小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『蒼林堂古書店へようこそ』乾くるみ

2011年07月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
書評家の林雅賀が店主を務める蒼林堂古書店では、百円以上の売買をしたお客様には一杯のコーヒーをサービス。
バツイチの大村龍雄、高校生の柴田五葉、小学校教師の茅原しのぶ――いつもの面々が日曜になるとこの店にやってきて、読書とささやかな謎解きを楽しんでいく。かたわらにはコーヒーと猫、至福の14ヶ月が過ぎたとき……。


~感想~
連作ぎみ短編集。時間の流れに沿って描かれており、先にミステリ紹介を読みたくなってしまうところだが、そこにちょっとした仕掛けもあるため、順番に読むことをおすすめする。

毎月刊行されていたため、冒頭でいちいち説明が付されるのは煩雑で、積もり積もって説明だけでも相当のページ数が割かれているが、各編のトリックは外れもままあるものの、全体的に見た質は一定水準を保っており、短いながらにしっかりした解決が付けられるのは好感。
ラストは僕のような冷めた人間には、小っ恥ずかしさを通り越してうすら寒いものを覚えてしまう(ネタバレ→ ヤンデレvsうじうじ中年)展開だが、普通の読者ならば素直に読めることだろう。
気軽に読めて127冊ものミステリ紹介もついてくる、なかなかお得な短編集である。


11.7.17
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『サヴァイヴ』近藤史恵

2011年07月17日 | ミステリ感想
~収録作品~
老ビプネンの腹の中
スピードの果て
プロトンの中の孤独
レミング
ゴールよりももっと遠く
トウラーダ


~感想~
作者の代表的シリーズとなった『サクリファイス』、『エデン』の過去と未来を描いた短編集。
全くミステリではなくなったが、自転車ロードレースという見慣れない題材はやはり興味深く、個々の作品もタイトルに向かって一直線に進んでいく爽快感がある。
が、見かけよりはるかに過酷なスポーツなのはわかるし、選手間にいろいろな軋轢があるのもわかるのだが、ちょっと『ガラスの仮面』過ぎはしないだろうか。
ロードレースの実際も体育会系の内実も全く知らないが、行われるのは「女のやる嫌がらせ」か「少女漫画でしか見たことないイジメ」か「それは女特有ではないかというドロドロした感情や嫉妬」ばかりで、男臭いスポーツにあまりにそぐわない。このあたりそういえば女性作家だったと思い出してしまいなんともはや。
また各編も結末はにおわせるものの、結局どうなったのかは明確に描かれないものばかりで、末尾の一編はレースすらせずに暗い雰囲気のまま終わる、という短編として、短編集としてそれはどうなんだという疑問を抱かずにはいられない。
まあ、次回作も買うけども。


11.7.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『生霊の如き重るもの』三津田信三

2011年07月16日 | ミステリ感想
~収録作品~
死霊の如き歩くもの
天魔の如き跳ぶもの
屍蝋の如き滴るもの
生霊の如き重るもの
顔無の如き攫うもの


~感想~
学生時代の刀城言耶を描いた短編集。
まだ明確に探偵らしい活動をしていない時期だけに、まず言耶が事件に関わることになる前置きが長いのはしかたないとして、短編個々の出来はかなり上質。
最初の三編は驚いたことに三つとも「足跡トリック」ながら、それぞれ物理、論理、バカと様々なトリックで仕掛けられ、同じことを三回繰り返しているのに、不満も飽きも感じさせない。
白眉はタイトルにもなっている『生霊の如き重るもの』で、かの傑作長編『山魔の如き嗤うもの』をほうふつとさせる、推理の枠組みは維持したまま、真相だけが次々と変幻していく奇術のような解決編がすばらしい。
そして最後の『顔無の如き攫うもの』では豪快な、というか悪魔的な真相で締め、もちろん怪異でオチをつけてみせ、化物も人間も怖いという着地を決めた。
前回の短編集では「ひょっとして長編向きの作者なのかも」と感じたのは、全くの勘違いであったと、深くお詫び申し上げたい。


11.7.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『七度狐』大倉崇裕

2011年07月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
北海道出張中の牧編集長から電話を受け、間宮緑は単身、杵槌村へ取材に赴く。
ここで春華亭古秋の後継者を決める口演会が開かれるのである。
ところが村は豪雨で孤立無援になり、やがて後継者候補が見立て殺人の犠牲に……。
04年本ミス大賞候補、このミス14位、本ミス4位。


~感想~
落語界の日常を描いた前作『三人目の幽霊』から一変して、どんどこ殺人の起きるいたって正統派の本格ミステリ。
一般感覚からずれた落語の世界を舞台にしながらも、過去の不思議な事件、見立て殺人、蘇る死者、遅れてきてもったいぶる名探偵ときわめてオーソドックスな展開をとり、名跡争いではなく富豪の遺産争いに見えてくる。
一から十まで真相に奉仕する、非常に本格ミステリとしておいしい作品なのだが、いまひとつ乗りきれなかったのは自分の問題だろう。それがド本格に対する飽きか年齢的な問題かはとりあえず措いといて。
とはいえ、誰も気づかないわけがない真犯人の正体とか、あまりに犯人の思惑通りに運ぶ展開とか、スムーズに行きすぎる連続殺人などは、初長編だけに(?)やはり造りは粗いと思うのだがどうか。


11.7.10
評価:★★★ 6
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