小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『黄昏のベルリン』連城三紀彦

2008年09月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
リオデジャネイロ、ニューヨーク、東京、パリ、ベルリンと、世界の大都市を結んで展開する国際的謀略事件。
ハーフの講師・青木優二は自分の意外な出生の秘密を知り……。


~感想~
場面が章を区切らずにダッシュだけで次々と切り替わるが、まったく読者を混乱させない手腕はさすが。
話が進むほどにミステリというより謀略小説へと様変わりしていき、最後はトリックなどどうでもいいようなロマン小説に着地するのが不満も。
だがそこまでの過程だけでも十分に良作と呼べるだろう。
連城三紀彦の謀略小説と聞いて想像するとおりの作品。期待は裏切らないが、上回りもしない。


08.9.23
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『肺魚楼の夜』谺健二

2008年09月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
震災から九年、神戸の「冬景楼」と呼ばれる館で奇妙な事件がおきた。
現場で保護された二人の女性。その一人は、壁の中に棲む怪魚が彼女を襲ったと奇妙な証言を……。
探偵の有希真一は真相を追うが、かつてない謎と恐怖が次々に顕在化していく。


~感想~
島田荘司を継ぐのは柄刀一なんかじゃない。谺健二だ。

壁に棲む怪魚、震災の時にタイムスリップした少女……などなど奇想とか言いようのない事件の数々は、がっかりな真相とあわせて実に島田荘司っぽい。
いままでも派手な物理トリックで御大の影をちらつかせていたが、今回は物理なしでさらに色濃く島田荘司の気配を感じさせる。
また『赫い月照』の続編ということで、あの事件のその後が描かれるのも注目。暗い色調に塗りこめられたこのシリーズだが、ラストは希望を感じさせファンは決して見逃せない。……だのに、なんでこうも悲劇のにおいがするのだろうか。
メイントリックは正直、読者の99%が事件発生と同時にわかるようなレベルで、『陰摩羅鬼の瑕』のように読者にさえ一目瞭然のトリックで、かえって犯人の悲哀を描くわけではなく、作者も「どう考えてもバレバレだよなあ」とわかりながら仕掛け、読者も「予想通りなんだろうなあ」と思いつつ読み進める、不思議な予定調和がただよってしまうのがなんとも言えない。
「このトリックは中盤であっさりバラされて、最後には逆手に取ったどんでん返しが起こるのかも」と期待するのは的外れなので、どうか気づかないふりで読むことをお願いしたい。


08.9.13
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『紙の碑に泪を』倉阪鬼一郎

2008年09月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
多方面で活躍する才人・西木遵が八王子で殺害された。
そのとき犯人は、遠く離れた渋谷でクラシックのコンサートを聴いていた……?
上小野田警部はアメリカ南部を舞台とした奇怪なミステリーを読みながら、犯人の到着を待つ。
警部は鉄壁のアリバイを崩せるのか。


~感想~
大掛かりなトリックだが悪ふざけの域を出なかった。
上小野田警部のキャラは面白いが、それが笑いを誘うところまでは行かず。
こういった大仕掛けは、よくぞここまでと思わせてこそ生きるものだが、今回はさほどの苦労をせずに作れそうなもの。作中作もブログもいかにもありそうな文体でいい出来だっただけに、メイントリックの手軽さが足を引っぱった。
ファンなら楽しめるのかもしれないが……。


08.9.10
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『ガーデイアン』石持浅海

2008年09月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
幼時に父を亡くしてから、勅使河原冴はずっと不思議な力に護られてきた。彼女が「ガーディアン」と名づけたその力は、彼女の危険を回避するためだけに発動する。突発的な事故ならバリアーとして。悪意をもった攻撃には、より激しく。では、彼女に殺意をもった相手は?ガーディアンに、殺されるのだろうか。特別な能力は、様々な思惑と、予想もしない事件を呼び寄せる。
※コピペ


~感想~
きもちわるいきもちわるいきもちわるい。
※ネタバレ含みます

世界も心理も状況も理屈だけで把握するキャラきもちわるい。
殺人未遂犯をいつまでも「まゆまゆまゆまゆ」きもちわるい。
緊迫した場面で「まゆまゆ」「てっしー」きもちわるい。
結婚してもいまだに旦那が「まゆまゆ」きもちわるい。
あっという間にガーディアンを容認・把握・理解する革命バカきもちわるい。
目の前で自分のせいで何人死んでいっても眉一つ動かさない女子中学生きもちわるい。
失禁失禁失禁失禁しつこいきもちわるい。
理屈理屈理屈理屈で結局全員死んだだけなのきもちわるい。
おじいちゃん以外にもすまないと思えよきもちわるい。
誰も「ガーディアンってスタンドじゃね?」って言わないのきもちわるい。

きもちわるい。


08.9.6
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『警官の血』佐々木譲

2008年09月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
戦後間もない昭和23年。安城清二の警察官人生は始まった。
戦災孤児、愚連隊、浮浪者、ヒロポン中毒。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。
ある夜、駐在所長だった清二は、五重塔の火災に巻き込まれ、そして――。
父子三代に渡る警察官人生の陰影を描く、大河小説。


~感想~
こんなの面白くないわけがない。
本格ミステリ大豊作の年にこのミス1位をとったのはなにかの間違いだが、大河小説の傑作。
世相を背景に、純粋無垢な正義だけではない、正義を貫くためあえて灰色の境界線上を歩く、清濁併せ呑む警官人生を描ききれるのはこの作者ならでは。
非常に長大な作品だが圧倒的なリーダビリティで一気に読み進められること請け合い。
ミステリ味は低いものの大河小説として強くおすすめです。


上巻08.9.3
下巻08.9.5
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『浮遊封館』門前典之

2008年09月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
全国で死体が消える不可解な事件が続発していた。
犠牲者の数が130人分足りない飛行機墜落事故。
監視者の目前で次々人が減っていく宗教団体。
火葬されずに消える身元不明死体。
さまざまな謎がやがて一本に繋がるとき、底知れぬ異形の論理が浮かび上がる。


~感想~
うわあバレバレじゃん。

読者の9割が気づくくらいトリックがバレバレ。
一発ネタと言えばそれまでだが、おぞましい真相はインパクト抜群。しかしその肝心なトリックがあまりにわかりやすい。あからさまなヒントまで出されており、作者には隠す気もないのだろうか。
また鮎川賞から7年越しの受賞後第一作だが、一部は日本語になってないくらい文章が酷いのも珠にきず。
流水大説みたいな大風呂敷と展開、全く必要なさそうな密室にミステリ史上屈指の凶悪トリックと三拍子そろって(?)いるのに、筆力とバレバレのトリックが足をひっぱった。
前評判から期待しすぎたかなあ……。


08.9.1
評価:★★☆ 5
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