競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

エースに恋してる第22話

2007年09月06日 | エースに恋してる
 2球目。またもや送りバントの構え。オレと中井ととも子がダッシュ。今度はバント。打球はオレの前に転がってきた。2塁に投げればアウトのタイミングだが、オレの障害が残る左腕ではむりっぽかった。しかたなく、打者走者を直接タッチアウトにした。
 こんなときにまた自分の弱点をさらし、ほれた女の足を引っぱってしまうとは… オレはつくづく情けない男だ。
     ※
 敵の9番バッター、戸田がバッターボックスに入った。やつもはなっから送りバントの構え。1アウトランナー2塁で送りバント… 同点や1点差ならわかるが、3点こっちが勝ってるとなると、フェイクかもしれない。しかし、送りバントの構えを見せてる以上、こっちもそれ相応の守備が必要となる。
 1球目。オレとも子がダッシュ。戸田がバットにボールを当てた。送りバント。いや、多少プッシュした。打球はとも子の頭上にふらふらと舞い上がった。とも子、ジャンプするが、打球はとも子がめいっぱいに伸ばしたグローブの先端をかすめ、とも子の背後にぽとりと落ちた。セカンドの鈴木がそのタマを拾うが、すでに手遅れだった。とも子の身長は145センチ。もしとも子に平均的な身長があったなら、ふつうに捕れた打球だった。どうやら、流れは向こうに行ってしまったらしい。
     ※
 1アウトランナー1塁3塁とピンチが広がった。オレは外野手以外のナインをマウンドに集め、緊急ミーティング。サードランナーはあきらめ、残り2つのアウトに専念するよう、みんなに指示を出した。
 ナインがそれぞれの守備位置に散った。ただ、オレだけはちょっとマウンドに残り、瞳でとも子に「頼んだぞ」と話しかけた。とも子は真剣な眼差しで「はい」と答えた。
     ※
 サラダ商業の打順は1番に戻った。このバッターも初球からバントの構え。仮にスクイズされたとしても3対1。こっちにはまだ2点の余裕がある。慌てる必要はまったくない
 1球目。バッター、初球からスクイズ。とも子が落ち着いて打球を処理し、1塁でアウト。この間に3塁ランナーが生還し、今大会ずーっと続いていたとも子の自責点0は、ここで途切れた。
 2アウトとなったが、ランナーがまだ2塁に残ってる。油断は禁物だ。
     ※
 続くバッターの初球、とも子は外角低めにカーブを投げた。ボールゾーン。撃ちに行くバッター。こんなタマを撃ったって、ヒットにはならないだろうに。が、バットの先でうまく捉えた。打球は12塁間へのハーフライナーとなった。まずい、こりゃ、ヒットになる… オレはそのボールめがけ、思いっきりダイビングした。空中でめいっぱい手を伸ばすと、長いファーストミットの先っぽにボールが引っかかった。やった!! が、しかし、身体が地面に落ちた瞬間、そのショックでミットからボールがこぼれ出てしまった。
 2塁ランナーの戸田が、一気に3塁を廻った。オレが落としたボールをセカンドの鈴木が掴み、バックホーム。微妙なタイミング… が、セーフだった。
 なんと、こんな大事なときにまたオレのミスが出てしまった。オレは直接マウンドに行き、とも子に謝った。
「ごめん、とも子…」
 とも子は首を横に振り、そしていつもの笑顔を見せてくれた。オレはこのかわいい笑顔に何度救われたことか…
     ※
 続く3番バッターはとも子の4球目を捉えた。カキーン!! かなり大きな当たり。が、レフト大空の守備範囲だった。とも子の今の投球は、ぜんぜん覇気がなかった。もし桐ケ台高校か城島高校の3番バッターだったら、間違いなくスタンドに運ばれてたと思う。
 オレたちナインがベンチに帰ると、監督が唐沢に声をかけた。
「唐沢、3イニング行けるか?」
「もちろん」
 唐沢は間髪入れず返答した。どうやらとも子を替える気らしい。しかたがないか… しかし、唐沢のやつ、本当に3イニング持つのか?
 とも子はベンチの端っこにどかっと腰を降ろすと、珍しく放心状態に陥ってしまった。初失点にかなりショックを受けたのか、それとも、限界以上に疲労してしまったのか… 何か声をかけようかと思ったが、いい言葉が浮かんでこないのでやめた。今できることと言えば、サラダ商業に勝つことのみ。
     ※
 3対2、1点差。追い上げて来たら、その分突き放すのが勝利のセオリー。オレはスコアラーに声をかけた。
「戸田、今何球投げてる?」
「69球です」
 69球か… 1・2回は初球撃ちをくり返し、3回以降はフォークボールにきりきり舞いさせられたが、これしか投げさせてなかったとは… でも、今のホーム突入で戸田のスタミナはかなりすり減ったはず。それに、この暑さ。戸田もそうとうこたえてると思う。サラダ商業は戸田のあとのピッチャーがいない。戸田がダウンすればおしまいだ。よーし、ここは敵さんに習って、やつのスタミナを奪う作戦に出よう。
 オレは円陣を組ませ、戸田にできるだけタマ数を投げさせるよう、みなに指示した。
     ※
 7回表。この回、うちの先頭バッターは北村。1球目、フォークボール、空振り。戸田のフォークボールは、まだ十分切れてるようだ。
 2球目、フォークボール、空振り。3球目、またもやフォークボール。しかし、北村は今度はバットに当てることができた。ファール。いくらフォークボールが切れてても、3つも連続して投げれば、自然と目が慣れてくる。4球目、フォークボール、ファール。5球目、フォークボール、ファール。北村は必死に食らいついた。
 6球目、戸田はついにフォークボール以外のタマを投げた。高めの棒ダマ。しかし、フォークボールしか意識てなかった北村は、外野フライを撃ち上げてしまった。戸田の投げるフォークボール以外のタマは、ほとんどが棒ダマだ。もし、もう少し北村のバッティングに余裕があったら、今のはヒットになってたと思う。こりゃあ、戸田は撃ち崩せるかも…
     ※
 続く箕島がバッターボックスに立った。1球目、フォークボール、空振り。2球目、フォークボール、空振り。3球目、フォークボール、ファール。4球目、フォークボール、ファール。ふっ、能のないバッテリーだ。3球目に高めのボールを投げておけば、4球目のフォークボールでかんたんに撃ち取れるとゆーのに。
 5球目、またもやフォークボール。箕島は今度は前に飛ばしてしまった。ショートゴロ。でも、5球投げさせた。
 続くバッターは、とも子の代打、武田。武田も粘り、5球投げさせた。この回、戸田は16球投げた。計85球。戸田も連投で来てる。そろそろスタミナが切れるころだと思う。
     ※
 攻守交替。オレがグローブを取ろうとしたそのとき、ふととも子と顔が合った。とも子はまだ青ざめた顔をしてたが、オレに気づくと、また例の笑顔を見せてくれた。
「行ってくるよ」
 そうとも子に声をかけ、オレはベンチを飛び出した。
     ※
 マウンドに唐沢が立った。唐沢が3イニングを押さえ切れば、オレたちの勝ちとなる。オレは規定の投球練習を終えた唐沢に声をかけた。
「残り3イニング、頼んだぞ」
「ふふ、全部三振に斬って取りますよ」
 おまえ、撃たして取るタイプのピッチャーだろ? まったく、こいつ、口だけは達者なんだから…
 唐沢に対し、サラダ商業打線はまたもやファール作戦できた。しかし、キャッチャーの北村だってバカじゃない。左右、高低、うまくピッチングを組み立て、サラダ商業打線を15球で3者凡退に斬って取った。
     ※
 8回の表、聖カトリーヌ紫苑学園の攻撃。この回は1番の渡辺から。渡辺は1回の大飛球にうぬぼれ、それ以降大振りをくり返したが、この回はどうだろう。オレは注意することも考えたが、あえて渡辺の自主性に任せた。
 1球目、フォークボール。渡辺はコンパクトにバットを振り、ファール。2球目、フォークボール。やはりファール。渡辺はオレが期待してる通りのバッティングをしてくれてるようだ。
 3球目、フォークボール、ファール。4球目… 結局渡辺は、戸田に7球フォークボールを投げさせ、内野ゴロに倒れた。ナイス、渡辺。
 続く大空は、器用さを活かし、9球を投げさせた。唐沢も7球。これで戸田がタマ数は108となった。やつもそうとうへろへろだろう。次の回、たくさん点を獲ってやる。
     ※
 8回の裏、この回のサラダ商業打線もファールで粘りに粘るが、唐沢がていねいにコーナーをつき、2アウト。続く9番バッターの戸田も、あっとやー間に2ストライクに追い込んだ。
 3球目、戸田、またもやファール… のつもりだったらしいが、ボールはインフィールドへ飛んだ。サード後方への飛球… これは城島高校との練習試合で箕島が醜態をさらしてしまった飛球とほぼ同じ方向だった。全速力で回り込む箕島。しかし、1歩足りず、タマは芝生に落ちてしまった。
 箕島はボールを持ったまま、マウンドに駆けて来た。
「す、すみません…」
 箕島は謝りながら唐沢にボールを手渡した。
「気にすんな。今のはしょうがないだろ」
 唐沢のゆーとーり、今の飛球は低く、その分滞空時間が短かった。こりゃあ、しかたがないと思う。でも、もうちょっとうまいショートだったら捕れてたかもしれない… 唐沢は精神的にブチンと切れてしまうことがよくある。ここは捕ってほしかった。ま、今さらそんなこと言ってもしょうがない。ここは万全に守ってやろう。
     ※
 次のバッターも、やはり初球からファール狙い。が、その打球が測ったかのごとく、1塁線上を転がって来た。オレは落ち着いて打球を正面から処理しようとした… が、なんと打球が1塁ベースに当たり、ピョンと跳ね上がった。次の瞬間、オレの左目にその打球が飛び込んできた。うぐっ… 昨日の城島高校の佐々木のひざ蹴りが、一瞬オレの脳裏を横切った…
 ふと我にかえると、オレの目の前にタマが落ちていた。すぐにそのタマを拾い上げたが、バッターランナーはすでに1塁ベースを駆け抜けていた。はっとして2塁ベースを見ると、1塁ランナーの戸田は、2塁に止まっていた。よかった… もし3塁に走られていたら、今のオレの腕じゃ、完全にセーフだったと思う。ちっとは運が残ってるらしい。しかし、なんてアンラッキーなゴロだったんだ。箕島がヘマすると、なぜかオレが続いてしまう。なんでだ?…
 オレもボールをを持ったまま、直接マウンドに向かった。そして、唐沢にこう言いながらボールを手渡した。
「すまん、唐沢…」
 唐沢はちょっと「あきれた」とゆー表情を見せ笑った。どうやら怒ってはないらしい。よかった、マウンドに立つと切れやすくなってしまうやつが、ここで切れてしまったら大変だ。
 しかし、2アウトランナー1塁2塁。ランナーがスコアリングポジションに到達してしまった。ここで内野手の間を抜けるようなゆるいヒットを撃たれると、2塁ランナーが一気に帰ってくる可能性がある。そうなれば同点だ。オレはそれを考え、3人の外野手の守備位置を前進させた。


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