小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

みぎひだりで政治を判断する時代の終わり

2018年12月12日 22時46分33秒 | 思想


12月10日に第197臨時国会が幕を閉じました。
筆者の記憶にある限り、こんなひどい国会は見たことがありません。
言うまでもなく、移民法(出入国管理法改正)水道民営化(水道法改正)の二つを、ろくな審議もないまま成立させてしまったことが、そのひどさの最大の点です。

筆者は、前回の投稿で、安倍政権を売国政権と規定し、その末尾に次のように書きました。
単に移民政策や水道民営化政策だけでなく、安倍政権が採っている経済政策が、みな国民生活を犠牲にしてグローバル資本に奉仕する性格のものであること、まずはこのことに気づく必要があります。
個々の社会問題は、それ一つだけで切り取られるものではなく、ほとんどすべての原因が、一つの間違った政治運営に収斂するものなのだという統合された視野を、ぜひとも回復しなければなりません。

https://38news.jp/economy/12751

この「統合された視野の回復」のためには、何が必要でしょうか。
法律など制度面での改革や政治活動はいろいろ考えられるでしょう。
でも、そうした望ましい改革や活動を実現させるのを阻んでいるものが根底にあります。それは、人が政治世界を把握する時に抱く固定観念です。
その最も顕著でわかりやすいのは、右か左か保守かリベラルかという二分法の枠組みによって、政治の主義や活動スタイルを理解しようとする見方です。
これはフランス革命以来、いまだに全世界共通の見方と言ってよい。
人々は単純な分類を好みますから、この二分法にもとづいて、ある政治家、政党、政権を支持したり、否定したりします。

しかしもはやこうした理解枠組みを捨てなくてはなりません
そういうパラダイムシフトが必要な時代が世界的にやってきたのです。
たとえば、先の米大統領選では、「右」のトランプ氏と「左」のサンダース氏がいずれも移民規制を訴えました。
仏大統領選でも、「極右」のルペン氏と「左」のメランシオン氏が同じく移民規制を訴えました。
ドイツでも、移民規制を訴える「極右」のAfDが大躍進し、移民歓迎を主張した「中道派」のメルケル首相が政権運営の危機に追い込まれました。
イタリアでは「極右」の五つ星運動が政権の一角に食い込みました。
いずれも行き過ぎたグローバリズムが、国民生活を圧迫するものでしかないことに、多くの国民が気付いたからです。
これらの事実は、もはや政治党派を「みぎひだり」という枠組みで理解することが意味をなさないことを表しています。
あえて単純化していえば、これは、一部グローバルエリートと、大多数の貧困化しつつある国民との対立ととらえるのが正しいのです。

しかし日本国民の多くは、こうしたパラダイム変換に気づかず、相変わらず右か左か、保守かリベラルかという固定観念・固定感情で政治党派や政治活動を理解し、判断を下しています。
この固定観念・固定感情が、あたかも国論を左右に二分しているかのような虚像を作り出しているのです(もちろん、原発や憲法や国防など、非妥協的な対立問題は従来通りの「みぎひだり」の形で存在しますが)。

移民法や水道民営化や消費増税など、バリバリのグローバリズム政策が周回遅れで推進されているのに、国民の多くは、それらが自分たちの生活を直接に脅かすものであることも知らず、推進勢力の安倍政権に高い支持票を投じています。
でもこれは、日本特有の、おかしなねじれ現象です。
たとえば今回の移民法成立に伴う国民の反応はどうでしょうか。
これに無条件に賛成する人など、グローバル企業やブラック企業の経営者、および安倍政権絶対信仰者以外、まずいないでしょう。
それ以外で賛成するとすれば、それは人手不足に悩む業界が仕方なくそうしているにすぎません。
そもそも人手不足は、安い給料しか払えないために起きている側面が大きいので(土木建設業、介護分野、医療分野など)、人手不足なのになぜ給料が上がらないのかという問いは、因果関係を逆転させたところに成立する問いです。

もし財務省が緊縮真理教を改めて積極財政に転じ(まず考えられませんが)、企業がそれを受けて生産性向上のために投資し、日本人労働者の賃金が上がれば、わざわざ言葉の通じない外国人労働者などを雇う必要もなくなり、人手不足も解消しますし、内需拡大にも結びつきます。
そうすればデフレから脱却でき、GDPも伸び、財務省の(ばかげた)悲願である「財政健全化」も果たせるでしょう。
野党が問題にしている技能実習生の人権問題もなくなるわけです。
つまり、「みぎひだり」という枠組みにこだわらなければ、移民法などという悪法に反対する人が圧倒的に多いはずなのです。

ところで、11月26日の参議院予算委員会で、社民党の福島瑞穂氏が技能実習生制度を「奴隷制」と呼んだことが物議を醸し、議事録から削除されることになりました。
さてこれを知ったフェイスブックの「保守派」投稿者は、ごく一部の例外を除いて、ほとんどが鬼の首でも取ったように、福島氏をバッシングしたのです。
こんな人物が国会議員でいることを許すのは、日本人の民度が問われているということだ」「ミズホそのものを削除しろ」等々。
シェアも盛んに行なわれ、ちょっとした炎上でした。

でも違うでしょう、一部保守派諸君。
あなた方は、技能実習生の実態についてきちんと調べ、移民法が私たち日本国民にとってどういう意味を持つのかを、じっくり考えてみたことがありますか。
福島氏がサヨクだというレッテルをよりどころにして、感情的にバッシングしているだけなのではありませんか。

技能実習生の実態について一例を上げましょう。

(1)毎日午前8時から午後11時頃まで縫製作業
(2)休日が月1回程度で、土日を含めて連続勤務
(3)賃金は、月額1万5000円から2万7000円
(4)賃金から天引きされていた健康保険料は、納付されておらず無保険
 こうした状態で、約8ヵ月働き、過酷な労働に耐えられなくなり、「失踪」した。
https://diamond.jp/articles/-/187337?page=2

つまり福島氏の言う「奴隷制」は、「中らずと雖も遠からず」で、その実態は、公式発表で失踪者7000人(実際はもっとずっと多いでしょう)、時給300円という有様です。
これは、古代律令制時代の「逃亡・欠落」によく似ています。
これでも一部保守派諸君は、福島氏を非難しますか。
技能実習生制度の拡大再生版である今回の移民法を支持するのですか。
誇り高き一部保守派諸君
あなた方は、時給300円で休みなくこき使われる「移民」を、わが日本社会の底辺に大量に抱えて、日本人として恥ずかしくはないですか

もちろん、野党の移民法反対の論理に問題がないわけではありません。
それは簡単に言えば、移民の側に立って、その人権が保障されないことだけを追及するという論点に見られる視野の狭さです。
移民受け入れを前提とするなら、移民の人権保障も大事な観点ではあります。
しかし、彼ら(野党)は、わが国が欧米のように移民受け入れを拡大することによって、日本国民にどういう被害が及ぶかという論点を持とうとしないのです。
これは、彼らが反日政党だからとレッテルを貼って否定してしまえば簡単です。
しかしむしろ問題なのは、どの野党もが、安倍政権の移民政策の背景にあるグローバリズム経済の大きな弊害について気づいていないか、気づいていないふりをしているという点です。

野党の論理だけで移民受け入れ反対を押し進めていくと、移民の人権が保障されるなら、受け入れること自体はかまわないという話になります
移民を大量に受け入れるとどういうことになるかは、ヨーロッパですでに実証済みです。
賃金低下競争が起こり、日本人の賃金がさらに下がります。
つまり景気がさらに悪化します。
日本人と移民との間の格差が広がり、治安が悪化します(すでに悪化しつつあります)。
言葉が満足に通じない者どうしの間で経済運営に深刻な支障をきたし、文化的な面での摩擦が拡大します。
これを克服するためには、同化政策を取るほかなく、教育のために莫大なエネルギーとコストを覚悟しなくてはなりません。
また、ドイツのように国論が分裂し、日本人としてのアイデンティティが維持できなくなり、民主主義が機能しなくなります(グローバルエリートや新自由主義者が実権を握っている日本では、すでにEUと同じように民主主義が機能していないのですが)。
さらに長期的には、家族帯同までが許されるわけですから、中国人移民を中心として、内乱や権力争奪や革命や征服の危険すら想定されます(今回の立法措置で想定されている特定技能1号は家族帯同が許されませんが、1号は試験にパスすれば家族帯同まで許される特定技能2号に移行することが可能です)。
しかし政府は、これらのことを少しも想定しないまま、今回の法改正を通してしまいました。
野党は、安倍政権の移民政策を批判するなら、こうした論点を提起すべきなのです。
日本国家転覆や国民生活の破壊を意図しているのではなく、もし本当に日本国民のことを考えているとすればの話ですが。

さてこの論考の目的は、もはや「みぎひだり」で政治世界を判断することをやめ、グローバリズム経済こそが、国民生活にとって敵なのだというように、発想の転換を迫ることにありました。
少しでもその目的に近づくためには、次の二つを満たすことが必要です。
(1)一部保守派のように、イデオロギー的・感情的な観点からの左翼たたきをやめ、左翼であっても、ある個別政策の推進や阻止が正しいのであれば、共闘の道を探るべきこと。逆に間違った反対の仕方をしているのなら、その間違いの理由をあくまで理性的に説くこと
(2)野党は、抽象的・原理的な反権力主義から脱却し、政府の政策が国民生活を平和で豊かにするものなら積極的にサポートし、また逆に、国民を貧困や無秩序に追いやるものなら、その背景を徹底的に洗い出したうえで、反対行動に出ること

たとえば2019年10月に予定された消費税10%への増税は、所得税や法人税の減税の穴埋めの意味を持っています。
ですから、一部グローバル企業や富裕層、投資家にとってのみ都合のいいもので、国民経済に壊滅的な打撃を与えることが明白です。
先ごろ内閣官房参与で京都大学大学院教授の藤井聡氏が、保守を標榜しながら、党派を超えて消費増税反対の世論を広げるために、『しんぶん赤旗』のインタビューに応じました。
さすがにそれは、と思った方もいるでしょうが、筆者は氏の政治的決断力と行動力に拍手を送りました
危機に際しては、こうしたプラグマティックな態度、言い換えれば、真の意味での是々非々主義こそが、世の中をより良い方向に動かすのだと思います。

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1 コメント

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【そもそも、みぎひだりで判断する政治など、最初から無かった】 (肱雲)
2018-12-20 15:39:34
後数日もすればクリスマスがやって来る。世界はみぎもひだりも、基督教の教祖様御生誕に祈りを捧げるのだろうが、その前々日には、西日本豪雨災害等の慰問活動等で、在位最期の御勤めに御尽力され、御退位間近の天皇陛下の誕生日が控える。そうした中、日本のみぎもひだりも、世界宗教ネットワークの網の目から逸脱する政治判断は、なかなか下し辛いのが現実でもある。本来、歴史的に政治は宗教から派生したものだ。日本国憲法20条及び89条で「政教分離」原則を謳ってはいるが、それはあの戦争で戦勝国側が天皇制と軍国主義を不可分に捉え、それを自分達への脅威と看做したから両者を切り離そうとした帰結だ。だが欧米諸国では、政教一致の現代政治が展開しているのも現実だ。落ち目の独アンゲラ・メルケル首相の依って立つ政党は、地方選で敗北した連立与党のキリスト教民主同盟(CDU)と云う、列記とした政教一致型となっている。我国にしても、連立与党公明党はどうだろう。宗教団体をバックボーンにして、学会の集票力を頼り選挙には滅法強い完全なる政教一致型政党だ。その集票選挙力を利用する為に、自党単独政権ではなく、偽装的連立を組んでいるだけで、自公ともお互いの個利個略で結託しているのだ。冷戦時代のイデオロギー対立によるみぎひだりだろうが、それが日本国内に持ち込まれた五十五年体制だろうが、概ね対立を装い乍ら、両者の棲み分けを都合良く折り合いを付けて、共存していたに過ぎぬ。従って、もうかなり大昔からみぎひだりで判断する政治なんて、最初から無かったと言った方が間違いない。それでは何を指針として政治判断すれば良いのであろうか。それは、史的システムを踏まえ大局観を念頭に置いた、枝葉末節的変幻事象に惑わされぬ自然法則に見出されるのではないか。ここで言う自然法則とは一体何なのかについては、村田邦夫氏の著書の中で詳細が述べられているので、それを参照されたし。
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