小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁

2024年07月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
それぞれの死にたい事情を抱え、集団自殺するため廃病院に集まった十二人の子どもたち。
しかし集合場所には十三人目の少年がおり、しかも一足先に長い眠りについていた。
十二人はこのまま計画を実行するか評決を取り、そして……。

2016年このミス16位、直木賞候補

~感想~
死にたい子どもたちの死ぬためのデスゲームとでも呼ぶべき設定で、「ダンガンロンパ」も強く思い出させる。また自分は観ていないが当然「十二人の怒れる男たち」のオマージュでもあるのだろう。
もうこの設定を思いついた時点で勝利確定ながら、これまでSFの雄として知られてきた作者初の長編ミステリとは思えないほどに推理が縦横無尽に(しかもフェアに)繰り広げられ、ミステリファンも唸らせる。
十二人はいずれも個性的で読み進めるうちに造形が深みを増し、さらに各人の視点で描かれるたびに印象が異なっているのも上手い。
推理はもちろん物語はさらに二転三転を続け、そして納得の行く結末を迎えてさらに…と至れり尽くせり。ファン層を問わず広く読まれるべき傑作である。

ここからは作品外のことだが文庫版解説では十二人の死にたい子どもたちの内の六人の死にたい動機をバラして(※作中で最遅で明かされるのは358ページ)おいて「(オチまで書いたら)ネタばらしになってしまうので、具体的には書けない」は最悪すぎる。典型的なオチさえ書かなければネタバレだと思ってない奴で、小説はオチだけが重要じゃないんだぜ?
また本格ミステリ畑ではない作者の作品にはありがちながらwikipediaも容赦なく完全ネタバレされているのでくれぐれもご注意を。


24.7.29
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『爆弾』呉勝浩

2024年07月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
酔って酒屋の店主を殴り逮捕された自称スズキタゴサクは、霊感と称して爆破事件を予言。
嘘八百を並び立てた饒舌な会話の中に次の爆破のヒントを織り込ませ、警察を翻弄する。

2022年このミス1位、文春4位、直木賞候補


~感想~
己を極端に卑下しつつどこまでが真実かわからない口八丁で取調官を翻弄するスズキタゴサクという特異なキャラを作った時点で勝利確定。
あの本格ミステリ史に残る白井智之「名探偵のいけにえ」を退けてこのミス1位に輝いたのは伊達ではなかった。
様々な取調官と心理戦・頭脳戦を繰り広げる一方で、警官たちは地道に手掛かりと爆弾を求めて人海戦術を展開し、息せき切る攻防が延々と続く。
ミステリ的に見ればヒントや爆弾の在り処はまず読者には解きようも無いものながら、取調官との舌戦は非常に読ませ、サスペンス的に面白いのでフェアかどうかは全く気にならない。
また個人的な好みと偏見ながらこういった劇場型犯罪はミステリにおいて大抵それほどの被害が及ばないものの、本作では洒落にならない被害がもたらされスリルも満点。
ミステリ的魅力も爆弾のヒントとは別のところにかなりの大仕掛けが施され、そっちの期待も裏切らない。
ラストこそ少々あっけなく、多くの謎も取り残されたが、シリーズ化してまだ何作か続く模様であり、後の展開が楽しみである。


24.7.25
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『#真相をお話します』結城真一郎

2024年07月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
家庭教師の派遣先の母親と子供。パパ活男女。精子提供した夫と妻。リモート飲みする旧友達。離島に住む人々。
彼らの裏には隠された真相がある。

2022年このミス13位、文春6位、本ミス3位、2021年日本推理作家協会賞(短編) - #拡散希望

~感想~
著者初の短編集で、史上初の平成生まれで日本推理作家協会賞を獲得した。
タイトルは「ハッシュタグ真相をお話します」と読み、SNSで感想を書くとそのままハッシュタグ化する上手い仕様。
凝っているのはタイトルだけではなく、真相も読めたと思ったその先にもう一捻り必ず加えてくれるいずれも粒揃い。どれも甲乙つけがたいがやはり受賞作「#拡散希望」が出色の一作で、ネタバレになるから詳しくは言えないものの長編にも堪えられる物語をあえて圧縮してみせた贅沢さである。
これだけ上手い作者なら長編も読まなくては。


24.7.18
評価:★★★★ 8
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ゲーム感想-『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

2024年07月17日 | ゲーム
~あらすじ~
本所七不思議の呪いを受けた、どうしても蘇らせたい人がいる9人の男女。
呪殺で魂を集め、蘇りの秘術を果たすため壮絶な騙し合いが始まる。


~感想~
高評価と友人からのイチオシを受けてようやくクリア。これはとんでもないものを見せてもらった。
TL上に何度も流れてきた本作を象徴する呪殺バトルこそ序盤だけで終わってしまったが、本題はそこから先。終始ほのめかされるある趣向が肝で、今までに類例の少ない、ゲームならではの大仕掛けが現れる。何もかもネタバレなので詳しく言えないがあまりの完成度に感心したことだけは付記する。
また見どころはそれだけではなく、実在する本所七不思議を完璧なまでに物語の中に取り込んでしかも昇華させているのがとんでもない。これだけでも大いに称賛されるべきなのに、脇を固めるキャラや会話も軽妙で楽しく、ゲームとしての面白さにも化けさせているのだからすさまじい手腕である。

欲を言えば最高に楽しかった呪殺バトルをもっとやりたかったし、何度かある設問を一発回答すればなんらかの報奨があっても良かった。(※ただの自慢だが最後の根付の問題以外は全問正解した)
プレイ時間は自分調べで8時間弱と決して長くないが、セール中で1180円と単行本より安く、いわゆるコスパも十分。
ミステリ・ホラー・七不思議・サウンドノベルといったジャンルに興味があればぜひやって欲しい傑作である。


24.6.29
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『恋都の狐さん』北夏輝

2024年07月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
恋愛経験ゼロの私が古都奈良で出会った狐面の男。
彼に会ったその日から古都は恋都に変わってしまった。

2012年メフィスト賞

~感想~
自分にとって1ページたりとも面白い場面がなかった。直近2/3でこんなの引き当ててしまって悲しい。
何が面白くないってマジで何も起きないのだ。奈良の観光案内を除けば内容は完全なる無である。
何も起きないと言っても何かしら起こっているでしょうと思うだろうがマッジで何も起きないまま一冊が終わる。いやいやいくらなんでもメフィスト賞を取ってるんだからそんなわけがないと思われるだろうが、物語にマッッジで一切の起伏がない。平面である。尖ってないという意味では球体である。この世に存在しないはずの真球はここにあった。
もちろん仮にも一冊の本なので何も起きないわけではなく、「底が見えないほど深い池に数分沈んでしまい酒をお供えしたらぷかぷか浮いてきたけど膝にかすり傷を負っただけ」とかいう一切の理解を拒絶する事件が起こったりはする。起こるなそんな意味不明の事件。
会話も全く面白くなく、狐の理屈っぽい話は全部が全部どこかで聞いたことある内容に過ぎず、ヒロインのツッコミもいたって普通。そして狐が常に狐面を着けている理由、恋人ではない女が狐の世話を焼く理由などは作中で解かれるものの、試しに2~3考えてみるといいが、必ずその中に正解があると断言できるほどありきたりだった。
最後のヒロインの選択だけはちょっと珍しいがそれも「まず人の話を聞けコノヤロー!!」と罵りたくなる選択で、しかも続編が2冊出ていることからもやんぬるかなである。
メフィスト賞は編集者が一人でも気に入れば出版できると言われているが、きっとその該当作なんだろうなというのが偽らざる本音である。


24.7.13
評価:なし 0
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ミステリ感想-『明智恭介の奔走』今村昌弘

2024年07月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
もう一人の泥棒に襲われたと主張する泥棒。オンボロビルを高値で買い取った謎の男。二日酔いから目覚めると密室の自宅で引き裂かれていた自分の下着。全く無意味だが不可能状況の試験問題漏洩事件。一見無差別にばらまかれるストーカーの手紙。
それは「屍人荘の殺人」で剣崎比留子に出会う前、葉村譲と明智恭介の事件。


~感想~
ドラマ原作の「ネメシス」は未読だが、短編でもその切れ味は健在どころかますます研ぎ澄まされ、たった一冊で短編ミステリの名手であることも証明してみせた。
冒頭の「最初でも最後でもない事件」からロジックとストーリー展開の上手さはもちろんのこと、「屍人荘の殺人」では尺と物語の都合でそこまで顕著ではなかった明智恭介のポンコツさが全開で、迷探偵ものとしても読めてしまう懐の広さをいきなり見せつける。

続く「とある日常の謎について」が個人的には白眉で、まさかやり尽くされたと思われたアレがこんな形で現れるとは夢にも思わなかった。アレに挑んだ作家は山ほどいるがこの切り口でやってのけるとは! ミステリマニア垂涎にして必読である。

「泥酔肌着引き裂き事件」はミステリ名物といえばそれまでだがあまりにも都合よくピンポイントで重大な手掛かりを忘れているのはともかくとして、話自体は面白く、「宗教学試験問題漏洩事件」は二転三転しつつひょっこり思いも寄らない大仕掛けが飛び出してくるのが楽しい。

そして末尾の書き下ろし「手紙ばら撒きハイツ事件」は時系列では最も古い、葉村と出会う前の話でちょっとごちゃつきすぎた感はあるものの、前日譚としてはこの上ない仕上がりで、掉尾を飾るに相応しかった。

「屍人荘の殺人」以降のネタバレは無いので、ここから読んでも大丈夫のシリーズ入門編だが、凝った仕掛けや趣向からやはりミステリマニアこそぜひ読んで欲しい一冊である。


24.7.9
評価:★★★★ 8
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非ミステリ感想-『テスカトリポカ』佐藤究

2024年07月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
メキシコと日本のハーフの少年コシモはネグレクトな環境と裏腹に並外れた体格に恵まれる。
麻薬王のバルミロは対立組織に襲われて一人生き残り虎視眈々と復讐を狙う。
元心臓血管外科医の末永はいつか執刀医に戻る日を夢見ながら臓器密売に携わる。
三人の運命が交差し、テスカトリポカ(煙を吐く鏡)は生贄を求める。

2021年直木賞・山本周五郎賞・このミス2位・文春2位


~感想~
自分にとって1ページたりとも面白い場面がなかった。
バルミロの信奉するアステカ文明の逸話が主題として何度も描かれるが「こんな野蛮なクソ文明は滅ぼされて当然だろ常識的に考えて…」としか思えない世界残酷物語で、読むだに胸が悪くなるばかり。
アステカだけではなく現代の登場人物も揃いも揃ってクソ野郎ばかりでとうてい肩入れできず、いったい何をどう楽しめばいいのかすらわからない。
ミステリ的にも評価されたがミステリ的側面がそもそも存在しない広義のエンタメ=ミステリであり、エンタメだとしてもこの血生臭さはいったいなんなのか。コシモがテスカトリポカの正体(※これもミステリ的なものではなく古代の神の現代的解釈である)に思い当たるやただそれだけであっさり身の振り方を変えてしまうのも自分には意味不明で、末尾に世界残酷物語をまた付け足すのもいったいなんの効果があるか、純文学というものが大嫌いな自分にはこれまた意味がわからない。アステカ文明の胸糞悪くなるだけの設定資料を最後まで延々と読まされて「ともあれアステカ滅ぶべし」という念を強くしただけである。
中盤の少年が絶対知る由もない事実をなぜか知っているというミステリっぽい展開も一切の説明がつかず「なんかそういう勘」で済まされたのも酷かったな…。
総じて「ノックス・マシン」や「独白するユニバーサル横メルカトル」の系譜に連なる「このミス上位につられて手を出した初心者が読書嫌いになること請け合い」の一冊だった。


24.7.5
評価:なし 0
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7月の新刊情報

2024年07月01日 | ミステリ界隈
4日 集英社ジャンプJブックス
ゆでたまご・おぎぬまX キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件

12日 講談社文庫
呉勝浩 爆弾
森博嗣 歌の終わりは海

26日 角川書店
阿津川辰海 バーニング・ダンサー
京極夏彦 狐花 葉不見冥府路行

31日 講談社
呉勝浩 法廷占拠 爆弾2
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