小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

まもなく小説を完成させます

2019年05月02日 08時33分22秒 | 思想


いま、小説を書いています。タイトルは『ざわめきとささやき 2018年ふたりの秋』(仮)。
この連休の間に完成させようと思っています。
小説といっても、一風変わっていて、ふつうの小説のように個人どうしのかかわりの展開がストーリーの中心になっているというよりは(それもあるのですが)、一対の男女のモノローグを交替で進行させながら、そこに、近年の政治・経済・社会問題を織り込んでいくという形を取っています。

中に、LGBT問題をはじめとした、ポリコレブームについて、ふたりの主人公が会話を交わす場面があります。
今回、その部分を取り出してここに転載します。


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それから私たちは、お茶を飲みながらLGBTやセクハラについて話した。
「LGBTが騒がれるのって、権力を倒したいサヨク勢力が、マイノリティをそのための道具として利用している面もあるって前に言ったよね。世界中で、こんなに、サベツ、人権って騒がれるのって、それを受け入れるマジョリティの側の心理にも原因があると思うんだ」
「ポリコレってやつね」
「そう、これこそが政治的に正しい原則だって固執して、あらゆるところにサベツやセクハラの兆候を嗅ぎだしては、レッテル貼りをする傾向」
「わたしも、男の人が女の人に何か言うと、いちいちセクハラ、セクハラって騒ぎ立てるのって、男の人が委縮しちゃって、よくないんじゃないかしらって思ってたの。出会いの機会を奪ってるでしょう」
「流行現象みたいになっちゃってるね。もちろん中には、ほんとにそういうこと言ったりしたりする連中がいることはたしかだけど、一度そういうのがニュースになったりすると、言葉が独り歩きして、どんどん拡散するよね。それで、ポリコレがこんなにブームになるのも、現代人のほとんどが生きるよりどころをなくしているせいじゃないかと思うんだよ」
「生きるよりどころ?」
「うん。たぶん宗教的な権威が衰えたんで、どこかに『正しさ』の絶対的な基準を立てておかないと、生きていくのに不安で仕方がないんじゃないかな。そうしないと、自分の存在の確かさが確認できない。そういう下地があるんで、一部の政治勢力が、ポリコレに少しでも引っかかる言動に対して「差別主義」とか「排外主義」のレッテルを貼って、魔女裁判みたいに糾弾する」
「ああ、なるほど。そのことで、自分は『正しい人だ』って確信が得られるわけね」
「うん、そう。すごく脆弱な確信だけどね。でもそれは裏を返すと、自分たちがリア充の実感を持てないからじゃないか。つまり相手の否定によって、自分がアイデンティティを確保しているかのような気になれる」
「それって、韓国の一部の人たちが何でも反日、反日って騒ぐのと似てるわね」
「ああ、ほんとだね。あの半島には、ずっと大国に挟まれてきたために、もともとそうなってしまう悲しい歴史があるんだよね」
「そういうことを、あの国の人たちってどこまで自覚してるのかしら」
「さあ、あんまり自覚してないから、恨みや被害妄想でいっぱいになっちゃうんじゃないか」
「自分の中身が空虚であることの証拠ね」
「うん。韓国の人がみんなそうだってわけじゃないけどね。話を戻すと、ポリコレブームを作り出したのは欧米人だよね。その深層意識には、自分の存在の基盤が失われていて、『関係の空虚』を生きてるっていう実態があるような気がする。だから、これはポリコレ・コードに引っかかるんじゃないか、こんなことを言ったら『差別主義者』とか『排外主義者』とか『セクハラ』呼ばわりされるんじゃないか、と絶えず恐れていなくちゃならない。しかも、そのことが自覚できないようにさせられているということでもあると思う」
「そこに反権力的な政治団体がつけ込むわけね」
「うん。ただ、ヨーロッパの場合、古くから、宗教対立や他民族の混交の問題があったでしょう。ナチスみたいなこともあったしね。だから、きっとアイデンティティ不安とか、緊張感とかがすごく強い。それで、反権力団体だけじゃなくて、むしろ中枢権力が、そういう正義の建前を率先して掲げてきたんだと思うのね。でもいま、イスラム系移民なんかがどっと押し寄せて、かえってその建前が仇になってるんじゃないかな」
「そうね。日本の場合は、そういう緊張感ってないわね。LGBTと普通の人たちって適当に棲み分けてるし」
「イスラム教じゃ、同性愛は死罪だからね。そういう宗教対立がない日本じゃ、LGBT問題なんてそんなに切実じゃないはずなんだけど、なんか、アチラから<問題>として輸入されると、すぐマネするんだよね」
「でも、いま移民受け入れ拡大の方向に向かってるでしょう。そうすると、東南アジアのイスラム系移民が大量に入ってきたら、そういうことも問題になってくるんじゃないかしら。だって豚肉食べちゃいけないとか、一夫多妻認めてる人たちとの間で摩擦が起きるんじゃない?」
「うん。たしかにこれからはその可能性はあるね。でも日本人はのんきだから、そういうこと、いままで考えてこなかったんだよね」
 それから玲子は、じっと思いを巡らすふうにしてから、ひとりごとのように言った。
「正しさとか、正義って何だろう」
哲学者みたいだ。私も同じようなことを考えていたけれど、この疑問に答えを出すことはすごく難しい。
「文化によってすごく違うからね。Aの正義、Bの正義、Cの正義がぶつかり合ったりまじりあったりした時に、それが問題になるんだよね。リベラルな人たちって、特に学者に多いけど、よく『いろんな価値観があっていい。多様性を受け入れるべきだ』なんていうでしょう。でもそれは、自分がそういうぶつかり合いの場面に立たされてないから、そんな軽薄なきれいごとを言っていられるんだと思う」
「ヨーロッパは、それで失敗したのよね」
「そうだね。やっぱり相手の価値観をただ寛容に受け入れるんでも否定するんでもなくて、それはそれとして認めた上で、でもこっちにはこっちの価値観があるんだから、お互いに侵入しないで棲み分けられるような境界線をうまく引くことが大事なんじゃないかな」
「それって、国を守るってことに関係ある?」
「大いに関係あるね。日本人は西洋のマネばっかしてないで、むしろヨーロッパの失敗を他山の石として学ぶべきなんだ。でも一向にその気配がない」
「困ったわね」
それきりふたりの間では、言葉が続かなかった。

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この会話は、2018年12月4日に行われたものという設定で書かれています。

このあと、12月10日に第197臨時国会が終了し、「改正入国管理法」(移民受け入れ拡大)、「水道法改正」(水道民営化)、「改正漁業法」(漁協解体)が、ろくな審議もないままに、矢継ぎ早に国会を通過しました。
平成の最後に至って、国境と国家主権と国民生活を自ら破壊するグローバリズム・ジャパンが完成したのです。

また、12月27日には、ダグラス・マレーの『西洋の自死』(東洋経済新報社)が発行されています。
ここには、EU諸国の中枢が、人道主義的な理想を実現させようとして、移民受け入れを奨励したために、どんなに惨めな結果を引き起こしたかが、赤裸々に語られています。

新しい令和の御代が始まりましたが、私たちは、平成時代に犯した失敗から何とか脱却しなくてはなりません。
しかし現実には、すでに法制度が敷かれてしまったのですから、この失敗の克服は困難を極めるでしょう。
それでも絶望せず、一歩一歩、克服への道を歩みましょう。

令和の政策ピボット
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