小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『沙羅は和子の名を呼ぶ』加納朋子

2002年10月30日 | ミステリ感想
~収録作品~
黒いベールの貴婦人
エンジェル・ムーン
フリージング・サマー
天使の都
海を見に行く日
橘の宿
花盗人
商店街の夜
オレンジの半分
沙羅は和子の名を呼ぶ


~感想~
短編集。
ミステリは皆無。がっかり。
表題作の肝心要の一言を解説で明かしているので注意。
「え、そこで終わっちゃうの? いつもならここからちゃんとした解決を付けてくれるじゃない」と惜しむばかりの、全般的に望まざる作品ぞろい。
いつもの路線を求めてしまうと肩すかし。


02.10.30
評価:★ 2
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ミステリ感想-『月曜日の水玉模様』加納朋子

2002年10月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
月曜日の水玉模様
火曜日の頭痛発熱
水曜日の探偵志願
木曜日の迷子案内
金曜日の目撃証人
土曜日の嫁菜寿司
日曜日の雨天決行


~感想~
連作短編集。
『水曜日の探偵志願』は傑作。
他はどうにも小粒。連作ならではの細工もうーむ。
解説の西澤保彦が酔いすぎていて引いた。まったくこれだから男ってやつぁバカだ。


02.10.28
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『妖女のねむり』泡坂妻夫

2002年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
樋口一葉の遺稿らしき紙片を見つけ、真贋を確かめるべく上諏訪へと向かった柱田真一。
彼の前に現れた謎めいた美女は言う。「わたしたちは結ばれることなく死んだ恋人たちの生まれかわりよ」
真一も彼女に奇妙な既視感を覚えており……。

1983年 文春 10位


~感想~
小技をひとつひとつ、延々と積み重ねていったよう。
要のトリックは……(見当の付いた方だけネタバレ→)どう見ても『ロシア紅茶の謎』と同じですよね?
また、最後のグラビアの伏線には驚いた。



02.10.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『本格ミステリ01』アンソロジー

2002年10月23日 | ミステリ感想
~収録作品~
紅雨荘殺人事件  ――有栖川有栖
鳥居の赤兵衛  ――泡坂妻夫
四角い悪夢  ――太田忠司
子供部屋のアリス  ――加納朋子
邪宗仏  ――北森鴻
人を知らざることを患う  ――鯨統一郎
正太郎と井戸端会議の冒険  ――柴田よしき
エッシャー世界  ――柄刀一
黒の貴婦人  ――西澤保彦
中国蝸牛の謎  ――法月綸太郎
透明人間  ――はやみねかおる
オリエント急行十五時四十分の謎  ――松尾由美
龍の遺跡と黄金の罠  ――三雲岳斗


~感想~
『紅雨荘殺人事件』
終盤すこしごたついた。処理がうまければ、好印象だったろうに。

『鳥居の赤兵衛』
こうして並ぶと筆力が別格。そつなくまとめ上げた職人技巧に感嘆。

『四角い悪夢』
心理が安っぽく、感慨を抱けない。

『子供部屋のアリス』
↑との対比が面白い。

『邪宗仏』
素材の良さを筆力・構成が台無しに。

『人を知らざることを患う』
あいかわらず。氏は大嫌いなのでノーコメントで。

『正太郎と井戸端会議の冒険』
本書中、最も丁寧に編まれた好編。謎の提示から伏線、展開とスムースに流れる。

『エッシャー世界』
古式蒼然たる●●トリックには意表をつかれたが。

『黒の貴婦人』
解決後にページが残っているので逆転を期待していたら……あれれ?
シリーズファン以外にはさっぱり通じないだろう描写も多く、本書に取り上げたことに疑問を感じる。

『中国蝸牛の謎』
どうして(ネタバレ→)「下から上」とわざわざルビを振っているのか意味不明。

『透明人間』
軽妙さと陳腐・安っぽさは紙一重だとしみじみ思う。これは前者。謎も真相もなかなかの結実。

『オリエント急行十五時四十分の謎』
状況が非常に解りづらく、思わず斜め読み。トリックも好きになれない。

『龍の遺跡と黄金の罠』
ファンタジィに予想外の拒絶反応が出てしまった。トリックもこれはちょっと……。


~総括~
毒舌ばかり並んだが、これもミステリを愛するがゆえ。
00年の収穫、シリーズの出発がこのていたらくでは嘆かわしい。


02.10.23
評価:★ 2
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ミステリ感想-『奇術探偵曾我佳城全集』泡坂妻夫

2002年10月20日 | ミステリ感想
~収録作品と感想~
※感想順はハードカバー版のものです

『天井のとらんぷ』
(ネタバレ→)ショートという言葉を張るために流行を設定に組み入れた。実に巧み。

『シンブルの味』
逆転のトリックが見事。

『空中朝顔』
『蔭桔梗』や『比翼』の系列。短いなりに。

『白いハンカチーフ』
これは珍しい。トリックの張り方が奇抜。説得力はやや薄いが。

『ビルチューブ』
これはうまい! 伏線の数が群を抜く。

『消える銃弾』
チェスタトンばりのトリック。

『カップと玉』
トリックがやや言い訳がましいが、結末に味。

『石になった人形』
やや難。

『七羽の銀鳩』
突拍子もない結末に面食らった。

『剣の舞』
愛憎どろどろ。も、結末に救い。

『虚像実像』
これはアンフェアですよね?

『花火と銃声』
この長さに詰め込まれた驚異の重量感。逆転にしてあからさまな真相。傑作。

『ジグザグ』
序盤の軽妙なかけ合いがいい。

『だるまさんがころした』
トリックは味気ないが、物語が光る。

『ミダス王の奇跡』
これは伏線を張るだけのお話。ここから質が明らかにトーンダウンした。

『浮気な鍵』
ただの奇術譚。不満。

『真珠夫人』
対処がいまひとつ意味不明。

『とらんぷの歌』
謎の設定が不明瞭。惜しい。

『百魔術』
トリックが解りやすすぎ。

『おしゃべり鏡』
20年越しの伏線に脱帽。

『魔術城落成』
こんな結末は望んでいなかった。残念。


~総括~
短編集『花火と銃声』所収の7編(『石になった人形』~『だるまさんがころした』)を頂点として、以降の凋落ぶりは明らか。泡坂妻夫の真価はこの程度ではないはず。故に評価は辛くなる。


02.10.20
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『倒錯の帰結』折原一

2002年10月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
日本海の孤島で起こる連続密室殺人事件(『首吊り島』)と都会の片隅で起こる監禁事件(『監禁者』)。
二つの事件に巻き込まれた作家志望の男が遭遇する奇想天外の結末とは?
前からでも後ろからでも読める前代未聞の装幀。

このミス20位、文春2位、本ミス9位


~感想~
倒錯シリーズの掉尾を飾……れない駄作。
「首吊り島」のトリックは前例がないだけで衝撃は薄い。
「監禁者」は『倒錯の死角』をなぞるだけで、自分で自分の二番煎じ。
叙述の背負い投げも腰くだけ。あげくのはてに楽屋オチをされては、もはやどうしようもない。


02.10.18
評価:なし 0
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ミステリ感想-『世界の終わり、あるいは始まり』歌野晶午

2002年10月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
東京近郊で発生した小学生誘拐事件。
父親のもとに身代金の要求が届けられた。要求金額はわずかに200万円。
そんな中、事件が起こった町内に住む男は小学6年生の息子が事件に関わっているのではという疑惑に取りつかれる。
そのとき、父のとった行動とは……? 崩壊と再生を描く、衝撃の問題作。


~感想~
評価の非常に難しい作品。だが、読前・読中と期待が大きかっただけに、僕としては『断罪』といきたい。
(以下ネタバレ→)解決放棄としか言いようのない結末。500ページ付き合わされていまさらながらのパンドラの箱講義。そんなものに感慨はわかない。趣向は解る。しかし僕は容認できない。氏には、この物語を完璧に解決させられる実力があると信じているだけに、裏切られた感は強い。これはただの純文学くずれではないのか?


02.10.16
評価:なし 0
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ミステリ感想-『覘き小平次』京極夏彦

2002年10月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
一日中、押入れ棚に引きこもり、わずかの隙間から世間を覗く、売れない役者・小平次。
妻のお塚は、一向にその不気味な性癖がおさまらぬ亭主に悪態をつく毎日である。
そんな二人のもとへ、小平次の友人で囃子方の安達多九郎が訪ねてくる。
禰宜町の玉川座が、次回の狂言怪談の幽霊役に小平次を抜擢したという。
一座の立女形、玉川歌仙の依頼を受け、奥州へと向かう小平次。しかしその興行の裏には、ある仕掛けが施されていた。

山本周五郎賞
直木賞 候補


~感想~
『嗤う伊右衛門』につづく、怪談原作の作品。
こちらは題材を知らないせいか、前作(?)と比べれば劣る。
(ネタバレ→)なにより又市の介入が余分。作品の均衡を狂わせ、完成度をいちじるしく下げた。
とはいえ、十二分に楽しめる出来。
ことに「覘く」ところは背筋がぞくりときた。


02.10.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ハリウッド・サーティフィケイト』島田荘司

2002年10月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
LAPD重要犯罪課に持ち込まれたテープ。
そこに映っていたのは、ハリウッド女優が自邸で何者かに惨殺される様だった。
LAPDは、彼女の親友レオナ・マツザキに連絡を取り……。


~感想~
これだけの大長編を冗長と感じさせない手腕にはただただあ然。
すべての情景が映像となって脳内で再生され、まるで映画を観ているよう。
(ネタバレ→)なにより驚いたのは末尾の一文。これが……序章!? 島田荘司がついに隠していた爪をむき出しにしたのか!? 次回は「あの人」の出馬も!? いやあ本当に楽しみ。


02.10.12
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『涙流れるままに』島田荘司

2002年10月09日 | ミステリ感想
  


~あらすじ~
吉敷の元妻・加納通子は奇怪な運命に翻弄されてきた自らの半生を振り返っていた。
6才の冬、庭の柿の木の根元に埋めたある忌まわしいもの。
「首なし男」に追われる幻影に悩まされながら、
少女時代に体験した数々の悲劇の真相を探る決心をした通子。そこに明かされる凄絶な過去。
一方吉敷は獄中にいる死刑囚の夫の冤罪を主張する老婦人と出会う。
再審請求のため奔走する吉敷が対面した事件の関係者はなぜか、通子と因縁の深い人々ばかりだった。


~感想~
本書はミステリと呼ぶにはやや据わりの悪い代物である。
だが、圧倒的な筆力と一人の人間がこれだけの物語を紡ぎ出せることに感嘆と驚愕の念を禁じえない。
これこそはまさに氏の集大成にして金字塔。島田文学の最高峰ここに在り!!
(以下ネタバレ→)そうだ! やはり物語は大団円のハッピーエンドが最高だ! これが笠井潔や若手作家なら、井戸さらいの直後にでも恩田氏は亡くなり、吉敷は職を追われていたことだろう。おとぎ話でも構わないと、島田荘司は期待を裏切らない。こうでなくては! 本作中なにより驚かされるのは、読了後余韻に浸る中気づく、犯人がまったく指摘されていないという事実。前代未聞(某メタ作家は除く)、犯人のいないミステリ。……って気づかなかったのは僕だけ?


02.10.9~10
評価:★★★★★ 10
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