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引越しいたします。

ウイグル族とウイグル人 杉山正明教授

2005-09-02 23:22:01 | 国際・政治
モンゴル史の研究の権威、NHKのテレビシリーズ「大モンゴル」の監修者でもあり、司馬遼太郎賞も受賞している杉山正明京都大学大学院教授の「遊牧民から見た世界史」という書物がある。
最近まで、野蛮、非文明的といわれてきたモンゴル系、トルコ系などの遊牧民が世界史の中で重要な働きをしてきたと言うこれまでの常識とは違った歴史観で注目されている。
その遊牧民はもともと、国家も国境も越えた存在であったと言う話の中で、中国やウイグルについてまとめられている記述がある。特にウイグル(回鶻)という言葉は高校の世界史の中でも唐の時代の遊牧王国やその後西遷した西ウイグルでしか出現しない。そこで、古代のウイグル=現在のウイグル族であるという正確とはいえない認識が広まっていると言えよう。(尤も相反するはずの中国の公的な歴史記述と、ウイグル独立派の主張でもウイグル族は古代ウイグルの直系としてあつかわれているのだが)
ウイグルを定義する中でわかりやすい説明だと思うので引用しておきます。

テュルク系のウイグルは、8世紀に遊牧連合国家として出現し、13・14世紀にはモンゴル世界帝国の政権に入りこみ、むしろその中枢に位置した独特の歴史存在であった。しかし、モンゴル帝国の解体後は、政治・社会集団としての統合を失った。トゥルファン盆地一帯のウイグル人たちの主力は、西からのムスリムの波に飲み込まれたほか、わずかに明代モンゴルに属する一小集団や、甘粛の涼州における高昌王家の末裔たち、敦煌周辺のテュルク語を話す仏教徒集団、さらにはカザフ高原やイラン方面における遊牧集団名として、かすかな残骸だけが伝わった。要するに、歴史上の存在としてのウイグルは、ほぼ消滅した。
 ところが、現在の中華人民共和国には、新疆ウイグル自治区があり、ウイグルの名で括られる人々がいる。それは、日本を代表するテュルク語歴史文献・中央アジア史研究者の濱田正美が述べるように、1935年、東トルキスタン方面にいるテュルク系の言語を話すさまざまな人々が、小異を超えた大同団結と政治上の主張の為、「民族」の名として政治決議によって採択したのがウイグルであった。もちろん、歴史上の輝かしいウイグルの記憶が、採用の根底にはある。
 現在のウイグルの人々の体内に、かつてのウイグルたちの血がいくらかでも流れていないとは言い切れない。しかし、ほぼ六百年のときをへだてる両者に、直接の系譜関係はもとめがたい。20世紀における「民族自決」の波が、「民族アイデンティティ」としての共通名称を必要させた結果として「ウイグル」の名が突如現れたのである。


「中国台頭」で有名な津上俊哉さんのブログで同じ本についてコメントがありました。シンクロにシティー。


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「遊牧民から見た世界史」私も読みました。 (よしだ)
2005-09-03 04:15:42
「遊牧民から見た世界史」私も読みました。
既存の教科書的歴史をひっくり返す、とても興味深い書でした。
それにしてもソ連や中共の分断政策が見事に奏功し、トルコ系でありイスラムであるにもかかわらず団結できない状態は悲劇です。
イスラム原理主義者を支持するつもりは毛頭ありませんが、イスラムには国民国家とは別の、新たな枠組みをつくる可能性があると思います。
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よしださん、またコメント有難うございます。 (kok)
2005-09-03 22:52:24
よしださん、またコメント有難うございます。
杉山教授は「新シルクロード」でも「草原の道 風の民」で監修者のひとりでしたが、あんまり番組に影響は与えてなかったみたいなのが残念でした。
イスラムの国民国家と別の枠組みですか、うーむ、確かにウンマ意識というものがありますが、イスラム圏を含めて、現在全世界であらたらなる国民国家が勃興しているときなかなか難しいかも。
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はじめまして。 (忍豚)
2005-09-04 17:31:00
はじめまして。
シルクロード好きの友人の紹介でやってきました。
私も歴史(特に中国史)が好きなので、シルクロードにも大いに興味があります。
『遊牧民から見た世界史』は4年前に読みました。
表紙がこちらで掲載されている画像とは違いますが。
「ウイグル」についてですが、同じ遊牧民の研究家である宮脇淳子氏の著作によりますと、シルクロードのオアシス農耕民たちがウイグル(回鶻)に征服されてトルコ化(つまりトルコ語を話すようになる)し、近代になって自分たちを「ウイグル族」と称するようになったそうですね。
ですから遊牧民であったウイグル族とは異なる民族だそうです。
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忍豚さん はじめまして、書き込み有難うございます。 (kok)
2005-09-04 21:18:46
忍豚さん はじめまして、書き込み有難うございます。
宮脇淳子先生の本は私は「最後の遊牧帝国」をながめたことがあります。
ウイグル族と遊牧ウイグル人の問題については現代のウイグル語と古代ウイグル語が同じトルコ系言語でも系統が違うらしく、それゆえ別の「民族」であるといえそうですが、私はトルコ化によってその土地の当時のnativeと遊牧ウイグル人は融合していったと思いますので、直系でないにしてもまったく無関係ではないと思っています。
故山田信夫教授なんかもそんな感じで語ってられます。
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kokさん、ご返事ありがとうございます。 (Unknown)
2005-09-06 17:43:50
kokさん、ご返事ありがとうございます。
宮脇先生の「最後の遊牧帝国 ジュンガル」も読みました。
ちなみに前述のウイグル族については、刀水書房の「モンゴルの歴史」からです。
まあ「民族」というのは文化的なまとまりなので、現在のウイグル族もかつての回鶻の言語や文化を継承しているということで、同じ民族だと言えなくもないでしょうね。
ただし遊牧民か、農耕民かという違いだけは明確なようです。
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どうも。 (kok)
2005-09-06 21:54:57
どうも。
おっしゃるとおりであると思います。新疆地区では東から来た遊牧民が農耕民を征服、支配しその後その征服者の遊牧民が農耕民化していったすると言うパターンは突厥時代から繰り返されてきて近代にいたり、清朝支配下に入ったというところでしょうか。
そこにまたイスラム化の問題が入ってくるのでややこしいところです。

と、知ったかで書きましたが自分のところは間違ったことも多分多く書いてあると思いますので、また査読をよろしくお願い致します、有難うございました。
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