競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改15

2014年07月11日 | 千可ちゃん改
 3年2組です。ここには長谷川の部下の1人、今田がいます。今体育の授業中で、走り幅跳びをやってます。生徒たちが1列に並んで順番に跳んでます。その中に今田がいました。
「あ~、めんどくせーなー」
 やっと今田の順番になりました。先生が合図を出しました。
「よーし、次、今田、跳べ!」
「は~い」
 今田が駆け出しました。と、この瞬間、千可ちゃんが右の掌をぐしゃっと握りました。
「死ね!」
 その瞬間、今田の脚がもつれました。
「えっ?…」
 今田が転びました。それを見た担当の先生が、
「おい、今田、大丈夫か?」
 先生が今田に近づくと、今田は泡を吹いてました。その目には生気がありません。
「ど、どうしたんだ、今田!?」
 これをリモートビューで見ている千可ちゃんが、また笑いました。
「へへ、ざまー」

 3年4組です。このクラスには長谷川の子分の柏木と長谷川自身がいます。遠くの方から救急車の音が響いてきました。その音に柏木と長谷川が反応しました、
「ん、救急車?」
 突如1人の先生がこのクラスに飛び込んできて、この教室の先生に耳打ちをしました。するとこの教室の先生は顔色を変えました。
「なに、1組の佐々木と2組の今田が心停止になったって?」
 それを聞いて長谷川と柏木が驚きました。
「なんだって?」
 その瞬間、柏木の心臓がドックンとなりました。
「う!?」
 千可ちゃんが柏木をリモートビューで見ています。千可ちゃんは軽く笑いました。
「はは。次は本気でいくよ」
 千可ちゃんは右の掌を上に向けました。が…、バシッ!。千可ちゃんの頭に突然教科書が降ってきました。それはこの教室の先生の仕業でした。
「こら、羽月、何ぼけっとしてるんだよ!」
「す、すみません…」
 千可ちゃんは心の中で思いました。
「ちぇっ、もうちょっとだったのに…」
 再び3年4組です。柏木の身体が床にごろんと倒れました。
「おい、どうした、柏木!?」
 先生が駆け寄ろうとしましたが、長谷川がその先生を突き飛ばしました。
「邪魔だよ!」
 長谷川はひざをつき、柏木の上半身を抱きかかえました。
「ど、どうしたんだよ?」
「あ…、殺される、殺されるよ…」
 長谷川は立ち上がりました。
「くそーっ…。佐々木、今田、柏木…、次は私じゃん!!。誰だよ、いったい?…」
 と、長谷川は何かに思い当たったようです。
「あっ!」

 千可ちゃんがいる教室です。突如引き戸がけたたましく開き、長谷川が入ってきました。金属バットを担ってます。
「羽月ーっ!!」
「な、なんだ、お前!?」
 その長谷川の前にこの教室の先生が立ちふさがりました。
「うぜーよっ!!」
 長谷川はその先生の脇腹を思いっきりバットで殴りました。
「ぐふぁ!」
 先生は血を吐き、そして倒れました。
「きゃーっ!」
 この教室の生徒たちがパニックになり、教室の外に逃げました。千可ちゃんだけが取り残されてしまいました。いや、わざとその場に残ったようです。長谷川はその千可ちゃんに金属バットを向けました。
「てめーっ、佐々木と今田と柏木をやったろ!!」
「なんのことよ!!」
「しらばっくれんなよーっ!。てめーしかやるやつはいねーだろーよ!!」
「私はずーっとこの教室にいたって!」
「ふざけんなっ!」
 その時千可ちゃんの横から声が響きました。
「千可ちゃん!」
 それは森口くんでした。森口くんは扉の外から中の光景を見ています。森口くんの周りには、この教室から逃げ出した生徒たちが見えます。
「和ちゃん、来ないで!!」
「てめーっ、よそ見すんなーっ!!」
 長谷川が金属バットを振り上げ、千可ちゃんに向かってきました。千可ちゃんはイスを長谷川に投げつけました。
「来ないでっ!!」
 長谷川はそのイスを金属バットで打ちました。イスは教室と廊下の間の壁にぶつかり、破壊されました。
「もーっ!!」
 千可ちゃんはまたイスを投げました。長谷川はそのイスをまた金属バットで打ちました。
「なんだ、こんなもん!!」
 今度はガラス窓にイスがぶつかり、ガラス窓が粉々に砕け散りました。
 長谷川は不敵な笑みを浮かべ、千可ちゃんをにらみました。
「なんだよ、もうおしまいかよ」
 千可ちゃんはここで長谷川を呪い殺そうと考えましたが、気が動転しているせいか、呪うことができません。ただはぁはぁと荒い息をしてるだけです。
「死ねーっ!!」
 長谷川が金属バットを振り上げました。
「チカちゃん!!」
 千可ちゃんが苦し紛れに生き霊を呼びました。するとチカちゃんが長谷川の真後ろに出現。チカちゃんは山上静可が使ってた妖刀キララを大きく振りぬきました。バサッ!。
「ぐきゃーっ!!」
 長谷川が背中を大きく袈裟斬りされました。長谷川の身体は大きくのけ反り、そしてゆっくり倒れました。チカちゃんはいつものように不気味に笑いました。
「ケケケ」
 ワンテンポおいて、チカちゃんは消滅しました。千可ちゃんの危機は去りました。
 しかし、このシーンには大きな問題がありました。チカちゃんは千可ちゃんの生き霊です。霊感がある人にしか見ることができません。でも、今の千可ちゃんは半透明でした。みんなの眼に映ってしまったのです。数人の生徒が小さく騒ぎました。
「な、何、今の?」
「今の羽月さんじゃないの?」
「で、でも、羽月さんはあっちにいるよ?」
「じゃ、今のはいったい?」
 森口くんが千可ちゃんに走り寄りました。
「千可ちゃん!。
 千可ちゃん、今のはいったい?」
「あれは私の生き霊…」
「えっ?…」
 千可ちゃんはちょっとパニックになってるのか、まともに答えることができません。
「気にしないで…」
「気にしちゃうよ!。生き霊っていったいなんなんだよ!?」
「生き霊と言ったら生き霊よ!。生き霊は私よ!!」
「どういう意味だよ!?」
 千可ちゃんは森口くんの度重なる質問にイライラしてきました。そしてついに、あらぬ固有名詞を口走ってしまいました。
「もう、私は山上静可の孫よ。そう言えばわかるでしょ!」
「ええっ!?」
 森口くんは驚きました。毎日ベッドで愛し合ってる女の子が、悪霊山上静可の孫だったなんて…。今度は森口くんがパニックにおちいりました。
「うわーっ!」
 森口くんは後ずさりしました。
「どうしたの、和ちゃん!?」
「来るな、バケモノ!!」
 千可ちゃんに衝撃が走りました。今まで愛して信じてた男が、自分をバケモノと罵ったのです。大きく落胆しました。そして次の瞬間、かーっとして、
「死ねーっ!、森口ーっ!!」
 千可ちゃんは思いっきり叫びました。すると今度は、森口くんの身体に衝撃が走りました。
「うぐっ!」
 森口くんの身体が信じられないくらい大きくのけ反りました。
「うぐぁーっ!!」
 森口くんが倒れました。その眼には生気がありません。千可ちゃんと森口くんの会話を見ていた生徒たちが、パニックになりました。
「うわーっ!!」
「バケモノだ!。逃げろーっ!!」
 みんなが一斉に逃げ出しました。教室の中に残ってる生きてる人間は、千可ちゃんだけです。と、戸村くんが教室に入ってきました。
「な、何があったんだよ」
 戸村くんが森口くんの死体を発見しました。
「森口?…。いったい何が?」
 千可ちゃんがぽつりと返事しました。
「私が呪い殺した」
「え、なんで?」
「私をバケモノって罵ったのよ!。死んで当然よ!!」
「それだけで殺しちまったのかよ?。毎日愛し合ってたんだろ?」
「いいの。私が欲しかったのは森口くんじゃなくって、男の身体だから」
 千可ちゃんは戸村くんに色目を使いました。今度は戸村くんをセックスフレンドにする気です。
「ねぇ、戸村くん…」
 ついに堪忍袋の緒が切れたか、戸村くんはその千可ちゃんを殴りました。
「いい加減にしろ!!」
 千可ちゃんの身体は吹き飛び、壁にしたたかに背中をぶつけました。
「な、何すんのよっ!。あなたも呪い殺されたいの!!」
「ああ、呪い殺すんなら呪い殺せよ!!。オレは1回あんたに呪い殺されてるからな、もう死ぬのは怖くねーよ!!。
 ほんとうに森口を愛してなかったのかよ。ウソだろ、そんなの?。こんなことして、おまえの死んだお母さんが喜ぶのかよ?」
 その発言に千可ちゃんが反応しました。
「お、お母さん…」
 千可ちゃんはお母さんが死んだ日の朝の、お母さんの発言を思い出しました。
「ねぇ、千可。好きな男の子ができたら、絶対大事にするのよ」
「ああ…。
 私、殺しちゃった。和ちゃんを呪い殺しちゃった!」
 千可ちゃんはわーっと泣き出しました。戸村くんは千可ちゃんの両肩を掴み、揺らしました。
「おい、しっかりしろよ!」
「わ、私、どうすればいいの?」
「森口の幽霊をみつけて、身体に戻すんだよ。オレが死んで18時間後にオレを蘇生させたろ。あれをやればいいんだよ!」
「で、でも、和ちゃんの霊、いないよ…。もうあの世に行っちゃったよ!」
「それじゃ、時間だ!」
「ええっ?」
「時間を巻き戻すんだよ!」
「そ、そんなこと、できるわけないじゃん!」
「いや、できる!。あんた、千の可能性のある女だろ?」
「千の可能性のある女…」
 そう言うと千可ちゃんは黙ってしまいました。でも、何かを決意したようです。
「わかった。やってみる」
 千可ちゃんは目をつぶりました。そしてぐちゅぐちゅと何かを唱え始めました。すると、なんと時計が停止しました。さらに次の瞬間、時計がものすごい勢いで逆回転を始めたのです。
 長谷川の殺害も逆回転。今田の殺害も逆回転。佐々木の殺害も逆回転。長谷川たち4人の悪だくみ。太陽は登り、太陽は沈み、昨日の放課後。ここは校舎の屋上です。

 ギターの音色が響いてます。千可ちゃんがガットギターを爪弾いてます。傍らには森口くんもいます。ペントハウスのドアが開き、よう子ちゃんが入ってきました。
「あ、ここにいた。
 先輩、今日は部活はないんですかぁ?」
 千可ちゃんはギターを爪弾く指を止めました。
「うん。オカルト研究部は月曜日と金曜日しか活動してないんだ」
「へ~」
 よう子ちゃんが千可ちゃんのギターに注目しました。
「ふぇ~、ギターですかぁ」
「ほんとうはね、オカルト研究部で弾きたいんだけど、あそこで弾くとうち部長が、うちは軽音部じゃない!、て怒るんだよ」
「だから屋上で弾いてるんですかぁ」
「うん」
 千可ちゃんは再びギターを弾き始めました。
「うわ~、すごいテクですねぇ」
「これ、クラシックギターの練習曲だよ」
 よう子ちゃんは森口くんを見ました。
「先輩てあの男の人といつも一緒にいますねぇ。仲がいいんですか?」
「ま、そんなところね」
「もうエッチしてるんですかぁ?」
 この質問を聞いて、千可ちゃんも森口くんも顔を赤くしてしまいました。
「な、なんでそんなこと訊くのよ!」
「あ~、その反応、もうやってますねぇ」
 ここまでは昨日とまったく同じです。でも、ここからが違ってました。
「やってないわよ!。私たち、まだ16歳よ。何考えてんの!?」
 千可ちゃんは昨日とは違う返答をしたのです。
「あは、そうすかぁ」
 と、千可ちゃんはふと何かを思いつきました。
「あれ?」
「どうしたの、千可ちゃん?」
「あの…、私、和ちゃんを呪い殺しちゃった…」
「ええ~、何言ってんの?。ぼく、ここにいるじゃん」
「おかしいなあ。悪い夢でも見たかなあ?…」
 千可ちゃんは未来の記憶をすべて忘れてしまったようです。でも、深層心理でははっきりと覚えてます。それが証拠に、千可ちゃんは今、180度違う返答をしました。
 人を呪わば穴二つ。この経験が千可ちゃんを大きくしてくれたはずです。

※これで千可ちゃん改は終了です。最後まで読んでくれてありがとうございました。

千可ちゃん改14

2014年07月08日 | 千可ちゃん改
 千可ちゃんは森口くんをお母さんの寝室に招き入れました。そこにはダブルベッドがあります。
「お母さんとお父さんが愛をはぐくんだベッドだよ」
「あの~、千可ちゃんのお母さんて、ベッドで死んでたんでしょ」
「うん」
「ここで死んでたの?」
「うん、そうだよ」
「こ、ここでやるの?」
「嫌?」
 森口くんは半月前に死人が出たベッドでエッチするのはさすがに気が引けます。でも、森口くんも16歳の男の子です。もうやりたくってやりたくって仕方がありません。
「大丈夫だよ。ここでやろ」
「うん」
 千可ちゃんは明るく答えました。そして千可ちゃんは森口くんに激しくキス。そしてベッドで何度も肌を合わせました。1度、2度、3度、森口くんは千可ちゃんの胎内に射精しました。4度目の発射。さすがに森口くんは疲れたらしく、千可ちゃんと並んで横になりました。千可ちゃんが微笑みながらしゃべりました。
「気持ちよかったね」
「うん」
「これからもよろしくね」
「うん」
「ギターありがとう。でも、うちにはアンプもスピーカーもないんだよ」
「え、アンプって何?」
「エレキギターの音を増幅する装置だよ。これがないとエレキギターは音が出ないんだ」
「あは、そんなものが必要だったんだ。今度それも…」
 千可ちゃんはその森口くんの唇に自分の人差指を置きました。
「私が買うよ。これ以上あなたに迷惑をかけたくないもん」
「でも…」
 千可ちゃんは今度は森口くんに覆いかぶさり、キスでそのセリフを止めました。そして唇を離し、
「ねぇ、もう1回やろ」
「え?」
 と、次の瞬間、千可ちゃんは森口くんの萎えてしまったものをパクリとしゃぶりました。森口くんの大事なものは、すぐに巨大化、硬直化しました。千可ちゃんはあっという間にその猛ったものを自分の胎内に収めてしまいました。その顔は笑顔、小悪魔の笑顔です。

 季節は4月、新学年のスタートです。千可ちゃんと森口くんは2年生になりました。でも、今回2人は別のクラスです。ちなみに、森口くんと戸村くんは同じクラスになってます。
 オカルト研究部ですが、新部長は福永さんになりました。ま、新3年生は福永さんしかいなかったから、これは順当だと思います。2年生に千可ちゃんと森口くんと戸村くん。これだと4人。この高校では部は最低5人いないと成立しません。つまりこのままだと、オカルト研究部は成立できなくなるのです。
 が、新1年生が1人オカルト研究部に入ってくれました。水上よう子。これがとんでもない子ギャルでした。髪を茶色に染め、爪はネイルアート。目の周りはアイシャドー。瞳はカラーコンタクト。なんでこんな娘がオカルト研究部に入ったのか、まったく理解できません。でも、それでも部員は部員です。
 ちなみに、城島さんは休学願いを提出してます。

 火曜日の放課後です。高校の屋上でギターの音色が響いてます。千可ちゃんがガットギターを爪弾いているのです。傍らには森口くんもいます。ペントハウスのドアが開き、よう子ちゃんが入ってきました。
「あ、ここにいた。
 先輩、今日は部活はないんですかぁ?」
 千可ちゃんはギターを爪弾く指を止めました。
「うん。オカルト研究部は月曜日と金曜日しか活動してないんだ」
「へ~」
 よう子ちゃんが千可ちゃんのギターに注目しました。
「ふぇ~、ギターですかぁ」
「ほんとうはね、オカルト研究部で弾きたいんだけど、あそこで弾くとうち部長が、うちは軽音部じゃない!、て怒るんだよ」
「だから屋上で弾いてるんですかぁ」
「うん」
 千可ちゃんは再びギターを弾き始めました。
「うわ~、すごいテクですねぇ」
「これ、クラシックギターの練習曲だよ」
 よう子ちゃんは森口くんを見ました。
「先輩てあの男の人といつも一緒にいますねぇ。仲がいいんですか?」
「ま、そんなところね」
「もうエッチしてるんですかぁ?」
 この質問を聞いて、千可ちゃんも森口くんも顔を赤くしてしまいました。
「な、なんでそんなこと訊くのよ!」
「あ~、その反応、もうやってますねぇ」
「まぁ、してるけど」
「千可ちゃん!」
 さすがに森口くんがこのセリフを止めようとしました。
「いいじゃん、別に。同じクラブの子だよ。今さら隠すことないじゃん。
 毎日やってるよ。多い日は5回も中出ししてもらってるよ」
 森口くんはかなり慌ててます。
「ちょ、ちょっと!」
「中出しって…、妊娠は怖くないんっすか?」
「私はやせ過ぎで妊娠できない体質だから、絶対大丈夫。それに中出ししてもらった方が気持ちいいし」
「ふぇ~…」
「私たちがエッチしてるって話、みんなには内緒だからね」
「わかってますよ」
「絶対内緒だからね!」

 しかし、よう子ちゃんにそんな釘刺しは意味がありませんでした。翌日よう子ちゃんは登校すると、さっそくあちらこちらに触れ回したのです。千可ちゃんと森口くんが毎日セックスしてることは、ほんの2・3時間で高校のみんなが知ってしまうことになりました。
 一番慌てたのは職員室。しかし、千可ちゃんも森口くんも1度も問題を起こしたことがありません。ここはしばらくは静観することになりました。
 が、こっちの集団はかなり気分が悪いようです。
「ねぇ、知ってる。2年の羽月て女と森口て男が毎日セックスしてるんだって」
「え~、何、それ?」
「許せない。私だってまだ処女なのに!」
「そんなこと、どうでもいいだろ。あ~、なんか私も頭来んなあ。今日放課後、締めちまおっぜ!」
 この会話はこの高校に在籍している4人の女子、長谷川、柏木、今田、佐々木のものです。4人とも3年生です。不良少女らしく、茶髪やピアスの娘もいます。
 じつはこの4人、先輩風を吹かせ、下級生をイジメてよく問題を起こしてます。つい3日前も1人の女の子を吊るし、その子は今心療内科に入院してます。こいつらの今度のターゲットは千可ちゃんと森口くん。はたして千可ちゃんはどう対処するのでしょうか?

 昼休みです。千可ちゃんがクラスの何人かの女の子と机を並べて食事をしてます。千可ちゃんは1年生の時は引っ込み思案でしたが、重石だったお母さんがいなくなったせいか、今はたくさんの友達を作ったようです。
 千可ちゃんはみんなとおしゃべりをしてます。まず、友達の1人が千可ちゃんの小さなお弁当箱に注目しました。
「羽月さんて、そんな小さな弁当でも大丈夫なの?。ダイエット?」
「あは、私、小食だから、これでも多いくらいなんですよ」
 別の友人も千可ちゃんに質問しました。でも、それはかなりデリケートな質問でした。
「千可ちゃんてその~、毎日男の人とやってるの?。今学校中で話題になってるよ」
「あは、まさか~。クラブの新人の女の子にふざけておシモの話をしたら、本気にされちゃって言いふらされてるんだ。こんなちっちゃな女の子が毎日男の子とエッチしてると思います?」
 千可ちゃんはあらかじめ用意しておいた回答を言いました。
「あは、それはないわよねぇ」
「でもさあ、このクラスの女の子も、半分は非処女じゃないの?」
「まさかあ」
 と言うと、千可ちゃんは満面の笑みを浮かべました。
 と、今ここに1人のちょっと気弱な女の子が現れました。女の子は恐る恐る千可ちゃんに近づき、千可ちゃんに1枚の紙片を手渡しました。
「あの~、これ」
 女の子は紙を渡すと、逃げるように教室の外に出て行ってしまいました。千可ちゃんの隣にいた女の子がけげんな顔でその女の子を見送りました。
「何、あの娘?」
 千可ちゃんはその紙に書いてある文章を読みました。
「今日放課後、体育館の裏に来ること、もし来なかったらリンチにする 長谷川」
 それを横からのぞき込んでいる友人がびっくりしました。
「長谷川って、あの先輩風吹かせてるやつ?」
「あんなやつに目をつけられたなんて、た、大変だよ!」
 と、千可ちゃんを呼びかける声が。
「千可ちゃん、千可ちゃん」
 千可ちゃんが振り向くと、ドアのちょっと外側に森口くんと戸村くんが立ってます。千可ちゃんは立ち上がりました。
「ごめん、ちょっと用事が…」
 と言うと、千可ちゃんは2人のとろこに行きました。森口くんが千可ちゃんに1枚の紙片を見せました。
「千可ちゃん。ぼくのところにこんなものが…」
 そこに書いてあった文章は、さっき千可ちゃんが受け取った文章とまったく同じものでした。
「今日放課後、体育館の裏に来ること、もし来なかったらリンチにする 長谷川」
 森口くんに同伴してきた戸村くんは、かなり心配してるようです。
「長谷川って、あれだろ。下級生をイジメてよろこんでるやつ」
「戸村くんもやられたことがあるの?」
「いや、オレはこんながたいのせいか、1回も絡まれたことないよ」
「ええ、相手を見てイジメてるの?!。最低なヤツ!。
 そんなヤツ、なんで先生は野放しにしてんの?」
「それが、その長谷川ってやつ、親が県議会議員らしいんだ。それで学校はなるべく触らないようにしてるんだってさ」
 戸村くんのそのセリフに森口くんが情けない声をあげました。
「そんな、ひどいよ…」
 千可ちゃんは県議会議員てセリフが引っかかりました。千可ちゃんのお母さんが小学生のとき、野中雄一てやつにイジメられて首の骨を外されたのですが、そいつの祖父が県議会の議長だったのです。肉親の権力を借りて弱いものをイジメる。千可ちゃんにふつふつと怒りがこみあげてきました。
「ここは私に任せて」
 森口くんはそれでも心配です。
「で、でも…」
「ふふ、私にいい考えがあるんだ」
 2人は自分の教室に帰りました。が、昼休み終了間際に戸村くんが1人で戻ってきました。
「あの~、何をする気ですか?」
「呪い殺す」
 戸村くんは言葉を失いました。
「権力を傘に弱い者イジメするなんて、私、絶対許せない!。全員死んじまえばいいのよ!」
 ちょっと前の千可ちゃんだったら、こんな言葉は絶対出てこなかったはず。千可ちゃんはお母さんが亡くなって、明らかに人格が変わってしまいました。戸村くんはとてつもなく嫌な予感がしました。
 ちなみに、千可ちゃんのお母さんが亡くなった今、千可ちゃんが超能力者だと認識してる唯一の存在が戸村くんです。もう1つ書けば、戸村くんは千可ちゃんと森口くんが毎日セックスしてることを知ってます。なんとなく霊視で見てしまったようです。

 さて、千可ちゃんが人を呪い殺すとなるともっとも簡単な方法は、生き霊のチカちゃんを呼び出し、妖刀キララで斬り殺すこと。でも、友人に聞いたのでターゲットの名前は知ってますが、顔は知りません。そこでリモートビューを使うことにしました。
 なお、千可ちゃんは以前、城島さんをラチした男をリモートビューで呪い殺そうとして失敗したことがありましたが、今は呪い殺す自信があるようです。
 昼休み明けの授業が始まりました。千可ちゃんも授業を受けてます。でも、心はここにあらず。今リモートビューを使って3年1組の教室をのぞき込んでます。1組には長谷川の子分の1人、佐々木がいます。
 千可ちゃんが見ている1組の授業の全景です。1人の女子の身体が赤くなりました。こいつが佐々木です。これを見ている千可ちゃんがニヤっとしました。
「見つけた」
 千可ちゃんは右の掌を胸のちょっと下の位置で真上に向けました。今その掌は半分閉じている状態です。たとえるなら、掌にリンゴを載せてる感じです。
「死ね!!」
 千可ちゃんが掌をぐしゃと閉じました。その瞬間佐々木の身体に衝撃が走りました。
「うぐっ!」
 佐々木は机に上半身を載せるように倒れました。それを見た先生が、
「おい、佐々木、どうした?」
 先生が佐々木のところに来ると、触れてもいないのに佐々木の身体が床に崩れ落ちました。次の瞬間、クラスのいたるところから悲鳴が上がりました。先生もちょっとパニックになってるようです。
「お、おい、保健室の先生を呼べ!。いや、救急車だ、救急車!!」
 この大混乱をリモートビューで見ている千可ちゃんは、大喜びです。
「やった!!」

千可ちゃん改13

2014年07月07日 | 千可ちゃん改
「ただいま~」
 千可ちゃんが自分のおうちに帰ってきました。でも、返答がありません。
「あれ、お母さん、いないのかな?…」
 千可ちゃんがお母さんの寝室を開けました。お母さんはダブルベッドの中で眠ってます。ちなみに、お父さんは出張中で、1年に20日くらいしか帰ってきません。
「寝てるんだ。昨日思いっきり疲れたからなあ…」
 千可ちゃんは部屋を出ようと振り返りました。が、何かに気づき、再びお母さんを見ました。お母さんの枕元に紙片があります。電話の横に置いてあるような、切り取れるメモ帳の紙です。千可ちゃんはその紙片を手にし、読みました。
「ありがとう、千可」
 千可ちゃんの身体に嫌な予感が走りました。千可ちゃんはお母さんの首筋に手を伸ばしました。すると、なんとお母さんに脈はなかったのです。
「お母さん…」
 千可ちゃんは布団ごとお母さんの身体を思いっきり抱きしめました。
「お母さん!!」
 千可ちゃんは泣きました。思いっきり泣きました。とめどなく涙があふれました。ずーっと、ずーっと泣きました。お母さんは17歳の誕生日に千可ちゃんを産んでます。今千可ちゃんは16歳。お母さんはたった33歳で亡くなってしまったのです。こんなに悲しいことがあるのでしょうか?
 千可ちゃんは泣いて泣いて泣き続けましたが、3時間くらいしてなんとか携帯電話を取ることができました。相手はお父さんです。すぐにお父さんが電話に出ました。でも、千可ちゃんは泣きじゃくってるので、なんと言ってるのかわかりません。それでもなんとか愛妻が亡くなったことを知りました。お父さんはすぐに自分の妹に電話し、妹はすぐに羽月家に駆けつけました。妹、千可ちゃんから見たら叔母さんに当たる人が、いろいろと事後処理をしてくれました。

 しかし、なんでお母さんは急死してしまったのでしょうか?。それはやはり、山上静可に放った霊波にありました。
 千可ちゃんの霊力はお母さんの数百倍、いや、それ以上はあります。その余りある霊力を破壊光線にして撃つことができます。これはお母さんもできないし、おばあちゃんの山上静可もできません。でも、千可ちゃんはあの時山上静可に霊体を斬られ霊波を撃つことができませんでした。そこでお母さんの身体を借りたのです。しかし、霊波を撃った瞬間、お母さんの霊気は一気に吸い取られてしまったのです。
 お母さんはそれで体調を崩してしまいました。その直後千可ちゃんに添い寝してもらい、千可ちゃんの霊力を吸い取り、お母さんの体調は回復しました。しかし、それはあくまでも一時的なもの。お母さんは自分の霊力が再生できないことに気づき、死期が近いことを悟りました。でも、千可ちゃんには気づかれたくなかったので、わざと元気な霊波を出してたのです。
 千可ちゃんはお母さんの死を知った直後、それを霊視で感じ取りました。結果的に自分の霊波でお母さんが死んでしまった。だからとっても悔しいのです。

 翌日お父さんが主張先から帰ってきました。お通夜、お葬式。オカルト研究部の部員も旧部長の浜崎さんを先頭に全員弔問に来ました。でも、千可ちゃんがあまりにも憔悴しきってるので、声をかけることさえできません。
 千可ちゃんとお父さんは、お母さんの身体を火葬して、骨を拾いました。そして納骨。お父さんは相当忙しかったらしく、納骨が終わると出張先に帰ってしまいました。静まり返った羽月家に、千可ちゃんがたった1人取り残されてしまいました。
 暗い部屋の中、千可ちゃんはお母さんが亡くなったダブルベッドに潜り込みました。千可ちゃんの思考回路は停止してるようです。ただただ泣いてるだけです。
 翌日もその翌日も、千可ちゃんはベッドから出てきません。電話も、玄関の呼び鈴も無視です。ご飯も食べません。水分も取りません。でも、思考回路だけは徐々に回復してきました。
 千可ちゃんのおばあちゃんは、お母さんを助けるために自殺しました。お母さんは千可ちゃんを助けようとして死にました。私は自分の子どものために、命を捧げることはできるの?。それを考えていたら、千可ちゃんは自分の赤ちゃんが無性に欲しくなりました。
 翌朝千可ちゃんはベッドから出ました。やっと起きるようです。
 ものは考えようです。千可ちゃんはお母さんが逐一監視してたから、何もできませんでした。そのせいで千可ちゃんは友達も少ないし、興味があったセックスもできませんでした。お母さんがいなくなった今はチャンスなのです。
 羽月家の家の玄関のドアが開きました。中から制服に着替えた千可ちゃんが出てきました。その顔にもう曇りはありません。
「行ってきます、お母さん」

 土曜日です。高校が休みの日です。森口くんはうきうきしてます。今日は千可ちゃんとのデートの日。しかもこのデート、千可ちゃんからの誘いです。これはうきうきせずにはいられないでしょう。
 森口くんが待ち合わせ場所で待っていたら、千可ちゃんが現れました。
「和ちゃん、待った?」
「ううん、そんなことないよ」
 いや、森口くんはかなり待ってました。オカルト研究部は9時集合と言ったら、8時には待ってないといけません。森口くんはそれを考え、なんと1時間前から待ってたのです。
 さて、千可ちやんの服装ですが、いつもはGパンなのですが、今日は春先だというのにミニスカートです。全体的に華美な服飾。化粧もちょっと施してあるようです。
「ど、どこに行く?」
 その森口くんの質問に千可ちゃんは、
「う~ん、カラオケにしよっか」
 というわけで、2人はカラオケボックスに入りました。

 カラオケボックスの中です。森口くんが座って歌ってます。千可ちゃんは横でその森口くんを見ています。森口くんが歌い終わりました。
「次は千可ちゃんの番だね」
「違うよ」
 次の曲が始まりました。
「あれ、これ、デュエット曲?…」
「うん、一緒に歌お。さあ、立って」
 千可ちゃんは立ちました。ワンテンポ遅れて、森口くんも立ちました。
「あは、私、ちっちゃいなあ」
 この時点で千可ちゃんの身長は142cm。森口くんは160cmです。
「よしっと」
 千可ちゃんはカウチの上に立ちました。すると千可ちゃんの身長は森口くんより高くなりました。
「あは、私の方が高いや」
 2人は歌いました。1コーラスが終わると、千可ちゃんは森口くんに声をかけました。
「ねえ、和ちゃん」
「え?」
 千可ちゃんがいきなり森口くんにキスをしました。実は森口くんは今日はキスがあるのではないかとひそかに期待してましたが、まさかここでくるとは思ってもみませんでした。でも、森口くんは自然に千可ちゃんと舌を絡めました。
 千可ちゃんは片足をカウチの肘掛けに乗せました。そしてキスをしている森口くんの左手を握り、自分のミニスカートの中に入れました。森口くんはキスに夢中で自分の左手がどうなってるのかぜんぜん興味がありませんでしたが、突然その身体に衝撃が走りました。なんと森口君の左指の先が、千可ちゃんの身体の一番大事なところに触れたのです。千可ちゃんはパンツをはいてませんでした。
 千可ちゃんは唇を離しました。かなり上気してます。
「ねえ、和ちゃん。好きにしていいよ」
 しかし、森口くんは何もしません。いや、できません。千可ちゃんがじれてきました。
「もう、男でしょ?。本能がないの?」
 ワンテンポ置いて、森口くんは千可ちゃんの身体をカウチに荒々しく押し倒しました。今2人が歌ってた曲が終わり次の曲が始まりましたが、だれも歌いません。

 事が済みました。下になってる千可ちゃんがはぁはぁと荒くなった息を整えてます。上になってる森口くんの呼吸もかなり荒いようです。森口くんが口を開きました。
「ご、ごめんなさい」
「な、なんで謝んの?」
「そ、その…」
「ねぇ、どいてくんない?」
「ご、ごめんなさい!」
 森口くんは慌てて身体を起こしました。千可ちゃんは半身起き、
「だから、謝らないてって!」
 千可ちゃんはミニスカートをまくりあげ、大事なところをティッシュで拭きました。
「あは、ずいぶん出したね。あ、もう謝んないでよ」
 森口くんは無言です。
「ねぇ、カラオケやめて、ラブホテルに行こ」
「え?」
「続きやろうよ」
「う、うん」
 思ってもみなかった急展開に森口くんはまったくついていけません。ちなみに、森口くんの童貞はたった今消えました。

 ラブホテルのエントランスです。千可ちゃんが森口君と手をつないで入ってきました。
「堂々としててね」
「は、はい」
 ラブホテルの部屋です。千可ちゃんはダブルベッドにダイブしました。
「ふぁ~、ラブホテル、半月ぶり~」
 森口くんはそのセリフを聞いて、千可ちゃんはかなりの遊び人なんだと認識してしまいました。でも、千可ちゃんが半月前にラブホテルに行った時の相手は、亡くなったお母さんです。異性と入るのは初めてでした。
 まずは千可ちゃんと森口くんのディープキス。千可ちゃんは唇を離し、
「お風呂入れてくるね」
 千可ちゃんはお風呂にお湯を注ぎました。森口くんはただただ千可ちゃんの行動を見てるだけです。
 千可ちゃんが服を脱ぎ始めました。
「ねぇ、和ちゃんも脱いでよ。一緒にお風呂入ろ」
「うん…」
 森口くんも服を脱ぎ始めました。ふと森口くんが千可ちゃんを見ると、ちょうどブラジャーを外したところです。千可ちゃんの身体は小さく異様にやせてるのに、乳房はとても大きいのです。森口くんも男の子です。たくさんエロ本を読んでるし、AVも見てます。でも、こんな乳房は見たことがありません。下地が小さいのに乳房が大きいので、乳房は前にだけ膨らんでます。別の言い方をすれば、砲弾型おっぱい。森口くんはそれがとても気になりました。
 森口くんは千可ちゃんに近づきました。
「ごめん」
「え?」
 森口くんは千可ちゃんの左の乳房を右手でわし掴みしました。
「あは、森口くんも男の子なんだなあ」
 森口くんは千可ちゃんの乳首を荒々しくしゃぶりました。
「ああ…、いいよ…」
 森口くんは千可ちゃんをダブルベッドに押し倒し、再び一心不乱に乳首をしゃぶりました。そのまま挿入。この日森口くんは千可ちゃんの胎内に5回も発射してしまいました。

 すべてをやりおえ、千可ちゃんと森口くんはダブルベッドに並んで横になりました。森口くんはずーっと疑問に思ってたとこを千可ちゃんにぶつけました。
「あの~、千可ちゃん。避妊てどうなってんの?」
「大丈夫だよ。私、やせすぎで半年に1回しか生理が来ないから。この前は2か月前だったから、あと4か月は大丈夫だよ」
「で、でも、排卵ていつかはあるんでしょ?。もし、今排卵してたら…」
「ふふ、もし妊娠したら、私、1人で産んで育てるよ」
「ええ…」
 森口くんはとっぴょうしもない回答にちょっと驚きました。
「和ちゃんには絶対迷惑をかけないから。
 ねぇ、明日は私の家でやろ」
「う、うん」
 森口くんの返答はちょっとぎこちなかったようです。

 翌日です。日曜日です。森口くんが羽月家の呼び鈴のボタンを押しました。すぐにドアが開き、千可ちゃんが顔を出しました。
「和ちゃん、よく来てくれたね」
 と、千可ちゃんは森口くんがもっているギターのソフトケースに目が止まりました。
「あれ、ギター?」
「これ、買ったんだ。この前千可ちゃんが欲しいて言ってたやつだよ」
 森口くんはギターを千可ちゃんに手渡しました。
「はい、プレゼント」
「もう、ムリしちゃって…。バイトでもしたの?」
「ううん、お父さんに買ってもらった」
「あは、和ちゃんておぼっちゃんだったんだ」
「おぼっちゃんじゃないって」
 千可ちゃんが森口くんの手を引きました。
「さあ、入って」
「うん」

千可ちゃん改12

2014年07月04日 | 千可ちゃん改
 今は春先、朝6時。もう明るくなってないといけない時間ですが、曇ってるせいか、あたりはまだ真っ暗です。ここは野中家の豪邸跡地です。今その敷地内にある平家の前で女性の悲鳴が上がりました。山上静可が守護霊の女性看護師を妖刀キララで切り捨てたのです。女性看護師の身体は霧散してしまいました。それを見てパイロットと学生の守護霊は悔しがってます。
「もうダメだ。結界が破られる…」
 室内です。たくさんの霞が発生し、それが1つになり、山上静可の身体になりました。それを見て野中圭子は恐れおののいています。
「ああ…」
 野中さんは必至に土下座しました。
「お願い、助けて、私は何もしてないよ。お兄ちゃんがやったことは全部謝るから…」
 山上静可は妖刀キララを振り下げました。次の瞬間、野中さんの悲鳴が響きました。
「ふ、やっと本懐を遂げたか…」
「てことは、もうあの世に行ってもいいってことですね」
 その突然の声に山上静可が振り返ると、そこには千可ちゃんと千可ちゃんのお母さんが立ってます。
「来たか…」
 お母さんははっきりと宣言しました。
「私がこうして五体満足でいられるのは、あなたのお蔭です。感謝してます。でも、私の大事な娘を呪うからには、私もそれなりに対応します」
「ふふ。ならば、おまえも死ぬがよい!」
 千可ちゃんとお母さんが厳しい眼で山上静可をにらんでます。山上静可も2人を厳しい眼でにらんでいます。お母さんは山上静可をにらんだまま、千可ちゃんに話かけました。
「行くよ!」
「うん!」
 千可ちゃんの右手とお母さんの左手が固く1つに結ばれると、山上静可にその拳を向けました。次の瞬間、その1つになった拳から強烈な白い閃光が放たれました。
「はーっ!!」
 山上静可は妖刀キララを振り上げました。
「そんなもん、この妖刀キララでぶった斬ってやるわ!」
 山上静可は妖刀キララを大上段に構えると、白い光線が身体に届く寸前、振り下げました。
「てやーっ!!」
 が、2人が放った光線は妖刀キララに斬られることなく、山上静可の身体を直撃。山上静可はそのまま光線に吹き飛ばされ、背後にあった掃き出し窓に激突。窓は枠ごと吹き飛ばされ、山上静可の身体は外の地面に転がりました。
「うぉーっ、くそーっ!」
 山上静可は立ち上がろうとしますが、なかなか立てません。と、山上静可が見上げると、千可ちゃんが大きく跳び上がってます。両手で妖刀キララの女刀を握りしめ、思いっきり振り上げてます。
「くらえーっ!」
「くそーっ!!」
 山上静可はその刀を自分の刀で弾きました。地面に転がる千可ちゃん。しかし、千可ちゃんはすぐに体勢を立て直すと、山上静可に向かってダッシュ。その右手には妖刀キララの女刀が逆手で握られてます。
「てやーっ!!」
 千可ちゃんの妖刀キララが山上静可の左胸をえぐりました。
「ぐふぁっ!」
 山上静可の身体が膝から崩れ、そして倒れました。千可ちゃんの勝ちです。千可ちゃんは倒れた山上静可に向かって数歩進み、地面に落ちてる妖刀キララを遠くに蹴飛ばしました。
「わ、儂の負けじゃ。一思いに刺せ」
「そんなことできないよ。だっておばあちゃんがいなかったら、お母さんも私もいなかったじゃん。そんな大事な人、なんで私がとどめを刺すの?」
「ふふ、甘いな。儂は本気でおまえを殺そうとしたのに…。
 おまえ、一晩かけて母親に身体を治してもらったのか?。儂はおまえの生き霊に斬られて、立ってるのがやっとだったんだぞ。おまえたちが来て早く事を済まそうと思ったが、それはハズレだったか」
 ドックン。この時、山上静可の身体に強い衝撃が走りました。
「う…、儂もついにあの世に行く時が来たか…」
「天国に行っちゃうの?」
「バカをいうな。こんなに大量に人を殺した悪霊が天国に行けるか。地獄だよ、地獄」
 ふと天上から淡い光が山上静可の身体に降り注ぎました。千可ちゃんは空を見上げました。
「お迎えが来た」
「おお、儂は天国に行けるのか?。神様は儂を許してくれるのか?…」
 山上静可の姿が薄くなりました。山上静可は千可ちゃんの顔を見て、こう言いました。
「千可。おまえは母親を恨んでるようだが、それはお門違いじゃ。あいつに人を呪い殺す能力はない。ただの偶然だろ」
「ええ?…」
 どうやら山上静可は、千可ちゃんの初体験の相手のことを言ってるようです。千可ちゃんはずーっとお母さんが呪い殺したと思ってましたが、交通事故はただの偶然だったようです。
「さらばじゃ、千可」
 そう言うと、千可ちゃんのおばあちゃんは消滅しました。千可ちゃんはそれを見送ってましたが、ふと何かに気づき振り返りました。すると、なんとお母さんが家の中で胸を押さえ、へたれ込んでました。千可ちゃんは慌ててお母さんのところに駆け寄りました。
「お、お母さん!?」
「だ、大丈夫よ。全身の霊力を一気に使ったから、ちょっと心臓に負担がかかっただけ」
 お母さんは立ち上がりました。
「あなたが勝ったようね」
「うん」
 千可ちゃんは明るく答えました。
「さあ、帰ろ」
 と言うと、お母さんは歩き出しました。千可ちゃんは野中さんの死体を横目で見て、心の中でこう言いました。
「ごめんなさい。羽月家の都合で助けられなくって」

 さて、千可ちゃんとおかあさんがそのままクルマで家に帰ったかと思えば、実はそうではなく、またラブホテルに行ってました。今度はお母さんの身体がきついようです。ムリもありません。千可ちゃんと手をつないで霊波を撃ったとき、千可ちゃんの身体に一気に霊力を吸われてしまったのです。おまけに、お母さんは昨日千可ちゃんの身体を治すために、かなりの霊力を使ってました。今お母さんの霊力は限りなくゼロ。くたくたなのです。
 お母さんはラブホテルの部屋に入ると、すぐにベッドに入り、深く眠ってしまいました。今度は千可ちゃんが添い寝して、お母さんの身体に自分の霊力を注いでいます。
「お母さん…」
 深い眠りについているお母さんは、応えることができません。千可ちゃんはかなり心配しています。実は千可ちゃんは、今ものすごく悪い予感がしてるのです。お母さんがこのまま死んでしまう予感にさいなまれているのです。
 でも、千可ちゃんもかなり疲れてます。千可ちゃんもすぐに深い眠りについてしまいました。

「千可、千可」
 千可ちゃんを呼ぶ声がします。千可ちゃんが目を覚ますと、お母さんは横になったまま目を開けています。
「さあ、行こっか」
 お母さんは明るく言いました。もう元気なようです。お母さんから嫌な予感は完全に消えてます。千可ちゃんの心配はただの杞憂だったようです。
「うん」
 千可ちゃんは明るく答えました。お母さんがふとベッドの時計を見ると、午後3時です。
「あれ、もう3時なの?。7時間は寝ていたのね」
 お母さんがベッドから床に降りました。そのとき、なにげにぽつりと言いました。
「私も死んだら呪い神になっちゃうのかなあ…」
 そのセリフに千可ちゃんははっとしました。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
「そんなことないよ。お母さんはこの世になんも恨みがないじゃん」
「ふふ、そうね。私はできるだけ幸せになって死ぬ。この世に未練を残さないように。千可も協力してよ」
「うん」
 ラブホテルの駐車場のシャッターが開いてます。1台だけ入る駐車場です。そこには羽月家のクルマが駐まってます。今千可ちゃんとお母さんがクルマに乗ったところです。千可ちゃんの脳裏には、さっきのお母さんのセリフが響いてます。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
 千可ちゃんは思いました。
「お母さん、なんであんなこと言ったんだろ?」
 シャッターが上がり切り、クルマが出発しました。

 千可ちゃんとお母さんが自分たちの家に帰ってきました。おかあさんはさっそく夕ご飯の用意です。そのまま千可ちゃんとおかあさんはご飯を食べました。2人の間にはいつもの、いや、いつも以上の笑顔がありました。
 千可ちゃんはご飯が終わると、自分の部屋に戻り、押し入れからギターを取り出しました。千可ちゃんはずーっとギターを習ってましたが、一緒にギターを習ってた初体験の相手の男の子がお母さんに呪い殺されたので、それを機にギターはあえて触れないようにしてました。でも、今日その男の子の死因がただの交通事故だと知り、久しぶりにギターを弾きたくなったのです。
 でも、ギターを手にしたら、ガット弦はボロボロでした。仕方がないから今度はスティール弦のギターを取り出しました。しかし、なんとこっちは弦が錆びてました。
「あは、しょうがないなあ…」
 千可ちゃんは明日弦を買うことにし、ベッドに横になりました。千可ちゃんはまだ疲れが残ってるらしく、すぐに深い眠りにつきました。

 翌日千可ちゃんはふつーに起き、お母さんはもふつーに起きました。そしてお母さんは朝ごはんを作り、千可ちゃんはそれを食べました。その時お母さんは、千可ちゃんに1つ言いました。
「ねぇ、千可。好きな男の子ができたら、絶対大事にするのよ」
「え、なに、急に?」
「いや、別に…」
 お母さんは千可ちゃんにお弁当を手渡しました。
「さあ、もう時間よ」
「うん」
 千可ちゃんは学校に行きました。
「行ってきまーす!」

 学校です。教室に着くと、さっそく森口くんがやってきました。
「羽月さん、昨日はどうしたの?」
 そうです。実は昨日は月曜日、学校がある日だったのです。でも、千可ちゃんはそれに対応する答を用意してありました。
「昨日お母さんが倒れちゃって、大変だったんだ」
「えっ、それって山上静可の呪い?」
 この質問はちょっと想定外だったようです。
「そ、それは違うと思うよ」
 千可ちゃんは笑顔を見せることで、なんとかごまかしました。

 放課後です。オカルト研究部は通常火曜日は活動しないのですが、今日はありました。浜崎さんから城島さんの容体の説明がありました。城島さんの右眼はなんともなかったようです。ただ、お父さんとお母さんが呪い殺されたという事実は、まだ城島さんは知らないようです。そして浜崎さんは部員全員に大きく謝罪しました。
「ごめんなさい、これはみんな私のせいです!」
 それを見て、福永さんも、戸村くん、森口くんも、千可ちゃんも慌てました。
「ぶ、部長、そんなに謝らないで!」
「部長のせいじゃないですよ!」
「ありがとう、みんな…」
 さっきまで毅然と話していた浜崎さんの声が、いつしか涙声になってました。他のオカルト研究部の4人は何も声をかけることができません。この日を最後に浜崎さんはオカルト研究部を定年退部しました。

 オカルト研究部の会合はこれで終了し、千可ちゃんは帰路に着きました。と、なぜか森口くんが一緒にいます。
「あの~、羽月さん、どこに行くの?」
「森口くんて下の名前、なんいうの?」
「え?、和雅だけど」
「それじゃこれからは、和ちゃんと呼ぶね。だから和ちゃんも私のことを千可ちゃんと呼んでよ」
「う、うん」
 森口くんは驚くと同時にちょっと期待を持ちました。もしかして千可ちゃんは、ぼくのことを異性と認めてくれたんじゃ…。
 千可ちゃんは楽器店に着きました。中に入ると、千可ちゃんはまずエレキギターのディスプレイを見ました。森口くんはそれを傍らで見てます。
「へ~、羽月さんてギターに興味があるんだ」
「ねぇ、羽月さんてやめてよ。千可ちゃんと言って」
「ご、ごめん…」
「私、昔ギターを習ってたんだ。クラシックギターだけどね」
「へ~、今はロックのギターにも興味があるんだ」
「うん」
 千可ちゃんはずーっと1つのエレキギターを見てます。
「このギター、いいなあ…」
 森口くんがその値札を見たら、高校生にはかなり苦しい数字でした。でも、森口くんは何かを決意したようです。
 結局千可ちゃんは、ガット弦とスティール弦を買って店を出ました。
「じゃあね」
 千可ちゃんと森口くんが分かれました。森口くんは以前千可ちゃんとかわした濃厚なキスを期待してましたが、残念、それはありませんでした。

千可ちゃん改11

2014年07月01日 | 千可ちゃん改
 病室です。今ドアが向こう側からノックがありました。この病室にいる人がそれに応えました。
「はい」
 大きな引き戸のドアが開き、花束を持った千可ちゃんが入ってきました」
「こんにちは」
 この病室に入院してる患者は城島さんです。両目に痛々しい包帯があります。
「その声は羽月さんね。あれ、1人?」
「はい。今日は1人で来ました。そう言えば、お父さんとお母さんは?」
「一度帰ったわ。着替えとか持ってまた来るって。お母さん、かなり怒ってるんだ。お母さんがいない時に来てよかったよ」
「あは、そうなんだ。うちのお母さんも怒ると怖いんだよ」
「ありがとうね、羽月さん。見舞いに来てくれて」
 城島さんの声が急に涙声になりました。
「私、悔しいなあ。こんなことで失明しちゃうなんて…。
 ねぇ、羽月さん。羽月さんには不思議な能力があるんでしょ」
 城島さんはレイプされそうになったとき、テレビから長髪の千可ちゃんが抜け出てきたシーンを思い出してます。
「あの時羽月さんはテレビから這い出てきたでしょ。私、はっきりと覚えてるよ。あんなすごい力持ってたら、人には絶対内緒だよね。だから私も内緒にしてきた。
 ねぇ、羽月さんなら山上静可に勝てるでしょ」
 千可ちゃんは無言です。
「ねぇ、私のかたきを取って欲しいんだけど」
「うん」
 千可ちゃんは少し笑って答えました。
「ありがと。期待してるよ」
「そうだ。ちょっと触らして」
「え?」
 千可ちゃんは右の掌を城島さんの眼に当てました。するとその掌から淡い光が発生しました。千可ちゃんは心の中で言いました。
「眼ん球取っちゃった左眼はどうにもならないけど、右眼だけならなんとかなる」
「な、何やってんの?…。
 ああ、気持ちいい…」
 城島さんはいつしか寝込んでしまいました。
「山上静可…。私も呪われちゃったからなあ…。やられる前にやらないと!」
 千可ちゃんは山上静可と戦う決意をしました。

 病院の玄関です。千可ちゃんが出てきました。そのとき、大きくて鈍い音が響き渡りました。その場にいた数人の男女が、病院の横にある駐車場に向かって駆け出しました。
「大変だ、駐車場で人が轢かれた!」
「ええっ?」
 千可ちゃんもそっちの方角に駆け出しました。
 千可ちゃんが駐車場に入ると、すぐに人だかりができている乗用車を発見しました。駐車場の車道に不自然に停まってるクルマ。事故を起こしたクルマです。そのフロントガラスに1人の男性の身体が頭から突き刺さっています。千可ちゃんはさらに近づき、その顔を確認しました。それは昨日手術室の前で会った男性です。
「城島さんのお父さん?…」
 そうです、これは城島さんのお父さんです。クルマのドアを開けた人がこう言いました。
「だめだ、即死してる」
 クルマの背後にも人だかりがあります。そっちからも声が聞こえてきました。
「こっちも即死だ」
 人だかりの隙間から倒れてる人の足が見えます。女性の足です。どうやら倒れてる人は、城島さんのお母さんのようです。
 千可ちゃんの耳に声が入ってきました。
「いったい何があったんだ?」
「クルマが暴走して人をはねたらしい」
「なんでこんなところでクルマを暴走させるんだ?」
 と、千可ちゃんがあることに気づきました。
「い、いけない、城島さんが危ない!。
 チカちゃん!」
 すると千可ちゃんの前に千可ちゃんの生き霊が現れました。かつて千可ちゃんがコントロールできなかった生き霊。今は千可ちゃんの意図するまま動くようです。しかし、チカちゃんというネーミングはなんとも。
「今すぐ城島さんの病室に行って!。城島さんを山上静可から守って!」
「ケケケ」
 と言うと、チカちゃんは消滅しました。城島さんの病室に向かったようです。
「山上静可、絶対許さない!」
 ついに千可ちゃんはぶち切れました。

 野中さんがいる豪邸跡地です。今その門の前にタクシーが停まり、千可ちゃんが降りてきました。タクシーが立ち去ると、千可ちゃんは壊れた門から中に入りました。
 中に入ると、千可ちゃんはあたりを見回しました。そして一点を見つめて叫びました。
「山上静可、そこにいるんでしょ!。気配を消してもわかるわ!!」
 すると千可ちゃんの目の前の空間が歪み、人影のようなものが現れました。その人影があっという間に実体化しました。30歳くらいの小柄な女性です。おどろおどろしさがあります。
「あなたが山上静可ね」
「羽月千可、なんで儂の邪魔をする?」
「それはこっちのセリフよ、いったい何人殺せば気が済むの!!」
 2人はそのまま無言で対峙しました。と、山上静可がどこからか刀を持ち出しました。
「こいつは妖刀キララ。肉体は斬れないが霊体は斬れる。おまえの霊体も斬り刻んでやろうか?」
 山上静可は千可ちゃんの身体に向かってダッシュしました。
「死ねーっ!!」
 千可ちゃんは全身から眩い光を発射しました。
「たーっ!!」
 眩い光が山上静可の身体を直撃しました。それを見て千可ちゃんは笑顔になりました。
「やった!!」
 が、その光を突き破るように、妖刀キララを大上段に振り上げた山上静可が現れました。
「バカめーっ!!」
 千可ちゃんは驚くしかありません。
「ええっ?…」
 山上静可は千可ちゃんの身体を右上から左下に大きく袈裟斬りしました。なんとも言えない強い衝撃が千可ちゃんの身体を突き抜けました。千可ちゃんは悲鳴を上げることさえできません。その場に崩れてしまいました。山上静可は千可ちゃんの前で仁王立ちになってます。
「ふっ、口ほどでもないな」
 山上静可は妖刀キララを大きく振り上げました。
「とどめだ!」
 が、その時、大きな声が響きました。
「やめて、お母さん!!」
 山上静可が振り返ると、そこには千可ちゃんのお母さんが立っていました。
「その娘はたった1人の私の娘よ。わかる?、あなたのたった1人の孫なの。その孫を殺すつもりなの?。自分の血を絶やす気なの?」
 なんと、山上静可は千可ちゃんのお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんだったのです。しかし、山上静可は意に介しません。
「それがどうした?。儂は儂の仕事の邪魔をするヤツはすべて消す。そいつがたった1人の孫でもな!」
 山上静可は再び千可ちゃんに妖刀キララを振り上げました。千可ちゃんは意識はあるものの、避ける力が残ってません。
「やめて!」
 と、お母さんが叫ぼうとしましたが、声が出ません。お母さんは金縛りにあってました。
「か、金縛り?…」
「死ねーっ!!」
 山上静可が妖刀を振り下げ始めました。が、その瞬間、山上静可の身体に強い衝撃が走りました。
「うっ!?」
 山上静可の喉から刀の切っ先が突き抜けています。千可ちゃんの生き霊のチカちゃんが、背後から山上静可のうなじを短刀で刺したのです。山上静可が横目でチカちゃんをにらみました。
「い、生き霊…」
「ケケケ」
「くそーっ!」
 山上静可は振り向きざまチカちゃんを刺そうとしましたが、チカちゃんはその妖刀をひらりと交わしました。山上静可はチカちゃんが握りしめている短刀に注目しました。
「それは妖刀キララの女刀…、くーっ、なんでお前がそれを持ってるんだ?」
 山上静可は片ひざをつき、右手をうなじに当てました。かなりこたえているようです。
「くそーっ!…」
 山上静可の身体が霧散しました。その瞬間、千可ちゃんのお母さんが金縛りから解放されました。
「千可ーっ!!」
 お母さんは千可ちゃんの身体を抱き起しました。しかし、千可ちゃんはまったく反応しません。
「お願い、千可、目を覚まして…」
 お母さんは千可ちゃんの身体を抱きしめました。

 広い部屋です。何かいかがわしい雰囲気のある部屋です。中央にダブルベッドがあります。そこには千可ちゃんが寝かされており、その傍らにお母さんがいます。千可ちゃんは何も反応していません。お母さんは祈るように千可ちゃんの両手を自分の両手で握りしめています。
「お願い、神様、千可を助けて…」
 千可ちゃんの左目のあたりがピクンと動きました。
「うう…」
 その千可ちゃんの声にお母さんが顔を上げました。
「千可…」
 千可ちゃんは目を覚ましました。そしてお母さんを見ました。
「お母さん…」
「よ、よかった…」
 千可ちゃんはあたりを見回しました。
「こ、ここは?」
「ラブホテル」
「え?」
「郊外のラブホテルは専用の駐車場から直接部屋に入れるから、こういう時は便利なの」
 さすが中学卒業から11年間援助交際だけで生きてきたお母さんです。千可ちゃんもちょっと苦笑いしてます。
「あはは…。
 お母さんはなんであそこにいたの?」
「本当は来るつもりはなかったんだけど、なんかものすごく嫌な予感がしてね、クルマで来たんだ。もう5分早く着いてたら…」
「ううん、そんなことないよ。
 お母さん、山上静可は私のおばあちゃんなの?。お母さんは違う名前を言ってたよね」
 お母さんはちょっと視線を外しました。
「私にだって、言いたくない過去があるよ…。
 もう1回教えよっか、私と山上静可の過去を。今度はウソ、偽り一切なしで。
 あなたのおばあさん、山上静可は超能力者として地元では有名だった。おばあさんの評判を聞きつけてテレビ局の人が何回も出演依頼に来たんだけど、ずーっと断っていた。でも、おばあさんの友人のだんなさんがテレビ局に勤めていて、その人の依頼は断り切れなかった。
 けど、舞い上がってしまったおばあさんは、テレビカメラの前で何もできなかった。悪いことにそれは生放送だった。翌日私は学校で笑い者だよ。特にひどかったのが、野中雄一てやつ。私はブチ切れてそいつに殴りかかったんだけど、あいつの取り巻きに集団で殴られて、蹴られて、最後は野中雄一に投げ飛ばされた。バックドロップというプロレス技だったんだってさ。そのせいで私の首の骨が外れた。病院の先生は2度と歩けないだろうと言ってた。
 おばあさんは学校に抗議に行ったんだけど、学校は私が悪いの一点張りだった。野中雄一のおじいさんは県議会の議長だったから、学校は保身に走ったんだよ。
 ラチが開かないと思ったおばあさんは、今度は野中家に抗議に行った。けど、こっちでは植木鉢を投げつけられ、顔中血だらけになった。絶望したおばあさんは、そのまま首を吊った。
 でも、おばあさんが首を吊った理由は、絶望しただけじゃなかった。私を助けるために首を吊ったんだよ」
「お母さんを助けるために?」
 お母さんはうなずくと、話を続けました。
「山上静可は私やあなたみたいな治癒能力はなかった。私の首をつなぐためには、自分が幽霊になるしかなかったんだよ。あの日の夜、おばあさんは、山上静可は幽霊になって私の身体の中に入ってきた。翌日朝起きたら、私の身体は元に戻っていた。私はおばあさんに助けせれたんだよ。
 でも、その日おばあさんは、野中雄一を呪い殺した…。こっから先はもうわかるでしょ」
「こんな話があったんだ。おばあちゃんが呪い神になった理由がよくわかったよ」
「千年前だったら呪い神が出現したら、大きな神社を建ててそこに祀るんだけどね。呪い神は正しく祀れば、最強の守り神になる。でも、今はそんなことはしなくなったねぇ」
「今は退治するしかないのか…」
「さあ、もうお休み。まだ身体は治りきってないんだろ」
「うん。お母さんは?」
「私はお風呂に入ってくるよ」
 お母さんは奥の浴室に向かいました。一方千可ちゃんは、再び深い眠りにつきました。

 しばらくして千可ちゃんがふと目を覚ましました。で、ちょっと気になり横を見たら、なんと母さんがそこにいるのです。お母さんは横臥で千可ちゃんを愛しい目で見てます。お母さんは右の掌を千可ちゃんの左の乳房に添えてます。
「お母さん、何やってんの?」
「あなたの傷ついた霊体を直してるの」
「え?」
 千可ちゃんはベッドの周りを見回しました。ここはラブホテルです。他にベッドはありません。
「あは、ここはベッドが1つしかないんだ。でも…」
「恥ずかしい?」
「うん…」
「ふふ、10年前はこうやって仲良く寝ていたのよ」
「お母さん、明日朝山上静可が野中圭子の家を襲撃するみたい。私、予知夢見ちゃった」
「それはいいことね」
「え?」
 千可ちゃんはお母さんのあらぬ返答にびっくりしました。
「さっきも話したでしょ。私は野中雄一が許せないの。野中圭子はあいつの妹よ。あいつの血をひいてるやつは、みんな死んじゃえばいいのよ!。
 でも、あなたも山上静可に呪われてるようね。いいわ、明日決着をつけましょ。私も手伝う」
「うん…」
 千可ちゃんはちょっと納得してませんが、ここはお母さんの意志を尊重することにしました。
「ねぇ、お母さん、お母さんも寝てよ」
「うん、わかった」
 お母さんは横臥をやめ、あお向けになりました。
「おやすみなさい」

千可ちゃん改10

2014年06月30日 | 千可ちゃん改
 ここは病院の廊下、手術室の前です。オカルト研究部の5人が落ち込んでいます。千可ちゃんは昨日自分が言ったセリフを思い出しました。
「大丈夫。どんな呪いでも私がみんなを助けるから。
 何が大丈夫よ。私は何もできなかった…」
 浜崎さんもふさぎ込んでいます。
「私のせいだ。あの時タクシーの運転手の忠告を聞いてれば…」
 ふいに中年の男性と女性が駆けてきました。城島さんのお父さんとお母さんのようです。お父さんが叫ぶように言いました。
「娘は、娘は今どこにいるんだ?」
 浜崎さんは立ち上がり、2人の前に立ちはだかりました。
「今手術中です。私はオカルト研究部の部長、浜崎です」
 城島さんのお母さんは、いきなり浜崎さんに張り手を食らわしました。
「あなた、いったいうちの娘に何やったのよ!」
 お父さんがそのお母さんの身体を止めました。
「バカ!、やめんか!」
 浜崎さんは立ったまま、うつむいてしまいました。
 結局この場はお父さんとお母さんに任せることにし、オカルト研究部の5人は帰ることにしました。

 その日の夜の羽月邸です。千可ちゃんがお母さんと食事してますが、千可ちゃんは冴えない顔をしてます。お母さんは心配しました。
「千可、なにかあったの?」
「うん…」
 でも、それ以上の答がありません。
「以前あなたのクラスメートを助けたことがあったわね。城島さんだっけ?。その娘にまた何かあったようね」
 どうやらお母さんは何があったのか、ある程度把握してるようです。
「眼にガラスの破片が刺さったんだ。左眼は眼球摘出。右眼も危ないみたい…」
「そうなんだ。不幸ね」
「ねぇ、お母さん。山上静可って、知ってる?」
「さあ、知らないねぇ」
「城島さんをやった悪霊だよ」
 お母さんのそれに対する答えは無言でした。
「私、あいつに勝てるかなあ?…」
「その悪霊と戦う気なの?」
 今度は千可ちゃんが無言です。
「私は反対だね。まあ、あんたのことだ、何言っても行くんだろうけど」
「ごめんなさい、お母さん」

 次の日の朝、千可ちゃんは昨日と同じ電車に乗り、皆川市に向かいました。千可ちゃんは皆川駅に着くと、今度はバスで病院に行きました。城島さんのお見舞いです。が、入院患者のお見舞いは原則午後2時からです。それを教えられた千可ちゃんはお見舞いを一時諦め、昨日の豪邸跡にタクシーを走らせました。
 タクシーの車中、タクシーの運転手は千可ちゃんにいろいろと忠告しました。しかし、千可ちゃんは聞く耳をまったく持ってません。ついにタクシーが昨日の豪邸の門の前に到着しました。千可ちゃんがタクシーを降りると、そこには昨日の3体の幽霊が待ってました。
「何しに来た?」
 これはパイロットの幽霊の発言です。この男がリーダーのようです。
「あなたたちが守ってる人に会わせてください」
 それを聞いて学生服の幽霊が怒りました。
「何言ってるんだ?。おまえ、あいつの…」
「やめろ!」
 パイロットの幽霊がそのセリフを制止しました。
「どうやらこの娘は、事情をまったく知らないようだ。ついて来い」
 千可ちゃんは3人の幽霊に導かれ、この土地の中に入りました。千可ちゃんと3体の幽霊の先に昨日の平家が見えてきました。

 部屋の中です。一般の家庭のような装飾品が並んでいます。この部屋には1人女性がいます。30歳くらいの女性です。彼女は今、机のイスに座ってます。と、今何かに気づいたようです。
「どなた?」
 ドアが開き、千可ちゃんが入ってきました。
「初めまして」
 いきなり小さな女の子が入ってきたので、女性はびっくりです。千可ちゃんに続いて3体の幽霊が入ってきました。先頭のパイロットの男性の発言です。
「この娘、あなたと話がしたいようだ。自分たちは出ていくよ」
 3体の幽霊はドアから出て行きました。さっそく千可ちゃんの質問です。
「あの~、幽霊が見えるんですか?」
「ええ、そのお蔭で山上静可に呪われずにすんでます。あなたも幽霊が見えるようね」
「はい。あ、私、羽月千可と言います」
 と言うと、千可ちゃんは右手を差し出しました。
「私は野中圭子」
 2人は握手しました。野中さんは近くのイスを見ました。
「そこに座って。ああ、この部屋に生きた人間が来るなんて、何年ぶりのことか…」
 ちなみに、千可ちゃんはこの時点で高校1年生でしたが、あまりにもミニミニなので、野中さんは中学生かそれ以下だと思ってます。
 千可ちゃんはイスに座りました。
「昨日私の友人が山上静可に眼をやられました。この奥にある豪邸をのぞこうとしたら、いきなり窓ガラスが割れたんです。窓ガラスが眼に刺さって、左眼は眼球摘出。右眼も危ない状態です。
 山上静可があそこにいたんだと思います。山上静可ていったいなんなんですか?」
 野中さんはちょっと視線をずらし、ちょっと時間を空けてしゃべり始めました。
「実は私もよくわかんないんだ。私は事件があった時はかなり幼少だったし、生き証人もみんな死んじゃったし…。わかる範囲でお教えしましょう。
 今から22年前、私の兄が小学校でクラスメイトの女の子をイジメました。かなりひどくイジメたようで、女の子は入院したようです。そしたら、その子のお母さんがうちに怒鳴り込んできました」
「そのお母さんが山上静可?」
 野中さんは黙ってうなずきました。そして話を続けました。
「私の母もカチンときたらしく、山上静可の顔に植木鉢を投げつけました。山上静可は左眼の上を切りました。それは私も見てます。かなりひどい出血でした。山上静可はかなり悔しかったみたいで、そのまま首を吊りました」
「そして、呪いが始まったんですね」
「最初に殺されたのは、私の兄でした。工事現場の横を歩いていたら、いきなり鉄骨が崩れてきて、ぺちゃんこになったんです。かなり悲惨な死でした。
 それから兄のクラスメイトがたくさん殺されました。兄のクラスメイトだけじゃありません。他のクラスの子や先生も呪い殺されました。そのうち親や兄弟、取材に来た記者や小学校の近所に住む人までも、呪い殺されるようになったのです。
 私の父や母や祖父もあっという間に殺されてしまいました。私は霊と会話ができるから、たくさんの先祖霊に頼んで護ってもらうことにしました。
 この建物は結界が張ってあるのよ。山上静可でも絶対入って来られないはず。ま、そのせいで私もこの家から出られなくなっちゃったけど。
 でもねぇ、私を守護する先祖霊はどんどん減ってきてるの」
「どうして?」
「山上静可は妖刀キララを持ってるわ。あの妖刀で斬られると、霊は天国でも地獄でもない深淵に墜ちてくみたい。消えた守護霊は、きっとあの妖刀に斬られたんだと思う。
 私を守る結界は最低3人の守護霊が必要だから、今いる誰かが斬られたら、私は山上静可に呪い殺される…」
「大丈夫ですよ」
 その千可ちゃんの自信満々の発言に、野中さんはびっくりです。
「私は世界一呪う力があります。山上静可なんて逆に私が呪い殺しちゃいますよ」
 野中さんは思わず吹いてしまいました。
「ほ、ほんとなの?」
「ほんとうですよ。私の母が言ってますから!」
 しかし、野中さんは信じられないようで、笑いをこらえてます。まあ、これは信じる方がおかしいですね。と、千可ちゃんが急に慌てました。
「あ、今のは秘密ですよ。私が霊能力者だとわかると、いろいろと面倒だから」
「はい、わかりました。でも、残念だけど、山上静可は人間の幽霊じゃないのよ」
「え?」
 千可ちゃんはちょっと驚きました。
「山上静可は悪霊よりうーんと怖い呪い神になってると守護霊が言ってました。神様には勝てません。だから私のことはほっといてください」
 今度は千可ちゃんが笑いました。
「大丈夫ですよ。相手が神様でも私は勝てます」
「あ、そうだ。私を守護してくれるのなら、ショッピングセンターに行ってもらえませんか?」
 野中さんのその突飛な発言に千可ちゃんはきょとんとしてしまいました。
「私、この家から出ることができないから電話やスマホで買い物してるんだけど、今どうしても欲しい物があるから、買って来て欲しいんだ」
 千可ちゃんは心の中で嫌な顔をしましたが、表面上は笑顔で応対しました。
「ああ、いいですよ。でも、病院に友人をお見舞いに行かなくっちゃいけないから、ちょっと時間がかかるけど、いいですか?」
「もちろん」
 千可ちゃんはショッピングセンターの地図と、買ってきて欲しい品目が書かれた紙と、お金をもらいました。
「じゃ、お願い」
 千可ちゃんはタクシーを呼んでもらい、近くのショッピングセンターに出かけて行きました。

 ショッピングセンターです。千可ちゃんがいろいろと買い物してます。一通り買い終わったようで、千可ちゃんはショッピングセンターのコートに出てきました。
「ふぁ~、なんだ、あの人、私を便利屋だと思ってんの?」
 千可ちゃんがふとコートの真ん中にある時計を見ると、12時ジャストでした。
「まだ12時か…。病院の面会は2時からだから、まだ2時間もある…」
 千可ちゃんはすぐ横にあるレストランを見ました。千可ちゃんは1人でファミレスに入ったことはありません。でも、千可ちゃんは野中さんからもらったお金を持ってます。余ったお金で食事してもいいとも言われてます。思い切って入店することにしました。
 40分後、食事終了。と言っても、千可ちゃんはコーンポタージュと1人分のサラダしか食べてません。それでも食の細い千可ちゃんは満腹です。千可ちゃんはレストランの窓越しに、コートの真ん中の時計を見ました。0時40分です。
「まだこんな時間か。仕方ないなあ…」
 千可ちゃんはお見舞い用の花束を買い、バスに乗りました。わざと時間を伸ばすために、バスで病院に行くようです。

 千可ちゃんはまず皆川駅までバスで行き、バスを乗り換えました。午前中に1度乗ったバス、病院行きのバスです。
 片側2車線の道路。休日の昼下がりのせいか、道路は閑散としてます。その中を1台のバスが走ってます。千可ちゃんが乗ったバスです。バスの乗客はイスに半分くらいでしょうか。
 バスの目の前に大きな交差点が見えてきました。直行する道路も片側2車線です。今信号は千可ちゃんから見て赤です。赤信号の前に1台の乗用車が停車しています。
 と、千可ちゃんの身体にふいに悪寒が走りました。
「な、何、この嫌な感覚は?…」
 千可ちゃんの脳裏に、今千可ちゃんが乗ってるバスの側面に大型のトレーラートラックが激しく激突する映像が思い浮かびました。
「バ、バスを止めないと!」
 千可ちゃんが慌てて降車用のブザーを押しました。ピンポーン。バスの運転手が反応しました。
「はい、次停まります」
 交差点のちょっと手前にバス停があります。バスがその前に停まりました。そのとき信号が青になり、信号待ちの1台の乗用車が走り出しました。次の瞬間、とんでもないことが起きました。右側から巨大なトレーラートラックが現れ、乗用車の真後ろを通り抜けて行ったのです。それは千可ちゃんが予知で見たトレーラートラックでした。あからさまな信号無視。もし千可ちゃんが降車用ブザーを押してなかったら、トレーラートラックはバスに激突していたはずです。バスの客は騒然としました。千可ちゃんも青ざめてます。
「山上静可の呪い…」
 そうです、これは山上静可の呪いです。ついに千可ゃんにも山上静可の呪いが降りかかったのです。

千可ちゃん改9

2014年06月28日 | 千可ちゃん改
 靴を履きかえた千可ちゃん、城島さん、森口くん、戸村くんが並んで校舎から出てきました。森口くんから千可ちゃんに質問です。
「なんか、すごいですねぇ、100人以上の人が呪い殺されたって…」
「オカルト系の雑誌ていい加減なところが多いから、全部創作かもよ」
 今度は城島さんの発言です。
「でも、真実だったとしたら、私たちも呪われちゃうかも…」
 その発言に千可ちゃんは心の声で答えました。
「大丈夫。どんな呪いでも私がみんなを助けるから」
 4人が自転車置き場につきました。
「じゃあね」
 4人が自転車でそれぞれ別の方向に走り出しました。
 千可ちゃんが1人で自転車で走ってると、ふっと横から人影が現れました。自転車に乗った戸村くんです。
「あれ、戸村くん?」
「大丈夫。どんな呪いでも私がみんなを助けるから、て、さっき言ってましたよね」
「あは、私の心の声が聞こえちゃった?」
「テレパシーで聞こえてましたよ。
 オレ、なんかものすごく嫌な予感がするんですよ」
「私だってするわよ。でも、大丈夫。呪いだったら私の方が上だから。あなただって知ってるでしょ?」
「あは、そうでしたね」
 そうです。戸村くんは一度千可ちゃんに呪い殺されてるのです。戸村くんはちょっと納得したようです。

 オカルト研究部が8時に集合と言ったら、部員は自主的に1時間早く集まってきます。朝7時ジャストに千可ちゃんが駅に着いたら、すでに全員集まってました。
「あれ、私が最後ですか?」
「さあ、行きましょうか!」
 浜崎さんを先頭に、オカルト研究部の出発です。

 6人が電車に乗り皆川市へ。ちなみに、切符代は浜崎さん持ちです。金持ちの浜崎さんがいなくなったらオカルト研究部の部費はどうなってしまうのでしょうか?。ちょっと心配ですね。
 約2時間後、オカルト研究部の6人は皆川駅に降りました。ふつーの郊外の駅です。タクシー乗り場に行くと、6人は2台に分乗しました。このタクシー代も浜崎さんが持ってくれるようです。
「皆川西部小学校の跡地まで」
 タクシーに乗った浜崎さんが行き先を告げました。すると運転手から思ってもみなかった答が返ってきました。
「あ~、あそこですか。別に行ってもいいですけど、早く帰った方がいいですよ」
「え、な、なんで?」
 浜崎さんのその質問にタクシーの運転手の答は、
「さあ…」
 浜崎さんと彼女に同乗してる福永さんと城島さんは、かなりけげんな顔を見せました。

 2台のタクシーが片側2車線の道路を快適に走ってます。あたりはふつーの街並みです。前を走るタクシーの車中は、まったく会話がありません。このタクシーに乗ってる浜崎さんは、厳しい眼でずーっと前の方を見ています。と、浜崎さんはふいに口を開きました。
「あの~、運転手さん。山上静可て女性、知ってますか?」
「山上静可ですか?。さあ、初耳ですねぇ」
「ほんと?」
「ほんとですよ」
 しかし、浜崎さんは直感的にその発言がウソだと感じました。この運転手は山上静可を知ってる。でも、なんらかの理由で話すことができない。その理由は呪い?…。
 タクシーが左に曲がりました。そこからは緩い上り坂。両側はやはりふつーの住宅街です。
 しばらくすると、鈍い銀色の壁が見えてきました。と同時に上り坂は終わり、道は平らになりました。壁は工事現場用の仮囲いでした。その仮囲いが始まるところでタクシーは停まりました。
「はい、こここだよ」
 と、タクシーの運転手。浜崎さんたちはタクシーを降りました。その後ろでは2台目のタクシーに乗ってた千可ちゃんたちも降りています。
 2台のタクシーが立ち去ります。浜崎さんは仮囲いの前に立ちました。
「まるで工事現場みたい…」
 浜崎さんの横に城島さんが立ちました。
「でも、出入り口がないようです。これじゃ、工事できませんよ…」
「とりあえず、取材しましょうか」
 浜崎さんのこの一言で6人が歩き始めました。この学校跡地は南側に大きな通りがあり、残り3方向は小さな道が囲っています。6人はまず南側の道を西から東へ歩きました。城島さんはふと何かに気づきました。
「あの~、さっきから誰も人がいないような?…」
 浜崎さんの返事。
「うん、住宅街なのに、まったく人の気配がないわねぇ」
 仮囲いの反対側には住宅が並んでいます。が、ところどころ更地になってます。福永さんはそれに気づき、
「ところどころ更地になってる…」
 が、城島さんは更地て言葉を知らなかったようです。
「え、更地?、更地って?」
 ここで森口くんが助け船。
「家を建てるために、整地された土地ですよ」
「あは、そっか」
「それだけじゃないわよ」
 浜崎さんは道路を渡り、1つの家の門の前に立ちました。
「門の表札が取り外されている。この家、空き家よ」
 森口くんは別の家の前に立ちました。この家のカーポートの扉が壊れたままです。
「この家もかなり前から人が住んでないようです」
 千可ちゃんが路上にある庇を見上げました。
「ここは昔バス停だったんじゃ?」
 福永さんはあたりを見ました。
「もしかしてここは、ゴーストタウンなの?」
 それから6人は学校跡地の周りをめぐりましたが、学校に面した住宅はすべて空き家でした。
 戸村くんが小声で千可ちゃんに話かけました。
「何か感じますか?」
「ううん、今悪霊はここにはいないみたい。でも、昔はいたみたいね」
「どんな悪霊がいたんですか?」
「わかんない、でも、何か恐ろしい力を持った悪霊がいたことは確かね」
 戸村くんはその悪霊に勝てますか?、と質問しようとしましたが、それはやめときました。

 結局6人は1度も人を見ることもなく、元の場所に帰ってきました。浜崎さんと福永さんが顔を見合わせました。
「山上静可の呪い、結局それがわからないとだめみたいね…」
「部長、近くの図書館に行ってみましょうよ」
「それはいい考えね」
 浜崎さんはスマホを取り出し、さっそく電話。どうやらタクシーを呼ぶようです。タクシーが来るまで福永さんはモバイルパソコンを見てましたが、ふいに何かに気づきました。
「あれ、これは?」
 福永さんはモバイルパソコンを浜崎さんに見せました。
「部長、ここ見てください」
 それは地図代わりの航空写真。なぜか半分だけ壊れてる入母屋式の豪邸が写ってます。
「なに、この建物。半分だけ壊れてる?。これは行って見る価値がありそうね。
 みんな、行先変更するわよ」
 タクシーが2台到着しました。さっそく浜崎さんが先頭のタクシーに乗り込み、モバイルパソコンの画面を運転手に見せました。
「運転手さん、ここ、どこだかわかりますか?」
「ああ、わかるけど…。行くんですか?」
「はい」
 運転手は1つ溜息をつきました。そして、
「わかりました」
 2台のタクシーが走り出しました。

 さきほどのタクシーの中です。運転手が横目で後部座席の浜崎さんを見ました。
「きみたちはオカルトマニアなのかな?」
「まあ、そんなもんですけど」
「実は去年の今頃、オカルトマニアのカップルをその建物に運んだことがあったんだけどねぇ。2人は翌日首なし死体で発見されたんですよ」
「ええ?…」
 その話を聞いて、浜崎さん、福永さん、城島さんがびっくりしました。
「悪い事は言わん。そこは行かない方がいいですよ」
 浜崎さんは一瞬ためらいました。で、福永さんと城島さんに質問しました。
「どうする?」
 福永さんも城島さんも即答しました。
「私は大丈夫ですよ」
「ここで逃げ出す理由もないんじゃないですか?」
 浜崎さんは横目で後ろを走るタクシーを見ました。
「後ろの3人はタクシーを降りたあとに訊くか…。
 運転手さん、大丈夫です。行きます!」
「わかりました」
 タクシーはそのまま目的地に向かいました。
 再び浜崎さんが乗るタクシーの中です。
「ところで、運転手さん、山上静可て女性、知ってますか?」
 が、運転手は無言です。浜崎さんはもう1度質問しました。
「あの~…」
 浜崎さんの再質問をさえぎるように、運転手が発言しました。
「お客さん、その名前は禁句ですよ。その名前は2度と出さないでください!」
 浜崎さんはあっけにとられてしまいました。

 道路の脇にタクシーが停まりました。タクシーから福永さん、城島さん、そして浜崎さんが降りました。浜崎さんが降りてるとき、なにか不思議な感覚が襲いました。道路の反対側に広大な邸宅の土地が見えます。鬱蒼とした土地。浜崎さんが2人に話しかけました。
「あそこね。きっと何かあるわね…」
 福永さんが横目で後ろを見ました。そこには壊れた家の門が。
「どうやらここもゴーストタウンのようですね」
 ここで2台目のタクシーが到着しました。浜崎さんが見てる前で千可ちゃん、森口くん、戸村くんが降りました。さっそく浜崎さんが声をかけました。
「3人とも、話があるんだけど…」
 千可ちゃんが即答です。
「タクシーの運転手に何か言われたんですか?」
 続いて、戸村くん。
「実はオレたちも言われたんですよ。ここには来ない方がいいって」
 最後に森口くん。
「ここでたくさんの死体が発見されたと言われました。だから、行くなって」
 浜崎さんはちょっと苦笑して、
「そっちのタクシーでも言われてたんだ。
 で、どうするの?」
 代表して戸村くんが返答しました。
「もちろん、部長について行きますよ」
「わかった」
 浜崎さんはちょこっと笑いました。6人は道路を横断しました。

 6人が門柱の前に立ちました。門柱はありますが、門は壊れてます。6人はそれぞれ顔を見合わせ、そしてうなずき、中に入りました。
 中はかなり大きな土地です。門から家は見えません。また、ずーっと手入れしてないのか、中の植木はみんな大木になってます。これも門から家が見えない理由の1つです。
 と、2番目を歩く福永さんが、左側に小さな平家を見つけました。
「あそこに家が?」
 が、先頭を歩く浜崎さんは、それには無関心です。
「それはあとにしましょ」
 が、戸村くんの眼はその家に釘づけになりました。なんと、その家の前には3体の幽霊が立ってるのです。第二次大戦中のパイロットと思われる男性、ちょっと古い看護師の女性、古い学生服の男性の3人です。城島さんがその戸村くんに気づき、
「あれ、戸村くん、どうしたの?」
「な、なんでもないっすよ」
 戸村くんは再び歩き出しました。と、千可ちゃんに小声で話しかけました。
「今、あの家の前に3人の幽霊がいましたよ」
「うん。あれはたぶん先祖霊だと思う。きっとあの家の中にだれか居て、その人を守ってんじゃないかな」
「相手は山上静可?」
「私の霊視能力じゃ、そこまではわからないよ」
 と、ふと千可ちゃんは何かを感じ振り返りました。なんとそこに、さきほどの3人の幽霊がいるのです。
「ついて来てる?」
「見えた!」
 これは浜崎さんの声。やっと邸宅が見えたようです。半分壊れた豪邸。重機で壊したあとがありますが、重機はありません。工事途中で放棄されたようです。浜崎さんは感嘆な声を挙げました。
「すごい、半分壊れてるのに、私の家より大きい!」
 そうです。浜崎さんの家も豪邸ですが、それよりも大きな豪邸なのです。城島さんがその家に駆け寄りました。
「なんで放棄されたのかなぁ?」
 城島さんは窓から中をのぞこうとしてます。
「中はどうなってるんだろ?」
 と、その窓ガラスにビシッと小さなひびが入りました。その瞬間、千可ちゃんの身体に悪寒が走りました。
「ダメ!、行かないで!」
「えっ?」
 次の瞬間、窓ガラスがバリーンと割れました。その破片が城島さんを襲いました。びっくりする城島さん。
「ええっ?」
 と、大きなガラス片の1つが城島さんの左目を直撃。それを見ていた5人に衝撃が走りました。
「城島さん!」
「城島さん!」
「城島さーん!」
 5人は倒れてる城島さんのところに慌てて駆け寄りました。浜崎さんは城島さんの上半身を抱きかかえました。
「城島さん!!」
 城島さんの左目には窓ガラスの破片が刺さったままです。また、右目にもガラス片が見えます。
「な、なんてことを…」
 千可ちゃんはあたりを見回しました。
「山上静可がどっかにいる…」
 5人はとりあえず城島さんの身体を門の外に運び出しました。間もなく救急車がやってきました。

千可ちゃん改8

2014年06月27日 | 千可ちゃん改
 昨日と同じ場所で千可ちゃんと戸村くんが話し合ってます。千可ちゃんはまるまる太ったボストンバッグを戸村くんに渡しました。
「これ、全部書いて」
 戸村くんはそのボストンバッグのチャックを開け、中を見ました。と、なんか不満顔です。
「これ、全部っすか?」
「うん」
 この2人のやりとりを物陰から見ている人影があります。森口くんです。森口くんの表情には、なにか悲愴感があります。
「羽月さんですかぁ、あの映像潰したのは?」
 その戸村くんの質問に千可ちゃんは満面の笑みをたたえ、答えました。
「うん。昨日幽体離脱…」
 と、ここで千可ちゃんは何かを感じ、右手の人差指を自分の唇に重ねました。戸村くんもそれを見て、何かに気付いたようです。
「じゃあね」
「うん」
 2人は別れました。

 下駄箱に向かって千可ちゃんが歩いて来ます。それを物陰から森口くんが待ち構えてます。森口くんは何か言いたいことがあるようです。しかし、いつまで経っても千可ちゃんは来ません。いい加減しびれを切らした森口くんが顔を出そうとしたら、その反対側から声がしました。
「そこで何やってんの?」
 森口くんが慌てて振り返ると、そこに千可ちゃんがいました。
「は、羽月さん?」
「何か私に言いたいことがあるの?」
 森口くんは黙ってしまいました。
「いいよ。遠慮しないで言って」
「その…。
 なんで羽月さんはあいつと付き合ってんですか!?」
「あいつって、戸村くんのこと?。そりゃあ、同じ部の仲間だもん。話したってなんの問題もないでしょ。森口くんだって、彼とうまくやってたじゃん」
「は、羽月さんはぼくの気持ちがわかってない!。
 ぼくは羽月さんが好きだ!。大好きなんだ!!」
 千可ちゃんはふいに下を向きました。ちょっと笑ってるようです。と、千可ちゃんはいきなり森口くんの目の前に立ちました。千可ちゃんの背丈は140cm。森口くんの背丈は160cm。20cm差を埋めるように思いっきり背伸びして、千可ちゃんは森口くんの唇にキスをしたのです。その瞬間、森口くんはかなりびっくりしたようです。
 千可ちゃんはすぐに唇を離しました。千可ちゃんはちょっと上気してるようです。
「ねぇ、ぎゅっとして」
「えっ?」
「ぎゅっとしてよ」
 森口くんは一瞬ためらいましたが、次の瞬間、小さな千可ちゃんの身体を強く抱き締めました。そのまま自然に千可ちゃんの方から森口くんにキス。森口くんもされるままになってましたが,その眼が急に驚きに変わりました。なんと千可ちゃんが森口くんの口の中に舌を入れてきたのです。森口くんはどうすればいいのかわかりません。とりあえず舌を絡めました。
 どれくらいでしょうか,2人のキスは続きましたが,しばらくして2人は身体を離しました。千可ちゃんはさらに上気してるようです。
「ごめん。今日はこのへんで許して」
「いや、あの、ぼくは別に…」
 森口くんは自分が思っていた以上の展開になって、かなり戸惑っているようです。
「ねぇ、戸村くんと仲良くやってよ」
「う,うん」
「ありがと」
 千可ちゃんは下駄箱から靴を取り出しました。
「あ、今の私のファーストキスだからね!」
 千可ちゃんは足早に出ていきました。森口くんはまだ茫然としてます。
 今の千可ちゃんの行為は、自分でも思ってもみなかった暴走だったようです。自分でも恥ずかしくなってしまい、それで足早にここを立ち去ったようです。ちなみに,先ほども述べた通り,ファーストキスというセリフは真っ赤なウソです。

 その日の夜です。千可ちゃんがベッドに寝てます。しかし、目がらんらんとしてます。千可ちゃんは右手の指で自分の唇に触れました。千可ちゃんは森口くんとのキスが頭から離れないようです。それで眠られないようです。
「あ…」
 千可ちゃんはため息のようで、ため息とは違う声を発しました。
 しかし、千可ちゃんは眠らないといけません。千可ちゃんは今幽体離脱しようと思ってるのですが,熟睡しないと幽体離脱できないのです。
 が、千可ちゃんはついに睡眠を諦め、携帯電話を手にしました。戸村くんに電話しようとしたのです。しかし、番号が思い浮かびません。当たり前です。千可ちゃんは戸村くんの電話番号をまだ知りません。仕方がないから、目をつぶりました。テレパシーです。
「戸村くん、聞こえる?」
「あ、はい」
 なんと戸村くんは千可ちゃんのテレパシーをキャッチし、返してくれました。
「ごめん、今から例のとこに行って欲しいんだけど、いいかなあ」
「こんな真夜中にですかぁ?。まぁ、いいですけど」
「あは、よろしくね」

 例の女の子の家の前です。今夜もまた女の子が自転車で走り出しました。女の子の自転車は街を駆け抜け、山道に入り、そして鳥居の前に停まりました。ここはみみずく神社です。女の子は石段を駆け登り、絵馬掛けが見える場所に来ました。
「いない…」
 どうやら千可ちゃんの存在を気にしてたようですが、千可ちゃんはいません。次に女の子は監視カメラを睨みました。で、偶然手元にあった脚立を持ち、監視カメラのところに行き、脚立に乗って監視カメラに黒い布を被せました。
「これでよし!」
 女の子はどこからか絵馬を取り出し、絵馬掛けに向かいました。女の子は満足な顔を浮かべてます。が、その顔が一瞬で驚きの顔となりました。絵馬掛けに掛かってる絵馬のすべてが同じ文面だったのです。
 ぼくが傷つけた女の子が早くよくなりますように。1年3組戸村。
 それを読んだ女の子がくすくす笑い出しました。その笑い声は次第に大きくなり、最後は腹の底からの大爆笑になりました。
「わかったわよ。わかったって」
 女の子はそのまま帰りました。

 翌日千可ちゃんが通う高校です。まだ朝のホームルームの前のようです。例の女の子が教室で友達としゃべってます。その女の子を廊下からそーっと見てる人影があります。千可ちゃんと戸村くんです。
「やっと学校に来たわね」
「羽月さん、彼女の前に何度も幽霊になって出たけど、大丈夫なんですか?」
「ふふ、彼女、私のことなんかぜんぜん覚えてないよ」
「え?」
「彼女の脳内にちょっと細工しておいたんだ。私の顔と名前は自動的に消えるようにってね」
「そんなことできるんですか?」
「うん」
「あの~、オレ、どのタイミングで彼女に謝ったらいいんですか?…」
「それは自分で決めてよ」

 千可ちゃんは意外とおませです。初体験は14歳の時に済ませてます。初体験は千可ちゃんにとっては遊びのつもりでしたが、それでもその時の衝撃は、今でも千可ちゃんの肉体に残ってます。だから千可ちゃんのお母さんが初体験の相手を呪い殺してしまった時は、千可ちゃんは耐え難き屈辱を感じました。
 しかし、なんで千可ちゃんはこんなにおませなんでしょうか?。実はその原因は千可ちゃんのお母さんにありました。
 千可ちゃんのお母さんのお母さんは、お母さんが小学生の時に自殺しました。お母さんが小学校でイジメられ、その原因がおばあちゃんのテレビ出演にあったことに責任を感じたからです。
 実はお母さんのお父さんも失踪してました。お母さんは二親ともいなくなってしまったのです。仕方なくお母さんは父方の親戚に預けられました。別にそこでお母さんが継子扱いされたことはなかったのですが、居心地の悪さを感じ、中学卒業と同時に家を飛び出しました。しかし、15歳の少女に泊まる場所があるはずがありません。夜の街を歩いているうちに声をかけられ、お母さんは見知らぬ男に抱かれました。
 一度タガが外れると、あとは野となれ山となれです。お母さんは毎晩いろんな男に抱かれました。最初お母さんは嫌々抱かれてましたが、そのうちお母さんも気持ちよくなってしまい、一度に2人や3人の男に抱かれたこともありました。
 お母さんは当時も今も小柄です。顔も小さいし、肩幅も狭いし、胸もぺちゃんこです。ゆえに小学生の女の子に見えました。それがウリで男が集まって来たのです。ま、15~16の女の子と援助交際すること自体大問題だと思いますが。
 しかし、こんなことずーっとうまくいくはずがありません。お母さんは気づいたら妊娠してました。お母さんは心当たりのある男性にそれを訴えましたが、相手にされるはずがありません。仕方なく自分1人で子どもを産むことを決意したのです。そして女の子が産まれました。それが千可ちゃんです。お母さんの17回目の誕生日でした。
 それを機にお母さんが真面目になったかと思えば、まったくそうではなく、10日もしないうちに援助交際再開。ただ、必ずコンドームを使うようになりました。お母さんはいつしかオーラを見てその人の性格を計る能力を身に着けてました。コンドームを拒否するような男は、コンドームを着ける着けると言っておきながら土壇場までコンドームを装着せず、結局中出ししてしまいますが、そのような男は事前に拒否するようになったのです。
 お母さんの援助交際の相手に羽月という男がいました。11歳も年上の男性です。その男は何回もお母さんを買いました。お母さんもいつしかこの男に恋愛感情を抱くようになり、ついにゴールイン。千可ちゃんは9歳でやっと人並みの生活がおくれるようになりました。
 それから3年後、中学入学を控えた千可ちゃんにお母さんは正直に千可ちゃんの出生の秘密を教えました。それを聞いた千可ちゃんは、母親を恨むこともなく、顔さえ見たこともない実の父親を恨むこともしませんでした。ただ、自分の母親がハマってしまったセックスに興味をもってしまったのです。私も早くセックスしたい。男の人に抱かれたい…、
 そんな感情が14歳の初体験となりました。が、すぐにお母さんにそれがバレてしまい、千可ちゃんに往復ビンタ。挙句に初体験の相手を呪い殺してしまったのです。その日から千可ちゃんは引っ込み思案になってしまいました。でも、オカルト研究部がそんな千可ちゃんを元の明るい女の子に戻してくれたようです。

 年が明け、3学期となりました。他の部では3年生は2学期で退部しますが、オカルト研究部の浜崎部長はまだオカルト研究部にいます。浜崎さんは最後に一発功名を上げたい気分のようです。
 そんなとき、浜崎さんは気になる古雑誌を古本屋で見つけました。月刊ジオカルト。20年以上前に発行されたこの雑誌が20冊ほど束になって売ってたのです。浜崎さんはその雑誌を購入すると、翌日オカルト研究部の部室に持ち込みました。さっそく部員全員で回し読みです。と、城島さんが何か気になる記事を見つけたようです。
「山上静可の呪い、ついに死者100人突破。なんか、これ、すごい記事ですねぇ…」
 他の部員はその発言を聞いて一様に城島さんを見ました。と、まず福永さんがその本をのぞき込みました。
「山上静可の呪い。なに、それ?」
 その記事は今月のトピックスというページのトップに載ってました。1ページの1/3のスペースです。浜崎さんはその雑誌を手にすると、さっそくその記事を読みました。
「先月お伝えした皆川市X小学校で起きてる呪いですが、ついに死者が100人を超えました。あまりにもたくさんの連続不審死に警察も乗り出しましたが、その警官も交通事故で4人が死亡。小学校に通ってる児童や保護者は、さらに恐れおののいてます…」
 浜崎さんは顔を上げ、
「ねぇ、みんな、山上静可て知ってる?」
「いいえ」
「ぜんぜん」
 全員知らないようです。
「いったいなんなの、山上静可の呪いって?…。そういえば、先月お伝えしたって書いてあるな。1つ前の号を見れば…」
 浜崎さんはその雑誌の表紙を見ました。
「21年前の5月号…。
 ねぇ、21年前の4月号はないの?」
 さっそくみんなでその号を探しましたが、ありません。そればかりか、6月号以降も見当たらないのです。浜崎さんが5月号を再びめくると、さらに気になる記事がありました。
「小誌編集部の三浦志郎と川内洋二が永眠しました…。もしかしてこの雑誌の編集部も呪われてたんじゃ?…」
 浜崎さんがパソコンの前に座ると、さっそくこの雑誌を検索しました。すると、やはり21年前の5月号で廃刊になってました。
「やっぱりこの雑誌も呪われたんだ。なんて呪いなの?。この小学校でいったい何があったというの?。
 そうだ!」
 浜崎さんは今度はネット上で地図を開きました。
「皆川市てーところまではわかってるんだから、小学校を片っ端から当たれば…」
 と、浜崎さんのマウスを握る手がふいに止まりました。なんと町の1区画が丸ごと空いてる場所があったのです。
「なんなの、ここ?」
 浜崎さんは30年前の航空写真を呼び出しました。すると、なんとそこには小学校がありました。名前は皆川西部小学校。
「ここの空地はもともと小学校だったんだ。もしかしてX小学校はここ?」
 浜崎さんは振り返り、みんなを見ました。
「みんな、明日行く場所が見つかったわよ。朝8時に駅に集合!」

千可ちゃん改7

2014年06月24日 | 千可ちゃん改
 ここは現実世界、オカルト研究部の部室です。机に座ってる福永さんがいや~な顔で横を見てます。
「ねぇ、あなた、なんでここにいるの?」
 福永さんの視線の先には戸村くんが座ってます。
「入部届け、出しましたよ」
 その横に座ってる森口くんが苦笑いしてます。福永さんはきっとこう思ってるはずです。
「部長~、なんでこいつの入部、許可したのよ~?」
 と、ドアが開き、浜崎さんが入ってきました。
「あった!、ありましたよーっ!!」
 浜崎さんの手にはDVDのパッケージがあります。
「ほんとうに怖い心霊ビデオ第60巻。発売日にレンタルできたーっ!」
 福永さんと城島さんが目を輝かせました。
「やったーっ!!」
 浜崎さんは得意満面な顔をしました。
「レンタルてことでパッケージは持って来れなかったんだけど、みみずく神社も出てくるみたい」
 と、それを聞いた千可ちゃんが、ほんの一瞬嫌な顔をしました。

 再生開始。みみずく神社の話題は最初にありました。
「ここですか。オレのこと死ねって書いた絵馬があった神社は?」
「うん」
 戸村くんの質問に千可ちゃんが返答しました。戸村くんはさらに何か言いたいようでしたが、口ごもりました。
 ビデオのナレーターの説明だと、最近○○死ねと書かれた絵馬が奉納されてるので、神社が監視カメラを設置したところ、その翌日信じられない人影が映ったとのこと。いよいよそのシーンです。
 絵馬掛け全体を映してる監視カメラの映像。日は高いようです。と、いきなり半透明な人影が現われました。
「うわっ!。いきなり出た!」
 森口くんはびっくりです。
 人影は斜め後ろになってるので顔はわかりません。が、千可ちゃんはだれだかわかってます。そうです。これは幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはあのとき、まさか監視カメラで監視されてるとは思ってもいませんでした。千可ちゃんはまずかったなあと思ってます。
 人影が絵馬掛けに手を伸ばし、1枚の絵馬を手にしました。人影がその手を伸ばすと、絵馬が突然パッと燃えました。これを見て一同は唖然としました。
「燃えた…」
「すごい心霊映像だ…」
 映像の中で人影がふっと消えました。引き続き、リプレイ。さらにスローによるリプレイ。これを見て福永さんがふと気付きました。
「あれ?。これ、羽月さん?」
「あは、まさかあ…」
 千可ちゃんは苦笑いでごまかしました。
 浜崎さんは映像を止めました。
「燃やされたのはきっとあの呪いの絵馬ね」
「オレのこと、死ねって書いた絵馬っすか?」
 実は戸村くんもこの人影が千可ちゃんだと気づいてます。戸村くんにもある意味ありがたくない映像のようです。

 6人はそのままDVDを見続けましたが、その後の盛り上がりは欠けたようです。
「あ~、やっぱり最初の映像が強烈だったなあ」
 浜崎さんはテレビを切り、こう言いました。それを聞いた城島さんが、
「部長、またあの神社に行って、取材しましょうよ」
「監視カメラもついたことだし、今から行ってもあまり意味がないんじゃないかな。
 それよりもさあ、私たちも心霊ビデオ、録ってみない?」
「ええ~」
 これにはみんなびっくりです。それに対し浜崎さんはビデオカメラを持ち、そのレンズの先を自分の額に当てました。
「こーやってレンズの先を額に当てて、RECボタンをオン。録画中ずーっと幽霊のことを想像するの。何か映っていたら成功よ」
 そんなわけで、みんなで順番にビデオを録ることにしました。まずは浜崎さん。額にビデオカメラを当て、REC。約2分間。次に福永さん。福永さんの次は城島さん。城島さんは、幽霊、映れ、映れと口にしながら撮影しました。
 その次は千可ちゃん。千可ちゃんは念写は試したことはないのですが、千可ちゃんが念写すれば絶対何か映ります。そんなわけで千可ちゃんはみんなとは逆に、何も映るなと念じながら撮影しました。千可ちゃんの次は森口くん。最後に戸村くんが撮影しました。
 撮影が終わると、ビデオカメラをテレビに接続し、再生。浜崎さんは何も映ってません。福永さんも城島さんも、問題の千可ちゃんも、何も映ってませんでした。森口くんも何も映ってませんでしたが、最後の戸村くんの映像には異常がありました。
 真っ暗な画面。が、何か白いものが見えてきました。どうやら人影らしいのですが、いまいち不鮮明です。しかし、RECを切る寸前、何か声らしき音がありました。浜崎さんはこの映像を見て歓喜してます。
「あ、あなた、すごいじゃない!!」
「ま、まあ…」
 戸村くんはちょっと照れながら返答しました。
「最後に何か声がした。部長、もう1回見てみましょうよ!」
 城島さんのその発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 再び再生。たしかに何か声がしてますが、よくわかりません。
「もう1回再生!」
 浜崎さんは今度は音声をマックスにして再生しました。で、ついにわかりました。戸村死ね。こう言ってたのです。浜崎さんは唖然としました。
「あなた、どこまで恨まれてるの?」
「う~ん」
 戸村くんは顔に似合わず、頭を抱えてしまいました。
 浜崎さんはさっそくビデオからSDカードを抜き出し、それをみんなに見せました。
「みんな、これをほんとうに怖い心霊ビデオの制作委員会に送ってみるよ!」
 福永さんと城島さんの目が輝いてます。
「これは絶対採用されるはず!」
 一方千可ちゃんはそのデータを念写で潰そうと考えましたが、何分念写なんかしたことないもので、それは断念しました。
 このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。

「どこに行ったんだろ?」
 森口くんが何かを捜しながら廊下を小走りで移動してます。と、何かを見つけ、はっとして立ち止まりました。
「いた」
 森口くんが廊下を左に曲がろうとしたとき、千可ちゃんを発見しました。が、さらに曲がったら、そこには戸村くんもいました。千可ちゃんと戸村くんは仲良く話し合ってるようです。
「ああ…」
 森口くんは愕然としました。戸村くんは森口くんに正式に謝罪してます。森口くんはそれを受け入れてます。だから森口くんには何もわだかまりはないはずです。しかし、それでも森口くんにとって戸村くんは恐怖の存在です。その恐怖の存在が自分のお気に入りの女性と仲良くしゃべってるのです。
 森口くんになんとも言えない虚脱感が襲ってきました。そのまま森口くんは後ろに数歩下がり、逆方向に走り出しました。

 ところで千可ちゃんと戸村くんは、何を話し合ってたのでしょうか? ちょっと巻き戻してみましょう。まずは戸村くんの発言。
「あそこに彼女の生き霊がいたんですか?」
「ううん、いなかったよ。どうしてあんな映像が録れたのか、私もわかんない…。強いて言えば、あなたがあの娘の恨みを無意識でキャッチしてたのかも…」
「オレ、あの娘んとこに行って、謝罪してみますよ」
「ううん、それはやめといた方がいいよ。昨日彼女の夢の中に入ったけど、まだ傷が癒えてないみたい。今行ったら、絶対逆効果になるって」
「じゃ、どうしたら…」
 千可ちゃんは微笑みながら答えました。
「私に任しといて」

 ここは千可ちゃんの部屋です。パジャマ姿の千可ちゃんは、床に座り、ベッドを背もたれにしてコンパクトデジタルカメラをいじくってます。と、右手にコンデジを持ち、右手を思いっきり伸ばし、自分を撮影しました。次にコンデジの液晶画面で自分の姿を確認。SDカードを抜き取り、それを自分の掌に載せ、何かをつぶやきます。するとSDカードが淡い光りに包まれました。再びSDカードをコンデジに戻し、液晶画面で確認。と、急に千可ちゃんの顔が明るくなりました。
「あは、できた。なんだ、簡単じゃん。
 でも、ビデオカメラのデータはどうなんだろ…。ま、いっか」
 千可ちゃんはベッドに潜りました。
「おやすみ」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。しばらくすると、千可ちゃんの上に1つの人影が立ちました。幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはニヤッと笑ってます。何か企んでるようです。

 ここは浜崎さんの豪邸、浜崎さんの部屋です。浜崎さんもベッドで深い眠りについてます。そこに幽体離脱した千可ちゃんがふわ~っと現われました。机の上に目をやると、SDカードがあります。例の映像を説明したと思われる便せんもあります。千可ちゃんはSDカードを掌に載せました。すると淡い光りがSDカードを包みました。
「これでよし」
 千可ちゃんはSDカードを元の机の上に戻しました。と,そのとき、千可ちゃんはふと何かを感じました。
「動いた?」
 ここは昨日千可ちゃんが会いに行った女の子の家です。たった今、例の女の子が自転車で走り出したところです。
 この光景を千可ちゃんは目をつぶって見てます。リモートビューです。と、千可ちゃんは目を開けました。
「いったいどこへ行くんだろ?」
 千可ちゃんの姿がふわ~っと消えました。

 ここは真夜中のみみずく神社です。絵馬掛けに向かって例の女の子が駆けてきました。しかし、淡い光りの人影が行く手を遮りました。幽体離脱した千可ちゃんです。
「どいて!」
「また呪いの絵馬を奉納する気なの?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「まあ、関係ないけど…。
 ねぇ、丑の刻参りて知ってる?」
 女の子は黙ってしまいました。
「丑の刻参りしてるところを他人に見られたら、その呪いは丸ごと丑の刻参りをした人に跳ね返ってくるよ。私が見てる前で呪いの絵馬を奉納したら、呪いはすべてあなたに振りかかると思うけど、いいの?。
 おまけに…」
 千可ちゃんはある方向を指さしました。そこには神社の建物があり、その軒下に監視カメラがあります。
「あそこに監視カメラがある。私が見てなくったって、あの監視カメラでたくさんの人が監視してるけど、それでもいいの?」
「くっ…。これは丑の刻参りなんかじゃないわよ!」
「じゃあ、なんでこの時間に絵馬を奉納すんの?」
 女の子はキッとした視線で千可ちゃんを睨みました。そして振り返り、逃げるように駆け出しました。それを見て千可ちゃんはニヤッと笑いました。

 翌日の部室です。千可ちゃんがみんなに紙を1枚ずつ配ってます。福永さん、城島さんがこの紙片を読んでます。と、ここで福永さんがあることに気付きました。
「あれ、森口くんは?」
 そうです。今ここに森口くんの姿がありません。紙を配り終わった千可ちゃんが机に座りながら、
「授業には出てたんですけど…」
 浜崎さんが紙を持って説明し出しました。
「はい、これが昨日書いた心霊映像の説明文です。ふふ、5時間もかけて書いたんだ」
 城島さんが感嘆な声をあげました。
「いいんじゃないですか。これで十分ですよ」
「部長、送る前にもう1回あの映像を見ましょうよう!」
 その福永さんの発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 浜崎さんは未封の封筒からSDカードを取り出し、カバーを取ってビデオカメラに装着。ビデオカメラのスイッチを押しました。が、このビデオカメラと専用コードでつながってるテレビに映像が出ません。データがないと警告が出るだけです。
「あ、あれ…」
 浜崎さんは焦ってます。いや、福永さんも城島さんも焦ってます。千可ちゃんは表向き焦ってる顔してますが、実は吹き出しそうになってるのを我慢してます。
 浜崎さんは今度はSDカードをコンピューターに挿入し、ディスプレイを凝視しました。
「データが1個もないって?…。どうして、どうして?」
 ここで戸村くんが口を開きました。
「あの~、オレの力って、期間限定なのかも…」
 これに福永さんが反応しました。
「んな、バカな!」
「いや、あるかも」
 浜崎さんは真顔でビデオカメラを戸村くんに手渡しました。
「ねぇ、昨日と同じことして」
「えぇ~…」
「ほんとうにあなたの力が期間限定なら、テレビに映像を映して、それを別のカメラで録るから!」
「わかりましたよ」
 戸村くんはちょっとあきれ顔です。が、部長の浜崎さんには逆らえません。仕方がないから、額にビデオカメラのレンズを密着させ、録画を開始しました。約2分後、録画停止。さっそく再生してみましたが、テレビには何も映ってません。浜崎さんはかなり悔しい顔をしてます。
「ん~…。
 もう1回やって!!」
 浜崎さんはまた戸村くんに録画させました。今度は5分。しかし、やはり何も映ってません。
「もう、どうして…。どうしてなのよーっ!!」
 結局このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。

千可ちゃん改6

2014年06月20日 | 千可ちゃん改
 再び病室です。自信をなくしてしまった千可ちゃんがぽつりと言いました。
「あのときお母さんは、私の顔を見るなり、いきなり私を引っぱたいた。私、なんで引っぱたかれたのかわからなかったけど、こんなことがあったんだ…。
 お母さん、私どうしたらいいの?」
「わかんない。私、生き霊を暴走させたことないから。でも、このままだとあなたはずーっと無意識のうちに人を殺し続けることになる。なんとかしないと…」
 千可ちゃんはいろいろと考えました。ちなみに、千可ちゃんは今鎮痛剤を飲んでるので眠気がありましたが、身体に気合を入れ、生き霊が飛び出すのを徹夜で我慢することにしました。

 翌朝担当の医師の先生が来て、千可ちゃんの右頬のガーゼを貼り替えました。
「よーし、午後には退院できそうだな」
「先生、外に出ていいですか?」
「ああ、病院の中だけならいいよ」
「ありがとうございます」
 千可ちゃんはさっそく廊下を歩き始めました。で、森口と書かれた表札の前で立ち止まりました。
「ここだ」
 千可ちゃんはさっそくそのドアを開けました。
「森口くん」
 森口くんはベッドのリクライニング機能を使って上半身を起こし、読書をしてました。
「あ、羽月さん」
「いいかな?」
「も、もちろん」
 千可ちゃんはベッドの脇にあった椅子に座りました。
「私、今日退院できるみたい。森口くんは?」
「それが…、あばら骨が3本折れてて、ちょっとムリみたい。ったく、ひどいことするよ」
「そっか…。
 ねぇ、森口くんは戸村が憎い?」
「も、もちろんだよ!」
「殺したいほど憎いの?」
「え?。でも、あいつ、死んだんでしょ?」
「あは、もし生きていればの話よ」
「そっか…。
 殺すまではなあ…。でも、ぼくに謝んなきゃ、絶対許さないよ!」
 千可ちゃんは明るい顔を森口くんに見せました。
「あは、そっか」
 千可ちゃんは立ち上がりました。
「森口くん、またカラオケ行こっね」
「うん」
 再び千可ちゃんの病室です。ドアが開き、千可ちゃんが現れました。
「ホテルみたいにDon't disturbて札があるといいんだけど…」
 千可ちゃんはピシッとドアを閉めました。そして、ベッドに横たわりました。
「だれも起こさないでね」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。

 ここは別の病院の病室です。戸村の母親が眠らされてます。その手には点滴の針があります。ベッドの脇にはパイプ椅子があり、そこには半透明な戸村の姿があります。その目はかなり厳しく光ってます。実は戸村は、寝ずの番で母親を守ってました。ま、幽霊だから眠る必要はないのですが。
「くそーっ、早く来いよ!。ぶっ潰してやる!」
 と、壁の一角にふわ~っと人影が現われました。
「来た!!」
 その影が千可ちゃんの生き霊となりました。相変わらず目が不気味に光ってます。
「クククク」
 戸村は千可ちゃんに殴りかかりました。
「好きにさせるかーっ!!」
 と、またもや千可ちゃんが白い光りを放ちました。白い光りが戸村に当たる寸前、戸村の姿は消え、次の瞬間、千可ちゃんの真後ろに現われました。
「バカめ、オレだって幽霊なんだよーっ!」
 戸村の両手が千可ちゃんの首に。が、戸村の両手は、なんと素通りしてしまいました。
「へっ!?」
 千可ちゃんが笑いながら振り返りました。
「ケケケケ」
 千可ちゃんがショートレンジで白い光りを発射しました。
「うぎゃーっ!!」
 戸村は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられました。すると壁から手が2本すーっと現われ,戸村の両脇を掴みました。
「な、なんだ!?」
 戸村は2本の手で壁に縛り付けられてしまいました。
「くそーっ!!」
 千可ちゃんはどこからか短刀を取り出しました。そして戸村の母親の上で短刀を大きく振り上げました。
「やめろーっ!!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
 ついに千可ちゃんが短刀を振りおろしました。が、
「やめてっ!」
 千可ちゃんはその声で手を止めました。そして振り返ると、そこにはあらぬことか、もう1人の千可ちゃんがいます。これには戸村もびっくりです。
「な、なんじゃこりゃあ,こりゃあ!?」
 もう1人の千可ちゃんは目も正常だし、右頬にガーゼが貼りつけてあります。そうです。これは千可ちゃんのコントロール下にあるもう1人の千可ちゃんの生き霊、正確には幽体離脱した千可ちゃんです。
「ふぎゃーっ!!」
 目が光る千可ちゃんの生き霊が真実の千可ちゃんの生き霊に刃物を振りかざし、襲いかかりました。が、刃物が刺さる寸前、真実の千可ちゃんはすーっと横に避けました。それを見た戸村は、自転車で襲ってくる千可ちゃんを間一髪で避けた自分を思い浮かべました。
「こ、これはあのときの…」
 真実の千可ちゃんが目が光る千可ちゃんの顔面をストレートパンチで殴りました。
「このーっ!!」
 目が光る千可ちゃんは大きく弾き飛ばされ、壁に激突。と、真実の千可ちゃんは瞬間移動し、目が光る千可ちゃんの胸元を掴み上げました。
「あなたは私!。私なら私のいうことを聞いて!!」
 次の瞬間、目が光る千可ちゃんの身体がぱーっと霧散してしまいました。真実の千可ちゃんの勝利です。
 千可ちゃんは戸村を見ました。戸村はまだ壁に縛り付けられたままです。
「お、おい、これ取ってくれよ!」
「あなた、私に何か言うことあるでしょ?」
「えっ?」
 千可ちゃんは自分の右頬のガーゼを指さしました。
「これ、だれのせいなの?」
「あ…。ごめん」
「あ~、聞こえない」
「ご、ごめんなさい!」
 千可ちゃんはニヤッと笑いました。しかし、まだ許さないようです。
「ねぇ、私って、ブス?」
「ブ、ブスじゃないです」
「ほんと?」
「美人です!。かわいいです!。とってもかわいいです!」
 千可ちゃんは下向きになってクスクスと笑いました。そして右手の人差指と親指をパッチンと鳴らしました。すると、戸村を縛りつけていた手が消滅。戸村の身体はフロアに転がりました。
「うわっ」
 千可ちゃんはしゃがんでその戸村を見ました。
「今度は私が謝る番ね。ねぇ、生き返ろうと思わない?」
「ええっ?」
 千可ちゃんは戸村の右手を握りました。
「飛ぶよ!」
「えっ?」
 千可ちゃんと千可ちゃんに強引に引っ張られた戸村が、ものすごい勢いで飛びました。戸村にはこれはきつかったようです。
「うわーっ!」
 が、すぐに2人は目的地に到着しました。ここは解剖室。真ん中に戸村の死体が乗った台があります。
「オ、オレの死体…」
「よかった。まだ解剖されてなくって。
 さあ、中に入って!」
「ええっ?。だって、心臓が止まってもう12時間以上経ってるんだぞ」
「24時間までならなんとかなるって。さあ、早く!」
「わ,わかった。わかったよ」
 戸村は自分の身体の中に入ることを決意しました。戸村の死体は仰向けですが、戸村の霊もその状態で身体に入りました。次に千可ちゃんは戸村の死体に両手をかざしました。すると両の掌から淡い光りが発生しました。しばらくその光りを浴びてると、戸村のまぶたがふいに動きました。
「う、うう…」
 ついに戸村のまぶたが開きました。
「よかった」
 戸村は千可ちゃんを見ました。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 と、千可ちゃんは大事なことに気づきました。
「あれ、私が見えるの?」
「あ、はい…」
 どうやら蘇った戸村は、幽霊が見える体質になってしまったようです。ちなみに,戸村は一度死んだせいか,彼に憑りついていた悪霊はすべて消えてました。

 さて、千可ちゃんはこのまま自分の身体に戻ったかと言えば、実は別のところに飛んでました。みみずく神社の絵馬掛け。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんは今回の事件の原因のすべてが、この絵馬にあると判断したのです。
 千可ちゃんはその絵馬を右手で持つと、その手を水平に伸ばしました。次の瞬間、絵馬がぱっと燃えました。千可ちゃんはその燃えた絵馬を地面に落とすと、ご満悦な笑みを浮かべました。
「あとはこれを書いた人か…」

 それから数日後、いつもの千可ちゃんの教室です。千可ちゃんは自分の机に座ってのんびりしてます。もう右頬のガーゼはありません。
 急にあたりがざわめきました。突如戸村くんが教室に入ってきたのです。それを見た千可ちゃんは緊張しました。戸村くんが千可ちゃんの前に立ちました。千可ちゃんの目が険しくなってます。と、戸村くんは右手を出しました。千可ちゃんはちょっと拍子抜けになりました。
「ありがと」
 と、戸村くんの一言。
「いいえ、どういたしまして」
 千可ちゃんは戸村くんの右手を握りました。握手、和解です。

 ここはどこなのでしょうか?。ある意味真っ白い、ある意味灰色な、ある意味ドス黒い空間です。その中に1人、女の子がいます。女の子は座ってます。ただ、何に座ってるのかわかりません。見えない何かに座ってます。女の子は泣いてました。
「なんで泣いてるの?」
 女の子がはっとして振り返ると、そこには千可ちゃんがいました。
「あ、あなたは確か、4組の羽月さん」
「はい、羽月です。よくわかりましたねぇ。あまりにも目立たないから、喪女て言われたこともあるんですよ」
 千可ちゃんは女の子の横に座りました。
「あなたが泣いてたから、気になって来ました。高校に行ってないみたいだけど、どうして?」
「怖いから…」
 千可ちゃんはちょっと考え、そして再び質問しました。
「戸村くんがいるから?」
 女の子は何も反応しません。
「私もあいつに殴られたんだ」
「え?」
 千可ちゃんは自分の右頬を触りました。
「ここを殴られた。おかげで顔が2倍に膨れたよ。おまけに、私の顔を踏み潰そうとした。頭に来たから、呪い殺してやったよ」
 女の子はちょっと驚いてます。
「でも、ちょっとやり過ぎたかなあて感じだったから、生き返ってもらった」
「い、生き返らせたの?」
「うん。で、謝ってもらった」
 女の子は言葉を亡くしました。
「ここに戸村くんを連れてきて、謝ってもらおうか?」
「いやっ!!」
 女の子はここで大きな声を出しました。
「ん~、そっか…」
 と言うと、千可ちゃんは立ち上がりました。
「ありがとうね」
 女の子はびっくりしました。
「え?」
「気が向いたらまた来るよ。そんときはよろしくね」
 千可ちゃんは歩き出しました。それを見て、女の子は慌てました。
「ちょ、ちょっと待って!」
 と、千可ちゃんの姿はふっと消えました。女の子はとても残念そうです。