小金沢ライブラリー

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映画感想―『輪廻』

2007年08月31日 | 映画感想

~あらすじ~
昭和45年、群馬県のホテルで11人が惨殺される事件が起きた。動機も不明のまま、犯人の教授・大森範久も謎の死を遂げる。
35年後。この事件を題材にした映画の製作に執念を燃やす映画監督の松村。「記憶」と名付けられた映画のヒロインには新人女優の杉浦渚が大抜擢された。しかし渚は撮影が近づくにつれ不思議な少女の幻覚に悩まされていく。


~感想~
『呪怨』の監督ということで視聴。さすがにホラーのツボは心得ている。
というか優香の意外な演技力の高さに驚いた。ドラマに出ている印象は少ないのだが、顔もセリフも雰囲気もばっちり。いい女優じゃん。
『呪怨』ばりの「関係者は皆殺し」テイストに、『呪怨』にはなかったどんでん返しとまずまず納得の出来。個人的には人形には無表情の怖さを貫いてほしかったので、終盤にチャイルドプレイになってしまったのは残念。だがホラー好きなら観ておいて損はないと思う。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『夜明けの街で』東野圭吾

2007年08月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
まもなく時効を迎える15年前の殺人事件。その容疑者と不倫の恋に堕ちた――。
渡部の働く会社に、派遣社員の秋葉がやって来たのは、去年のお盆休み明けだった。その後二人の距離は急速に縮まり、ついに越えてはならない境界線を越えてしまう。しかし、秋葉の家庭は複雑な事情を抱えていた。両親は離婚し、母親は自殺。彼女の実家では15年前、父の愛人が殺されるという事件まで起こっていた。殺人現場に倒れていた秋葉は真犯人の容疑をかけられながらも、沈黙を貫いてきた。犯罪者かもしれない女性と不倫の恋に堕ちた渡部の心境は揺れ動く。


~感想~
見るべきところがなんにもない。
筆力の高さで最後までは読ませてくれるものの、後になにも残らない。不倫の描写は類型的、ミステリ要素は取ってつけただけ。作者はこれをもってなにを描きたかったのか全く解らない。エピローグも意味あるのかあれ。
なんといってもヒロインはスーツを汚したことで謝罪を求められ「それが出来ればどれほど楽か……。素直に謝れるぐらいなら、あたし、こんなに苦しくない──」などと泣きながらのたまってしまう電波っぷりである。しかもその一言に主人公はベタ惚れするのだ。なんだこれ。
完全に言いがかりだが、このジャンル(?)では既に『イニシエーション・ラブ』という不正出の傑作が出てしまっている。それに正面から喧嘩を売るからには、なにか一つでも上回る要素が欲しかったところなのだが……。
ともあれ帯に書かれたような「最高傑作」などでは断じてない。そんなことは書いた当人が一番よく知っているだろうに。


07.8.30
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『新本格もどき』霧舎巧

2007年08月29日 | ミステリ感想
~収録作品~
三、四、五角館の殺人
二、三の悲劇
人形は密室で推理する
長い、白い家の殺人
雨降り山荘の殺人
13人目の看護師
双頭の小悪魔


~感想~
いまいち。なにがいまいちなのか一点に絞りきれないのだが、おそらく筆力の不足が最も大きい。
霧舎巧の力量が"もどいている"作家よりも劣っているため、ただの劣化コピーにしかなっていない。いくら漢字の使い方をまねたところで、文体が全て同じではしかたない。
また、思い入れが濃すぎるのか一編に込めたトリックが詰め込みすぎで余裕がない。サービス精神と熱意は買うが、それが読みにくさにつながってしまっては逆効果。
言い方は悪いがもどきはしょせんもどきということか。


07.8.29
評価:★★ 4
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映画感想―『魁!クロマティ高校 THE MOVIE』

2007年08月28日 | 映画感想

~あらすじ~
都立クロマティ高校に入学した神山高志。だが、ここは稀に見る不良の巣窟で学力も最低レベル、これまで6回も校舎が破壊されたとんでもない高校だった。しかし神山は無謀にもこの学校を変えようと決意。そして、林田や前田という新しい仲間もできるが、次々と変な生徒やトラブルに遭遇し始める。


~感想~
ひさびさの映画感想。ひさびさがこれでいいのだろうか。
良くも悪くもそのまんまクロマティ高校の実写化。本物にしか見えない神山と渡辺裕之にしか見えないフレディに、ものすごく浮いてるのに違和感なく溶け込んでいる阿藤海と、どこまでもクロマティ高校の空気を忠実に再現。
後半はなんの前ぶりもなく「宇宙猿人ゴリ」が登場しやりたい放題っぷりがエスカレートするがノリは変わらない。原作ファンなら間違いなく楽しめるだろう。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『リロ・グラ・シスタ』詠坂雄二

2007年08月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
吏塚高校の屋上で発見された、在校生の墜落死体。同じ頃、校内では名高い「吏塚の名探偵」が受けた、奇妙な依頼。それは、この事件での依頼人の無実を証明すること……。独特の文体、凝りまくった趣向。“青春彷徨推理小説”(イミテーションハードボイルド)を自称して、ずいぶんと奇妙な才能が出現した!
カッパワン登龍門。
※帯より転載


~感想~
痛さ120%の中二病ミステリ。

痛い。とにかく痛い。どのくらい痛いかというと、いつ邪気眼影羅が飛び出してもおかしくない、飛び出されても違和感がない痛さ。
なんせ主人公は、亡くなった友人の妹に「兄を返せ!」と責められ「それは無理だ。あいつは物じゃないからね」と返すほどの中二っぷり。
ヒロイン(?)の援交少女は「べりべりさんくす」「らいらいらーい」と外来語を織り交ぜまくるラノベの住人。「らいらいらーい」ってお前は谷村新司か!(藤崎マーケットでも可)
痛くて痛くてひきつった苦笑いを浮かべながら読みとおすのが非常に辛かった。
メインの物理トリックはさんざん時計台をいじくり回したすえに出てくるもので新味に乏しく、これでは時刻表をいじくり回したらアリバイトリックができましたと大差ない。
脇を固めるトリックは一瞬で見当がつき(以下ネタバレ→)御鞍に妹が出てきた時点で、女装しているのではなく妹と入れ替わっていると普通のミステリバカなら考えるだろ!
最後に明かされるトリックも(以下ネタバレ→)性別トリックなんて、主人公の性別が言及されていない&一人称が私の時点で、いの一番に考えるわ!
中二文章で精神を、章ごとに変わる文字色で視神経をさいなまれ、どこをどう楽しめばいいのか解らなかった。それが世界の選択か……。

ラ・ヨダソウ・スティアーナ。



07.8.26
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『沈底魚』曽根圭介

2007年08月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大物の沈底魚が、日本に潜っている。亡命中国外交官による衝撃情報。流出した国家機密。「眠れるスパイ」は実在するのか。公安刑事たちの極秘捜査が始まった! 乱歩賞史上、もっともスリリングな公安ミステリー、堂々登場!
第53回江戸川乱歩賞受賞作。
※帯より転載


~感想~
退屈さという点では今までに読んだ本の中でも屈指。抑えた筆致といえば聞こえはいいが、地味な物語が淡々と語られるだけなので、盛り上がりも緩急もなにもない。
登場人物もよく言えば現実的、悪く言えば無個性で、魅力に乏しい。昨今の乱歩賞は専門知識に薄くミステリ味をまぶした作品が目立つが、今作はミステリ味が薄いを通り越して見当たらない。トリックはなく、後出しジャンケンのように「実は●●でした」と真相が明かされるだけで、推理をさせる余地は全くない。読者が推理をする余地がないだけではなく、語り手も一介の刑事に過ぎずただ状況に流されるだけ。語り手は最後の最後に逆襲を試みはするが、それも無個性で平凡な一刑事になぜそんな切り札が、と首をかしげたくなるような都合のよすぎる展開で腑に落ちない。
また内容とは関係ないが誤植が目に余った。べつに校正しながら読んでいないのに、
神経に触る→障る
自案→事案
など目につき、P164にいたっては、

 私は立ち上がってその背中を追い、後ろから襟を持って引き倒した。五味はすぐに起きて殴りかかってくる。
 私は立ち上がり、後ろから五味の後襟をつかんで引き倒した。五味はすぐに起きて殴りかかってきた。


と、推敲する前後の文が並んでいる始末。『邪魅の雫』の名前の誤りといいなにをやってるんだ講談社。
選評を見ても手放しで絶賛している選者は皆無。というか受賞作だから控えたのかもしれないが、選評自体が妙に少ない。
これを受賞させるくらいなら、今年は受賞作なしでもよかったのではないか……と思わせる凡作であった。


07.8.26
評価:なし 0
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ミステリ感想-『半落ち』横山秀夫

2007年08月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎は、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首した。
動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の空白だけは頑なに語ろうとしない。
梶が完全に落ちないのはなぜなのか。梶が死を捨て生を選んだ理由とは。


~感想~
数々の賞を総なめにし、映画化もされ、また直木賞との訣別ともなった問題作。
横山作品は巧い。その巧さだけでも8点以下をつけるのが非常に難しいほど。
渦中の梶の視点を描かないことで、逆に梶の人物を鮮烈に浮かび上がらせる構成、章ごとの語り手の人生と決断。悪役(憎まれ役か)こそ類型的で深みに乏しいが、それ以外の人物には残らず血が通い、物語に厚みを生み出している。
最後の最後までひっぱった空白の真相は、つい先日読んだ作品と題材がかぶってしまいちょっと拍子抜けだったが、そこに至るまでの過程だけでも十分に読ませる。
人は誰もが自分の人生の主役であり、それぞれの物語を抱えている。そんな当然の、当然ながら最も難しいことを描いて見せた傑作。


~蛇足~
本作は数々の賞を受賞し、当然のごとく直木賞にノミネートされた。しかし選考委員に欠陥を指摘され落選した。(その欠陥がなんなのかは完全にネタバレなので検索してください)
さらに選考委員だった林真理子氏が講評の記者会見で「欠陥に気づかず賞を与えた業界も悪い」とミステリ業界を、のちに雑誌で「欠陥があるのに売れ続けるなんて、読者と作者は違うということ」と読者をも批判したため、横山秀夫氏は激怒し直木賞との訣別を宣言した。
ちなみにその欠陥に最初に気づいたのは林真理子氏ではなく北方謙三氏であり、北方氏は「欠陥を指摘したがフィクションならばこだわる必要はない」と述べている。さらに北方氏は「記者会見は自分がやっておけばよかった」と当惑しており、この件は他者の見つけた指摘(しかも見つけた当人は問題視していない)をことさら大げさに騒ぎ立てた林真理子氏の完全な言いがかりであると思えてならない。


07.8.19
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『恋霊館事件』谺健二

2007年08月18日 | ミステリ感想
~収録作品~
五匹の猫
仮設の街の幽霊
紙の家
四本脚の魔物
ヒエロニムスの罠
恋霊館事件
仮設の街の犯罪

前作『未明の悪夢』から、そして震災からのちの神戸を描く連作短編集。


~感想~
重い。重厚という言葉では表しきれないほどに重い物語。
被災者ではない身からすると、ふと別世界の出来事のように思えてしまうような壊れた世界は、震災を真正面から描く唯一のミステリ作家として、まさに氏の独壇場である。
震災さえなければ決して起こることのなかった事件、動機は(やはり不謹慎な表現でないことを祈るのだが)非常に面白く、谺作品でしか味わえないものである。
トリックよりも動機に比重が置かれているが、その動機だけでこれだけ読ませてくれる。登場人物も血が通い、本を閉じてもまだ生き続けているような現実感がある、そんななにもかも破壊しつくした震災から生まれた稀有の作家。
震災を終わらせない作品を今後もつづっていってほしい。


07.8.18
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『ソロモンの犬』道尾秀介

2007年08月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
あの日、愛犬はなぜ暴走したのか? なぜ小さな友人は命を落としたのか?
せつなくほろ苦い青春ミステリー。


~感想~
世界崩壊。

主人公は妄想男。アキバ系というわけではないが、発想がいちいちキモいし、語り口も飄々を通り越してうすら寒い場面もしばしば。
親友のイケメンは二人称が「おたく」で言動は煙にまきまくる。探偵は変人。と、全く共感できない人物造形ながら、繰り広げられる青春群像はそれなりに読ませてくれる。
提示される謎、明かされる真相は小さなものだが見せ方の巧さで最後までひっぱる。作家としての幅の広さを見せたというところだろう。
そもそもこの作品で描かれる事柄は、驚天動地の大事件などではない。当たり前の日常も一皮むけばこれだけの謎が転がっているのだと、人間は誰しも一つや二つ、謎や秘密を抱えているのだという話である。
そうした人生模様から離れ、小説として、ミステリとしてどんでん返しを見せるのが終盤。まさに世界が崩壊した。それも一度目の崩壊で「この程度かよ」「ダジャレじゃん」と脱落させておき、その不意をついての第二撃。恐れ入りました。
『シャドウ』『片目の猿』につながるであろう、日常のミステリ。ふだんミステリになじみのない一般層からも評価されうる、作家としての名声をますます広めてくれそうな良作である。


07.8.16
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『首鳴き鬼の島』石崎幸二

2007年08月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
相模湾に浮かぶ頸木島は、「首鳴き鬼」の伝説から首鳴き島と呼ばれていた。
首を切られた鬼の身体が首を求めて鳴きながらさまようという伝説。雑誌の取材で島を訪れた編集者・稲口は、後継者問題で資産家一族が集まる頸木島で、伝説に見立てた連続殺人事件に巻き込まれた。
孤島、嵐の夜、見立て・首切り殺人……。本格ガジェットてんこもりのド本格ミステリ!

~感想~
傑・作。前代未聞の●●●●●●トリック。
石崎幸二5年ぶりの新作、というだけに留まらず、ミステリ史に残りかねない大技を繰り出してくれた。
●●●●●●トリックにはまだこんな大技が残っていたとは。あの石崎幸二がそれを最初に見つけるとは夢にも思わなかった。
氏ならではの軽妙な(というか殺伐としてるのに妙にノリが軽い)語り口ですいすい読み進められ、孤島よりも本土に戻ってからの展開のほうが盛り上がるのがまた面白い。
終盤の横溝的な(? 以下ネタバレ→)真犯人の告白→自殺 までの一連の流れが大真面目に語られているのになぜか爆笑を誘われる。
taipeimonochromeさんのブログによる「犯人の挫折と実行はそのまま、主人公である前座探偵の挫折と眞打ちの探偵が明らかにする事件の眞相という流れを精確にトレースしていた」という指摘はまさに慧眼。
読了後にいろいろ語りたくなる大傑作。


07.8.12
評価:★★★★★ 10
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