大納会の前日となる29日、日経平均株価は反落した。エボラ出血熱に絡んだ報道で一時急落したが、徐々に下げ渋った。2015年も株価は堅調とみる買いも入ったようだ。円安や原油安、米景気回復という環境が今の先高期待を支える。ただ、来年の主役は意外に輸出株ではないかもしれない。注目される視点がある。企業の「値上げ力」だ。
下げない印象の方が残った1日だ。日経平均は約300円安まで下げたが終値では89円安。年初来高値まであと206円で、大納会の終値がその年の高値なら3年連続になる。「15年も日本株の上昇を確信している」(米ブラックロックのラス・ケステリッチ氏)といった声は確かに多い。
今年は円安を追い風に輸出製造業の収益力の高まりが評価された年だった。業種別日経平均の騰落率でみても、上昇率上位には精密や電機が顔を出した。金融緩和を支えにして、証券や不動産が引っ張った12~13年とは中身が変わった。
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そうした流れを継ぐ15年はどうか。もちろん輸出企業への期待は続きそう。ただ、別の視点も交ざり始めている。大和住銀投信投資顧問の小出修氏もそんな一人。「食品株への投資妙味が大きい」。視点は企業の「値上げできる力」だ。
消費増税以降、値上げへの取り組みで企業に差がつき始めた。中でも値上げしても数量が落ちないことが見えてきたのが食品だ。
森永製菓は7月からチョコレート菓子の内容量を減らして実質値上げしたが、4~9月期のチョコの売り上げは前年同期比プラスを維持した。大人向けに高級感を出す商品戦略も奏功。「有名ブランドの菓子は値上げしても売れ行きが鈍らず、業績改善につながる」(中堅証券アナリスト)
冷凍食品各社も相次いで15年からの値上げを表明。これを受けてニチレイなど各社の株価は堅調だ。
消費者物価指数(CPI)でも食品の値上げが見て取れる。11月のCPIは全体では前年同月比2%強の上昇だが、調理食品や菓子類、肉類では5~9%の上昇となっている。食料CPIと歩調を合わせるように、業種別日経平均の食品株も切り上げている。
食品だけではない。「ユニクロ」で秋冬物から値上げしたファーストリテイリングも売り上げは落ちていない。値引き販売を減らしたエービーシー・マートは客数減を単価上昇で補う。
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値上げは脱デフレのキーワードだが、すべての企業ができるわけではない。円安に伴う輸入コスト高を製品価格に転嫁しきれず、採算が悪化したままの企業も残る。みずほ投信投資顧問の岡本佳久氏は「強いブランド力を持っているかどうかに尽きる」と話す。今は円安で一息つく輸出企業でも、価格支配力を持つ企業ばかりではない。
今年は大規模な株主配分で株価を上げた例が話題になった。ただそれは分母を削って自己資本利益率(ROE)を向上させたもの。「一過性のものでなく、値上げで収益を伸ばし、分子を増やしたROEの上昇こそ持続的な株高につながる」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。15年はこんなシナリオに視点が移るかもしれない。(酒井隆介)