〔15.1.7.日経新聞:マーケット商品面〕
世界でもまれに見る日本の恵まれた水産資源と魚食文化に黄信号がともっている。例えばクロマグロとウナギ。すしネタやかば焼きでおなじみの両魚種は積年の乱獲がたたり、資源の枯渇が深刻だ。近い将来、国際取引が規制される可能性もある。天然資源に頼らない「完全養殖」や2015年から本格的に始まる漁獲制限は問題の解決につながるのか。対策は待ったなしだ。
14年12月、スペインの養殖会社リカルド・フェンテス・エ・イヒオスが育てたクロマグロがオランダとノルウェーに出荷された。地中海の養殖マグロは大半が日本に向かう。欧州向けは珍しい。
出荷したのは欧州初の「完全養殖マグロ」だ。世界で初めて完全養殖に成功した日本の近畿大学の技術をベースにしている。いけすの親魚が産んだ卵を人工ふ化させて成魚に育てた。天然魚を捕獲していけすで太らせる従来の養殖よりも天然資源への負荷が少ない。「環境保護の意識が高い欧州市場の開拓を狙う」(同社)という。
●高まる認知度
完全養殖マグロの認知度は日本でも高まっている。研究の先頭を走ってきた近大が大阪と東京に開いた飲食店には行列ができる。商社や水産会社も養殖に参入し、鮮魚店にも出回り始めている。
日本近海を含む北部太平洋のクロマグロ資源は過去最低に近い水準にある。今年からは同海域で未成魚の漁獲枠を大幅に減らす国際的な取り組みが始まる。国内でも12年以降、天然の幼魚に頼る従来型の養殖施設は増設が認められていない。
こうした事情を背景に脚光を浴びるようになった完全養殖は、マグロ以外にブリやカンパチでも出荷が始まっている。だが完全養殖は万能薬ではない。立ちはだかるのは「餌の壁」だ。
魚の養殖には餌となる大量の魚が必要だ。1キログラム太るのに生魚換算でマグロなら約15キロ、ブリなら5~6キロの餌を食べる。世界的な養殖業の伸びに伴い、餌となる魚も資源が減り、調達コストがかさむようになった。「少量の養殖マグロよりも天然のサバをたくさん食べる方が環境には優しい」と苦笑いするマグロ養殖の研究者もいる。
世界最大の魚粉輸出国ペルーでは原料のカタクチイワシが減り、直近の漁期の漁獲を取りやめた。円安もあり、日本での取引価格は1トン30万円超と1年で6割上がった。
●魚粉に頼らず
「低魚粉の餌を試してみたい」。オランダにグループ本社をおく世界的な大手飼料メーカーの日本法人、スクレッティング(福岡市)には最近、養殖業者からのこんな問い合わせが増えている。一般的な配合飼料は魚粉を5割前後含むが「低魚粉」をうたう同社の商品は3割。大豆かすやトウモロコシかすなどを増やしアミノ酸や脂肪酸のバランスを工夫した。価格も5~10%安く抑えた。発売当初はほとんど売れなかったが、今では売り上げの半分を占める。
「いかに魚粉に頼らず魚を育てるか。環境への意識が高く、研究と産業の連携が進む欧米は先を行っている」。スクレッティングで研究開発に携わる瀬岡学シニアリサーチャーは指摘する。近大からスペインに渡ってマグロの完全養殖に尽力した後、現職に転じた。
北欧や南米で飛躍的に生産を伸ばし、回転ずしで人気のサーモンを育てるための魚粉比率は10~15%。1キロ太るのに400~600グラムの生魚しかいらない。日本の養殖業界では、魚粉の比率が高い餌をたくさん与えることが良いとされてきた。「低魚粉への切り替えは価値観の転換を伴う」(瀬岡氏)。その契機になれるなら、魚粉の高騰もいくらかは元が取れそうだ。
世界でもまれに見る日本の恵まれた水産資源と魚食文化に黄信号がともっている。例えばクロマグロとウナギ。すしネタやかば焼きでおなじみの両魚種は積年の乱獲がたたり、資源の枯渇が深刻だ。近い将来、国際取引が規制される可能性もある。天然資源に頼らない「完全養殖」や2015年から本格的に始まる漁獲制限は問題の解決につながるのか。対策は待ったなしだ。
14年12月、スペインの養殖会社リカルド・フェンテス・エ・イヒオスが育てたクロマグロがオランダとノルウェーに出荷された。地中海の養殖マグロは大半が日本に向かう。欧州向けは珍しい。
出荷したのは欧州初の「完全養殖マグロ」だ。世界で初めて完全養殖に成功した日本の近畿大学の技術をベースにしている。いけすの親魚が産んだ卵を人工ふ化させて成魚に育てた。天然魚を捕獲していけすで太らせる従来の養殖よりも天然資源への負荷が少ない。「環境保護の意識が高い欧州市場の開拓を狙う」(同社)という。
●高まる認知度
完全養殖マグロの認知度は日本でも高まっている。研究の先頭を走ってきた近大が大阪と東京に開いた飲食店には行列ができる。商社や水産会社も養殖に参入し、鮮魚店にも出回り始めている。
日本近海を含む北部太平洋のクロマグロ資源は過去最低に近い水準にある。今年からは同海域で未成魚の漁獲枠を大幅に減らす国際的な取り組みが始まる。国内でも12年以降、天然の幼魚に頼る従来型の養殖施設は増設が認められていない。
こうした事情を背景に脚光を浴びるようになった完全養殖は、マグロ以外にブリやカンパチでも出荷が始まっている。だが完全養殖は万能薬ではない。立ちはだかるのは「餌の壁」だ。
魚の養殖には餌となる大量の魚が必要だ。1キログラム太るのに生魚換算でマグロなら約15キロ、ブリなら5~6キロの餌を食べる。世界的な養殖業の伸びに伴い、餌となる魚も資源が減り、調達コストがかさむようになった。「少量の養殖マグロよりも天然のサバをたくさん食べる方が環境には優しい」と苦笑いするマグロ養殖の研究者もいる。
世界最大の魚粉輸出国ペルーでは原料のカタクチイワシが減り、直近の漁期の漁獲を取りやめた。円安もあり、日本での取引価格は1トン30万円超と1年で6割上がった。
●魚粉に頼らず
「低魚粉の餌を試してみたい」。オランダにグループ本社をおく世界的な大手飼料メーカーの日本法人、スクレッティング(福岡市)には最近、養殖業者からのこんな問い合わせが増えている。一般的な配合飼料は魚粉を5割前後含むが「低魚粉」をうたう同社の商品は3割。大豆かすやトウモロコシかすなどを増やしアミノ酸や脂肪酸のバランスを工夫した。価格も5~10%安く抑えた。発売当初はほとんど売れなかったが、今では売り上げの半分を占める。
「いかに魚粉に頼らず魚を育てるか。環境への意識が高く、研究と産業の連携が進む欧米は先を行っている」。スクレッティングで研究開発に携わる瀬岡学シニアリサーチャーは指摘する。近大からスペインに渡ってマグロの完全養殖に尽力した後、現職に転じた。
北欧や南米で飛躍的に生産を伸ばし、回転ずしで人気のサーモンを育てるための魚粉比率は10~15%。1キロ太るのに400~600グラムの生魚しかいらない。日本の養殖業界では、魚粉の比率が高い餌をたくさん与えることが良いとされてきた。「低魚粉への切り替えは価値観の転換を伴う」(瀬岡氏)。その契機になれるなら、魚粉の高騰もいくらかは元が取れそうだ。