小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『五色沼黄緑館藍紫館多重殺人』倉阪鬼一郎

2011年09月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
某県・五色沼のほど近くに唐草模様で彩られた黄緑館・藍紫館という名の面妖な洋館が並んで佇んでいる。
深い霧と降りしきる雪の中、館のお披露目パーティーが開催された。が、招待客はわずか4人。奇妙なムードの中第一の殺人が!!
被害者は「怪物が…」と死の直前に呟く。連鎖し起こる不可能殺人! 衝撃の真相が待つ。
※コピペ


~感想~
毎年9月のお楽しみ、倉阪バカミスが今年も降臨。例年よりも輪をかけてバカです。
作者が倉阪鬼一郎でなければ精神状態が危ぶまれるような、偏執的と言って差し支えない、想像するだに書くのが面倒くさそうな仕掛けが、何重にもわたって組まれておリ、一つや二つ見抜かれてもびくともしない。
さらに今回はメタ的趣向で事細かに仕掛けや伏線、裏に込められた意味まで解説してくれ、それすらもバカ度の上昇に貢献している。
説明すればするほどよりバカになるってどういうことだ。

これほどの労作だけにいつまで続けられるのか心配だが、まずは来年も期待したい。


11.9.20
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午

2011年09月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
頭狂人、044APD、aXe、ザンギャ君、伴道全教授。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で日夜行う推理バトル。出題者は自ら殺人を犯しそのトリックを解いてみろ、とチャット上で挑発を繰り返す。ゲームに勝つため、凄惨な手段で人を殺しまくる奴らの命運はいつ尽きる!?


~感想~
作者曰く「外伝的エピソード」で、たしかに内容的にも分量的にも物足りない。
4つの事件が描かれるが、うち1つはまるでメルカトル鮎の短編のようなトンデモトリックで、さらに1つは……と、ここまで高打率を残してきたシリーズ作品としてはいま一つ、といったところ。
とはいえ開始当初は(それどころか第一作の完結後でさえも)思いもよらなかった展開を見せている密室殺人ゲームが、さらなる広がりを見せているのは良いことである。
本編はもとより、次なる外伝も楽しみ。


11.9.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『無貌伝~綺譚会の惨劇~』望月守宮

2011年09月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
探偵見習いの望は、三探偵の一人・御堂八雲に呼び出され、怪事件について語り合う綺譚会に参加することに。
そこで紡がれる物語は、無数の顔を持つ怪盗・無貌と彼の協力者・魔縁たちにまつわる、恐怖と悲哀の歴史だった。


~感想~
時系列が(作品上での)現代に戻ったシリーズ第四弾。
個人的には「もう全然ミステリじゃなくなっても読む」と宣言したが、今回も連作短編集の形を取りながら、ミステリ要素はやはり薄め。しかし物語としての謎と解決、どんでん返しの妙味は健在で、怪奇小説とも捉えられる雰囲気も抜群。
連作短編集としての仕掛けがちょっと珍しく、個々の短編を伏線として(↓ネタバレ↓)
それぞれの短編で現れたヒトデナシを用いて最後のバトル展開を盛り上げるのが面白い。その手があったか!
完膚なきまでに「つづく」で終わるラスト、これまでのシリーズを読んでいることを前提とした展開と、一見さんはお断りなので、興味を持たれた方はぜひ最初から読んでいただきたい。
次は第三弾で描かれたエピソードゼロの続きに戻るのか、後を引くところでぶった切られた今作の続きになるのか。次回作が待ち遠しい。


11.9.15
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『シートン(探偵)動物記』柳広司

2011年09月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
悪魔と恐れられる巨大な狼との知恵比べの最中、のどを食い破られた死体に遭遇する「カランポーの悪魔」。
カラスの宝物からダイヤを見つけたことで奇想天外な盗難事件に巻き込まれる「銀の星」等、全7編収録。
自然観察者にして『動物記』の作者シートンが、動物たちをめぐって起こるさまざまな難事件に挑む。


~感想~
作者の真骨頂はスパイ小説や戦争小説ではなく、こうした偉人伝の改作にあると思っているのだが、これは内容的には一息といったところ。
というのも主人公のシートンが、これまでの哲人ソクラテスや、神の不在を解き明かしたダーウィンのような奇人・変人と比べればきわめて常識人のため、ちょっとした動物雑学を交えた小ネタ短編集になっているのだ。
しかも他の偉人伝では、多少のトリックの弱さや話の矛盾は、虚実取り混ぜた物語の面白さと、大胆にアレンジした奇人・変人の吃驚な振る舞いで覆い隠していたのだが、元が「動物好きな優しいおじさんの一代記」のため、事件発生と同時にネタが割れてしまうような、トリックの弱さを全くごまかしきれていない。
せめてトリックにもう一捻りがあれば、だいぶ印象は変わっただろう。


11.9.8
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『模倣犯』宮部みゆき

2011年09月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
墨田区・大川公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見された。やがてバッグの持主は、三ヵ月前に失踪した古川鞠子と判明するが、犯人は「右腕は鞠子のものじゃない」という電話をテレビ局に掛けたうえ、鞠子の祖父・有馬義男に接触を図った。そして未曾有の連続誘拐殺人事件の幕が開き……。


~感想~
大・傑・作!
こんな映画化もされた有名作品を今さら称賛するのも間抜けな話だが、今さら読了したのだからしかたない。
様々な立場に置かれた登場人物の視点が入れ替わり立ちかわり、群像劇の様相もていしながら密接に絡み合い、それぞれの物語が意外な展開を見せ、心理描写と比喩表現は豊富にして全てが的確。文庫版で5冊、4000枚の長編だが、たるむ場面は一瞬とてない。
これぞまさに宮部みゆきの集大成にして最高傑作だろう。

などと僕なんぞがつたない感想を連ねるよりも、作者の盟友・大沢在昌の言を引用すれば事足りる。
↓以下は2007年版このミスに掲載されたインタビューより抜粋↓

「こうしたランキングというのは、すでに一位を獲った経験があったり、作家として相当な認知度をもっている人にとっては、ハンディ戦みたいなところがあると思うんですよ。たとえば投票者の間で「今さら宮部みゆきじゃないだろう」という空気があったとしても、それでもやはり「模倣犯」だったら推さざるを得ない、これはもう横綱相撲です」


11.8.9
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『咸陽の闇』丸山天寿

2011年09月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「驪山に首塚、触れてはならぬ。寄ればたちまち首が飛ぶ」不気味な歌が流行る秦の都・咸陽で怪事件が続発。
「首塚に現れた人食い女」「若い娘の連続失踪」「皮だけが残る大量の死体」「人造人間の出現」街を恐怖へと陥れるは化生たちの仕業か?
そして「驪山」に隠された始皇帝の野望とは? 伝説の方士・徐福の弟子たちが、巨大な都の秘密を暴く。


~感想~
いつもながらの達者な筆さばきで描かれるシリーズ第三弾。
今回はこの時代の初心者にも馴染みの深い、始皇帝陵と兵馬俑が舞台となっているので、取っつきやすさはまず合格。
冒頭から化物の登場と死体消失という派手な謎が現れるが、そこから先の流れは少しごちゃついてしまう。
次から次へと奇怪な現象が立ちのぼっては消え、最後には連関してみせるのだが、やはり個々の結びつきが強引で、膝を打たせるところまでは行かない。
しかしいつも通りにクライマックスのチャンバラ活劇は大いに盛り上がり、歴史ファンにはお待ちかねの有名人物までそこに絡んできて、香港映画ならば止め絵でスタッフロールが流れだしそうなラストまで一気呵成の流れで、読後感は満点。
このシリーズがいったいどんな結末を迎えるのか、大いに楽しみである。


11.8.31
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『キョウダイ』嶋戸悠祐

2011年09月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
私は妻と娘に恵まれ、幸せな日々を送っていた。が、妻が持ち出した小学校時代のアルバムが人生を狂わせはじめる。
それは過去を封印していた私にとって存在してはならぬものだった。
当時、私には双子の兄弟がおり、通称餓死町で悲惨な生活を送っていた……。


~感想~
第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。なのになぜ島田荘司御大の選評がない!?

それはともかく、これもホラーと本格ミステリの融合を目指した意欲作である。
全体に立ち込めた厭な雰囲気はなかなか堂に入っていて、冒頭の思わせぶりな展開から、過去へと流れる筆もスムーズ。簡潔な文体もデビュー作にしては達者で、短めの分量とあいまって一息で読み終えられる。
明かされる真相は本格ミステリというか「韓流ドラマ地獄篇」といった趣の鬼畜の所業で、怖いかどうかはともかく、厭~な気持ちになれること請け合い。
数作の構想があるようで、次回作以降も楽しみ。


11.8.19
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『空想探偵と密室メイカー』天祢涼

2011年09月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室に女優の死体。自他殺不明、凶器不明、動機不明。ミステリをこよなく愛し“空想”力を持つ雨崎瑠雫と、彼女に片思いの宇都木勇真は、謎を解くべく行動を開始した。
左遷された刑事、女優の夫、各々の思惑が交錯する中、さらなる事件が……。


~感想~
一筋縄ではいかない意欲的な作品を出し続ける、期待の新人の三作目。早くも新シリーズ。

今回も「空想で名探偵を出現させる」という普通ではない設定をくり出しながら、作者自ら認める通り、それが事件解決に「役に立たない」というのがまず面白い。
なんせ「空想」で出したものだから、出した当人の能力を超えることができず、当人が解決できない限り、せっかくの名探偵も解決に寄与しないし、「空想」している間、能力者の瑠雫は外界との回線が遮断されてしまい、ろくに会話すらできないのだ。本当に役に立たない。
もういっそ単なるキャラ付けと言ってしまっていい能力はおいといて、事件の様相も普通ではない。
これまで批判されてきた、視点人物がころころ変わることから生じるせわしなさは、視点人物をごく少数に絞ったことで改善されたが、それでも全体の印象は、伏線は豊富なのに、それぞれのつながりが緩いため、とっ散らかった印象を受けてしまう。
あまりに混沌とし過ぎていて、事件は明確に解決しているのに、ふわふわとした落ち着かない空気が漂っており、実は裏に別解があるのではと思えてしまうほど。もしかしてそれが狙いなのだろうか。
新シリーズだがシリーズ自体の伏線もだいたいが回収されているため、続編があるのかないのか。今後も目が離せない作者である。


11.8.16
評価:★★☆ 5
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