紅旗征戎

政治、経済、社会、文化、教育について思うこと、考えたこと

山間の祖国:イリノイ州ガリーナ

2005-07-22 17:08:14 | 都市
シャーロッツヴィルが退屈だと言っていたあなたの気持ちが今になるとよくわかります。家族も親戚も知り合いもいない異国の田舎の町で暮らすのは心細いものですね」とむこうの大学で知り合い、卒業後、北海道の農村にJETプログラムで中学校の英語補助教員として来日していたアメリカ人に言われたことがある。彼女は「アメリカの町は田舎でも文化がある」と言って日本の田舎暮らしをぼやいていたが、そういう言葉を聞くといかにもアメリカ人らしい傲慢な物言いだと思うかもしれない。だがアメリカでドライブしていて、何もない田園地帯に忽然とメインストリートを中心に整った町並みが現れたりすると一瞬、そんな気になることもある。

北イリノイ大学に留学していたタイ人の大学教員と一緒にドライブして訪ねた、イリノイ州とアイオワ州の州境の町、ガリーナもそんな町だった。シカゴから車で3時間程度。英語でweekend getaway(週末の行楽地)という表現があるが、仕事から「脱出」して土日に訪れるのにちょうどいい町かもしれない。

19世紀中盤に鉛鉱業の町として栄え、ミシシッピー川など交通の便もよかったことから多くの移民労働者が集まり、当時は2万人近い人口を抱えるようになったそうだ。現在は約3500人の住民しかいない、日本で言えば村の規模だが、1960年代から歴史的町並み保存に力を入れて観光地化し、年間130万人もの観光客が訪れるという。南北戦争で北軍を指揮し、18代大統領となったユリシーズ・グラントの家があることで知られているようだが、シカゴやウィスコンシン州に住む人たちはともかく、日本人も知り合いのアメリカ人もガリーナの名前を知らなかったので、知る人ぞ知るリゾートなのだろう。

美しいヨーロッパ風の町並みを眺めながら感じたのは、旅行者としての一方的な感傷に過ぎないかもしれないが、ドイツやフランス、スイスなどの母国を遠く離れてきた移民たちがどんな思いで山の中に祖国を再現するようなこの町を作ったのだろうかということだった。アメリカのスモールタウンはヨーロッパの町のミニチュア・コピーで、日本で言えばハウス・テンボスとか(今はないが世界の建物を縮小再現した)ユネスコ村の中でそのまま生活しているような観がある。日本でも歴史的町並み保存をしている地域は増えてきたし、実際そういう町で生活している人も少なくないのだが、移民国アメリカだけに出身国の町並みを何もない土地に再現している様子が訪れるものにある種の感慨をもたらすに違いない。