競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん12

2013年08月01日 | 千可ちゃん
 昨日と同じ場所で千可ちゃんと戸村くんが話し合ってます。千可ちゃんはまるまる太ったボストンバッグを戸村くんに渡しました。
「これ、全部書いて」
 戸村くんはそのボストンバッグのチャックを開け、中を見ました。と、なんか不満顔です。
「これ、全部っすか?」
「うん」
 この2人のやりとりを物陰から見ている人影があります。森口くんです。森口くんの表情には、なにか悲愴感があります。
「羽月さんですかぁ、あの映像潰したのは?」
 その戸村くんの質問に千可ちゃんは満面の笑みをたたえ、答えました。
「うん。昨日幽体離脱…」
 と、ここで千可ちゃんは何かを感じ、右手の人差指を自分の唇に重ねました。戸村くんもそれを見て、何かに気付いたようです。
「じゃあね」
「うん」
 2人は別れました。

 下駄箱に向かって千可ちゃんが歩いて来ます。それを物陰から森口くんが待ち構えてます。森口くんは何か言いたいことがあるようです。しかし、いつまで経っても千可ちゃんは来ません。いい加減しびれを切らした森口くんが顔を出そうとしたら、その反対側から声がしました。
「そこで何やってんの?」
 森口くんが慌てて振り返ると、そこに千可ちゃんがいました。
「は、羽月さん?」
「なにか私に言いたいことがあるの?」
 森口くんは黙ってます。
「いいよ。遠慮しないで言って」
「その…。
 なんで羽月さんはあいつと付き合ってんですか!?」
「あいつって、戸村くんのこと?。そりゃあ、同じ部の仲間だもん。森口くんだって、彼とうまくやってたじゃん」
「は、羽月さんはぼくの気持ちがわかってない!。
 ぼくは羽月さんが好きだ!。大好きなんだ!!」
 千可ちゃんは下を向きました。ちょっと笑ってるようです。と、千可ちゃんはいきなり森口くんの目の前に来ました。千可ちゃんの背丈は140cm。森口くんの背丈は160cm。20cm差を埋めるように思いっきり背伸びして、千可ちゃんは森口くんの唇にキスをしました。その瞬間、森口くんはかなりびっくりしたようです。
 千可ちゃんはすぐに唇を離しました。千可ちゃんはちょっと上気してるようです。
「ねぇ、ぎゅっとして」
「えっ?」
「ぎゅっとしてよ」
 森口くんは一瞬ためらいましたが、次の瞬間小さな千可ちゃんの身体を強く抱き締めました。そしてキス。2人の舌が絡み合うのが見えます。しばらくして森口くんが身体を離しました。千可ちゃんはさらに上気してるようです。
「ごめん。今日はこのへんで許して」
「いや、あの、別に…」
 森口くんは自分が思っていた以上の展開になって、かなり戸惑っているようです。
「ねぇ、戸村くんと仲良くやってよ」
「うん」
「ありがと」
 千可ちゃんは下駄箱から靴を取り出しました。
「あ、今の私のファーストキスだからね」
 千可ちゃんは足早に出ていきました。森口くんはまだ茫然としてます。
 今の千可ちゃんの行為は、自分でも思ってもみなかった暴走だったようです。自分でも恥ずかしくなってしまい、それで足早にここを立ち去ったようです。

 その日の夜です。千可ちゃんがベッドに寝てます。しかし、目がらんらんとしてます。千可ちゃんは右手の指で自分の唇に触れました。千可ちゃんは森口くんとのキスが頭から離れないようです。それで眠られないようです。
「あ…」
 千可ちゃんはため息とは違う声を発しました。
 しかし、千可ちゃんは眠らないといけません。千可ちゃんは熟睡しないと幽体離脱できないのです。
 が、千可ちゃんはついに睡眠を諦め、携帯電話を手にしました。戸村くんに電話しようとしたのですが、しかし、番号が思い浮かびません。当たり前です。千可ちゃんは戸村くんの電話番号をまだ知りません。仕方がないから、目を瞑りました。テレパシーです。
「戸村くん、聞こえる?」
「あ、はい」
 なんと戸村くんは千可ちゃんのテレパシーをキャッチし、返してくれました。
「ごめん、今から例のとこに行って欲しいんだけど、いいかなあ」
「こんな真夜中にですかぁ?。まぁ、いいですけど」
「あは、よろしくね」

 例の女の子の家の前です。今夜もまた女の子が自転車で走り出しました。女の子の自転車は街を駆け抜け、山道に入り、そして鳥居の前に停まりました。ここはみみずく神社です。女の子は石段を駆け登り、絵馬掛けが見える場所にきました。
「いない…」
 どうやら千可ちゃんの存在を気にしてたようですが、千可ちゃんはいません。次に女の子は監視カメラを睨みました。で、そこにあった脚立を持ち出し、それを持って監視カメラのところに行き、それに乗って監視カメラに黒い布を被せました。
「これでよし!」
 女の子はどこからか絵馬を取り出し、絵馬掛けに向かいました。女の子は満足な顔を浮かべてます。が、その顔が一瞬で驚きの顔となりました。絵馬掛けに掛かってる絵馬のすべてが同じ文面だったのです。
 ぼくが傷つけた女の子が早くよくなりますように。1年2組戸村。
 それを読んだ女の子がくすくす笑い出しました。その笑い声は次第に大きくなり、最後は腹の底からの大爆笑になりました。
「わかったわよ。わかったって」
 女の子はそのまま帰りました。

 翌日千可ちゃんが通う高校です。まだ朝のホームルームの前のようです。例の女の子が机に座ってます。女の子は友達としゃべってます。その女の子を廊下からそーっと見てる人影があります。千可ちゃんと戸村くんです。
「やっと来たわね」
「羽月さん、彼女の前に何度も幽霊になって出たけど、大丈夫なんですか?」
「ふふ、彼女、口が軽くなさそうだから、きっと大丈夫だって」
「あの~、オレ、どのタイミングで謝ったらいいんですか?…」
「それは自分で決めてよ」

これで小説「千可ちゃん」はお終いです。最後まで読んでくれたみなさん、ありがとうございます。

千可ちゃん11

2013年07月30日 | 千可ちゃん
「どこに行ったんだろ?」
 森口くんが何かを捜しながら廊下を小走りで移動してます。と、何かを見つけ、はっとして立ち止まりました。
「いた」
 森口くんが廊下を左に曲がろうとしたとき、千可ちゃんを発見しました。が、さらに曲がったら、そこには戸村くんもいました。どうやら千可ちゃんと戸村くんは仲良く話合ってるようです。
「ああ…」
 森口くんは愕然としました。戸村くんは森口くんに正式に謝罪してます。森口くんはそれを受け入れてます。だから森口くんには何もわだかまりはないはずです。しかし、それでも森口くんにとって戸村くんは恐怖の存在です。その恐怖の存在が自分のお気に入りの女性と仲良くしゃべってるのです。
 森口くんになんとも言えない虚脱感が襲ってきました。そのまま森口くんは後ろに下がり、逆方向に走り出しました。

 ところで千可ちゃんと戸村くんは、何を話し合ってたのでしょうか? ちょっと巻き戻してみましょう。まずは戸村くんの発言。
「あそこに彼女の生き霊がいたんですか?」
「ううん、いなかったよ。どうしてあんな映像が録れたのか、私もわかんない…。強いて言えば、あなたがあの娘の恨みを無意識でキャッチしてたのかも…」
「オレ、あの娘んとこに行って、謝罪してみますよ」
「ううん、それはやめといた方がいいよ。昨日彼女の夢の中に入ったけど、まだ傷が癒えてないみたい。今行ったら、絶対逆効果になるって」
「じゃ、どうしたら…」
 千可ちゃんは微笑みながら答えました。
「私に任しといて」

 ここは千可ちゃんの部屋です。パジャマ姿の千可ちゃんはベッドを背もたれにして、コンパクトデジタルカメラをいじくってます。と、右手にコンデジを持ち、右手を思いっきり伸ばし、自分を撮影しました。次にコンデジの液晶画面で自分の姿を確認。SDカードを抜き取り、それを自分の掌に載せ、何かを念じます。するとSDカードが淡い光りに包まれました。再びSDカードをコンデジに戻し、液晶画面で確認。と、急に千可ちゃんの顔が明るくなりました。
「あは、できた。なんだ、簡単じゃん。
 でも、ビデオカメラのデータはどうなんだろ…。ま、いっか」
 千可ちゃんはベッドに潜りました。
「おやすみ」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。しばらくすると、千可ちゃんの上に1つの人影が立ちました。幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはニヤッと笑ってます。何か企んでるようです。

 ここは浜崎さんの豪邸、浜崎さんの部屋です。浜崎さんもベッドで深い眠りについてます。そこに幽体離脱した千可ちゃんがふわ~っと現われました。机の上に目をやると、SDカードがありました。例の映像を説明したと思われる便せんもあります。千可ちゃんはSDカードを掌に載せました。すると淡い光りがSDカードを包みました。
「これでよし」
 千可ちゃんはSDカードを元の机の上に戻しました。そのとき、千可ちゃんはふと何かを感じました。
「動いた?」
 ここは昨日千可ちゃんが会いに行った女の子の家です。たった今、例の女の子が自転車で走り出したところです。
 この光景を千可ちゃんは目を瞑って見てます。リモートビューです。と、千可ちゃんは目を開けました。
「いったいどこへ行くんだろ?」
 千可ちゃんの姿がふーっと消えました。

 ここは真夜中のみみずく神社です。絵馬掛けに向かって例の女の子が駆けてきました。しかし、淡い光りの人影が行く手を遮りました。幽体離脱した千可ちゃんです。
「どいて!」
「また呪いの絵馬を奉納する気?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「まあ、関係ないけど…。
 ねぇ、丑の刻参りて知ってる?」
 女の子は黙ってしまいました。
「丑の刻参りしてるところを誰かに見られたら、その呪いは丸ごと丑の刻参りをした人に跳ね返ってくるよ。私が見てる前で呪いの絵馬を奉納したら、呪いはすべてあなたに振りかかると思うけど。おまけに…」
 千可ちゃんはある方向を指さしました。そこには神社の建物があり、その軒下に監視カメラがあります。
「あそこに監視カメラがある。私が見てなくったって、あの監視カメラでたくさんの人が監視してるけど、それでもいいの?」
「くっ…。これは丑の刻参りなんかじゃないわよ!」
「じゃあ、なんでこの時間に絵馬を奉納すんの?」
 女の子はキッとした視線で千可ちゃんを睨みました。そして振り返り、逃げるように駆け出しました。それを見て千可ちゃんはニヤッと笑いました。

 翌日の部室です。千可ちゃんがみんなに紙を1枚ずつ配ってます。福永さん、城島さんがこの紙片を読んでます。と、ここで福永さんがあることに気付きました。
「あれ、森口くんは?」
 そうです。今ここに森口くんの姿がありません。紙を配り終わった千可ちゃんが机に座りながら、
「授業には出てたんですけど…」
 浜崎さんが紙を持って説明し出しました。
「はい、これが昨日書いた心霊映像の説明文です。ふふ、5時間もかけて書いたんだ」
 城島さんが感嘆な声をあげました。
「いいんじゃないですか。これで十分ですよ」
「部長、送る前にもう1回あの映像を見ましょうよう!」
 その福永さんの発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 浜崎さんは未封の封筒からSDカードを取り出し、カバーを取ってビデオカメラに装着。ビデオカメラのスイッチを押しました。が、このビデオカメラと専用コードでつながってるテレビに映像が出ません。データがないと警告が出るだけです。
「あ、あれ…」
 浜崎さんは焦ってます。いや、福永さんも城島さんも焦ってます。千可ちゃんは表向き焦ってる顔してますが、実は吹き出しそうになってるのを我慢してます。
 浜崎さんは今度はSDカードをコンピューターに挿入し、ディスプレイを凝視しました。
「データが1個もないって?…。どうして、どうして?」
 ここで戸村くんが口を開きました。
「あの~、オレの力って、期間限定なのかも…」
 これに福永さんが反応しました。
「んな、バカな!」
「いや、あるかも」
 浜崎さんは真顔でビデオカメラを戸村くんに手渡しました。
「ねぇ、昨日と同じことして」
「えぇ~…」
「ほんとうにあなたの力が期間限定なら、テレビに映像を映して、それを別のカメラで録るから!」
「わかりましたよ」
 戸村くんはちょっとあきれ顔です。が、部長の浜崎さんには逆らえません。仕方がないから、額にビデオカメラのレンズを密着させ、録画を開始しました。約2分後、録画停止。さっそく再生してみましたが、テレビには何も映ってません。浜崎さんはかなり悔しい顔をしてます。
「ん~…。
 もう1回やって!!」
 浜崎さんはまた戸村くんに録画させました。今度は5分。しかし、やはり何も映ってません。
「もう、どうして…。どうしてなのよーっ!!」
 結局このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。

千可ちゃん10

2013年07月29日 | 千可ちゃん
 ここはどこなのでしょうか?。ある意味真っ白い、ある意味灰色な、ある意味ドス黒い空間です。その中に1人、女の子がいます。女の子は座ってます。ただ、何に座ってるのかわかりません。見えない何かに座ってます。女の子は泣いてました。
「なんで泣いてるの?」
 女の子がはっとして振り返ると、そこには千可ちゃんがいました。
「あ、あなたは確か、4組の羽月さん」
「はい、羽月です。よくわかりましたねぇ。あまりにも目立たないから、喪女て言われたこともあるんですよ」
 千可ちゃんは女の子の横に座りました。
「あなたが泣いてたから、気になって来ました。高校に行ってないみたいだけど、どうして?」
「怖いから…」
 千可ちゃんはちょっと考え、そして再び質問しました。
「戸村がいるから?」
 女の子は何も反応しません。
「私もあいつに殴られたんだ」
「え?」
 千可ちゃんは自分の右頬を触りました。
「ここを殴られた。おかげで顔が2倍に膨れたよ。おまけに、私の顔を踏み潰そうとした。頭に来たから、呪い殺してやったよ」
 女の子はちょっと驚いてます。
「でも、ちょっとやり過ぎたかなあて感じだったから、生き返ってもらった」
「い、生き返らせたの?」
「うん。で、謝ってもらった」
 女の子は言葉を亡くしました。
「ここに戸村くんを連れてきて、謝ってもらおうか?」
「いやっ!!」
 女の子はここで初めて大きな声を出しました。
「ん~、そっか…」
 と言うと、千可ちゃんは立ち上がりました。
「ありがとうね」
 女の子はびっくりしました。
「え?」
「気が向いたらまた来るよ。そんときはよろしくね」
 千可ちゃんは歩き出しました。
「ちょ、ちょっと待って!」
 と、千可ちゃんの姿はふっと消えました。女の子はとても残念そうです。

 ここは現実世界。オカルト研究部の部室です。机に座ってる福永さんが、いや~な顔で横を見てます。
「ねぇ、あなた、なんでここにいるの?」
 福永さんの視線の先には戸村くんが座ってます。
「入部届け、出しましたよ」
 その横に座ってる森口くんが苦笑いしてます。福永さんはきっとこう思ってるはずです。
「部長~、なんでこいつの入部、許可したの?」
 と、ドアが開き、浜崎さんが入ってきました。
「あった!、ありましたよーっ!!」
 浜崎さんの手にはDVDのパッケージがあります。
「ほんとうに怖い心霊ビデオ第60巻。発売日にレンタルできたーっ!」
 福永さんと城島さんが目を輝かせました。
「やったーっ!!」
 浜崎さんは得意満面な顔をしました。
「レンタルてことでパッケージは持って来れなかったんだけど、みみずく神社も出てくるみたいよ」
 と、それを聞いた千可ちゃんが、ほんの一瞬嫌な顔をしました。

 再生開始。みみずく神社の話題は最初にありました。
「ここですか。オレのこと死ねって書いた絵馬があった神社は?」
「うん」
 戸村くんの質問に千可ちゃんが返答しました。戸村くんはさらに何か言いたいようでしたが、口ごもりました。
 ビデオの説明だと、最近○○死ねと書かれた絵馬が奉納されてるので、神社が監視カメラを設置したところ、その翌日怪しい人影が映ったとのこと。いよいよそのシーンです。
 絵馬掛け全体を映してる監視カメラの映像。日は高いようです。と、いきなり半透明な人影が現われました。
「うわっ!。いきなり出た!」
 森口くんはびっくりです。
 人影は斜め後ろになってるので顔はわかりません。が、千可ちゃんはだれだかわかってます。そうです。これは幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはあのとき、まさか監視カメラで監視されてるとは思ってもいませんでした。千可ちゃんはまずかったなあと思ってます。
 人影が絵馬掛けに手を伸ばし、1枚の絵馬を手にしました。人影がその手を伸ばすと、絵馬が突然パッと燃え始めました。これを見て一同は唖然としました。
「燃えた…」
「すごい心霊映像だ…」
 映像の中で人影がふっと消えました。引き続き、リプレイ。さらにスローによるリプレイ。これを見て福永さんがふと気付きました。
「あれ?。これ、羽月さん?」
「あは、まさかあ…」
 千可ちゃんは苦笑いでごまかしました。
 浜崎さんは映像を止めました。
「燃やされたのはきっとあの呪いの絵馬ね」
「オレのこと、死ねって書いた絵馬っすか?」
 実は戸村くんもこの人影が千可ちゃんだと気づいてます。戸村くんにもある意味ありがたくない映像のようです。

 6人はそのままDVDを見続けましたが、その後の盛り上がりは欠けたようです。
「あ~、やっぱり最初の映像が強烈だったなあ」
 浜崎さんはテレビを切り、こう言いました。それを聞いた城島さんが、
「部長、またあの神社に行って、取材しましょうよ」
「監視カメラもついたことだし、今から行ってもあまり意味がないんじゃないかな。
 それよりもさあ、私たちも心霊ビデオ、録ってみない?」
「ええ~」
 これにはみんなびっくりです。それに対し浜崎さんはビデオカメラを持ち、そのレンズの先を自分の額に当てました。
「こーやってレンズの先を額に当てて、RECボタンをオン。録画中ずーっと幽霊のことを想像するの。何か映っていたら成功よ」
 そんなわけで、みんなで順番にビデオを録ることにしました。まずは浜崎さん。額にビデオカメラを当て、REC。約2分間。次に福永さん。福永さんの次は城島さん。城島さんは、幽霊、映れ、映れと口にしながら撮影しました。
 その次は千可ちゃん。千可ちゃんは念写は試したことはないのですが、千可ちゃんが念写すれば絶対何か映ります。そんなわけで千可ちゃんはみんなとは逆に、何も映るなと念じながら撮影しました。千可ちゃんの次は森口くん。最後に戸村くんが撮影しました。
 撮影が終わると、ビデオカメラをテレビに接続し、再生。浜崎さんは何も映ってません。福永さんも城島さんも、問題の千可ちゃんも、何も映ってませんでした。森口くんも何も映ってませんでしたが、最後の戸村くんには異常がありました。
 真っ暗な画面。が、何か白いものが見えてきました。どうやら人影らしいのですが、いまいち不鮮明です。しかし、RECを切る寸前、何か声が聞こえました。浜崎さんはこの映像を見て歓喜してます。
「あ、あなた、すごいじゃない!!」
「ま、まあ…」
 戸村くんはちょっと照れながら返答しました。
「最後に何か声がした。部長、もう1回見てみましょうよ!」
 城島さんのその発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 再び再生。たしかに何か声がしてますが、よくわかりません。
「もう1回再生!」
 浜崎さんは今度は音声をマックスにして再生しました。で、ついにわかりました。戸村死ね。こう言ってたのです。浜崎さんは唖然としました。
「あなた、どこまで恨まれてるの?」
「う~ん」
 戸村くんは顔に似合わず、頭を抱えてしまいました。
 浜崎さんはさっそくビデオからSDカードを抜き出し、それをみんなに見せました。
「これをほんとうに怖い心霊ビデオの制作委員会に送ってみるよ!」
 福永さんと城島さんの目が輝いてます。
「これは絶対採用されるはず!」
 一方千可ちゃんはそのデータを念写で潰そうと考えましたが、何分念写なんかしたことないもので、それは断念しました。
 このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。

千可ちゃん9

2013年07月25日 | 千可ちゃん
 ここは別の病院の病室です。戸村の母親が眠らされてます。その手には点滴の針があります。ベッドの脇にはパイプ椅子があり、そこには半透明な戸村の姿があります。その目はかなり厳しく光ってます。実は戸村は、寝ずの番で母親を守ってました。ま、幽霊だから眠る必要はないのですが。
「くそーっ、早く来いよ!。ぶっ潰してやる!」
 と、壁の一角にふわ~っと人影が現われました。
「来た!!」
 その影が千可ちゃんの生き霊となりました。相変わらず目が不気味に光ってます。
「くくくく」
 戸村は千可ちゃんに殴りかかりました。
「好きにさせるかーっ!!」
 と、またもや千可ちゃんが白い光りを放ちました。白い光りが戸村に当たる寸前、戸村の姿は消え、次の瞬間、千可ちゃんの真後ろに現われました。
「バカめ、オレだって幽霊なんだよーっ!」
 戸村の両手が千可ちゃんの首に。が、戸村の両手は、なんと素通りしてしまいました。
「す、素通り!?」
 千可ちゃんが笑いながら振り返りました。
「ケケケケ」
 千可ちゃんが白い光りを発射しました。
「うぎゃーっ!!」
 戸村は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられました。すると壁から手が2本すーっと現われました。その2本の手が戸村の両手首を掴みました。
「な、なんだ!?」
 戸村は2本の手で壁に十字に縛り付けられてしまいました。
「くそーっ!!」
 千可ちゃんはどこからか短刀を取り出しました。そして戸村の母親の上で短刀を大きく振り上げました。
「やめろーっ!!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
 ついに千可ちゃんが短刀を振りおろし始めました。が、
「やめてっ!」
 千可ちゃんはその声で手を止めました。そして振り返ると、そこにはあらぬことか、もう1人の千可ちゃんがいます。これには戸村もびっくりです。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
 もう1人の千可ちゃんは目も正常だし、右頬にガーゼが貼りつけてあります。そうです。これは千可ちゃんのコントロール下にあるもう1人の千可ちゃんの生き霊、正確には幽体離脱した千可ちゃんです。
「ふぎゃーっ!!」
 目が光る千可ちゃんの生き霊が真実の千可ちゃんの生き霊に刃物を振りかざし、襲いかかりました。が、刃物が刺さる寸前、真実の千可ちゃんはすーっと横に避けました。それを見た戸村は、自転車で襲ってくる千可ちゃんを間一髪で避けた自分を思い浮かべました。
「こ、これはあのときの…」
 真実の千可ちゃんが目が光る千可ちゃんの顔面をストレートパンチで殴りました。
「このーっ!!」
 目が光る千可ちゃんは大きく弾き飛ばされ、壁に激突。と、真実の千可ちゃんは瞬間移動し、目が光る千可ちゃんの胸元を掴み上げました。
「あなたは私。私なら私のいうことを聞いて!!」
 次の瞬間、目が光る千可ちゃんの身体がぱーっと霧散してしまいました。真実の千可ちゃんの勝利です。
 千可ちゃんは戸村を見ました。戸村はまだ壁に縛り付けられたままです。
「お、おい、これ取ってくれよ!」
「あなた、私に何か言うことあるでしょ?」
「えっ?」
 千可ちゃんは自分の右頬のガーゼを指さしました。
「これ、だれのせいなの?」
「あ…。ごめん」
「あ~、聞こえない」
「ご、ごめんなさい!」
 千可ちゃんはニヤッと笑いました。しかし、まだ許さないようです。
「ねぇ、私って、ブス?」
「ブ、ブスじゃないです」
「ほんと?」
「美人です!、かわいいです!」
 千可ちゃんは下向きになってクスクスと笑いました。そして右手の人差指と親指をパッチンと鳴らしました。すると、戸村を縛りつけていた手が消滅。戸村の身体はフロアに転がりました。
「うわっ」
 千可ちゃんはしゃがんでその戸村を見ました。
「今度は私が謝る番ね。ねぇ、生き返ろうと思わない?」
「ええっ?」
 千可ちゃんは戸村の右手を握りました。
「飛ぶよ!」
「えっ?」
 千可ちゃんと千可ちゃんに引っ張られた戸村が、ものすごい勢いで飛びました。戸村にはこれはきつかったようです。
「うわーっ!」
 が、すぐに2人は目的地に到着しました。ここは解剖室。真ん中に戸村の死体が乗った台があります。
「オ、オレの死体…」
「よかった。まだ解剖されてなくって。
 さあ、中に入って!」
「ええっ?。だって、心臓が止まってもう12時間以上経ってるんだぞ」
「24時間までならなんとかなるって。さあ、早く!」
「わかった。わかったよ」
 戸村は自分の身体の中に入ることを決意しました。戸村の死体は仰向けですが、戸村の霊もその状態で身体に入りました。次に千可ちゃんは戸村の死体に両手をかざしました。すると両の掌から光りが発生しました。しばらくその光りを浴びてると、戸村のまぶたがふいに動きました。
「う、うう…」
 ついに戸村のまぶたが開きました。
「よかった」
 戸村は千可ちゃんを見ました。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 と、千可ちゃんは大事なことに気づきました。
「あれ、私が見えるの?」
「あ、はい…」
 どうやら蘇った戸村は、幽霊が見える体質になってしまったようです。

 さて、千可ちゃんはこのまま自分の身体に戻ったかと言えば、実は別のところに飛んでました。みみずく神社の絵馬掛け。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんは今回の事件の原因がすべてこの絵馬にあると判断したのです。
 千可ちゃんはその絵馬を右手で持つと、その右手を水平に伸ばしました。次の瞬間、絵馬がぱっと燃えました。千可ちゃんはその燃えた絵馬を地面に落とすと、ご満悦な笑みを浮かべました。

 それから数日後、いつもの千可ちゃんの教室です。千可ちゃんは自分の机に座ってのんびりしてます。もう右頬にはガーゼはありません。
 急にあたりがざわめきました。突如戸村くんが教室に入ってきたのです。それを見た千可ちゃんは緊張しました。戸村くんが千可ちゃんの前に立ちました。千可ちゃんの目が険しくなってます。と、戸村くんは右手を出しました。千可ちゃんはちょっと拍子抜けになりました。
「ありがと」
 と、戸村くんの一言。
「いいえ、どういたしまして」
 千可ちゃんは戸村くんの右手を握りました。握手、和解です。

千可ちゃん8

2013年07月23日 | 千可ちゃん
 ここは霊安室。中央に戸村が寝かされてます。もちろんこれは死体です。今この死体を見下ろしている男がいます。宙に浮いてる戸村です。こっちは幽霊です。
「オ、オレ、死んじまったのかよ…」
 と、ドアが開き、3人が入ってきました。まず入ってきたのは、さっき千可ちゃんの病室にいた2人の刑事さんです。
「奥さん、こちのです」
 この声を発した若い刑事さんに初老の刑事さんが耳元で、
「おい、シングルマザーだぞ」
「あは、そうでしたね」
 続けて女性が入ってきました。この人は戸村の母親です。戸村の母親は戸村の死体の前で佇みました。
「なんでこんなことに?」
「お子さんが自転車に乗ってたアベックを襲ったんですよ」
 戸村の母親はかなり厳しい目で初老の刑事さんの顔を見ました。
「だから、なんでうちの息子は死んだのよ!」
「さあ、皆目見当がつかないところでして…。明日司法解剖するので、それまで待ってほしいんですが…」
 戸村の母親は目を逸らしました。
「くっ!。
 なんか、ちっちゃい娘がいたそうね。そいつが殺したんでしょ!。たくさん賠償金を獲ってやる!」
 それに若い刑事さんがプツンときました。
「奥さん、それはいくらなんでも言い過ぎですよ!!」
 それを抑える初老の刑事さんが小声で、
「おい、やめろ!」
 その一部始終を戸村の幽霊が見てます。
「なんだよ。またこれかよ…。こいつのせいで、オレの人生はむちゃくちゃになっちまったんだ…」
 戸村は次の瞬間、母親の背後に何か得体の知れない影を見つけました。それは少女の霊です。白目の部分が異様に光っており、黒目がまったく見えてません。しかし、戸村にはっきりと記憶されてる少女です。そう、これは千可ちゃんの生き霊です。
「あ、あのときの女?」
 と、いきなり戸村の母親が胸を押さえ、へたり込みました。
「うぅ、心臓が…」
 2人の刑事さんは慌てました。
「お、おい?」
「どうなってるんだ?、親子ともども心臓麻痺か?」
 戸村は千可ちゃんの霊に殴りかかりました。
「くそーっ!、オレのお袋になんてことしやがるんだーっ!!」
 が、突然千可ちゃんの身体から白い光が放たれ、戸村は弾き飛ばされてしまいました。
「うぐぁーっ!!。
 くそーっ!!」
 戸村が立ち上がろうとすると、彼の母親は床に大の字になっており、千可ちゃんが馬乗りになってその首を絞めてます。と、千可ちゃんはあらぬセリフを口にしました。
「死ね!、死ね!、死ねーっ!!」
 母親はまたもや悲鳴を上げました。
「うぎゃ~!!」
 慌てふためく2人の刑事さん。
「おい、救急車だ!、早くしろ!」
 戸村は再び千可ちゃんに殴りかかろうとします。
「このやろーっ!!」
 と、ここで千可ちゃんは突如消えました。
「き、消えた?…」
 もうこの部屋には千可ちゃんの生き霊はいないようです。
「くそーっ、恨むのはオレだけで十分だろ!。なんでお袋まで恨むんだよ!」
 戸村は成仏するまでは、自分の母親を守ることを決意しました。

 ベッドの上で眠っていた千可ちゃんは、ふと目の前に何かの気配を感じ、目を覚ましました。それはお母さんの掌でした。ここは千可ちゃんの病室です。
「お母さん…」
「ごめん、こんな時間になっちゃって…」
「お母さん、私、人を呪い殺しちゃった…」
 と、またもや千可ちゃんの目から涙が溢れ出てきました。
「泣かないで。たぶん私も殺してた。あれは正当防衛よ」
「で、でも…」
「それよりも、千可、あなた、今、生き霊を飛ばしてたわよ」
「ええ?」
「やっぱり自分じゃコントロールできない生き霊だったか…。止めておいて正解だったようね」
 どうやら千可ちゃんのお母さんは、千可ちゃんの生き霊を止めてたようです。
「ど、どこに行ってたか、わかる?」
「さあ、そこまでは…」
 でも、千可ちゃんはどこに行ってたのか、だいたいわかってるようです。
「あなたが生き霊を飛ばすのは2回目だけど、この調子だと1回目も覚えてないようね」
「えっ!?」
「城島さんが拉致られたとき、拉致した男は交通事故で死んだけど、あれ、あなたがやったのよ」
 千可ちゃんの身体に衝撃が走りました。私はすでに1人殺してる。その事実を聞いて千可ちゃんはパニックになりそうです。

 これはあの日の夜のことです。千可ちゃんのお母さんは千可ちゃの異変に気づいて、千可ちゃんの霊的エネルギーを頼りにクルマを走らせてました。と、ついに千可ちゃんがいるマンションを発見しました。お母さんはそのマンションとは反対側の車道の脇にクルマを駐めました。ちょうどマンションのエントランスから男が駆け出てきたところです。男は両ひざの上に手を置き、激しくなった息を整えてます。
「はぁはぁはぁ…。くそーっ、どうしてあんなところに幽霊がいるんだよ!」
「くくく…」
 その笑い声で男はびっくりしました。なんとエントランスの自動ドアの前に半透明の千可ちゃんがいるのです。その両目は異様に光ってます。そう、これは千可ちゃんの生き霊です。男は後ずさりしました。
「くそーっ!!」
 が、すぐにガードレールに行く手を阻まれました。
「くっ!」
 男はガードレールを乗り越えようとしましたが、クラクション。見ると右側から1台のトラックが迫ってきてます。次の瞬間、千可ちゃんの生き霊が男の肩を押しました。
「うわーっ!!」
 この光景をずーっと見てた千可ちゃんのお母さんは、かなりの衝撃を受けました。悪党とはいえ、娘がたった今1人の命を奪ったのです。
 人が集まってきました。お母さんはここにいたらまずいと思い、クルマを発進させました。

 再び病室です。自信をなくしてしまった千可ちゃんがぽつりと言いました。
「あのときお母さんは私の顔を見ると、いきなり私を引っぱたいた。私、なんで引っぱたかれたかわからなかったけど、こんなことがあったんだ…。
 お母さん、私どうしたらいいの?」
「わかんない。私、生き霊を暴走させたことないから。でも、このままだとあなたはずーっと無意識のうちに人を殺し続けることになる。なんとかしないと…」
 千可ちゃんはいろいろと考えました。ちなみに、千可ちゃんは今鎮痛剤を飲んでるので眠気がありましたが、身体に気合を入れ、生き霊が飛び出すのを徹夜で我慢することにしました。

 翌朝担当の医師の先生が来て、千可ちゃんの右頬のガーゼを貼り替えました。
「よーし、午後には退院できそうだな」
「先生、外に出ていいですか?」
「ああ、病院の中だけならいいよ」
「ありがとうございます」
 千可ちゃんはさっそく廊下を歩き始めました。で、森口と書かれた表札の前で立ち止まりました。
「ここだ」
 千可ちゃんはさっそくそのドアを開けました。
「森口くん」
 森口くんはベッドのリクライニング機能を使って読書してました。
「あ、羽月さん」
「いいかな?」
「も、もちろん」
 千可ちゃんはベッドの脇にあった椅子に座りました。
「私、今日退院できるみたい。森口くんは?」
「それが…、あばら骨が3本折れてて、ちょっとムリみたい。ったく、ひどいことするよ」
「そっか…。
 ねぇ、森口くんは戸村が憎い?」
「も、もちろんだよ!」
「殺したいほど憎いの?」
「え?、でも、あいつ、死んだんでしょ?」
「あは、もし生きてたならの話よ」
「そっか…。
 殺すまではなあ…。でも、ぼくに謝んなきゃ、絶対許さないよ!」
 千可ちゃんは明るい顔を森口くんに見せました。
「あは、そっか」
 千可ちゃんは立ち上がりました。
「森口くん、またカラオケ行こっね」
「うん」
 再び千可ちゃんの病室です。ドアが開き、千可ちゃんが現れました。
「ホテルみたいにDon't disturbて札があるといいんだけど…」
 千可ちゃんはピシッとドアを閉めました。そして、ベッドに横たわりました。
「だれも起こさないでね」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。

千可ちゃん7

2013年07月22日 | 千可ちゃん
 その後浜崎さんの豪邸でビデオカメラとスティルカメラをチェックしましたが、幽霊は一切写ってませんでした。ま、千可ちゃんが霊を感じてなかったんだから、写るはずがありません。ただ、あの呪いの絵馬に何かよからぬものを感じてたことは確かなようです。
 幽霊をチェックしてるとき、森口くんが千可ちゃんに話しかけました。
「羽月さん、呪われたくないよね」
「うん。呪いたくもないけど」
「え?」
「人を呪うなんて、人として最低の行為だもん」
 千可ちゃんはたいていの呪いははね退けることができますが、千可ちゃんが呪ったら大変です。でも、千可ちゃんはお母さんの躾が行き届いてるので、今まで人を呪ったことは一度もありませんでした。

 部活はお開きとなりました。福永さん・城島さん・森口くん、そして千可ちゃんが帰るところです。浜崎さんがみんなを送り迎えしてます。
「それじゃあ、みんな!」
「はい!」
 4人がそれぞれ自転車で漕ぎ出しました。最初4人は1つでしたが、途中福永さんが抜け、城島さんが抜け、千可ちゃんと森口さんだけになりました。
 森口くんは何かを気にしてます。
「あの~、羽月さんてキスしたことあります?」
 この森口くんからの質問に千可ちゃんは、
「あるよ」
 その返答に森口くんはびっくりしました。
「幼いときにお母さんとしたよ。でも、ここ10年はしてないかな?」
「あは、そうですか」
 森口くんは安堵の表情を浮かべました。一方千可ちゃんはそんな森口君の企みに気付いてますが、あえて無視することにしました。

 2人の自転車が暗い個所にさしかかりました。と、千可ちゃんの斜め後ろを走ってた森口くんの姿が、悲鳴とともに消えました。
「うぐぁっ!」
 千可ちゃんははっとして急ブレーキ。振り向くと森口くんは倒れており、その前に1人の男が立ってます。
「戸村!?」
 そうです。この男がみみずく神社の絵馬で死ねと書かれていた戸村です。
「えへへ…」
 千可ちゃんは左足を軸にさっとターンすると、自転車を走らせました。
「このーっ!!」
 千可ちゃんは戸村に体当たりする気です。が、戸村は寸前にさっと横に避け、千可ちゃんの顔面に強烈なストレートパンチ。千可ちゃんの身体は無残に吹き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられました。
「ああ…」
 千可ちゃんはなんとか動こうとしますが、身体がまったくいうことをききません。と、その千可ちゃんの前に戸村が立ちはだかりました。
「おい、金出せよ」
「くっ…」
 千可ちゃんは戸村を睨みました。
「なんだよ、その目は!?」
 戸村は右足を思いっきり上げました。千可ちゃんの顔面を踏みつけるつもりです。
「死ぬや、このブスやろーっ!!」
 千可ちゃん、危ない。が、
「やめてーっ!!」
 次の瞬間、戸村の心臓に衝撃が走りました。
「うっ!?」
 戸村は心臓を押さえ、うずくまりました。
「な、なんだ?…」
 千可ちゃんは失神寸前です。その千可ちゃんの目の前に、おぼろげに何かの光景が現れました。絵馬です。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんはその絵馬に書かれた文字を読みました。
「1年2組戸村死ね…」
 と、戸村の胸に再び衝撃が走りました。今度はさらに強烈です。戸村は胸を押さえたまま、逆エビ状態に。
「うぐぁ~!!」
 戸村は口から泡を吹き、そのまま倒れました。一方千可ちゃんも、すでに気を失った状態です。

 先生の処置が終わったようです。千可ちゃんの右頬に大きなガーゼが貼られました。千可ちゃんはベッドに腰かけてます。ここは病室です。
 先生に2人の男が語りかけました。1人は初老で、もう1人は若いようです。実は2人とも少年課の刑事さんです。
「先生、もう話しても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
 初老の刑事さんは、今度は千可ちゃんに語りかけました。
「え~と、羽月千可さんだっけ?」
「はい」
「あ~、何があったか、覚えてる?」
 千可ちゃんは戸村に殴られた瞬間を思い浮かべました。
「あいつが襲ってきた」
「あ~、そこまではわかってるんですよ。問題はそのあと。なんで戸村は死んだのか、わかりますか?」
 その瞬間、千可ちゃんの身体に衝撃が走りました。
「えっ、死んだ!?」
 千可ちゃんは思い出しました。あのとき、薄れる意識の中で千可ちゃんが発した言葉、戸村死ね。そうです。あの瞬間、千可ちゃんは生まれて初めて人を呪ったのです。
 千可ちゃんの目から一筋の涙が流れました。それを見た初老の刑事さんが、
「あ~、羽月さん、大丈夫ですか?」
「す、すみません…、ちょっと1人にさせてください…」
 初老の刑事さんと若い刑事さんが顔を見合わせ、お互い顔を横に振りました。2人はドアを開けました。
「わかりました、羽月さん。明日また来ます」
 ドアが閉まりました。次の瞬間、千可ちゃんの目からどっと涙があふれ出てきました。
「うわーっ!!」
 ついに千可ちゃんが大声で泣き始めてしまいました。たとえ自分を傷つけた悪党とはいえ、呪い殺してしまったことに深い心の傷を追ってしまったようです。

千可ちゃん6

2013年07月20日 | 千可ちゃん
 雨の日でした。千可ちゃんの下校の時間です。人影はまばらです。千可ちゃんは下駄箱から靴を取り出し、履き替え、そして傘立てへ。しかし、千可ちゃんの傘はないようです。
「あれ?」
 と、千可ちゃんが視線を逸らすと、そこに千可ちゃんの傘を持った男の子がいます。森口くんです。
「あ、それ、私の傘!」
「え?」
 森口くんが振り向くと、千可ちゃんが早足で来ました。
「それ、私の傘だよ!」
「ご、ごめん」
 森口くんは傘立てから別の傘を取り出しました。
「ぼくの傘、こっちだった」
 それは朱色の傘でした。千可ちゃんの傘は紺色です。どう間違えたんでしょうか?
「もう、しっかりしてね!」

 次の日も雨でした。千可ちゃんはいつものように帰ろうとしましたが、今日も傘がありません。千可ちゃんは一瞬呆れた顔をしましたが、次の瞬間、ふーっと目を瞑りました。リモートビューイングです。
 小雨の中、千可ちゃんの傘をさして歩く人影が見えます。顔を見たら森口くんでした。
 千可ちゃんは目を開けました。
「あ、まただ…」
 千可ちゃんは傘立てに残る森口さんの傘を持って、駆け出しました。
「も~っ!」

 森口さんが傘をさして下校してると、後ろから声が。
「待って~っ!」
「え?」
 森口くんが振り返ると、千可ちゃんが小雨に濡れながら駆けて来ました。
「もう、なんで私の傘、持ってっちゃうのよ?」
 千可ちゃんは森口くんに傘を差し出しました。
「こっちでしょ、あなたの傘は!」
「あ~、ごめんごめん」
「ぜんぜん色が違うじゃん!」
 森口くんは傘を広げたまま、千可ちゃんに手渡しました。
「もう、間違えないでよ!」
 千可ちゃんが振り向こうとしたら、急に森口くんが語りかけました。
「あ、あの~、羽月さん、カラオケに行こうよ!」
 千可ちゃんはびっくりです。
「ええっ?」
「お詫びのしるしだよ。ぼくがお金出すから」
 千可ちゃんはカラオケに行ったことはありますが、男の子と2人で行ったことはありません。でも、せっかくのお誘いです。千可ちゃんは行くことにしました。

 カラオケハウスの一室。森口くんと千可ちゃんは気持ちよく歌ってます。千可ちゃんは1人で歌いたいようですが、なぜか森口くんはデュエット曲ばかり入れてきます。仕方がないから、千可ちゃんはその時は一緒に歌ってあげました。でも、千可ちゃんはとっても笑顔です。
 1時間が過ぎました。森口くんはもう1時間歌いたいみたいです。でも、千可ちゃんは遠慮することにしました。
「ありがとうね、森口くん」
「うん。
 ねぇ、羽月さん、またカラオケに行こうよ」
「う~ん…、気が向いたら、ね」

 翌日の下校時間、教室の中です。千可ちゃんは城島さんと一緒に歩きだそうとすると、そこに森口くんが来ました。
「あ、あの~、羽月さん…」
「あ~、ごめん、今日は部活だから」
「そ、そうなんだ…」
 森口くんを見る城島さんの頭には、疑問符が浮いてます。と、森口くんがまた訊いてきました。
「ぼく、その部活に出てもいい?」
「う~ん…。ちょっと特殊な部だけど?」
「か、構わないよ!」
「じゃあ、ついてきて」
 千可ちゃんと城島さんは、森口くんを引き連れて歩き始めました。城島さんの質問です。
「あなた、羽月さんの彼?」
「そ、そんなものじゃないですよ」
 と、森口くんはもじもじしながら返答しました。だけど、どっからどう見ても千可ちゃんに恋愛感情大です。もちろん、千可ちゃんもそれに気付いてます。千可ちゃんだって乙女です。恋に憧れてます。でも、森口くんはまだその対象には至ってないようです。

 ここはオカルト研究部の部室です。ふつーの教室の半分くらいの面積です。オカルト研究部だから魔女の大釜とか護符とか置いてあるような気がありますが、そんなものはまったくありません。ただ、大きな書庫があり、そこに怪しい本がたくさん並んでいます。
 ドアが開き、千可ちゃんと城島さんと森口くんが入ってきました。
「こんにちは」
 中には浜崎さんと福永さんがいました。
「こんにちは」
 と、浜崎さんが森口くんに気付きました。
「きみは?」
「森口くんです。入部希望者ですよ」
 あれれ、千可ちゃん、森口くんは入部希望なんて一言も言ってませんよ? でも、
「も、森口です!、よろしくお願いします!」
 成り行きか、森口くんは入部すると宣言してしまいました。しかし、それを聞いて福永さんは大喜びです。
「ほ、ほんと?、歓迎するよ、ありがとう!」
 実は浜崎さんと蓑田さんがケンカしてしまい、それ以来蓑田さんは部室に来てません。もし蓑田さんが正式に退部届けを出したら、オカルト研究部は4人となり、またオカルト研究会に逆戻りです。だからこのタイミングで森口くんが入ってくれると、オカルト研究部はたいへん助かるのです。
 が、森口くんはまだ疑問が1つ残ってるようです。
「あの~、ぼく、男だけど、いいんですか?」
 そう言えばオカルト研究部は全員女子です。が、浜崎さんはこう答えました。
「あは、いいよいいよ、去年は男子が3人いたから、な~んの問題もないよ」
「あ、よかった」
 森口くんはちょっと安堵です。そして、部活動開始。今日は隣の隣の市にあるみみずく神社の話題です。
 この神社、絵馬を奉納すると願いが叶うことで有名なのですが、最近○○死ねと書かれた絵馬が幾度となく奉納されてるようです。しかもその絵馬をカメラで撮影すると、かなりの確率で霊が写るとか。その噂が広がるとみみずく神社の祢宜さんは絵馬を逐一チェックするようになりました。が、それでもたま~に呪いの絵馬が奉納されてるようです。
 オカルト系の雑誌にその絵馬の写真が載ってるのですが、その絵馬の真後ろに女の子の顔があります。まるでそこに生きてる女の子を立たせたような鮮明な心霊写真です。浜崎さんがその写真を提示すると、福永さんと城島さんは興味津津。でも、森口くんはビビりました。
「う、うわっ!」
 浜崎さんと福永さんが心配したようです。
「きみ、大丈夫?」
「この程度でビビっちゃうの?、これより怖い写真は、ここにはいくらでもあるんだよ」
 森口くんは苦笑いしながら、
「だ、大丈夫ですよ。あははは…」
 ちなみに、千可ちゃんはこれを生き霊と判断しました。もちろん、その事実は口にしてません。
 今日は金曜日。明日は土曜日。オカルト研究部は明日これを確かめに行くことにしました。

 翌日浜崎さんの豪邸に福永さんと城島さんと千可ちゃんが自転車で来ました。この時点で朝8時。それから約40分。やっと森口くんが来ました。
「み、みなさん、早いですねぇ」
 浜崎さんは微笑みながら返答しました。
「ふふっ、オカルト研究部じゃあ、約束より1時間早く集まるのがルールなんだ」
 さあ、出発です。ちなみに、森口くんが来るまで、4人は心霊写真本を回し読みしてました。

 浜崎さんの家から最寄りの駅まで約2km、徒歩。そこから電車に乗って3つ目の駅。さらにバスに乗り換え、約20分。ついにみみずく神社に到着です。
 境内に入ると、さっそく絵馬掛けを発見。絵馬がたくさん奉納されてます。さっそく浜崎さんと福永さんが絵馬をチェックし始めました。千可ちゃんがビデオカメラで、城島さんがスティルカメラでそれを撮影してます。ちなみに、千可ちゃんは生き霊や死霊の気配はまったく感じてません。
「あった!」
 ついに浜崎さんが呪いの絵馬を発見しました。1年2組戸村死ね!、と書いてあります。
「これが呪いの絵馬…」
 城島さんがそーっとその絵馬に手を伸ばそうとしましたが、浜崎さんがその手を振り払いました。
「触っちゃだめ、呪われるよ!」
「ええっ!?」
 千可ちゃんが森口くんに話しかけました。
「1年2組の戸村て、あの人のこと?」
「うん、ぼくもそう思った」
 浜崎さんはその会話を聞いて、はっとしました。
「え?、うちの高校の子なの?」
 そうです。戸村とは千可ちゃんが通う高校の生徒なのです。戸村は少し前に事件を起こしてます。授業中、隣の女の子を殴り倒し、顔に軽傷。警察が乗り出し、彼と彼の母親に謝罪文を書かせ、事を穏便に済ませましたが、それ以来戸村は登校してません。ちなみに、殴られた娘は今心療内科に通ってるそうです。この絵馬はその娘か、両親が書いたものなのでしょうか?
 5人はさらに絵馬をチェックしましたが、呪いの絵馬はこれだけでした。5人はみみずく神社をあとにしました。

千可ちゃん5

2013年07月18日 | 千可ちゃん
 ついに男が城島さんのパンツが脱がし、スカートの中から引きずり降ろしました。
「へへへへ。
 ん?」
 男がふと何かを感じ、そして振り向きました。すると、ついてないはずのテレビがついてるのです。しかもそこには、長髪の女の子がどアップで映ってます。そうです、これは千可ちゃんです。でも、ウィッグの長髪が顔を覆っているので、かなり不気味な状態です。
「ひゃあ~…」
 男は腰を抜かしました。なんとテレビ画面から千可ちゃんの指が出ているのです。さらに画面から両手がぬーと出てきました。
「うわ、は…」
 男は腰を抜かしたまま、後ずさりしました。ついには千可ちゃんの前頭部が画面から抜け出てきました。かわいい千可ちゃんは睨んでもあまり怖くはないのですが、このときは長髪の隙間から目が見えてる状態。これは凄味があります。
「うぎゃあ~!!」
 ついに男は駆け出し、そのままドアを開け、部屋を出ていってしまいました。この悲鳴を聞いて城島さんははっと我に帰りました。
「な、何が起きてるの?」
「城島さん…」
 城島さんがその声のした方向を見ると、そこにはテレビから上半身まで身体を出した千可ちゃんがいました。ただし、長髪のウィッグが千可ちゃんの顔を隠してるので、悪霊の襲撃にしか見えません。
「うぎゃあ~!!」
 城島さんは泡を吹いて失神してしまいました。
「ああ、城島さん!!」
 と、千可ちゃんが目の前にある床に手をつきました。しかし、この部屋のテレビはラックの上にあります。千可ちゃんは床に手をついたつもりが、そのまま落下。顔面を真実の床にしたたかに打ちつけてしまいました。ああ、千可ちゃんの両目がなると状態、魂も抜けて行ってしまいました。が、千可ちゃんはすぐに目を開けました。
「そ、そうだ、城島さん!」
 千可ちゃんが城島さんがいるベッドに行くと、城島さんはまだ泡を吹いて失神したままです。千可ちゃんは城島さんの両肩を揺らしました。
「城島さん!」
 が、城島さんは目を開けません。千可ちゃんは足元に落ちてるナイフを拾い、城島さんの両手を縛っているロープを切りました。そしてまた、城島さんの肩を揺さぶりました。
「城島さん!、城島さん!」
 やっと城島さんは目を覚ましてくれました。が、ナイフを握った千可ちゃんを見て、また暴れ出しそうです。
「うぎゃ~!!」
 千可ちゃんは慌ててウィッグを取り、
「私ですよ!、羽月です!」
「は、羽月さん?…」
 と、城島さんの目にうるうると涙があふれてきました。そして、わ~と泣きだしました。千可ちゃんはそんな城島さんを抱き締めました。
「大丈夫です。ちゃんと貞操は守られてますよ!」
 でも、城島さんはしばらくは泣きやむことはありませんでした。

 遠くの方でサイレンが鳴ってます。パトカーと救急車のサイレンのようです。そのサイレンがどんどん近付いてきます。千可ちゃんはカーテンを開け、下界を見ました。ここは10階くらいの位置にありますが、このマンションの下の方にパトカーと救急車と消防車が集まって来てます。あたりはすでに夜です。
 城島さんはベッドに腰掛けてます。なんか、ちょっと震えてます。
「な、何が起きてんの?…」
「わかりません。私たちを助けに来たのかも」
 と、いきなり玄関の呼び鈴が鳴りました。はっとする千可ちゃん。
「だれ!?」
「私よ。開けて!」
 それは千可ちゃんのお母さんの声です。
「お母さん?」
 千可ちゃんは玄関のドアを開けました。そこには千可ちゃんのお母さんが立ってました。お母さんは千可ちゃんの頬を1発、強烈に張りました。ただ、この前みたいな勢いはなく、千可ちゃんの身体は床を転がることはありませんでした。千可ちゃんは張られた頬を押さえ、
「ご、ごめんなさい…」
 お母さんはそんな千可ちゃんを無視して、部屋の中に入りました。お母さんは城島さんの前で腰を降ろし、城島さんと視線の高さを合わせました。
「私は羽月千可の母よ。立てる?」
「はい」
 城島さんは立ちました。

 マンションの前にはたくさんのパトカーが駐まってます。中には救急車と消防車もいます。すべての回転灯が廻ってます。その脇を千可ちゃん、お母さん、城島さんが歩いてます。たくさんのヤジ馬たちの声が聞こえてきます。
「幽霊だーっ!て言って、道に飛び出したんだってさ」
 別方向からおばちゃんの声。
「トラックに轢かれて、五体ともバラバラになってたんだよ。私、今夜、寝れないかも…」
 どうやらあの男は、トラックに轢かれて死んだようです。
 マンションからちょっと離れた100円駐車場に駐めてあるクルマに3人が乗り込みました。これは羽月家のクルマです。喧噪の中、クルマが出発しました。
 クルマは城島さんの家の前で城島さんを降ろしました。城島さんとお母さんとの打ち合わせで、城島さんはこの時間まで千可ちゃんの家にいたことになりました。なお、城島さんが乗ってたときも、降りたあとも、千可ちゃんとお母さんの会話はありませんでした。

 次の次の日、月曜日、城島さんはいつもと変わりなく登校してきました。千可ちゃんはそれを見て笑顔になり、話しかけてきました。
「城島さん、大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫、大丈夫。あんなもん、一晩寝ちゃえば、すぐに忘れちゃうよ」
 城島さんは大丈夫なようです。
「羽月さんはなんともなかったの?」
 千可ちゃんは頭をかきながら、
「それが…、部長さんからもらったウィッグを忘れちゃって…」
「あ~、それは部長には内緒ね」
「はい」
 どうやってあの部屋に入ったの?、なんでテレビから這い出てきたの?、なんて質問がくると思い千可ちゃんはいろんないい言い訳を考えてましたが、その必要はなかったようです。

千可ちゃん4

2013年07月16日 | 千可ちゃん
 2台のタクシーが豪邸の前に停まりました。ここは浜崎さんの家のようです。なんとも立派な家です。千可ちゃんはその豪邸を見て、思わずぽか~んと口を開けてしまいました。
 しかし、浜崎さんはすごい人です。身長は170cmはあるし、美人だし、ウエストは細いけど胸は立派だし、家は大金持ちだし。髪の毛以外は完璧女性です。
 オカルト研究部の5人が豪邸の中にある部屋に入りました。ここは浜崎さんの部屋のようですが、10畳はありそうな広い部屋です。千可ちゃんはまたもやぽか~んとしてます。しかし、福永さん・蓑田さん・城島さんはそんなことには興味がないようです。さっそく部屋の隅にあるテレビにビデオカメラをつなぎました。60インチくらいはありそうな巨大なテレビです。この巨大な画面で幽霊を探すようです。再生開始。
「こ、これ、霊じゃない?」
「ただの染みよ~」
「あ、これは?」
 と、3人は忙しいようです。
 一方浜崎さんは、千可ちゃんにたくさんのウィッグを見せてます。
「これはどうかなあ」
 浜崎さんはウィッグを順番に千可ちゃんに被せてます。そのたびに千可ちゃんは目をらんらんと輝かせてます。しかし、これでは千可ちゃんは着せ替え人形です。ま、千可ちゃんが喜んでるから、いいじゃないですか。
 浜崎さんが一通り千可ちゃんの頭にウィッグを被せたようです。
「どう、羽月さん、どのウィッグがよかった?」
「ええ。え~と…」
 千可ちゃんは黒髪で艶のあるストレートの超ロングヘアのウィッグを選びました。
「これがいいです」
「えっ? それでいいの」
「はい!」
 浜崎さんは個人的にはカールした髪が好きなので、これは意外に感じたようです。浜崎さんは千可ちゃんが選んだストレートのウィッグを千可ちゃんに被せました。
「う~ん、こんなものかな?」
 長身の浜崎さんがこのウィッグを被ると肩甲骨あたりで髪が止まりますが、ミニミニな千可ちゃんが被るとお尻くらいまで伸びてしまいます。でも、ロングヘアに憧れていた千可ちゃんには、夢のアイテムになったようです。

「会長、幽霊いないみたいです」
 この福永さんの発言で浜崎さんの目がようやくテレビの方に向きました。
「もう、私、部長になったんだってば!」
 浜崎さんもテレビの前に座りました。で、早回し、コマ送りと、ビデオカメラを操作しました。
「あ~、やっぱりいないのかなぁ~」
 ここで千可ちゃんが城島さんの横に座りました。いきなり長髪になった千可ちゃんに気付いて、城島さんがびっくりしてます。
 浜崎さん・福永さん・蓑田さんの会話が続いてます。まず、福永さんの発言。
「私この前行ったとき、何かを感じたんだけど、今日は何も感じなかった。やっぱ夜じゃないとダメなのかな…」
 浜崎さんはビデオカメラを床に置きました。
「そんなことはないと思うけど…。もしかしたら、誰かに追っぱられたのかも…」
 ここで突然城島さんが大声で発言しました。
「わかった、羽月さんだ!、羽月さんが追っ払ったんだ!」
「ええ~」
 千可ちゃんはびっくりです。除霊したときと同じ、見事な的中だったからです。しかし、福永さんと蓑田さんは呆れてます。
「城島さん、それはいくらなんでもムリよ!」
 これに千可ちゃん自身が追い打ちをかけました。
「そうですよ。私、あの廃ホテルに行ったのは、今日が初めてなんですよ!」
 と、ちょっと城島さんは反省してるようです。
「そ、そっか…」
 しかし、城島さんも意外と負けん気が強いようです。
「で、でも、羽月さんには霊能力が!」
「だから~、私には霊能力はありませんって!」
「ま、このへんにしておきましょっか」
 と、浜崎さんがうまくこの場をまとめました。しかし、城島さんは内心、まだ納得がいってないようです。
 このままオカルト研究部の会合はお開きとなり、みんなが部屋を離れました。福永さんと蓑田さんと城島さんは、なんとここまで自転車で来てたようです。この3人はそのまま自転車で帰路につきました。千可ちゃんは浜崎さんがタクシーを呼んでくれると言いましたが、遠慮し、バスを乗り継いで帰ることにしました。
 最後に、浜崎さんは千可ちゃんに紙袋を手渡しました。この中にはあのウィッグが入ってます。
「ありがとうございます!」
 と、千可ちゃんは輝いた目でそうあいさつしました。
「いえいえ」
 こうして千可ちゃんも帰路につきました。

 しかし、です。実は帰路につかなかった人が1人いました。城島さんです。城島さんはどうもビデオに悪霊が映ってなかったことに合点がいってないようです。で、あの廃ホテルに自転車を走らせてます。でも、心霊スポットには1人でいかない方がいい場合もあります。待ち受けてるのは幽霊だけとは限りませんからね。
 陽がかなり傾きかけたころ、城島さんが廃ホテルに到着しました。さっそく仮囲いの隙間から侵入。やはり人気はありません。城島さんは玄関の壊れた自動ドアから中に入りました。
 廃ホテルの廊下、ケイタイの動画機能を使いながら歩く城島さんの姿があります。で、撮影が終わると、さっそく再生。それを凝視する城島さん。
「いない…」
 やはり何も映ってないようです。と、その城島さんの背後に人影が?。その人影がいきなり右手を伸ばし、城島さんの口に。城島さんは一瞬抵抗しようとしましたが、すぐに気を失ってしまいました。この右手の持ち主は20歳くらいの男です。右手には何か液体を染み込ませたハンカチを持ってます。何かすごく嫌な予感がします。

「ただいま~」
 千可ちゃんが自宅に帰ってきました。千可ちゃんは急いで自分の部屋に入ると、さっそく紙袋の中からウィッグを取り出しました。艶やかでロングな黒髪のウィッグ。もう千可ちゃんの目は輝いてます。
「憧れのロングヘア…、オカルト研究部に入ってよかった…」
 さっそく千可ちゃんは、そのウィッグを頭に装着しました。そして姿見の前に。右を向いてポーズ。左を向いてポーズ。正面を向いてポーズ。千可ちゃんはとっても上機嫌です。
 しかし、どうもどこか変です。そう、ちょっとずれてるのです。千可ちゃんは一度ウィッグを外し、もう一度装着。でも、まだずれてます。で、もう1回外して、また装着。が、今度はひどく不格好になってしまいました。髪の毛が千可ちゃんの顔に被ってます。
「う~ん…」
 千可ちゃんはちょっと困ってしまいました。浜崎さんにもっとウィッグの付け方を教えてもらえばよかったなあと後悔してます。その瞬間、千可ちゃんの身体に嫌な衝撃が走りました。
「な、なに、この嫌な感覚?」
 千可ちゃんはその嫌な衝撃の正体を知ろうと、ふーっと目を瞑りました。リモートビューイングです。

 ここはちょっと高級なマンションの部屋のようです。ベッドの上に城島さんが寝かされてます。しかし、口はタオルのようなものでふさがれ、両手両足はそれぞれロープでベッドの端に結ばれてます。つまり、大の字状態。城島さんはなんとか逃げようと身をよじってますが、まったく動けません。
 ドアが開き、男が1人入って来ました。廃ホテルで城島さんを拉致った男です。男の手にはナイフがあります。男はそのナイフを城島さんに見せつけました。
「へへへ」
 城島さんは恐怖で顔がひきつってます。
「う…、ううぅ…」
「さあて、いただくとしますか」
 と、男は城島さんのスカートの中に手を入れました。抵抗しようと激しく身体を捻る城島さん。と、口を覆っていたタオルが外れました。
「や、やめてーっ!!」
「うるせーっ!!」
 男は城島さんの顔面を激しく殴りました。これで城島さんは抵抗をやめてしまいました。覚悟を決めてしまったようです
「へへ」
 男は城島さんの両足を縛るロープを2本、ナイフで切りました。
 千可ちゃんはこの光景をリモートビューイングで見てます。
「き、城島さん…。な、なんとかしないと…」
 と言っても、今千可ちゃんにできる手は何もありません。千可ちゃんは両手を合わせ、祈りました。
「神様、お願い、城島さんを助けて!」
 と、千可ちゃんの部屋のテレビがふいにつきました。そこには今城島さんをレイプしようとしている男の姿が映ってます。
「城島さん!?」
 千可ちゃんは反射的に城島さんを助けようと、その画面に触れました。すると指先が画面の中に入ったのです。その瞬間まるで池の中に手を突っ込んだような波紋が画面に広がりました。千可ちゃんは一瞬はっとしましたが、今はためらってる隙はありません。このままテレビの中に突入することにしました。

千可ちゃん3

2013年07月15日 | 千可ちゃん
 翌日は土曜日、千可ちゃんが通う高校はお休みです。千可ちゃんが約束の時間最寄りの駅前に行くと、オカルト研究会の4人がすでに揃ってました。
「み、みなさん、早いですねぇ」
「みんな、こーゆーこと好きだからねぇ」
 と、浜崎会長。
「あ、そうだ」
 と、千可ちゃんが入部届けの用紙を取り出しました。もちろん、千可ちゃんの署名入りです。
「会長さん、これ?」
「えっ?」
「入部届け?」
 オカルト研究会の4人はびっくりです。
「よろしくお願いします」
「あ、ありがとう」
 浜崎さんはその用紙を受け取りました。それを見てた蓑田さんは、
「こ、これでまた部に戻れる…」
 その発言に千可ちゃんはびっくり。
「ええっ?」
「あは、本当のこと言うとね、オカルト研究会はもともと部だったの。でも、4人になって部の最低人員を満たさなくなったから、仕方なく会として活動してたのよ」
 ここまでは浜崎さんの発言。ここからは福永さんの発言。
「会だと学校から活動費が出ないから、部になるとほんと助かるだ」
「あは、そうだったんだ」
 千可ちゃんはちょっと苦笑いです。
 パスが来ました。出発です。

 バスの中、オカルト研究会改めオカルト研究部は、後ろの方に陣取りました。千可ちゃんの後ろに座った浜崎さんは、なんか千可ちゃんの頭髪が気になってます。
「あなた、なんでこんなに髪の毛、短くしてるの?」
「あは、すごいくせっ毛なもので、あまり伸ばせないんですよ」
「へ~、私と一緒だ」
 と、浜崎さんは両手を後頭部に回しました。すると、なんと、美しくカールしたロングヘアが取れてしまったのです。実は浜崎さんは千可ちゃん同様ショートヘアで、ウィッグを使ってました。千可ちゃんは関心しきりです。
「ふぁ~」
「どう、羽月さんも使って見る?」
「い、いいんですか?」
「いいわよ、入部してくれたお礼に、1つ上げるよ」
「あ、ありがとうございます」
 千可ちゃんの目がキラキラ輝いてます。実は千可ちゃんは、ロングヘアに憧れてたのです。もし自分がロングヘアだったら、男の子にモテモテになれると信じてます。ま、もともとちっちゃいんだから、ロングヘアにしてもあまり意味がないと思いますが。

 オカルト研究部の5人がバス停でバスから降りました。そこはちょっとした商店街。千可ちゃんがリモートビューイングで見た場所です。が、リモートビューイングで見た光景は夜でした。と、千可ちゃんは思わず口にしてしまいました。
「今日は昼間なんですね。この前は夜だったのに」
 その一言に蓑田さんが反応しました。
「あれ、なんで夜行ったこと、知ってるの?」
 福永さんも浜崎さんも城島さんも気になってます。千可ちゃんは心の中でやばいと思いつつ、ここはごまかすことに。
「この前話したじゃないですか。夜行ったって」
 浜崎さんはさらに疑問が増したようです。
「誰が夜行ったって言ったの?」
「城島さん」
「え、私?」
 突然の指名に城島さんはびっくり。
「ほら、2日前、城島さんの家で」
 城島さんは千可ちゃんに介抱されてるシーンを思い浮かべました。
「あの時かなあ…」
「あの時ですよ」
 城島さんはまだ疑問に思ってますが、他の4人は納得したようです。でも、城島さんはあのとき「廃ホテルに行った」とは言いましたが、「夜廃ホテルに行った」なんてことは一言も言ってませんよね。

 小さい商店街を過ぎると、5人は右に曲がりました。そこから約1km。ようやく廃ホテルが見えてきました。昼間見ても何か出てきそうな廃ホテルです。
「どう、羽月さん、何か見える?」
 城島さんが千可ちゃんに問いかけてきました。
「だから、私は霊能力者じゃありませんって!」
 城島さんは心底千可ちゃんが霊能力者だと思ってます。が、ここだけの話、他の3人はかなり懐疑的なようです。
 蓑田さんがビデオカメラを取り出しました。
「よーし、今日こそは絶対幽霊を録るぞーっ!」
「ビデオカメラですか?」
 この千可ちゃんの質問に、今度は福永さんが答えました。
「この前ずーっと撮影してたんだけど、なぜか初めの部分しか映ってなかったんだ。ちゃんと録画したはずなのに」
 千可ちゃんはここでピーンとひらめきました。
「今日は私が録りましょう!」
「えっ?」
「こーゆーときは、新人が録るものですよ」
 と、千可ちゃんは蓑田さんからビデオカメラを受け取りました。そして録画方法を蓑田さんから手短に教えてもらいました。
 実はこれは、千可ちゃんの作戦です。昨日千可ちゃんが追っ払った悪霊が戻ってきているかもしれません。千可ちゃんの襲撃を隠れて交わした悪霊がいる可能性もあります。そんなのがビデオカメラに映るとまずいので、幽霊が見える千可ちゃんが悪霊を避けて撮影する気なのです。
 でも、千可ちゃんが見たところ、廃ホテルに悪霊の気配はありませんでした。5人で廃ホテルの中をくまなく歩きましたが、やはり千可ちゃんの目には、ザコ以外の悪霊は映りません。もちろん、千可ちゃんがリモートビューで見た浜崎さんの暴走はありませんでした。
 5人が廃ホテルの玄関前に戻ってきました。
「どう、何か映ってる?」
 と、福永さんが千可ちゃんが持っていたビデオカメラを受け取りました。さっそくビデオカメラに内蔵されてるミニ液晶画面で再生。それを福永さん、浜崎さん、蓑田さん、城島さんが見てます。
「今回はちゃんと録画されてる」
 この発言は福永さん。蓑田さんがそれに答えました。
「きっと何か映ってるはず。大画面のテレビで見れば…」
 ここからがすごかった。バスで来たんだからバスで帰るものと思ってたら、なんと浜崎さんがスマホでタクシーを呼んだのです。しかも2台。前の1台は福永さんと蓑田さんと城島さんが乗り、後の1台は浜崎さんと千可ちゃんが乗りました。
 車中、福永さんたちはずーっと幽霊のことを話してました。が、浜崎さんと千可ちゃんは、なぜかウィッグの話をしてました。浜崎さんと千可ちゃんは話が弾んでるようです。