〔15.1.11.日経新聞:総合・経済面〕
【ドバイ=久門武史、カイロ=押野真也】仏紙銃撃事件は国際テロ組織アルカイダ系組織の関与が濃厚になってきた。イスラム過激派では「イスラム国」が昨年来、イラク・シリアで急速に台頭しており、アルカイダがこれに触発された可能性がある。アフリカで勢力を拡大するボコ・ハラムなどを含めた過激派同士の勢力争いがテロの連鎖につながる懸念も強まっている。
「イスラム国」は米英人の人質の首を切断する映像をインターネット上で公開するなど、戦果や理念を巧みに拡散し、イスラム教徒に合流を訴えている。アルカイダを源流としてはいるが、2013年に「本家」との確執が表面化。昨年6月に国家樹立を宣言した「イスラム国」のバグダディ指導者は、預言者の後継者カリフを名乗っている。
01年の米同時テロで世界を震撼させたアルカイダ系は、「イスラム国」の台頭により戦闘員や資金の獲得競争でかすみがちになっていた。
防衛大学校の宮坂直史教授は「互いに派手なテロを起こすことで存在感を示そうとしている」としており、アルカイダ系が今回の仏週刊紙銃撃事件でテロを実行する力を世界に見せつけようとした動機はある。
イスラム過激派は世界各地で凶悪なテロを相次いで起こしている。アフリカ大陸のアルカイダ系で目立つのは、ソマリアの「アルシャバーブ」と、アルジェリアを拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」だ。
アルシャバーブは13年9月にケニア・ナイロビの商業施設を襲撃し、60人以上が死亡。最近でもソマリアやケニア東部などで外国人を狙ったテロ行為を続けている。同年1月にアルジェリアのガス関連施設が襲撃を受け、日本人も犠牲となった事件の首謀者はAQIMの元幹部だった。
ナイジェリアでは、イスラム組織「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」の行動がより過激になっている。14年4月には学校を襲撃して少女200人以上を拉致。その後も北東部の集落を断続的に襲撃し、女性や子供を拉致を重ねている。
パキスタンでは昨年12月、北西部ペシャワルで学校が襲撃され、生徒ら140人以上が殺害された。「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が犯行を認めた。TTPは幹部の一部が「イスラム国」への傘下入りを表明している。
こうした過激派組織の一部は、武器の供与や情報交換などで連携を取っているとの指摘がある。相関図は複雑になっており、主導権争いの一環として国際的な注目を集めやすいテロを企てる恐れが出ている。個人の判断による攻撃を奨励する例もあり、未然防止には限界もありそうだ。
識者はこう見る 「粘り強い対応不可欠」 日本エネルギー経済研究所・中東研究センターの保坂修司研究理事
イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は以前から国外でのテロ活動に力を入れており、今回の事件は彼らのイデオロギーに沿ったものだ。実行犯はイエメンで軍事訓練を受けたとされているが、イエメンは中央政府が機能しておらず、AQAPの活動は野放しになっていた。
一方、「イスラム国」は海外のイスラム教徒に対しシリアやイラクに来て戦闘に加わるように呼びかけており、海外でのテロを推奨するAQAPとは方針が異なる。しかしイスラム国が最近投稿したビデオではフランス語で、戦闘に参加できないならフランス国内でテロを起こすように主張していた。
既に欧州では人口の10%弱がイスラム教徒だ。今回の事件を契機に反イスラム的な感情が横行すれば、大多数の穏健なイスラム教徒の人たちを追い込むことになる。今後の対応次第ではキリスト教徒とイスラム教徒の全面対決という構図になる可能性もあり、次のテロを呼び込むという意味でも非常に危険だ。
今回の風刺画に限らず、パレスチナやイスラム国など様々なテーマがテロリストにとっての大義になり得る。どれもすぐに解決する見込みはないが、国際社会が粘り強く対応しなければ今回のようなテロがまた起きる可能性がある。
【ドバイ=久門武史、カイロ=押野真也】仏紙銃撃事件は国際テロ組織アルカイダ系組織の関与が濃厚になってきた。イスラム過激派では「イスラム国」が昨年来、イラク・シリアで急速に台頭しており、アルカイダがこれに触発された可能性がある。アフリカで勢力を拡大するボコ・ハラムなどを含めた過激派同士の勢力争いがテロの連鎖につながる懸念も強まっている。
「イスラム国」は米英人の人質の首を切断する映像をインターネット上で公開するなど、戦果や理念を巧みに拡散し、イスラム教徒に合流を訴えている。アルカイダを源流としてはいるが、2013年に「本家」との確執が表面化。昨年6月に国家樹立を宣言した「イスラム国」のバグダディ指導者は、預言者の後継者カリフを名乗っている。
01年の米同時テロで世界を震撼させたアルカイダ系は、「イスラム国」の台頭により戦闘員や資金の獲得競争でかすみがちになっていた。
防衛大学校の宮坂直史教授は「互いに派手なテロを起こすことで存在感を示そうとしている」としており、アルカイダ系が今回の仏週刊紙銃撃事件でテロを実行する力を世界に見せつけようとした動機はある。
イスラム過激派は世界各地で凶悪なテロを相次いで起こしている。アフリカ大陸のアルカイダ系で目立つのは、ソマリアの「アルシャバーブ」と、アルジェリアを拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」だ。
アルシャバーブは13年9月にケニア・ナイロビの商業施設を襲撃し、60人以上が死亡。最近でもソマリアやケニア東部などで外国人を狙ったテロ行為を続けている。同年1月にアルジェリアのガス関連施設が襲撃を受け、日本人も犠牲となった事件の首謀者はAQIMの元幹部だった。
ナイジェリアでは、イスラム組織「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」の行動がより過激になっている。14年4月には学校を襲撃して少女200人以上を拉致。その後も北東部の集落を断続的に襲撃し、女性や子供を拉致を重ねている。
パキスタンでは昨年12月、北西部ペシャワルで学校が襲撃され、生徒ら140人以上が殺害された。「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が犯行を認めた。TTPは幹部の一部が「イスラム国」への傘下入りを表明している。
こうした過激派組織の一部は、武器の供与や情報交換などで連携を取っているとの指摘がある。相関図は複雑になっており、主導権争いの一環として国際的な注目を集めやすいテロを企てる恐れが出ている。個人の判断による攻撃を奨励する例もあり、未然防止には限界もありそうだ。
識者はこう見る 「粘り強い対応不可欠」 日本エネルギー経済研究所・中東研究センターの保坂修司研究理事
イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は以前から国外でのテロ活動に力を入れており、今回の事件は彼らのイデオロギーに沿ったものだ。実行犯はイエメンで軍事訓練を受けたとされているが、イエメンは中央政府が機能しておらず、AQAPの活動は野放しになっていた。
一方、「イスラム国」は海外のイスラム教徒に対しシリアやイラクに来て戦闘に加わるように呼びかけており、海外でのテロを推奨するAQAPとは方針が異なる。しかしイスラム国が最近投稿したビデオではフランス語で、戦闘に参加できないならフランス国内でテロを起こすように主張していた。
既に欧州では人口の10%弱がイスラム教徒だ。今回の事件を契機に反イスラム的な感情が横行すれば、大多数の穏健なイスラム教徒の人たちを追い込むことになる。今後の対応次第ではキリスト教徒とイスラム教徒の全面対決という構図になる可能性もあり、次のテロを呼び込むという意味でも非常に危険だ。
今回の風刺画に限らず、パレスチナやイスラム国など様々なテーマがテロリストにとっての大義になり得る。どれもすぐに解決する見込みはないが、国際社会が粘り強く対応しなければ今回のようなテロがまた起きる可能性がある。