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小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『世界でいちばん透きとおった物語2』杉井光

2025年03月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
前作の出版後、デビュー第2作の執筆に苦戦する藤阪燈真。
コンビ作家の片割れが亡くなり未完となった作品に興味を持ち、推理力に優れた編集者の深町霧子とともに描かれなかった真相を探る。


~感想~
まず本作は「2」をうたっているが、前作のアレは全くないのでご注意を。

未完の作品の真相を探る趣向は我孫子武丸「探偵映画」、米澤穂信「愚者のエンドロール」など先行作品がいくつもあるが、それらと比較しても決して見劣りはしていない。
それどころか裏に潜む事情とあいまって説得力ある、優れた真相が提示され出来はかなり良い。
しかしなまじ出来が良いだけにこれを2と銘打ったことに詐欺とまでは言わないがちょっとモラルやプライドが無いなと思う。
だってこれがまかり通るなら宿野かほるは2作目を「ルビンの壺が割れた2」と名乗って許されたし、もうちょっと売れたはずではないか。
「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」や「五色沼黄緑館藍紫館多重殺人」や「八王子七色面妖館密室不可能殺人」はきちんと「四神金赤館銀青館不可能殺人」に連なる作品だったわけで、2を名乗るならやってよいことと悪いことはあるはずで、それこそ「売らんかな」が透きとおって見えた続編である。

なお続編でなければ7点でも良かったが気に食わないので2点マイナスして5点とさせていただく。


25.3.6
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『倒立する塔の殺人』皆川博子

2025年03月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
太平洋戦争末期。勉学に勤しむことも叶わず空襲の合間を縫って奉仕活動を続ける学生の阿部欣子は、級友からリレー小説「倒立する塔の殺人」を渡される。
作者の一人が不可解な死を遂げた理由がその中にあるはずだと言われ…。

2008年このミス20位

~感想~
戦争を実体験している御大だけにネームドキャラが次ページで死ぬのも珍しくない過酷な日常と、百合と呼ぶほどではないがそれなりに親密な関係性が描かれる作中リレー作の構成は読ませる。
しかしミステリとして見ると伏線は隠す気もないほどあからさまで、トリックもこれをトリックと呼ぶのもはばかられるような代物で、このミス20位や「○○の殺人」という大上段のタイトルに期待して本格ミステリとして読むべきものではない。
戦中戦後のリアルな空気感を味わい、作中リレー作で多層的に語られるやや幻想的なやや百合物として楽しむのが正解だろう。


25.3.2
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『大鞠家殺人事件』芦辺拓

2025年02月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大阪船場で化粧品販売を営む大鞠家に嫁いだ中久世美禰子。
太平洋戦争の影が迫り、夫は出征し事業は斜陽を迎えた中で次々と起こる怪事件。
怪しげな探偵や脅迫者も現れ…。

2021年本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、本ミス6位、2022年このミス8位

~感想~
いわゆる英国貴族のお屋敷ミステリ(マナーハウス・ミステリというらしい)を船場を舞台にし日本版として再現してみせた意欲作。船場の商家が舞台となったのも史上初とか。
便宜性だけを求め丁稚を改名させたり、従業員を一家のように住み込みで働かせていた特異な背景だけでも目を引くのに、パノラマ館で人が消え、不可解な状況で殺人が起こり、合間に小鬼が踊る古き良き本格ミステリのガジェットが目白押し。
もちろん舞台を活かした伏線と推理によって意外な犯人が導き出されるのはお見事で、本格ミステリ大賞を受賞するなど出版月の兼ね合いで2年続けて年間ランキングを賑わせたのも納得である。

納得ではあるのだが、作者ならではの大仰な文体やドタバタ劇が昭和初期を舞台にしたせいで5割増くらいになっているし、最後に明かされる余りにも本格ミステリ愛にあふれすぎた趣向が読む人を選んでしまうのも否めない。
本格ミステリ大賞にはこれ以上ないほど相応しい作品なのは間違いないが、個人的にはさほど好みではなかった。


25.2.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『伯爵と三つの棺』潮谷験

2025年02月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
フランス革命の余波が迫る小国。伯爵は野心ある三つ子の貴族に城の管理を任せる。
だが彼らを捨てた父が射殺され、複数の目撃者がいたにもかかわらず犯人は生き写しの三つ子のいずれか判断がつかなかった。

2024年このミス4位、本ミス5位

~感想~
西村京太郎の大傑作「殺しの双曲線」は双子のどちらが犯人か特定できないものだったが、そこへさらに1人増してきた。もちろんトリックは別物で、舞台もフランス革命のまっただ中に設定した理由がある。
登場人物の一部はD伯爵、主席公偵、次席公偵と記され固有名詞が無く、これは語り手が後年に著した手記という体裁でリアリティを持たせるためだが、筆は意外と軽快で特にD伯爵の愛すべき脳筋ぶりは常に面白い。
フランス革命という時代、三つ子の犯罪、語り手による手記という設定のいずれもがトリックに大きく関わり、鋭い論理とあからさまな伏線、二転三転する真相と本格ミステリに必要なものの全てが揃っているといって過言ではない。
2つの年間ランキングでベスト5に名を連ねたのも当然の、恐ろしくなるほど良く出来た作品である。


25.2.13
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『禁忌の子』山口未桜

2025年02月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
救急医の武田航が当直の夜、救急搬送された遺体は自分に生き写しだった。
しかし武田に兄弟はなく、他人の空似にしては余りにも似すぎている。
旧友で同僚の感情の起伏に乏しい城崎響介に意見を求め、両親の遺品を探ると些細な点に気づき…。

2024年鮎川哲也賞、文春4位

~感想~
著者は現役医師で、作中で武田も死体を発見するや「全く、探偵は諦めが早すぎるのだ」と現場保存もそこそこにガチの救急救命処置を4ページにわたって施す。
自分そっくりの謎の死体という100点のつかみから現実離れした奇想には飛ばず、あくまで現実的にありえるラインで、何をどうすればこの謎が存在し得るのかを突き詰めていき、探偵役は感情の起伏が極めて少なく、他者の感情を模倣しているキャラで、展開や推理・捜査ともども丁寧ながら至って地味。
密室トリックも同様に意外ではあるが地味で、このまま終わってしまうのではないかと危ぶまれたところで、盲点から犯人が浮かび上がり、ある一点に収斂して行くのが実にお見事。
達者ではないが丁寧な文章と、医師らしいガチの検討からきちんと予想外の真相を導き出し、収めるべきところへ収めた良く出来た佳作である。


25.2.8
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『少女には向かない完全犯罪』方丈貴恵

2025年01月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
法では裁けない悪を完全犯罪で叩き潰す「完全犯罪請負人」の黒羽烏由宇。
だが彼は何者かにビルの屋上から突き落とされ、一命は取り留めたものの肉体を離れた幽霊になる。
そして「完全犯罪請負人」に両親を殺された少女と出会うが、両親が殺された時、烏由宇は既にビルから落とされていた。
真犯人を追い、現世に干渉できない幽霊と、まだ何者でもない少女は手を組む。

2024年このミス4位、文春9位、本ミス7位


~感想~
大きな括りではもちろん本格ミステリだが、SF・バディ・成長譚・タイムリミットサスペンスと山ほどのジャンルが積み上がる。
そのうえミステリとしても名探偵・怪人・見立て・密室とあらゆる要素を網羅するように混ぜ合わせ、しかも真相を追うのは抜群の推理力を持ち幽霊の特性を活かして空を飛び壁をすり抜けられる男と、無力だがめきめきと成長を見せる女子小学生のバディである。
デビュー作にして鮎川哲也賞の「時間旅行者の砂時計」は多ジャンルと多要素を詰め込みすぎて窮屈かつ不釣り合いになってしまい、面白そうなことをやっているが本領発揮は数作後だろうと思っていた作者だが、それから5年経ち、小さくまとまるどころか詰め込みをさらに上乗せする方向に行っていた。いいぞもっとやれ。

当初の目標が片付いたのにまだまだページも謎もたっぷり残り、まるで止まったら死んでしまうかのように推理と伏線で奥へ奥へ底へ底へ掘り進み続け、やりすぎながら楽しい本格ミステリに昇華させて見せた。
幽霊と少女のバディ物という引きが強く、まず間違いなくアニメ化か何かメディア化はすると思うが、一般向けとはかけ離れた通好みの凝りに凝った盛りだくさんの本格ミステリである。


25.1.26
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『サロメの断頭台』夕木春央

2025年01月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
油絵画家の井口は、元泥棒で友人の蓮野を通訳に、祖父と縁あるオランダの富豪ロデウィック氏を訪ねる。
井口のアトリエで彼の絵を見たロデウィックは「そっくりな作品をアメリカで見た」と気が付く。
未発表の絵を、誰がなぜ、どうやって剽窃したのか? 調査を始めた井口の周りでは「サロメ」を見立てた事件が次々と起こる。

2024年本ミス6位


~感想~
とんでもねえ。
よくできた本格ミステリの論理に紛れ込んだ前代未聞の探偵と犯人とワトスンの構図。そして解決編「後」に訪れるサロメの断頭台。この作品を表すタイトルとしてこれ以上のものはない。「方舟」で年間ベスト級の称賛を受けた作者だが、それに勝るとも劣らない、そして全く別種の衝撃だった。

結末の感想から先に書いてしまったが、本作はデビュー作にしてメフィスト賞の「絞首商會」と短編集「時計泥棒と悪人たち」に連なるシリーズ長編である。
しかし「絞首商會」を読んでるくせに蓮野の「絶対に嘘をつかない」という設定すら忘れていたのに問題なく読めたので、話題作のこれから取り掛かっても大丈夫だろう。
ただでさえてんこもりの謎に、蓮野の「元泥棒で絶世の美男子で絶対に嘘をつかない生粋の人間嫌い」という乗せすぎ盛りすぎのキャラに加えて、大正浪漫や売れない画家たちの画壇事情、サロメを演じる女優、将来に悩むヒロイン的少女、武闘派の嫁と周辺はさらに賑やか。
終盤には三津田信三の如く残された謎を列挙し、解決編では裏に隠されていた見たこともない構図が明かされ、ミステリとしても秀逸な着地を見せる。
しかし本番はカバー帯にも「全ての謎が解けるとき、『サロメの断頭台』が読者を待つ」と書かれた通り、全てが終わった後の結末である。「方舟」もすさまじかったが、それ以上に鬱だが一読忘れ得ないとんでもないものだった。


25.1.17
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『檜垣澤家の炎上』永嶋恵美

2025年01月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
横浜の華麗なる一族・檜垣澤家。当主の妾だった母を亡くし、高木かな子は家に引き取られる。
当主の妻の大奥様をはじめ女系に支配された一家は、卓越した手腕で明治・大正の荒波を乗り越え繁栄を謳歌するが…。

2024このミス3位、文春4位


~感想~
ミステリとして高評価を受け、桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」のような作品かと想像したが全くの別物。
女三代記が最終的に本格ミステリとして着地する「赤朽葉家の伝説」とは異なり、ミステリ要素もあるもののそれはメインではなく高木かな子の波乱の半生を描いた一代記もとい半生記で、ほぼ純文学だった。
幼少期から虎視眈々とお家の乗っ取りを企む少女と、一代の傑物の女当主の陰謀を描いた半生記としては十二分に面白いのだが、ちょっと女性作家特有のドロドロさが激しすぎるところにまず引いてしまう。
たとえばパーティーにいまいちな女歌手とすごい男歌手を招き、聴いた相手に「お前はこの女のように引き立て役に過ぎない」と知らしめようとするのとか、余りにも女作家の発想すぎる。女作家にしか書けないし女作家しかこんなこと考えない。
また戦争の陰が忍び寄る明治~大正を舞台にし、歴史上の人物も顔を出すのだが山田風太郎のようにそれをストーリーに組み込むことにはほとんど興味がなく、あくまで市井の一族の日々を描いていく。それはいいのだが生粋の純文学嫌いとしては、どうしてもこの結末は受け入れられない。
文庫書き下ろしで800ページ付き合わされた結果が、全く何も解決せずただの始まりではないかと思ってしまうのだ。続編を書くつもりがあるのかもしれないし、ランクインしたら読まざるを得ないが、やはり純文学とは肌が合わないとうんざりした次第である。


25.1.8
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『都知事探偵・漆原翔太郎』天祢涼

2024年12月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
熱狂的な国民の指示を受けて都知事になった漆原翔太郎。
しかし口を開くたび、日常の謎に巻き込まれるたび支持率は右肩下がりで落ちて行き、秘書の雲井進を悩ませる。


~感想~
「セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎」のラストシーンからそのまま繋がる続編。
前作も良作だったが、良いところをそのまま引き継ぎ、さらに伏線は冴え、推理はより鋭い上位互換に仕上げてきたことに驚かされる。
翔太郎の馬鹿とも天才とも取れる二面性の推理が今回も描かれるのはもちろんのこと、議員から都知事になったことでより大きな真相も裏に潜んでいる。
前作が楽しめたならぜひともすぐさま読むべき良作である。もうちょっと話題になってもいいと思うのだがなあ。


24.12.14
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎』天祢涼

2024年12月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
急逝した父の後を継ぎ国会議員になった漆原翔太郎。
しかし問題発言と問題行動を連発し支持率は急落。
頭を痛める秘書の雲井進は名誉挽回のため陳情を受けようとするが…。


~感想~
天然議員と、有能風かませ秘書によるコメディタッチのライトなミステリ…に見えて、一皮剥くとほぼ大山誠一郎が顔を出す伏線だらけの連作短編集。
ややネタバレだが本作の一番の魅力なのでプロットを明かすと、漆原翔太郎は全て計算ずくの馬鹿を装った天才にも、全てが行き当たりばったりながら豪運で結果を出す馬鹿とも読める凝った構成で、推理もそのどちらとも取れるように二重写しで描かれるのだ。
何気ない描写に伏線を忍ばせる手管が実に巧みで、ただのドタバタやギャグに見えた描写の多くが伏線として回収される、ライトタッチの大山誠一郎の風格すら漂う。
ラストシーンがそのまま続編「都知事探偵・漆原翔太郎」に繋がるのも面白い、幅広い読者に読まれるべき良作である。


24.12.7
評価:★★★☆ 7
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