小金沢ライブラリー

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映画感想―『シャーロック・ホームズ』

2010年08月31日 | 映画感想

~あらすじ~
1891年、ロンドン。
進歩する世界の中心地であり、あらゆる悪がはびこるこの街で、若い女性を狙う連続殺人が起きる。
ホームズとワトソンが正体を暴いた犯人の名は、ブラックウッド卿。
逮捕され死刑を宣告されても、彼は一向に動じない。巨大な闇の力により、死んでも甦れると言うのだ。
邪悪な神秘主義組織の頂点に立つブラックウッド卿は、予言通りに生き返り、全世界を悪で塗りつぶし、支配しようと企てる……。


~感想~
鳥打帽でコートを着込み貴公子然とした紳士……という凝り固まったホームズ像から脱却し、原作でのホームズを正しく再現してみせたがゆえに、かえって誰も見たことのない異色のホームズ像を打ち出した作品。
日本古来の謎の武術バリツをマスターしたホームズなのだから、洞察力を駆使して半裸で地下ボクシングをやるのも原作に照らし合わせればすこしも不思議ではないのだ。
一方、原作の5割増で頼もしい戦う助手ワトソンの造型も新しく、ホームズ&ワトソンでWサブミッション! なんて一歩間違えればギャグになることをやってのけた製作陣は本当にすごい。
アクションに比重を置きながらも、謎やトリックは残らず解いてみせる推理パートもきちんと用意され、ホームズ譚としても見事な結実。
このシリーズはもっともっと観てみたいものだ。


評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『西巷説百物語』京極夏彦

2010年08月30日 | ミステリ感想
~収録作品~
桂男
遺言幽霊水乞幽霊
鍛冶が嬶
夜楽屋
溝出
豆狸
野狐


~感想~
冒頭の「桂男」が傑作で、さすが京極!と快哉を叫んだが、以降はシリーズのお約束を「桂男」で示されたテンプレに当てはめれば真相が透けてしまうのが、贅沢な悩みながらもすこし残念。
とはいえ基本的に一対一の会話形式で、「これで終いの金毘羅さんや」を決め台詞に据えた構成は、先に発刊された『死ねばいいのに』をほうふつとさせ、熟練の語り口で飽きさせることはない。
毎度おなじみボーナストラックとしては書き下ろしの「野狐」にあの人が登場し、サービスも満点。西の巷説百物語をまだまだ読みたいところだが……。


10.8.8
評価:★★★★ 8
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映画感想―『レスラー』

2010年08月29日 | 映画感想

~あらすじ~
栄華を極めた全盛期を過ぎ去り、家族も、金も、名声をも失った元人気プロレスラー"ザ・ラム"ことランディ。
今はどさ回りの興行とスーパーのアルバイトでしのぐ生活だ。ある日心臓発作を起こして医師から引退を勧告された彼は、今の自分には行く場所もなければ頼る人もいないことに気づく。


~感想~
ただのプロレス好きではなく、控え室でのやりとりやネットに流れる無責任な噂の類を楽しむプロレスマニア向けの作品。
なんせ序盤からネクロ・ブッチャー vs ミッキー・ロークのハードコア・マッチという高熱の時に見る悪夢のようなカードが展開されるので、まず日本プロレスだけのファンはここでふるい落とされる。
その後もスーパーマーケットで試合で使う凶器を物色するロークとその対戦相手。控え室での試合内容の打ち合わせでは、脚責めしようとしたら別のカードで脚を責めるから、かぶってしまうので変更するという生々しさ。試合中に仕込んでいたカミソリで額を切るところなど、コアなファン以外を次々と置き去りにしていく。

またかつて頂点をきわめたが、現在は精肉売り場のバイトで生計を立てる主人公と、演じるミッキー・ロークの人生が重なりあい、ロークの自伝的な内容になっているのも見どころ。
イケメン俳優でブイブイ言わせたロークが、50の坂を越え、整形に失敗し容姿は崩れ、表舞台からも外れうらぶれて見る影もなかったのが、この「レスラー」でアカデミー賞候補に上がり、再起を果たしたのだから、事実は小説よりもなんとやらである。
投げっぱなしジャーマンのような結末は、未来を見据えずただ現在の輝きだけを追い求める、自業自得で全てに見捨てられたものの、生き甲斐と死に場所だけは見つけてしまった男の物語の着地としては正解だろう。

WWEバカとしてついでに付記しておくと、劇中でロークと最後に戦うのがアーネスト・ザ・キャット・ミラーだったことに吹いた。
突如スマックダウンの解説に就任し、数ヶ月後「あのザ・キャットがついにリングデビューする」と大プッシュの末にリングに上がったら素人同然のしょっぱさで光の速さで解雇され「じゃあなんであいつが偉そうに解説やってたんだよ」とファンの度肝を抜いたザ・キャットが、よりにもよってアラブ人レスラー役でなぜ出てくるのか。
プロレスは面白いなあ。


評価:★★★ 6
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映画感想―『パラノーマル・アクティビティ』

2010年08月28日 | 映画感想

~あらすじ~
平凡な一軒家で幸せに暮らす若いカップル。しかし毎晩寝付いた後に家の様子がいつもと変わっていることに気づく。
幼い頃から不可思議なことが起こり続けているケイティは、その原因が自分にあるのではないかと感じていた。
彼女の恋人ミカは自分たちの家に起こっている"何か"を突き止めるため、寝静まったあとの寝室をビデオカメラで撮影することに……。


~感想~
キャスト・スタッフあわせて5人、撮影期間はたったの7日、ロケ地は監督の自宅、制作費135万円で興行収入90億円という驚異の省エネホラー作品。
ちなみに制作費のうち4万円はピザ代だそうで、アメリカ人のピザにかける愛情をまざまざと思い知らせてくれる。
というかアメリカのピザはLサイズにドリンクとサラダをつけても1500円くらいと聞いたが、一人頭8000円って7日間で何回ピザ食ってんだお前ら。

ピザの話題はこれくらいとして内容はと言えば、当然ながらアメリカンホラーのため心拍数が上がる場面は一つもない。
しかし日本人とは決定的に異なる、アメリカ人のホラー観を感じさせるモチーフや、低予算なりに工夫を凝らした様々な怪奇現象、もちろん馬鹿な主人公と、見どころはそれなりに多い。
「怖いか怖くないか」で言えば全く怖くないのでホラーとしては失敗かもしれないが、「低予算でいかにホラーを作ったか」というひねくれた目線で見ればすこしは楽しめるだろう。


評価:☆ 1
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ミステリ感想-『續・日本殺人事件』山口雅也

2010年08月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
憧れの日本で、念願の探偵事務所を開業したトウキョー・サム。
記念すべき最初の依頼人は、死霊におびえるリキシ。サムは調査に乗り出したが、事態は予想もしない展開を見せ……。
スモウ・レスラー連続殺人事件「巨人の国のガリヴァー」と、ウンスイの怪死を契機に勃発する極限の論理対決「実在の船」を収録。


~感想~
パラレルワールドでの異様な論理を得意とする作者だが、収録作はどちらも論理を飛ばしすぎてしまい、ついていけない部分が多い。
特に「実在の船」は冒頭からして京極夏彦「鉄鼠の檻」のパロディだが、それにしても公案やその解釈など「鉄鼠の檻」とかぶりすぎで、これでは「鉄鼠」を読めば本作は読まなくてもいいのでは、と思わせる有様。結末にいたっては論理のための論理をこねくり回して読者置いてけぼりで、勝手にやっとれと本を投げ出したくなる。
きっと頭のおよろしい人には面白く読めるんじゃないでしょうか。


10.8.4
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『作者不詳』三津田信三

2010年08月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
奇妙な古書店で手に入れた曰くつきのミステリ同人誌には怪異が宿っていた。
見世物小屋から消えた赤ん坊/高校生らが鏖殺された事件の恐るべき記録ノート/無惨に切断された首が招く無人島の殺戮……。
謎を解かなければ、怪異は終わらない。


~感想~
作中作の短編が、どれも作中作の形式を取らずとも単体で本格短編として通用するどころか、いずれ劣らぬ良作ぞろいで驚かされる。
それに様々な怪異を絡め、ホラー作品としての色も濃く、メタに落ちていく結末こそがっかりだが、本格としてホラーとして見事な融合を見せてくれた。
短編の質が本当に高く、真相を知るや思わずうなること請け合い。手書きを交えた書式や、本の小口に「UNKOWN」と印刷するなど凝った装丁のせいかいっこうに文庫化されず、しかも絶版のため入手はやや困難だが、本格ファンならばぜひ読んでもらいたい。


10.7.29
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『新宿鮫Ⅳ 無間人形』大沢在昌

2010年08月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新宿で流行する新型覚醒剤キャンディの密売ルートを新宿署刑事・鮫島は執拗に追う。
財閥・香川家の兄弟の野望、薬の独占を狙う藤野組・角の策略、麻薬取締官の露骨な妨害、そして、恋人・晶は昇の手に落ち……。
シリーズ第4弾、直木賞受賞作品。


~感想~
ハードボイルドだからってDQNとエロを増やせばいいってものではないと思うが、シリーズ中で最も下品な、しかしスピード感あふれる作品となった。
多くの登場人物や、次々と切り替わる場面を混乱させないのは当然として、わりと意外性のない、予想の範疇を外れない物語ながら、読者を引きつける手腕はさすが。
エンタテインメント性ではシリーズ中でも屈指のもので、受賞に納得のいかないケースが多々ある直木賞にしては、いいタイミングで賞を与えられたと言えるだろう。
シリーズファン、直木賞ファンなら迷わず手に取るべし。


10.7.19
評価:★★★☆ 7
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