日本株と投資信託のお役立ちノート

株や投信の運用に役立つ記事を探します。
(主に日経,ロイター,WSJから引用。賞味期限の短い記事は今後省きます)

トヨタが導く農業改革 日本企業の技をいかせ

2015年01月25日 | 1.水産・農林業
〔15.1.25.日経新聞:日曜に考える2面〕
  トヨタ自動車は今年から、大規模なコメ生産者の経営管理を支援する「豊作計画」をインターネット経由で提供する。同社が自動車生産で培った「カイゼン」を農業分野に応用し、農作業や資材のムダを見つけ出して修正するサービス事業だ。

 2011年から実証実験を続けた愛知県の鍋八農産(弥富市)は、稲作だけで130ヘクタールと全国平均の100倍以上の規模を持つ。他の農家からも農作業を請け負うが、「最近は農地を借りてほしいという丸投げの依頼が多い」(八木輝治代表)。

 鍋八農産にアイデアを持ち込んだトヨタ新事業企画部の喜多賢二主任に農業経験はない。だが、製造業に身を置く人間からみて「まず農機具や資材が雑然と置かれた作業場に目を疑った」と話す。

 豊作計画の主眼は農作業を数値化して「稲作ビッグデータ」として蓄積、経営効率の向上につなげることにある。しかし、実際の改善策は資材や機具を使用頻度の高いものから順番に決まった場所に置く、整理・整頓から始まった。

 収穫後の処理にはトヨタのカイゼンチームが乗り込み、作業工程を見直した。繁忙期の作業時間がそれだけで1日あたり2時間短縮できた。田植えに使う4万枚の苗は、3万枚に削減。すでに資材費で25%、人件費で5%の削減効果を上げた。

 「父親の代から何十年も農業は経験と勘が頼り。苗はこれくらい余分に準備するものだ、と。すべてを数値で示され、意識が変わってきた」(八木代表)

 鍋八農産で働く社員は12人。平均年齢は30歳ほどだ。農業経験のない若者が多い。毎朝、各自の担当作業を確認し、スマホの画面を見ながらこなす。収入は製造業並みを確保し、繁忙期のゴールデンウイークにも交代で連休をとれるようになった。

 生産規模が拡大すれば合理化が進み、生産コストは下がる。ただ、名古屋大学の生源寺真一教授は著書「日本農業の真実」で10ヘクタールの壁を指摘する。

 理由はおもに2つ。農地の集約が10ヘクタール前後で難しくなり、田んぼが分散しやすくなること。さらに田植えや収穫など作業が特定の時期に集中するため人手や農業機械のやりくりが難しくなることだ。

 農地の集約・拡大と同時にトヨタ流のカイゼンが浸透すれば、10ヘクタールの壁を乗り越えられる可能性は高まる。鍋八農産などの大規模コメ生産者が視野に入れるのは1キロ100円、60キロで6千円の生産コストだ。

 イオングループで農産物生産を手掛けるイオンアグリ創造(千葉市)は全国18カ所の直営農場で計300ヘクタールの農地を利用する。キャベツなど葉物野菜を中心に生産し、店舗に届ける。

 消費者に安全・安心を訴えるのはもちろんだが、自社で生産から販売まで手掛けることでムダを洗い出す狙いがある。流通は店舗で荷おろししたトラックが農場に向かい、野菜などを積んで再び店舗へ届ける。

 同社は昨年12月に埼玉県羽生市と農業振興に関する協定を結び、今年からコメ生産を始める。「イオンがなぜ魅力のないコメ作りに参入するのか。そんな声も聞くが、生産性は野菜に比べ格段に高い」(福永庸明イオンアグリ創造社長)

 コメ生産にかかる年間労働時間は葉物野菜の3分の1ですむ。大規模化と農産物の多角化で従業員を効率よく回せば、生産コストの最大要素である人件費を低減できる。「発想はスーパーの効率運営と同じ」(同)

 ほとんどの兼業農家がコメを手掛ける理由は手間がかからないからだ。そこに企業の技と発想を持ち込めば、コメは低コスト生産が可能な農産物に変わる。イオンは羽生市のコメ生産で20人ほどの社員を雇用し、次世代の農業人材も育成する。

 政府は農業に製造業や小売業を結びつけて付加価値を高める「6次産業化」政策を進める。NTTドコモは、傘下に持つ野菜の宅配会社などの市場ニーズと生産者を情報網で結びつけ、6次産業化をIT(情報技術)で支援する考えだ。

 全国に約6万ある携帯電話の基地局のうち4千カ所に温度、湿度などのセンサーを設置し、農業関係者に提供を始めた。

 企業の参入が日本の農業を変えつつある。改革の歯車を回すのは企業の技と、世代交代が進む農業の担い手だ。政府の役割は規制改革で障害を取り除き、企業や生産者が自由に動ける環境に変えることにある。 (論説委員 志田富雄)

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