小金沢ライブラリー

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DVD感想―『アイ・アム・レジェンド』

2009年01月31日 | 映画感想

~あらすじ~
2012年、ニューヨーク。科学者のロバート・ネビルは3年前に起こった地球規模の災厄をくぐり抜け、おそらくは全世界でただひとり生き残った男。
彼は愛犬サムと無人の店舗で食料品や日用品を調達し、畑を作って生き延びる日々。
自分以外の生存者を探して、毎日無線で呼びかけるものの、未だ見つけ出すことができずにいた。それでも、人類を絶滅させた原因を取り除き、再生の道を探るため、たったひとりで奔走するロバートだったが……。


~感想~
序盤の荒廃した無人のニューヨークでのサバイバル生活が目新しく興味を引くが、予告編などで一貫して隠し続けたアレが出て以来、単なるホラー映画に成り下がってしまい、著しく評価を下げた。
愛犬との心温まる交流をからめた、孤独な男の生き様を描いたサバイバルアクション物っぽい宣伝をしていただけに、うっかり見に来た家族づれは困惑したのではないだろうか。
ホラーとして見るといかにも平板で、タイトルに秘められた真意にのみ、わずかに感心するくらい。題材はいいのにもったいないなあ。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『ナイチンゲールの沈黙』海堂尊

2009年01月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
病棟一の歌唱力を持つ看護師・浜田小夜の担当患者は、眼の癌・網膜芽腫の子供たち。眼球摘出をせざるをえない彼らに心を痛めた小夜は、患児のメンタルケアを不定愁訴外来担当の田口に依頼し、小児愚痴外来が始まった時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。


~感想~
白鳥を筆頭とする登場人物たちのキャラ立ち以外はきわめてリアルだった前作『チーム・バチスタの栄光』から一転、シリーズ第二弾はSF要素の濃い作品となった。
物語の鍵を握るある人物の才能が、もはや特殊能力としか呼べない、兵器として軍事利用さえ可能かもしれない突飛さで、解決シーンにいたっては冷静に考えるとギャグにしか思えない情景なのだが、それを納得させてしまう実力が作者にはある。
映画化の話も上がっているそうだが、解決シーンはどう描くのか、どう描いたらバカ映画にならないのか、今から興味がわいてくる。
そういえば解決の一歩手前のシーンも、よく考えてみると相当にアレなので(ヒントは水着)そのあたりもどうするのだろう。

脇道にそれすぎたが、田口と白鳥のかけ合いや、新キャラたちの造型など、前作ファンが期待するとおりのものは、今回も十二分にそろっているので、ファンは黙って買い。


上08.12.29
下08.12.30
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『贋作『坊っちゃん』殺人事件』柳広司

2009年01月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
赤シャツと野だに鉄拳制裁を喰らわせ、「おれ」が松山を離れた直後、赤シャツは謎の自殺を遂げていた。
再会した山嵐とともに松山に戻ったおれは、事件の思いもよらない根深い真相を突きつけられる。
夏目漱石の名著『坊っちゃん』に秘められた真実とは?


~感想~
歴史上の人物や史実に秘められた(秘められていない)真実を本格ミステリとして掘り起こす労作を放つ作者の出世作。
今回、題材となったのは日本人なら義務教育で一度は読まされる『坊っちゃん』であり、原作に隠された(もちろん作者の夏目漱石はまったく意図していない)真相が明かされるが、事前に『坊っちゃん』をもう一度読み返す必要はなく、とおりいっぺんのあらすじさえ知っていれば存分に楽しめる。
その牽強付会というか、むりやりなこじつけぶりが楽しく、破天荒な青年の日常を描いた原作の裏に、どろどろとした陰謀や背景を潜ませ、当時の社会情勢までたくみに織り込みながら、しっかりと『坊っちゃん』の後日談としても成立させているのだから驚かされる。
しかもこれだけの労力をつぎ込みながら、分量は原作とほぼ同じくらいの薄さで手軽に読めてしまうのもいいところ。ミステリマニアに限らず普通の小説好きにもおすすめできるだろう。


08.12.8
評価:★★★ 6
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DVD感想―『プレステージ』

2009年01月16日 | 映画感想

~あらすじ~
19世紀末のロンドン。2人の天才マジシャン、ロバート・アンジャーとアルフレッド・ボーデンは、イリュージョンの腕を競い合っていた。
しかしある日、アンジャーの妻が脱出マジックに失敗して命を落とす。彼女の縄を縛ったのがボーデンだったことから、アンジャーはボーデンへの復讐を誓う。
やがて、驚異的な瞬間移動のイリュージョンを編み出したボーデンに対し、アンジャーはその秘密を盗み出そうと助手のオリヴィアをボーデンのもとへ差し向けるのだが……。


~感想~
中盤までは二人の天才マジシャンがくり広げる虚々実々の駆け引きがメインだが、とある装置が登場するや一気に、「世界幻想小説大賞」を受賞した作品らしいSFでファンタジーな物語へ様変わりする。
純粋なトリック映画を期待していた向きは憤慨するかもしれないが、そういう装置を利用したトリック映画であると了解すれば、非常に楽しめる仕掛けである。
特に冒頭のシーンの意味が明かされると、思わず膝を打つことうけあい。
最後には(ミステリ好きには自明だろうが)もうひとつのトリックも炸裂し、しっかりと物語を締めてくれる。
SF的なトリックさえ許せれば、万人に勧められる佳作と言えるだろう。


評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『C F W 6 ポルタトーリの壺』島田荘司

2009年01月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
一騎、また一騎と脱落していく仲間たち。そして一年に一度だけ、朝日のもとにその真の姿を現すという「ポルタトーリの壷」が問いかける、新たな謎。
祖国サラディーンを、そして世界を救うタイムリミットまであと二日。

~感想~
2008年といえばレイトン教授を忘れてもらっては困る、とパズル要素が一気に増える第6巻。とうとうアル・ヴァジャイヴ戦記は第1シリーズよりも長くなった。
主人公のショーン以外はまったく区別の付かない男性陣はおいといて、女の戦いがヒートアップ。
頭の体操と女同士のつばぜり合いという、かなり目にどうでもいいストーリーを読ませてしまう御大の筆力にあらためてうなる。


08.12.18
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ミステリ感想-『C F W 5 ヒュッレム姫の救出』島田荘司

2009年01月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
千騎の仲間は瞬く間に十四騎に!
月の女神アイラの待つイスラエルまでたどり着くためには、翼手竜の襲撃を打ち破り、獰猛な蛮族ガズビーンの砦に幽閉されたヒュッレム姫を救出し、「聖なる槍」を手に入れなければならない。
ショーン・マスードら王室守備隊の決死のアル・ヴァジャイヴ横断行は続く。


~感想~
初挑戦のファンタジーでもその筆力は衰えないどころか、ここにいたってはもう、ファンタジーの書き手としても一流であることを示してきた第5巻。
2008年のブームメントは網羅してやると言わんばかりに『モンスターハンター』さながらの巨大モンスターたちとの死闘を、深読みしてにやにやしているうちに、物語に引き込まれてしまう。
せっかくの囚われの姫君が無駄に三十路を超えているのはご愛嬌として、終盤に『レッドクリフ』まで持ち出し、小よく大を制す展開はまさに王道。
本格とかミステリとかどうでもよくなって、単純にこの物語の行く末を読みたくなってくる。


08.12.16
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ミステリ感想-『C F W 4 アル・ヴァジャイヴ戦記 決死の千騎行』島田荘司

2009年01月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
無数の天変地異に襲われ、滅びを決定づけられた都サラディーン。
神の創りたもうた地上で最悪の地、アル・ヴァジャイヴを五日間のうちに横断し、月の女神アイラの待つイスラエルへとたどり着くことだけが、この都を救うただひとつの道。
ショーン・マスードら誇り高き王室守備隊は前人未踏の荒野へと旅立つ!
CFW、第二部再始動。


~感想~
そして第4巻。
物語は中世アラビアを舞台にした完全無欠のファンタジーに移行し、読者の度肝を抜くとともに、不安を最大限にあおってくれる。
ドラゴンと騎士が肉弾戦を演じ始めるにいたって、これはもう本格どころかミステリにすらならないと覚悟すれば、そこはキャリア30年になんなんとするベテランの筆さばき、題材がなんであろうと読ませてしまう力は持っている。
というか、舞台をどこに置き、設定をどう変えようが、主人公の語り口や会話、そしてなんといっても女性の描写やセリフからして、どこからどう見てもこれは島田荘司であり、ファンは安心して読み進められることだろう。


08.12.14
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ミステリ感想-『C F W 3 火を噴く龍』島田荘司

2009年01月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ついに筑波の空を襲うB29の大群。
日本陸軍の最新兵器にして「生命体の複製」を作る機械・怪力光線砲も、天を焦がすまでの圧倒的な火力によって脆くも焼け果てていく……。
CFW、第一部堂々の完結。


~感想~
ファンタジーというよりもSFホラーと呼ぶべき2巻につづき、いっこうにまとめに入る気配のない第3巻。

ここまで話題にだけのぼっていた警官が、2008年大流行のイヤ系キャラで、イヤ系論理を振りかざし大暴れ。さらに描写は少ないものの、映画化された『スカイ・クロラ』につづけとばかり空戦シーンも描かれ、さすがは島田御大、時代の波に乗り遅れない。
などとにやついているうちに戦前の物語は幕を閉じるのだが、結末にいたるまでまったく本格ミステリの範疇に入ってこないのは、期待を通り越して不安にかられてくる。
これが別人の作品ならば「やっぱり今回はファンタジーを書いてきたんだな」と思うところだが、「それでも島田荘司なら、島田荘司ならなんとかしてくれる」と思わせるあたりは、かえすがえすもさすがである。
また、士郎正宗による空襲のイラストが、まさしく描写どおりの恐ろしくも美しいもので、それだけでも前巻につづきファンは買いだろう。


08.12.13
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ミステリ感想-『C F W 2 怪力光線砲』島田荘司

2009年01月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大戦末期、日本全土を空襲するB29を撃墜すべく極秘に開発された最新兵器・怪力光線砲。
しかしそれには、誰もが予想だにしなかったある目的が隠されていた!?
研究者のミツグ伯父さんによって雷とともに装置が発動した瞬間から、めくるめく数々の怪異がぼくを襲う。


~感想~
まだまだ「ファンタジー」でも「本格ミステリ」でもない、ごく普通に戦時中を描いた1巻から一転し、物語は一気に「ファンタジー」へと傾斜していく。
その傾き具合たるや、これぞ島田ミステリの象徴とでも言うべき、とうてい現実の出来事として回収できないような豪快さで、全盛期の西澤保彦が出してきそうな、説明不要のSFマシン「怪力光線砲」の強引さとあいまって、すさまじいものとなっている。
また、士郎正宗による怪力光線砲のイラストが、なにがなんだかわからないがとにかく迫力に満ちたもので、それだけでもファンは買いだろう。
もちろんこれが「本当に本格ミステリとして回収される」ことを込みとしてだが、この大河ノベルの行方が楽しみになってくる一冊である。


08.12.12
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ミステリ感想-『C F W 1 ロケット戦闘機「秋水」』島田荘司

2009年01月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
戦局が風雲急を告げ、日本の降伏が濃厚となった昭和二十年。
亡国の危機を打開するため、最新鋭のロケット戦闘機「秋水」が開発され……。


~感想~
いつの間にか「ゴッド・オブ・ミステリ」の尊称が定着している島田荘司と、『甲殻機動隊』で知られる士郎正宗が夢のタッグを組んだ大河ノベル『Classical Fantasy Within』シリーズの開幕作。タイトルが長すぎてブログに入らない。
なんでも当初は12ヶ月刊行のうち半分はファンタジーで、もう半分は御手洗シリーズを予定していたそうだが、島田御大が士郎正宗の画力にほれ込み、12巻すべてをファンタジーに変更したとのこと。
しかも12ヶ月連続刊行のはずが、主に士郎正宗の都合で、途中で何度も休止が入ることになったのだから、御大の入れ込み具合がよくわかる。
なお「ファンタジー」と銘打たれているものの、御大は「12巻揃った時、実はそのひとつひとつが、壮大なひとつの「本格ミステリー」小説のために用意された各パーツであったことが解かる」のだと断言しており、完全無欠のファンタジーにしか見えないこのシリーズが、いったいどうやって本格ミステリとして着地するのか、本当に本格ミステリとして着地できるのか、と期待半分、恐れ半分で見守られている。
と、概略を説明しただけで第1巻の感想に変えたい。


08.12.11
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