグラスの動向。どんな変身を遂げるのか。新しいグラスは年内にも発売される見通しだ。 (シリコンバレー=小川義也)
グーグルグラスの万人受けするとは言いがたい「見た目」も災いした=AP
米グーグルは15日、眼鏡型の情報端末「グーグルグラス」の個人向け販売を中止すると発表した。発表当初は話題を呼んだものの、内蔵カメラによる隠し撮りなどプライバシーの侵害を懸念する声が浮上。「おたく」っぽいデザインも敬遠された。最も有名な「ウエアラブル端末」だったグーグルグラスの挫折は、便利さだけでは埋まらないテクノロジーと社会の溝を浮き彫りにした。
グーグルは米国と英国で「エクスプローラー・エディション」と呼ぶ試作段階の製品を1台1500ドル(約17万4000円)で販売していたが、19日で打ち切る。
入店拒否の店も
グーグルが「グラス」の開発計画を発表したのは2012年。米サンフランシスコ市内で開いた同社のイベントで、共同創業者のセルゲイ・ブリン氏が上空からスカイダイビングした。装着したグラスで撮影した映像を会場のスクリーンに映し出すという派手な演出が話題になった。
ただ、13年にソフトウエア開発者向けの先行販売が始まり、グラスを装着した人が町中に増え始めると、プライバシーの侵害を懸念する声が急速に広がる。
万人受けするとは言いがたい「見た目」も災いし、サンフランシスコなどではグラスを装着したままでの入店を拒否するバーやレストランが出現。「盗撮されているようで……」といった公共の場で使用されることへの不安の声があがった。
グーグルは14年春ごろまでは、グラスを14年中に正式発売すると説明していた。ただ、グーグル自身やアップルなどが腕時計型のウエアラブル端末を大々的に発表して以降は、グーグル社内でも話題に上らなくなり、ネットには開発打ち切り説が度々流れていた。
個人向けはいったん手を引く格好となったグーグルだが、眼鏡型端末そのものをあきらめたわけではない。技術力と常識にとらわれない発想が強みのグーグルが生んだ革新的な製品やサービスが社会と摩擦を起こしたケースは初めてではないが、その都度、軌道修正してきた。
法人利用に道
今回、自動運転車も手掛ける社内の研究開発部門「グーグルX」から独立することになったグラスの開発チームが、活路を見いだそうとしているのが法人市場だ。
米国ではゼネラル・モーターズ(GM)や航空機大手のボーイングなどが製造ラインに試験導入。医療現場での活用事例も増えている。日本でも昨年、日本航空が野村総合研究所と組んで機体整備で実験するなど、関心は高い。
一般に、眼鏡型ウエアラブル端末は眼鏡に多様な情報を映す機能を持ち「倉庫にある多数の在庫から特定の商品を探す」などの使い方をめざしている。業務効率化を期待する声は多い。
グーグルは昨年、グラスを業務用に使う企業向けのソフトを開発するベンチャーなどをパートナーとして認定する制度「グラス・アット・ワーク」をスタート。需要の拡大をにらんだ基盤作りにも力を入れている。
グラス事業を新たに管轄することになったトニー・ファデル氏は「開発チームのこれまでの努力によって消費者や企業にとって何が大事かを学ぶことができた。この学びを今後の製品作りに生かしていく」と語る。
ファデル氏はアップル時代に携帯音楽プレーヤー「iPod」の設計に携わったことで知られ、現在はグーグルが昨年買収した「スマートホーム」関連ベンチャー、米ネスト・ラボのトップも務める。ユーザー視点のものづくりに精通した同氏をお目付け役に据えることで、デザイン面での改善にも期待がかかる。
眼鏡型端末の開発に取り組む日本企業にとっても関心が高いグーグルグラスの動向。どんな変身を遂げるのか。新しいグラスは年内にも発売される見通しだ。 (シリコンバレー=小川義也)