小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『古城駅の奥の奥』山口雅也

2010年01月31日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小学六年生の陽太と、変わり者の叔父・夜之介。大改築される東京駅を夏休みの自由研究のテーマに選んだ二人は、駅構内にある幻の霊安室で、血まみれの切断死体を発見してしまう。さらに宿泊していたステーション・ホテルの一室でも、奇妙な密室事件が起こる。迷宮のごとき東京駅に潜んでいるものはいったいなんなのか……。


~感想~
密室事件が起きた時点で「こういう方向に飛んだら嫌だなあ」と思った方向に飛んでいった。
トンデモ要素と硬質な推理が同居した作品で、ジュヴナイルながら本格ミステリとして妥協しないのはさすが山口雅也といったところ。
トリック自体は子供向けとあって簡易に済ませ、突飛な方向に飛ぶ物語や、事件やトリックよりもむしろその物語の飛躍のほうに伏線を凝らし、驚きは少ないが豊富かつさりげない伏線の数々には感心させられるだろう。
ジュヴナイルとしていたって正しい少年の成長と自立も描き、きっちりとまとめ上げた、このレーベルの理念(かつて子どもだったあなた(大人)と少年少女のための本)にふさわしい佳作である。


10.1.31
評価:★★☆ 5
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映画感想―『ベッドタイム・ストーリー』

2010年01月21日 | 映画感想

~あらすじ~
独身中年のスキーターは、幼い甥と姪を寝かしつけるためにオリジナルのおとぎ話を語って聞かせる。もちろん主人公は自分自身。気に入った子供たちが話に割り込み、ストーリーを引っかき回すと、おとぎ話が不思議なかたちで現実に起こり始めた。


~感想~
実にディズニー映画らしい作品。荒唐無稽な設定をうまく活かし、童話ならばただ純粋で真面目なだけな性格に描くだろう主人公に、お調子者の軽い男を配し、きわめてテンポの良い物語に仕上げて見せた。
問答無用のハッピーエンドになるのは当然ながらも、ほとんど無敵の万能な魔法でたどり着けるのは夢の一歩手前まで、結局最後に夢をかなえるのは自分の力だという教育的な(?)配慮も示し、隙が見当たらない。
まさしく大人から子供まで万人が楽しめる娯楽作品である。


評価:★★★ 6
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映画感想―『ノロイ』

2010年01月15日 | 映画感想

~あらすじと感想~
ホラー映画に新機軸を取り入れた意欲作。
この作品はさる失踪したオカルトライターが残したビデオ映像を編集したものである――という体裁で、ノンフィクションを装っているのだが、それが非常に徹底しており、たとえばそのライターと著作の出版社のサイトを実際に用意し、ライターの日記には本編の内容に即した取材記録が書かれている、という念の入れよう。
キャストも劇団員や無名のアイドルなどで固め、実にそれ(うさんくさい心霊ビデオ)っぽい演出がなされている。しかも公開当時はフィクションであることは伏せられ、実録ビデオであるからエンディングではスタッフロールも流れず唐突に幕を閉じるという構成で、観客の度肝を抜いたという。
当時は、といったが現在でもこれはフィクションだとは誰も明言しておらず、オカルトライターらを演じた劇団員らがいまも存命であるといった傍証から「実話ではない」と推測されるだけに留まっており、あくまでも真相は隠されたままなのだ。いやはや面白い趣向を考えたものである。
ちなみにストーリーも閉村の因習を巧みに仕込んだ、実に雰囲気のあるもので、ときおり指摘されるとおりまるで「ひぐらしのなく頃に」のアナザーストーリーといったおもむきで、もし雛見沢ダムが建設されていたらこんな外伝が起こっていたやも……と思わせ、そういった側面からも楽しめるだろう。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『Anniversary 50』カッパノベルス

2010年01月12日 | ミステリ感想
~概要~
カッパノベルス創刊50年を記念し「50」をテーマにした書下ろしの競作短編集。

~あらすじと感想~
綾辻行人「深泥丘奇談――切断」
作家の私は如呂塚の洞窟に行く夢を見る。一方、神社の境内では50個のパーツに切断された死体が見つかり……。

連載中のホラーにミステリ風味(本人談)の解決を含ませた奇妙な味わいの短編。バラバラ死体の謎という題材自体は「本格」してるのだが、ミステリ味はあくまでも風味どまり。しかし一読し忘れることのできない、強烈な印象を残す異様な真相は、さすがといったところ。


有栖川有栖「雪と金婚式」
結婚50年の金婚式を祝う雪の夜が明け、離れで死体が発見された。捜査線上に二人の容疑者が浮かぶが、どちらも鉄壁のアリバイを持つ。臨場犯罪学者の火村が謎に挑む。

小粒なトリックで不可能状況を仕立て上げた――といえば聞こえはいいが、そのトリックがあまりに小粒に過ぎて、もはやトリックと呼ぶのもはばかられるほど。
いちゃもんを付けるようだが、本格ミステリ作家クラブ初代会長が、こんな小手先の技巧でごまかしたような作品を出す立場にあるのだろうか、とアンチとしては思ってしまう。


大沢在昌「五十階で待つ」
裏社会を牛耳る龍からの連絡を受けた俺は、次の龍になるためのテストを受けるため50階に赴いた。そして奇妙なテストを課され……。

ああ、大沢先生忙しかったんだね。と思うしかないしょうもないお話。こんなの作家という人種であれば誰でも書けるだろう。鮫島を出したのが逆にもったいないくらい。


島田荘司「進々堂世界一周 シェフィールド、イギリス」
御手洗潔は、イギリスで出会った知的障害の青年を振り返る。彼はIQこそ50しかなかったが、重量挙げの稀有の才能を持っていた。

お、お、お、御大……。とうめくしかない、もはやギャグ同然のベッタベタすぎるお話に面食らう。こんなの御大が書いてなければページを破り捨てるというレベルの酷さで、アジア本格リーグとかいろいろ御大も忙しかったんだね、そういえば「CFWI」も秋に再開って言ってたのに止まってるし……。とファンは大目に見るべし。


田中芳樹「古井戸」
50年前、刑事だった私は貴族から奇妙な依頼を受けた。呪われた古井戸の話と、それに伴う世俗的な危機感。金持ちの道楽と思いながらしぶしぶ捜査を始めたが……。

本作中、最も50じゃなくてもいいお話。しょうもないお話をこれまた小手先の技術で短編にまとめあげ、しょうもない解決の代わりにしょうもない教訓をつけてみました、といったところ。


道尾秀介「夏の光」
夏休み、私は友人が野良犬を殺したと糾弾される場に出くわす。彼は殺しの決定的証拠を写真に撮られていたという。祖母と二人暮らしの彼は、ついには容疑を認めてしまい……。

子供を書くのがつくづくうまいなあ、と思うのがひとつ。とうとう一般的ではない小ネタを元に短編を仕上げる術を覚えてしまったか、と皮肉に思うのがひとつ。
それが悪いことではないし、作家としての腕をますます上げているのはたしかなのだが、昨年来のブンガク寄りに傾いた作品群を思い出すだに、悲しい気分になってくる。もったいないもったいない。


宮部みゆき「博打眼」
近江屋の主人・善一は朝餉のさなか「あれがうちに来る」と震え上がった。はたして、50の眼を持つ真っ黒のなにかが飛来し、近江屋は上を下への大騒動に陥る。

本書中、最も長い分量で書き上げた、真正面からの妖怪譚。これが実に面白い。熟練の技術でいきいきと活写されるにぎやかな下町風情と、不思議な力を持つ妖怪。
突拍子もない話ながら、魅力的な人物たちが織り成す妖怪退治の顛末にぐいぐい引きつけられる。ここまで物語の力に欠ける短編にばかり付き合わされた身には、これ以上ない一服の清涼剤だった。この一編のためだけでも買う価値はある。まあぜんぜん50じゃなくてもいいんだけど。


森村誠一「天の配猫」
引ったくりに突き飛ばされ転落死した老女。上京して早々に所持金をすられた青年。彼に救いの手を差しのべた女性。奇妙な信念を持つ下着泥棒。猫と暮らすホームレス。
彼らの人生が交叉したとき、都会の片隅で奇妙な事件が起きた。

森村先生、暴走しちゃったのかしらと思えてしまう、都会への恨み節や下着フェチへの熱き思いに路上生活の裏話と、あらすじを見てもわかるとおり渾然一体とした話の断片が、少しずつつながってひとつの事件が起こる、その趣向が面白い。面白いのは趣向くらいで、事件の謎なんかはわりとどうでもいい感じで、トリックらしきものも見当たらないのだが、不思議につながっていき、ちょっといい話に落ち着く物語自体が楽しく読める。50というテーマが心底どうでもいい使われ方だけどこれが森村誠一の力か……。
それにしても、よくできた話の中であの女の存在と行動だけはすさまじく浮いていて、童話かなにかにしか思えないのだが。正直青年と泉の女神、みたいな。


横山秀夫「未来の花」
民家の寝室で男の刺殺死体が見つかった。警察は妻を犯人と目し捜査を進めるが、一方で警部の今村は「終身検視官」の異名をとる倉石に意見を求め……。

うまいなあ。本当にうまい。内容自体は「倉石無双」と言えば事足りる、読者に推理の余地を与えない完全無欠の安楽椅子探偵っぷりで、しかも真相は早々と明かされ、ほとんどの分量を説明についやされるのだが、謎解きの妙はもちろんのこと、物語のあちこちにちりばめた小道具の扱いが本当にうまい。50の扱いがかなり目にどうでもいいことなど気にもならない、まさに匠の技である。


~総括~
中盤にかけて光文社との付き合いだけでものしたような短編がちらほら見られたが、後半に職人たちが持ち直してくれたため、読後感は非常に良い。
ただ冷静に考えると、質の跳ね上がった後半の作品群ほど「50」の扱いがぞんざいになっているのだがw
どうでもいいが短編集の感想はきちんと書くとこんなに長くなるのだなあ、というのは新たな発見であった。


10.1.11
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『水魑の如き沈むもの』三津田信三

2010年01月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
近畿地方のとある農村。村の人々が畏怖し称えてきたのは、源泉である湖の神・水魑様だった。
水魑様をまつる儀式のさなか、衆人環視の湖上の密室で事件は起こる。
刀城言耶が事件解決のため奔走するも、惨劇はそれだけにとどまらず……。


~感想~
シリーズ最長となったこの作品、解決シーンではいつもながらの残りページの限界に挑戦するような目まぐるしい二転・三転を見せてくれるのだが、そこにいたるまでの過程が今回はいまひとつ。
『厭魅』・『凶鳥』・『首無』・『山魔』と必ず目の覚めるような大ネタを仕込み驚かせてくれたが、今回はそうした一発ネタは見当たらない。ある人物のなにげない一言に何重にも秘められた誤導・トリプルミーニングや、視点をひとつ変えることで明るみに出る伏線など冴えてはいるのだが、たとえば謎の中心・解決の契機となる、ある因習の真相は、意外性と言う点で「そういう因習もあるだろうなあ」というレベルに落ち着いてしまい(回りくどくてすみません)、鬼面人を驚かすようなケレン味に欠けるのだ。
シリーズを重ねるごとに、最初は設定資料そのものだった村の風習や成り立ちなどを、わかりやすく噛み砕き、今作では労せずに読むことができるのだが、そういった不気味な雰囲気や突飛な因習を今回はほとんど一人の人物が引き受けてしまい、極端な話「こいつが鬼畜でした」で済まされてしまうのも惜しいところ。
また怪異と謎解きの融合、すべての怪異が現実へと解かれながらもそれでも怪異が忽然と立ちのぼる――それがこのシリーズの特徴だと思っていたのだが、これも怪異は怪異のままでほとんどが投げっぱなしにされ、いっこうに現実側に近づいてこないのも悲しいところ。結界とか霊視とかが平然と(それも推理の材料にまで)使われるシリーズだったっけか?
つまり個人的に刀城シリーズの魅力だと思っていた部分がことごとく薄く、物足りないのが特徴なのだから困ってしまう。
実はこの『水魑』は序章に過ぎず、次回作で置き去りにされた怪異たちがひもとかれ、伏線として機能していく――なんて妄想まで抱いたり。どうした三津田信三の如き騙るもの。


10.1.8
評価:★★★ 6
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映画感想―『ドラゴン・キングダム』

2010年01月07日 | 映画感想

~あらすじ~
カンフーオタクの気弱な青年ジェイソンはギャングに脅され、なじみの質屋を襲撃する羽目に。そしてギャングの凶弾に倒れた老主人から、元の持ち主へ返すようにと金色の棒を託される。しかし、ジェイソンもギャングに追い詰められ、その棒を持ったままビルの屋上から転落してしまう。やがて目を覚ますと、彼は時空を越えて古代の中国に行き着いていた。


~感想~
ジャッキー・チェンとジェット・リーが初競演というだけでファンは必見。チェンは酔拳、リーは小林拳法という確信犯的にベッタベタな役柄で、ストーリーも数多くの武侠映画や神話を織り交ぜた、これまたベッタベタながらも、むしろそれでこそと思わせる豪華さ。二大スターを使うならば、ベッタベタでこそしかるべきなのだ。『リーグ・オブ・レジェンド』や『ヴァン・ヘルシング』など物語の枠を超えた競演はハリウッドでも近年ちらほら見受けられるが、元をたどればカンフー映画が源流だろう。
ぶっちゃけ、二人の競演以外の、ヘタレ主人公(しかもこいつカンフーオタクって設定なのに酔拳すら知らない)の成長とか孫悟空の妖術とか、それ以前にストーリーとかはどうでもよいのだが、たぶん大半の観客もそのへんは一切気にしないだろうから無問題。チェンとリーの直接対決もきちんと用意されているので、二人の活躍を眺められればそれでよし。
欲を言えば……全盛期とまではいかなくてもあと10年早く観たかった!


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『ショーン・オブ・ザ・デッド』

2010年01月06日 | 映画感想

~あらすじ~
ロンドンに暮らすショーンは、親友のエドとパブに入り浸るばかりの冴えない毎日を送っていた。そんな彼に長年の恋人リズもついに愛想を尽かしてしまう。このままではいけないと自覚したショーンは、リズとよりを戻すため、これまでのだらしない生活を改めようと決意する。ところが、ショーンが恋人のことで頭がいっぱいになっている間に、街にはゾンビがあふれ、人々を次々と襲っていたのだった。


~感想~
あの『ホットファズ』の監督と主要キャストによるゾンビ映画。こちらも『ゾンビーノ』と同じくプロット自体はいたって普通のゾンビ映画なのだが、たった2つの要素を付け足すことで、誰も見たことのない映画に変貌している。
その要素とは「史上最弱のゾンビ」と「主人公がバカ」の2つである。
まずゾンビは非常に動きがとろく、相当接近しないと攻撃されないのは当然として、バットや傘はもちろん投げたレコードでもダメージが入る有様。そして主人公はといえば、そのレコードを投げる際に「それは大事なレコードだから投げるな!」とか「それは投げていい」と吟味してしまう能天気さ。
世界が滅亡の危機にひんしても「パブに逃げ込めば酒飲み放題」と遊ぶことしか考えず、QUEENの曲にあわせノリノリでゾンビをしばいたりと最高のバカさ加減。
『28日後…』シリーズでもつくづく思ったが、イギリス人はひょっとしてアメリカ人よりバカなんじゃなかろうかとの思いを強くした。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』

2010年01月05日 | 映画感想

~あらすじ~
紀元前1290年、国王の愛人と禁断の恋に落ちた高僧イムホテップは、死者の都ハムナプトラで生きたままミイラ化されるという究極の刑"ホムダイ"に処される。彼の怨念は再びその棺が開けられる時まで、神殿の地中深く眠ることになったのだ……。それから3000年の月日が流れた今、伝説と化したハムナプトラを目指す人々の姿があった。ある者は古代エジプトの秘宝のため、ある者は学術的調査のために、この失われた砂漠の都に向かっていたのだ。だが彼らは知らない。そこに悪鬼と化したイムホテップが眠る事を。そして3000年の呪いが解き放たれた時、エジプトは10の災いと共に魔都と化すのであった……。


~感想~
なにげに初見。『インディ・ジョーンズ』の影響がそこかしこに見受けられる、砂漠+秘宝+呪いから想像されるとおりの冒険アクション。
もう本当にそれ以上なにも付け足すことのない、感想の書きづらい作品である。
こんなの面白くないわけがないので、興味があるなら迷わず観るべきだが、わざわざレンタルするくらいならケーブルテレビなどで放送されるのを待ってもいいくらいだろう。


評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『我らが隣人の犯罪』宮部みゆき

2010年01月04日 | ミステリ感想
~収録作品~
我らが隣人の犯罪
この子誰の子
サボテンの花
祝・殺人
気分は自殺志願


~感想~
宮部みゆきのデビュー作となった表題作を筆頭に、短いながらに読ませる作品がずらり。
謎やトリックと大上段に構えるほどのものはないが、いずれもデビュー当時から変わらぬ筆力とセンスで、安定感ある品質を保っている。
なお解説の北村薫は分不相応としか思えないほどキモい絶賛のあげくにネタバレをかましているので、解説ページは墨で塗りつぶすなり切り取るなりの対処をするが吉でしょう。
ちなみに講談社青い鳥文庫版では、バラバラ殺人と暴行殺人が題材の『祝・殺人』を省き、タイトルも『この子誰の子』と変え、愛らしいイラストを添えているので子供さんにも安心して渡せること請け合い。


09.12.26
評価:★★☆ 5
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映画感想―『ハイキック・ガール!』

2010年01月03日 | 映画感想

~あらすじ~
必要なし。


~感想~
タイトルから想像されるとおり、制服姿のミニスカ女子高生がハイキックで次々と悪漢を蹴散らす――それだけ書くと悪夢のような映画を思い浮かべがちだが、今作はたったひとつの要素によりある種のマニアを満足させる作品へと変えてしまっている。
その要素とは「出演者が全員格闘技経験者」である。
たとえば主役の武田梨奈は現役女子高生ながら琉球空手で全国大会を制している。彼女と対戦する小林由佳は世界大会銅メダリスト、渡辺久江は格闘技団体DEEPのライト級王者――他にも合気道や空手の有段者は枚挙に暇がなく、本物による本物のアクションシーンがくり広げられる。
なんせ監督の西冬彦自ら半裸で(それなりに)鍛え抜かれた肉体を披露し、ヒロインにハイキックを浴びせるわ、顔面蹴りをやり返されるわという始末で、もちろん言うまでもなくストーリーなんてものは全くないに等しい。立ちふさがる敵をひたすら倒していくだけの、あえて説明するならファミコンの『スパルタンX』みたいなものである。
しかしそのアクションの激しさたるやかの『マッハ!!!!!!!』も真っ青で、遠慮なしに顔面や頭部に蹴りをめり込ませ、ぐらんぐらんと脳が揺れているさまを何度となく見せつけてくれるのだ。
後半にいたっては、もうハイキックでもガールでもなくなり日本空手協会師範の中達也が、群がる悪漢を次々と武骨にして実戦的な空手の型で一撃必殺していく勇姿を、長回しの一発撮りで存分に堪能させてくれる。……あれ? 主役はこっちだっけ?
というわけで、この作品は外見と反して、格闘技マニアによる格闘技マニアのための映画なので、くれぐれもパッケージに惑わされないようご注意を。
なお豪華版DVDには監督と格闘家による技解説や、負傷者続出の壮絶な撮影風景、そして中達也師範による実技指導と、普通の映画では考えられないラインナップになっているそうなので、格闘技マニアはそちらもぜひ。


評価:★★★ 6
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