紅旗征戎

政治、経済、社会、文化、教育について思うこと、考えたこと

参政権と日本の若者

2005-02-02 15:58:21 | 政治・外交
イラクで1月30日に初めての国民議会選挙が行なわれた。テロが相次ぐ中での難しい選挙だったが、ともかくも予想を上回る投票率で終了したようである。イラク戦争を強行したアメリカやその後のイラク占領政策に対する批判が強いため、この選挙についての新聞報道も冷ややかな論調のものが少なくない。大学でも学生運動家たちは「占領政策反対と選挙の粉砕」を叫んだりしていた。しかしアジアやラテンアメリカの民主化の歴史を考えてみても、選挙が制度として導入されると時間はかかってもやがて一党独裁体制や権威主義体制が崩壊し、政権交代が行なわれるようになったケースが多い。アメリカのイラク政策の是非と、イラクで初めて選挙が行なわれたことの意味は切り離して評価すべきではないだろうか?

選挙の意義を学部生に教えることは容易ではないと大学の教壇に立つようになって気づいた。大学生の場合、自宅から通っている学生でも1-2年生の場合は選挙権がなく、3年生でもタイミングによっては一度も選挙の経験がない学生が多い。下宿生の場合は、住民登録が実家のままの場合も多く、大学所在地で投票できない。アメリカの大統領選挙や投票所のしくみ、比例代表制と小選挙区制の違い、アメリカの有権者登録制度の話をしても、そもそも日本の選挙のしくみも実体験がないため、きわめて遠い世界の話のように聞こえているようだ。「選挙は大切、選挙権を放棄しないようにしましょう」といってもピンと来ないかもしれない。

同時に選挙に関する授業を行なっていて意識させられるのは、選挙権のない在日外国人の学生たちである。政治参加や選挙の重要性を説く場合、アメリカ論を教えている私は、黒人の公民権運動などの説明を通じて、参政権獲得までの苦しい歴史を強調することが少なくないが、ある授業で「でも私たちは在日なので選挙権がないんですよ」と学生から言われたことがある。それ以来というわけではないが、選挙権がありながら選挙に興味がない日本人学生と、選挙に関心があっても選挙権のない在日外国人学生が教室に並存していることを意識しながら語ることの難しさを常に感じている。

そんなことを考えていた折に、昨年、『在日』という自伝的著作を出版した政治学者・姜尚中氏のことばに出会った。彼は政治学者を志した理由を問われて、「選挙権も被選挙権もない自分にとって最も有効な政治参加だと思ったから」と答えている。カッコよすぎる台詞といえばそうかもしれないが、確かに選挙だけが政治参加ではなく、姜氏のように政治について思索し、多くの人に語ることも政治参加である。その意味では在日韓国人朝鮮人の学生たちに政治参加の重要性を説くことも大切なのであろう。

「誰がなっても同じだから」といって選挙に全く興味を示さない日本人学生の意識に訴えるために参政権の重要性を説くことが、同時になかなか外国人参政権、とりわけ切実な問題である在日韓国朝鮮人の参政権が実現しない日本の現状を浮き彫りにしていることを感じつつ、授業を行なうのは忸怩たる思いがあるが、自由な選挙権を享受していることが歴史的に見ても世界的に見ても、今日なお特権であること、民主主義の根幹に関わる問題であることを強調してもしきれないだろう。


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