小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『六月六日生まれの天使』愛川晶

2008年08月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ふと目覚めると、私は記憶を失っていた。同じベッドには、ゴムの仮面を破った全裸の男が眠っている…。ここはどこ?この男は誰?扉を開けると、意外にも外は雪。そして初老のサンタクロースが、私に手招きをしている!記憶喪失の女と謎の男の奇妙な同居生活、その果ての衝撃!
※コピペ


~感想~
エロいだけじゃない!

そのエロさは『ウロボロスの基礎論』のあの無駄なエロパートにも匹敵。
なにを書いてもネタバレになるのでエロさをアピールするしかないのだが、あえて少し内容にふれると、ものすごく手間のかかった作品である。
一読すれば流れはわかるようにできているが、書く面倒さと読み返して確認する面倒さを思い、再読する気がわかないほど。
だがあらすじからもわかるとおり、アレなトリックの祭典なので、アレなトリックが好きな方はぜひ。エロいし。


08.8.29
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『子どもたちは夜と遊ぶ』辻村深月

2008年08月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
優しく触れようとしても壊してしまう、大人になりきれない子どもたちは、暗い恋の闇路へと迷い込んでしまった…。同じ大学に通う仲間、浅葱と狐塚、月子と恭司。彼らを取り巻く一方通行の片想いの歯車は、思わぬ連続殺人事件と絡まり、悲しくも残酷な方向へと狂い始める。掛け違えた恋のボタンと、絶望の淵に蹲る殺人鬼の影には、どんな結末が待っているのか。
※コピペ


~感想~
揺るぎない筆、揺らぐ世界。
トリックに驚いたものの、真相にはげんなりしたが、結末で見事に挽回。終わりよければ全てよしといったところ。

例によって二冊にわたる長編だが、この作者は長編を描きなれている。その筆は揺らぐことなく的確に描写を重ね、地味な話を決してだれさせない。
今までになく猟奇的な、ある種、類型的な事件が進行するが、トリックは思いもよらないところから現れる。巧妙にちりばめられた不自然さの理由が明かされたとき、同時に物語がはらんでいた悲哀が立ちのぼり、悲劇が生まれる。
だが構成の妙、トリックのキレと比してつづく真相は正直がっかり。あの映画の真似がしたかったのだろうかと思うようなげんなりの場面が流れたところで、見事な着地。全てをきれいに締めくくってくれた。いつもながらに辻村ミステリは期待を裏切らない。
これだけの力を持った作家がこうも注目されていないのは本当に惜しい限りだ。


08.8.22 上巻
08.8.28 下巻
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『トスカの接吻』深水黎一郎

2008年08月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
プッチーニ作曲の歌劇『トスカ』上演中、主演女優のナイフが相手役の首筋に突き立った。
「開かれた密室」である舞台に、罠を仕掛けた犯人とは。
さらに新演出の予告後、第二の犠牲者が……。
芸術フリークの瞬一郎と伯父の海埜刑事が完全犯罪の真相を追う。


~感想~
『エコール・ド・パリ殺人事件』につづくシリーズ第二弾。丁寧な造りは言うまでもない。
デビュー作『ウルチモ・トルッコ』はなんだったろうかと思うくらい、メフィスト賞の良心のような、丹念にものされた作風のこの作者。
伏線回収の鬼と化した前作にはおよばないものの、今回も地味な物語かつぜんぜん知識も興味もない題材を、硬質な筆致ながらしっかり読ませるのはさすが。
真相は禁じ手というか後味が微妙に悪いのは難だが。
ともあれ今後もこるものらメフィスト勢の時代の風(?)に影響されず、我が道を進んでほしい。


08.8.13
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『復讐者の棺』石崎幸二

2008年08月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大手スーパーが、経営破綻した孤島のテーマパークを買収。
その再建のため、本社から派遣されたスタッフが次々と惨殺される。
事件の背後には過去の社長殺害事件の謎が? サラリーマン石崎幸二と女子高生トリオがボケとツッコミとときどき推理に挑む!


~感想~
ダメ本格ふたたび!!

記号のように無個性の登場人物が、レミングスのように次々とワンパターンに殺されていく、まさに大量死の時代!(違います)
まるで思考停止のような芸のない連続殺人されっぷり! そこにシビれる! あこがれるゥ!
そもそも主人公のミリアとユリからして全く区別がつかねえ! それは作者も保証済み!
明らかに不自然な浮いた記述はもちろん伏線だ! トリックはバレバレのあげく島田荘司のアレの劣化コピーとか言うな! DNAネタはどう見ても『首鳴き鬼の島』を書いた余りだが気にするな!


……とかなんとかけなしてみたが、このシリーズ大好きです。
トリックとか関係なくあの三人がわいわいがやがや騒いでるだけで満足できる人種は黙って買うべし。
冗談みたいにワンパターンな事件の展開は、1時間ちょいで読み終われるほどのリーダビリティを生むためです。そうなんです。

僕らの石崎幸二が帰ってきたことはうれしい限りだが、『首鳴き鬼の島』の一発でチャンスをもらったのだろうに、いつもどおりにこんなのを出してきて、また干されてしまわないか心から心配です。


08.8.9
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『スクランブル』若竹七海

2008年08月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1980年、高校生だったあたしたち。
一人の少女があたしたちの通う名門女学校で殺された。
それから15年後、仲間の結婚式で再会したあたしたちは、迷宮入りした事件の謎に迫るのだが……。


~感想~
ものすごく評判がいいので期待したが、個人的には大ハズレ。
青春群像としてはいいが、ミステリとしての弱さがそのぶん際立つ。
だってこの事件、迷宮入りするわけがない。いくらなんでもこの真相をお宮入りさせてしまう警察は日本には存在しない。
また、読書を青春の一ページとして描写する小説(例:北村薫)にありがちな、イヤ~な感じの安っぽい衒学味(有名文学をネタにした寒い応酬、マイナー作品をさも読んでいて当然のように披瀝する、などなど)が目につき鼻につき、青春時代を振り返るどころではなかった。
文学青年なら楽しめるのかなあ……。


08.8.8
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『名探偵は最終局に謎を解く』戸松淳矩

2008年08月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
おばけ屋敷で発見した首吊り死体。
だが警察が駆けつけると死体は消え失せていた。
指物職人の圭次郎が取り調べを受けたのを皮切りに、圭次郎の親方が入院し、その病院で火事が起き、ロビーの時計が盗まれ、かわりに稲穂が残されていて……と、不可解な事件が相次ぐ。
江戸の稲田小僧が現代に復活したのか!?


~感想~
前二作ほどの切れ味はないが、それでも膝を打たせる細工はあいかわらずの冴え。
探偵役が作品ごとに代わる趣向で、登場人物も主役の3人以外は入れ替わるのに、これほどまでに魅力的に描き、なおかつそれを使い捨ててしまうのだから恐れ入る。
これも30年近く前の作品だが、名作は古びない。本格冬の時代にひっそりと咲いた佳作である。
解説によると作者は新作を執筆しているようだが、このシリーズだとしたら非常に楽しみだ。


08.8.2
評価:★★★ 6
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