小金沢ライブラリー

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映画感想―『トゥモロー・ワールド』

2009年10月30日 | 映画感想

~あらすじ~
2027年、人類には子供が誕生しなくなってしまっていた。人類最後の子供も亡くなり、未来を失った世界は荒廃していく。
そんななか、再生の希望の光となる、妊娠をした女性が現れ――。


~感想~
120億円もの巨費を投じた斬新なカット割の技術により、十数分もの長回しに見える映像を生み出した意欲作――なのだが、正直なところ見どころはそれしかないような。
世界観、設定は面白いのだが、それを生かしきることはできず、作品全体に立ち込めた、暗く重い色調とあいまって地味で平板な雰囲気が終始ただよってしまい、受ける印象もまた地味~なものでしかない。
技術と表現にとらわれ、映画としての盛り上がりを失った、策士策におぼれたような作品である。


評価:★★ 4
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ミステリ感想-『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月

2009年10月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
“30歳”という岐路の年齢に立つ幼なじみの二人の女性。都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。あの“殺人事件”が起こるまでは……。


~感想~
痛い人間を描かせたら若手随一の作者だが、今回の主要人物は痛いを通り越してマンガかなにかでしか見たことがないような、現実性を放棄したレベルに達している。
だが、一人の失踪した女の足取りと半生を追っていく構成は、宮部みゆきの傑作『火車』を思わせ、最後まで興味を引くだろう。
しかしこの作品を「ミステリ」と形容するのはおそらく間違いで、(以下ネタバレ)失踪したチエミを追うみずほが探偵役として動くものの、彼女がたどり着いた真相はラストで否定され、しかも真実はチエミ自らによって明かされ、探偵役のみずほはというと、いくら盲点に隠れていたとはいえ、ほとんどポッと出の人物(それも一切登場せず助言だけ与えている)によって真相を示されるというていたらくで、純文学として評価するほうが正しいのではなかろうか。たぶん女性ならもっと楽しめる本なんだろなあ。
……ところで終章に小鳥遊練無が友情出演しているのはなぜなんだろう。


09.10.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『真相』横山秀夫

2009年10月26日 | ミステリ感想
~収録作品~
真相
18番ホール
不眠
花輪の海
他人の家


~感想~
もはや横山秀夫ほどの作家に対してわざわざ断ることはないのだが、警察小説を離れても、なにを書いても決して外すことはない。
今作では、10年前に息子を殺された父親、村長を目指す男、リストラされ投薬のバイトをする男などなど多彩な立場の人物を主人公に据えるだが、どれも安定した筆致で、大小さまざまな緊迫した日常の裏に潜む「真相」を鮮やかに描きだしている。
トリックこそ既存の傑作群と比べるとやや落ちるかもしれないが、舞台も立場も異なる5編はそれぞれに読ませ、物語としての面白さは言うまでもない。
「ミステリ界でここ10年の最大の収穫は横山秀夫」と評論家か誰かが言っていたが、それも今では心から納得できる。


09.9.1
評価:★★★☆ 7
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映画感想―『ブラインドネス』

2009年10月23日 | 映画感想

~あらすじ~
ある日、車を運転していた日本人の男が突然視力を失う事態に見舞われる。しかし、彼を診た医者によれば、眼球に異常はなく原因は不明だった。その後、同様の患者が各地で続出、混乱が広がっていく。感染症の疑いが濃厚となり、政府は緊急隔離政策を発動し、発症者を片っ端から隔離病棟へと強制収容していくが……。


~感想~
設定自体は悪くないのに脚本が台無しにしている印象。人間のエゴ・欲望・醜さを克明に描くのもいいが、ただ淡々とそれが描かれるだけではなにも訴えかけるものがない。
徐々に汚れていく屋内の様子とか、歪んでいく人間関係の描写、すべての人物が「最初に発症した男」「医師の妻」など固有名詞が与えられず記号化されている、などの設定は細かいのに、肝心のところで「もともと盲目の鑑定士(??)でした」という強引すぎるキャラや、この極限状況の中で貴重品を集めてどうするの? いくら銃を持っていても盲目だったらいくらでも対処法なくね? という根源的な疑問、なげやりすぎるラストと、あちこちで破綻が起きてしまっている。
ただ後味が悪いだけの、得るものの少ない作品である。


評価:★ 2
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映画感想―『レッドクリフ Part II』

2009年10月21日 | 映画感想

~あらすじ~
ジョン・ウー監督による三国志の映画化「レッドクリフ」の後編。
孔明、周瑜の活躍で、80万の曹操軍をわずか5万で撃退することに成功した劉備・孫権連合軍。しかし、依然として圧倒的な勢力を誇る曹操は、2000隻の戦艦を率いて赤壁へと進軍する。そんな中、曹操軍には疫病が蔓延してしまうが、非情な曹操は死体を船に積み、連合軍のいる対岸へと流す。これにより連合軍にも疫病がひろがり、ついに劉備は自軍の兵と民のため撤退を決断する。孔明はただひとり戦地に残り、周瑜とともに戦う道を選ぶのだったが…。


~感想~
前作ではタイトルに偽りあって赤壁の戦いまでいたらなかったが、今回はきっちりと最後まで描ききり、満足のいくものとなっている。
前作では首をかしげたくなるような、端的に言って「いらなくね?」と思うものばかりだったオリジナル展開が、今作では要所要所でぴたりとはまっていき、三国志マニアにも納得のいく展開で、ようやく製作者サイドの三国志愛が感じられるようになった。
まあ、裏に思惑があるとはいえ、義を否定し参戦を拒絶し孔明を置き去りにする劉備とか、苦肉の計を一瞬で却下される黄蓋とか、奇襲作戦のはずが最終的には力攻めで城落としてね? とかおかしい描写は多々あるものの、ハリウッドの手にかかっても変に毒されることなく、赤壁の戦いを独自のアレンジで描いたことは、認めるべきだろう。

まったくの余談だが、ハリウッドのお偉いさんは撮影中に「キャラが多すぎるから何人か一人にまとめちゃえよ。劉備と関羽と曹操は同一人物にするとか」などと恐ろしすぎる三身悪魔合体を提案してきたとか。そんなの絶対合体事故起こして外道スライムしか生まれないよ……。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『二つの時計の謎』チャッタワーラック

2009年10月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
モンコン男爵の放蕩息子チャクラが起こした傷害事件を調べるサマイ警部は、同じ夜に発生した二つの事件に突きあたる。輸入品販売店の共同経営者の縊死、運河での娼婦の溺死。
状況からチャクラの関与が疑われたが、現場で発見された二つの時計は、同じ時刻、九時五五分を指して止まっていた。
1932年、立憲革命直後のバンコクを舞台に、サマイ警部と相棒ラオーが事件を追う。


~感想~
島田荘司御大が選んだアジアの本格ミステリシリーズより、タイの本格が登場。
べつに象に乗った名探偵がムエタイ推理でトムヤムクン連続殺人事件の謎を解く! みたいな国辱ものの想像をしていたわけではないが、戦前らしさもタイらしさもきわめて希薄な、『新宿鮫』の新作や『相棒』のノベライズとして出されてもさほど違和感のないようなハードボイルドで、堅実なつくりは認めるものの、「本格」と銘打つほどのトリックやどんでん返しがあるわけでもなく、一言でいえばいたって地味な作品である。
御大に物申すのは恐れ多いが、せっかくのシリーズ刊行で、しかも日本では目新しいタイ作品ならば、もっとタイらしさを全面に押し出した、奇をてらったものを出したほうが良かったのではなかろうか。
というか、わざわざこれを読むなら普通に翻訳ミステリの傑作を読んだほうがいいような……。


09.10.18
評価:★★☆ 5
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映画感想―『シャッター』

2009年10月17日 | 映画感想

~あらすじ~
「THE JUON/呪怨」の製作陣がタイ映画「心霊写真」をハリウッドでリメイクしたホラー。
ニューヨーク在住のカメラマン、ベンは新妻ジェーンとともに仕事とハネムーンを兼ねて日本を訪れる。しかし、彼らは夜の山道で車を走らせていた時に突然目の前に現われたひとりの女性を轢いてしまう。


~感想~
そこは肩車じゃなくておんぶだろ常識的に考えて……

いきなりネタバレしてしまったが、とてもハリウッド作品とは思えないほどきちんとしたホラーである。
好物の韓国ホラーを想起させる、起承転結の整った展開で、まとまりのある作品なのだが、日本人がメガホンをとったわりに(だから?)肝心の幽霊の描写が弱く、かの爆笑ホラー『LOFT』の安達祐実のように、奥菜恵がぼーっと立っているだけなので、怖くもなんともないのが難点。
しかし幽霊が出ることに理由のないことの多い(あっても『リング』の版型とそっくり)和製ホラーとは異なり、理不尽さのないしっかりとした脚本には好感を抱いた。
ところでタイ映画と言えば死体描写の残酷さとリアルさに定評があるのだが、原作はどのくらい不必要にグロかったのかは気になるところだ。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『モーテル』

2009年10月16日 | 映画感想

~あらすじ~
車の故障によって、やむなく人里離れたモーテルに泊まることになった離婚寸前のデビッドとエイミー。
テレビの横でほこりを被ったビデオテープをなにげなく再生すると、映し出されたのはまさにいま泊まっているこの部屋で殺人が行われている光景。
二人は今も回り続けるカメラを発見し、そこから逃げなければ自分たちが次の被害者になると知る。


~感想~
↑のあらすじから予想される物語から、一歩たりとも想像の外に出ない、ある意味堅実な映画で、ありがちな主人公がありがちな事件に巻き込まれ、ありがちな逃避行の末にありがちな結末を迎える、予定調和にあふれた作品である。
そのありがちっぷりが実に歯がゆく、当然のごとく主人公の夫婦はそろってバカで、犯人グループはもっとバカなのだが、そのバカっぷりもネタにできるほどのレベルではないため、「普通のホラーでした」という感想以外に書くべきことのない、いたって後腐れのない内容なのだ。
このように作品自体にはなんら驚くべきものはないのだが、ただひとつだけ脚本を仕上げるのに8年かかったという事実だけが異常事態である。
再三くり返すが、こんな平凡な映画に8年もかけるところがあるのだろうか。かけた形跡も見当たらないし、かけるべきところもさっぱりわからない。「なんで?」と首をかしげるしかない。小器用な作家ならたぶん8日で書ける台本だと思うけどな……。
もしかしたら、ほっしゃんがネタにしている「ぼくは芸歴17年ですけど、R-1勝つ前はギュッと圧縮したら4ヶ月くらいになりますよ」と同じことだろうか。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『デス・レース』

2009年10月15日 | 映画感想

~あらすじ~
近未来のアメリカで熱狂的な人気を誇るテレビ番組「デス・レース」。サーキットは、四方を海に囲まれたターミナル・アイランドと呼ばれる脱獄不可能な離島刑務所。レーサーは服役中の凶悪犯。車は特殊武装が施された走る兵器。負けたら最期、3つのステージを勝ち抜き自由を手にするのは、いったい誰なのか!?


~感想~
タイトルとあらすじから想像する内容と寸分たがわぬ映画であることは説明するまでもないだろう。
本作はカルト的人気を誇る『デスレース2000』のリメイクという体裁をとっているが、原作は公道でレースを行い、ひき殺した一般人の性別・職業・人種などに応じてボーナスポイントが加算される、という小学生かアメリカ人しか発想しない映画なのだが、それと比較すると民営刑務所による囚人同士の殺人レースという設定は、ずいぶんおとなしいものになっている。
しかし原作での舞台は25年後の近未来だったが、今作はわずか4年後の近すぎる未来という設定で、たった4年で(別に核戦争も起こっていない)ここまで世界が荒廃するだろうかとか、4年やそこらじゃ人権団体もPTAもなくならなくね? という疑問は尽きないが、そんな些細なことを気にしていたらこんな映画は観られないだろう。
内容的にはあらすじに付け足すほどのものはないので、多くは語らないが、終盤になるにつれ「いやいやいやいや」と首を振りたくなる展開がめじろおしなので、多少の注意は必要である。
……まあ、こんなタイトルの映画を観る人間が文句を言うとは思えないけども。


評価:★★★ 6
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映画感想―『アイアンマン』

2009年10月12日 | 映画感想

~あらすじ~
巨大軍事企業の社長で、発明家としての顔も持つトニー・スターク。彼はある日、アフガニスタンで自社新型兵器のデモ実験を成功させるが、テロリスト集団の襲撃に遭い、囚われの身となってしまう。しかし、彼は一味の目を盗んで飛行可能なパワードスーツを開発、それを装着して脱出し、生還を果たす。彼は発明した兵器がテロリストの手に渡っていた現実を嘆き、自らの手ですべての兵器を葬ることを決意するが……。


~感想~
ダサかっこいいヒーローが素敵な良作。
まず主人公に起用されたロバート・ダウニー・Jrが大正解。うらぶれた中年親父を好演している。
ストーリーはアメコミ原作だけはある強引さで、テロリストに拉致された主人公が、洞窟の中で最新鋭ミサイルを造らされるのだが、ミサイルに見せかけてパワードスーツを作製して脱出という荒唐無稽さがいっそすがすがしい。
しかもこの主人公、人目を盗んでパワードスーツの改良にいそしみ、自らを実験台に試験も行い、単身で戦いにもおもむくというはちゃめちゃぶりで、その試行錯誤の過程もまた面白い。
まさに現実味よりも夢と楽しさを追い求めた映画なので、細かいことは気にせず、ダサかっこいいアイアンマンの勇姿を堪能すべし。


評価:★★★☆ 7
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