〔15.1.11.日経新聞:企業面〕
先進国の医療費抑制、大型薬の特許切れ、後発医薬品の台頭など、新薬メーカーの事業環境は大きく変化している。肝心の新薬開発は難易度が増す。どうやって患者の期待に応える成果をあげ、経営の安定につなげていくのか。アステラス製薬の畑中好彦社長に研究開発戦略を聞いた。
――新薬開発のハードルが上がっています。
「幅広い疾患で治療薬が製品化され、残ったのは治療が難しい疾患ばかりだ。科学の進歩で疾患の解明は進んだが、遺伝子レベルで解析すればするほど疾患のメカニズムは単一でなく複雑なことも分かってきた」
「自社研究にこだわってきたが、それでは対応できない。大学や研究機関と連携を加速し、世界最先端の知見を積極的に採り入れる。自社品か外部からの導入品かに関係なく、ベストな新薬候補があればできるだけ早く臨床試験(治験)に入る。研究開発の生産性向上には多様性が必要だ」
――新薬候補の獲得競争が激しくなっています。
「がんやアルツハイマー型認知症を含めた中枢神経系の治療薬は開発が難しいが、ほとんどの製薬会社がこの領域で勝負をかけている。開発後期の新薬候補は治験データが発表され薬の特徴はつかみやすいが、取得費用がかさむ。開発の初期段階なら、候補物質を見定める目利きの力さえ備えていれば(それほど費用がかからず)十分に戦える」
――M&A(合併・買収)という手もあります。
「泌尿器と移植、がんの重点3領域には常に関心がある。ただM&Aありきではない。提携や外部導入、共同研究などあらゆる選択肢を検討し、最適な方法をとる。世界各地の研究機関やベンチャー企業と組み、新領域にも挑戦している。昨年は網膜色素変性症で米ハーバード・メディカル・スクールと提携した。技術進化が著しい領域にも力を入れている」
――国内や先進国で市場が成熟し、新興国の開拓が課題になります。
「新興国は経済成長に伴い、新薬市場が拡大するだろう。ただ、投資のタイミングが問題だ。当社の規模で新興国を一気に攻めるのは難しい。国ごとの状況を見極めて慎重に取り組む」
――製薬会社の臨床研究データ改ざんが相次いで発覚しました。
「薬の承認取得のための治験には国が決めたルールがある。問題はそれ以外の医師主導の治験で起きた。当社は営業から独立した部署が研究の支援内容を確認し、契約に記載することで透明性と信頼性を確保している。もっとも、全ての治験を安易にルールで縛ってしまうと、探索的な研究がしにくくなる懸念がある」
はたなか・よしひこ 80年一橋大経卒、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。経営企画部長として山之内製薬との合併交渉にあたる。05年執行役員、11年社長。静岡県出身。57歳
〈聞き手から一言〉大型薬特許切れ、新分野育成カギ
アステラス製薬は2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併で発足した。旧2社が得意とした泌尿器と移植関連を軸にしつつ、がん分野の育成に重点的に経営資源を投入し、第3の柱にすることに成功した。だが、武田薬品工業など製薬大手の多くが苦しむ大型薬の特許切れ問題にアステラスも今後直面する。
18年には、頻尿などの過活動ぼうこう治療剤「ベシケア」をはじめ主力薬の特許が相次いで切れる。提携や買収で時間を買いながら、がん分野の強化と新たな収益源の育成を果たせるかどうかが、持続的成長のカギを握る。
(北沢宏之)
先進国の医療費抑制、大型薬の特許切れ、後発医薬品の台頭など、新薬メーカーの事業環境は大きく変化している。肝心の新薬開発は難易度が増す。どうやって患者の期待に応える成果をあげ、経営の安定につなげていくのか。アステラス製薬の畑中好彦社長に研究開発戦略を聞いた。
――新薬開発のハードルが上がっています。
「幅広い疾患で治療薬が製品化され、残ったのは治療が難しい疾患ばかりだ。科学の進歩で疾患の解明は進んだが、遺伝子レベルで解析すればするほど疾患のメカニズムは単一でなく複雑なことも分かってきた」
「自社研究にこだわってきたが、それでは対応できない。大学や研究機関と連携を加速し、世界最先端の知見を積極的に採り入れる。自社品か外部からの導入品かに関係なく、ベストな新薬候補があればできるだけ早く臨床試験(治験)に入る。研究開発の生産性向上には多様性が必要だ」
――新薬候補の獲得競争が激しくなっています。
「がんやアルツハイマー型認知症を含めた中枢神経系の治療薬は開発が難しいが、ほとんどの製薬会社がこの領域で勝負をかけている。開発後期の新薬候補は治験データが発表され薬の特徴はつかみやすいが、取得費用がかさむ。開発の初期段階なら、候補物質を見定める目利きの力さえ備えていれば(それほど費用がかからず)十分に戦える」
――M&A(合併・買収)という手もあります。
「泌尿器と移植、がんの重点3領域には常に関心がある。ただM&Aありきではない。提携や外部導入、共同研究などあらゆる選択肢を検討し、最適な方法をとる。世界各地の研究機関やベンチャー企業と組み、新領域にも挑戦している。昨年は網膜色素変性症で米ハーバード・メディカル・スクールと提携した。技術進化が著しい領域にも力を入れている」
――国内や先進国で市場が成熟し、新興国の開拓が課題になります。
「新興国は経済成長に伴い、新薬市場が拡大するだろう。ただ、投資のタイミングが問題だ。当社の規模で新興国を一気に攻めるのは難しい。国ごとの状況を見極めて慎重に取り組む」
――製薬会社の臨床研究データ改ざんが相次いで発覚しました。
「薬の承認取得のための治験には国が決めたルールがある。問題はそれ以外の医師主導の治験で起きた。当社は営業から独立した部署が研究の支援内容を確認し、契約に記載することで透明性と信頼性を確保している。もっとも、全ての治験を安易にルールで縛ってしまうと、探索的な研究がしにくくなる懸念がある」
はたなか・よしひこ 80年一橋大経卒、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。経営企画部長として山之内製薬との合併交渉にあたる。05年執行役員、11年社長。静岡県出身。57歳
〈聞き手から一言〉大型薬特許切れ、新分野育成カギ
アステラス製薬は2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併で発足した。旧2社が得意とした泌尿器と移植関連を軸にしつつ、がん分野の育成に重点的に経営資源を投入し、第3の柱にすることに成功した。だが、武田薬品工業など製薬大手の多くが苦しむ大型薬の特許切れ問題にアステラスも今後直面する。
18年には、頻尿などの過活動ぼうこう治療剤「ベシケア」をはじめ主力薬の特許が相次いで切れる。提携や買収で時間を買いながら、がん分野の強化と新たな収益源の育成を果たせるかどうかが、持続的成長のカギを握る。
(北沢宏之)