〔14.12.23.日経新聞:企業1面〕
物流業界ではインターネット通販の配送需要が拡大する一方で、トラック運転手などの人手の不足が深刻だ。ヤマトホールディングスは羽田空港近くに国内最大級の物流拠点を稼働させ、2014年11月には愛知県豊田市に大型施設を着工した。木川真社長に積極投資の考え方を聞いた。
――羽田や愛知などの拠点に2000億円も投資します。回収できますか。
「ネット通販を中心に取り扱う荷物は増えていき、全国の約70の拠点で人手に頼って仕分けするやり方では対応できなくなる。大型拠点を作り、最新鋭の自動化設備で作業の効率を上げる。東京ドーム4個分のスペースがある羽田は15年前半にフル稼働する」
「用地取得などに手間取って計画から1年遅れるものの、17年度には東名阪で拠点がそろう。人件費を設備の減価償却費に振り替える形になり、償却費は人件費と違って年々減っていく。人件費が上がって利益率が下がるコスト構造を抜本的に変える。荷物1個にかかる人件費を5年前に比べて3割下げることが目標。投資は十数年で回収できる計算だ」
――足元の宅急便の取扱量は前年同月比2~3%減と振るいません。
「顧客に運賃の適正化、世間で言う値上げをお願いした影響がないわけではない。だが競合の状況を見ると、消費増税後に輸送需要全体が冷え込んでいると見ている。とはいえ消費マインドはちょっとしたことで変わるし、ネット通販で荷物が増える流れは変わらない」
――業界の人手不足が深刻です。
「コスト構造改革を進めるため他社よりは余裕があると思うが、人手不足の影響とは無縁であるはずがない。長距離輸送は中堅中小のトラック事業者にも委託しており、車と運転手を手配する傭車費が上がっている。国内の製造業のコスト競争力を上げるためには物流コストを下げなければならず、物流各社が自前のトラックで運ぶやり方は通用しなくなる。空きスペースを融通し合うなどして、業界全体で効率的な仕組みを作らないといけない」
――アジア事業を強化しています。
「10年後、20年後には国境を越えたアジア全体の物流ネットワークが必要な時代が来る。1社では無理なので各国でパートナーを作っていく。香港へは世界初の国際クール宅急便を展開している。アジアへの翌日配達で威力が発揮できるのは生鮮食品だ。安倍政権が成長戦略に掲げるアジアへの農林水産業の輸出促進の一翼を担えていると思う」
73年一橋大商卒、富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。05年ヤマトホールディングス入社。06年専務執行役員、11年社長、15年4月に会長就任予定。広島県出身。64歳
聞き手から一言
約6万3千社ある国内のトラック事業者のうち、従業員数が300人超で資本金が3億円超の企業は70社にすぎない。トラック輸送主体で連結売上高が1兆円を超える民間企業はヤマトホールディングスと日本通運だけ。運賃下げ競争で疲弊した業界の立て直しへ両社の役割は大きい。
ヤマトは2014年に24年ぶりに値上げしたが、業界の事業用トラックの平均積載効率は4割に低迷しており、稼働率向上も課題だ。斬新なサービスで市場を切り開いてきた同社。大型拠点の整備をはじめ、新たな貨物輸送モデルの構築が期待される。
(剣持泰宏)
物流業界ではインターネット通販の配送需要が拡大する一方で、トラック運転手などの人手の不足が深刻だ。ヤマトホールディングスは羽田空港近くに国内最大級の物流拠点を稼働させ、2014年11月には愛知県豊田市に大型施設を着工した。木川真社長に積極投資の考え方を聞いた。
――羽田や愛知などの拠点に2000億円も投資します。回収できますか。
「ネット通販を中心に取り扱う荷物は増えていき、全国の約70の拠点で人手に頼って仕分けするやり方では対応できなくなる。大型拠点を作り、最新鋭の自動化設備で作業の効率を上げる。東京ドーム4個分のスペースがある羽田は15年前半にフル稼働する」
「用地取得などに手間取って計画から1年遅れるものの、17年度には東名阪で拠点がそろう。人件費を設備の減価償却費に振り替える形になり、償却費は人件費と違って年々減っていく。人件費が上がって利益率が下がるコスト構造を抜本的に変える。荷物1個にかかる人件費を5年前に比べて3割下げることが目標。投資は十数年で回収できる計算だ」
――足元の宅急便の取扱量は前年同月比2~3%減と振るいません。
「顧客に運賃の適正化、世間で言う値上げをお願いした影響がないわけではない。だが競合の状況を見ると、消費増税後に輸送需要全体が冷え込んでいると見ている。とはいえ消費マインドはちょっとしたことで変わるし、ネット通販で荷物が増える流れは変わらない」
――業界の人手不足が深刻です。
「コスト構造改革を進めるため他社よりは余裕があると思うが、人手不足の影響とは無縁であるはずがない。長距離輸送は中堅中小のトラック事業者にも委託しており、車と運転手を手配する傭車費が上がっている。国内の製造業のコスト競争力を上げるためには物流コストを下げなければならず、物流各社が自前のトラックで運ぶやり方は通用しなくなる。空きスペースを融通し合うなどして、業界全体で効率的な仕組みを作らないといけない」
――アジア事業を強化しています。
「10年後、20年後には国境を越えたアジア全体の物流ネットワークが必要な時代が来る。1社では無理なので各国でパートナーを作っていく。香港へは世界初の国際クール宅急便を展開している。アジアへの翌日配達で威力が発揮できるのは生鮮食品だ。安倍政権が成長戦略に掲げるアジアへの農林水産業の輸出促進の一翼を担えていると思う」
73年一橋大商卒、富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。05年ヤマトホールディングス入社。06年専務執行役員、11年社長、15年4月に会長就任予定。広島県出身。64歳
聞き手から一言
約6万3千社ある国内のトラック事業者のうち、従業員数が300人超で資本金が3億円超の企業は70社にすぎない。トラック輸送主体で連結売上高が1兆円を超える民間企業はヤマトホールディングスと日本通運だけ。運賃下げ競争で疲弊した業界の立て直しへ両社の役割は大きい。
ヤマトは2014年に24年ぶりに値上げしたが、業界の事業用トラックの平均積載効率は4割に低迷しており、稼働率向上も課題だ。斬新なサービスで市場を切り開いてきた同社。大型拠点の整備をはじめ、新たな貨物輸送モデルの構築が期待される。
(剣持泰宏)