小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

消費増税に関するフェイクニュースを許すな

2018年10月30日 12時56分45秒 | 思想



10月12日掲載のこのブログで、マスコミは消費増税についての賛否を問う大々的な世論調査をやるべきだということを書きました。
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/f4e0818f5dc9b12379e26f30cac3fd2c
2014年、5%から8%に値上げした時には、その半年後に世論調査が行われ、7割の国民が増税に反対と答えています。
同じ時期に政府が有識者を対象に賛否を問うたところ、6割が再増税に賛成したというのです。
いったい一般国民と有識者なるもののこのひどいギャップは何でしょうか。
生活に困っていない「有識者」が、いかに財務省のペテンをそのまま信じているかがわかります。

しかも2018年に入ってから、1年後に控えた10%への値上げ(年内には決定するでしょう)という大問題について、一般国民を対象にした大きな調査が行われた形跡がありません。
代わりに、同年8月、政府が主要企業121社を対象に問うたところ、6割が増税賛成、再延期と凍結はそれぞれ、わずかに3%、2%だったそうです。
欧米並みにもっと引き上げるべきだという意見もありました。
主要企業121社とは、グローバルな大企業に決まっています。
そのぶん、法人税減税が期待できるからです。
また「欧米並み云々」と答えた企業は、アメリカの消費税には事業者負担がなく、ヨーロッパの場合は日用品には消費税がかからないことも知らないか、知らないふりをしているようです(この部分は補足)。
やれやれ。

上記の記事で、以上のようなことを書いたら、次のようなコメントが寄せられました。

今年の9月に世論調査してますよ
https://www.google.co.jp/amp/s/www.sankei.com/politics/amp/180917/plt1809170010-a.html
【問】政府は来年10月に消費税率を8%から10%に引き上げる予定で、安倍首相は増収分の一部を子育て支援や教育無償化の財源に充てる方針だ。消費税に関して考えの近いものは
子育て支援や教育無償化に充てるのなら予定通り引き上げるべきだ29.4
予定通り引き上げるべきだが、財政再建に重点を置くべきだ21.4
予定通り引き上げるべきだが、ほかの施策の財源にすべきだ12.0
引き上げは延期すべきだ13.3
引き上げには反対だ22.5
他1.4

60%以上は引き上げに賛成してますね


筆者はこれに対して、不明にしてこの調査のことは知らなかったとわびた上で、概略、以下のように答えました。

このアンケートは次の理由で信用できません。

(1)そもそも産経新聞のこの調査は、自民党総裁選にちなんでほんのおざなりにつけたしたようなやり方ですから、これでは増税に対する国民の本当の気持ちはわかりません。総裁選では、消費増税が争点とはなっていませんでした。安倍氏は「増税を望む」とあいまいな言い方をし、石破氏は、「増税が必要だ」と言っていただけです。

(2)質問が、端的に消費増税の是非を問うものではなく、「子育て支援や教育無償化に充てるのなら」「財政再建に重点を置くべきだ」「ほかの施策の財源にすべきだ」などの付帯事項を初めから質問内容に含めています。つまり、「このままでは財政破綻の危機がある」という財務省発のインチキ情報を前提に質問が組まれています。誘導尋問的色彩が濃厚です。

(3)ところで、「子育て支援や教育無償化に充てるのなら」という初めの付帯事項は、もともと安倍自民党総裁候補が総裁選に際して公約として打ち出していたものです。安倍政権支持層は、公約の文言に引きずられて、これを選んだのでしょう。これを選んだ人が30%近くいますが、この人たちは条件付きで(この条件自体が増税の意味を正しくとらえていないのですが)、仕方なく選択していると読み取れます。つまりこの人たちは、本音では増税に賛成しているわけではありません。すると、本当に賛成している人の割合は、33%ほどになります。付帯事項無しに「賛成」「どちらかと言えば賛成」「どちらかと言えば反対」「反対」という四択で選ばせたら、この人たちは「どちらかと言えば反対」を選ぶと思います。すると、「引き上げは延期すべきだ13.3 引き上げには反対だ22.5」と合わせて、「反対」が6割を越えます

(4)サンプル数が少なすぎます。たった1000人を対象とした電話調査ですから、回答した人はせいぜい数百人でしょう。私は、あらゆる階層に属する人々を、あらかじめ公平に選び、増税問題だけを選んで、2万人規模の世論調査をやるべきだと主張しているのです。

問題は、行政を常に監視すべきマスコミが、今回の値上げに関して、右から左まで、なんら民意を問う主体的な姿勢を示さず、代わりに、政府がわずか100余りの大企業に対して行った調査結果を得々として掲載し、悪質な世論操作を行っているという事実です。
マスコミは、政府(財務省)と結託して、増税を既定路線として信じ込ませるためのダメ押しを買って出ているわけです。
いまさら言うのも空しいですが、日本のマスコミの姿勢は、ここにきてまさに地に落ちたというべきです。
私たちは、こうした「フェイクニュース」の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)にけっして騙されてはなりません。
まだ増税再延期または凍結の可能性と時間的余地はあります。
日本経済に壊滅的な打撃を与える10%消費増税を阻止すべく、あらゆる言論手段を用いて世論に訴えかけていきましょう。


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拙稿「消費増税の是非を問う世論調査を実行せよ」