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ミステリ感想-『空想探偵と密室メイカー』天祢涼

2011年09月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
密室に女優の死体。自他殺不明、凶器不明、動機不明。ミステリをこよなく愛し“空想”力を持つ雨崎瑠雫と、彼女に片思いの宇都木勇真は、謎を解くべく行動を開始した。
左遷された刑事、女優の夫、各々の思惑が交錯する中、さらなる事件が……。


~感想~
一筋縄ではいかない意欲的な作品を出し続ける、期待の新人の三作目。早くも新シリーズ。

今回も「空想で名探偵を出現させる」という普通ではない設定をくり出しながら、作者自ら認める通り、それが事件解決に「役に立たない」というのがまず面白い。
なんせ「空想」で出したものだから、出した当人の能力を超えることができず、当人が解決できない限り、せっかくの名探偵も解決に寄与しないし、「空想」している間、能力者の瑠雫は外界との回線が遮断されてしまい、ろくに会話すらできないのだ。本当に役に立たない。
もういっそ単なるキャラ付けと言ってしまっていい能力はおいといて、事件の様相も普通ではない。
これまで批判されてきた、視点人物がころころ変わることから生じるせわしなさは、視点人物をごく少数に絞ったことで改善されたが、それでも全体の印象は、伏線は豊富なのに、それぞれのつながりが緩いため、とっ散らかった印象を受けてしまう。
あまりに混沌とし過ぎていて、事件は明確に解決しているのに、ふわふわとした落ち着かない空気が漂っており、実は裏に別解があるのではと思えてしまうほど。もしかしてそれが狙いなのだろうか。
新シリーズだがシリーズ自体の伏線もだいたいが回収されているため、続編があるのかないのか。今後も目が離せない作者である。


11.8.16
評価:★★☆ 5

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