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ミステリ感想-『黒牢城』米澤穂信

2024年06月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
摂津国を治める荒木村重は突如として織田信長に反旗を翻し、説得に来た黒田官兵衛を幽閉すると有岡城に籠城した。
信長の包囲網が迫る中、城内では不審な事件が次々と起こり、対処に困った村重は、官兵衛に推理を求める。

2021年直木賞・本格ミステリ大賞・このミス1位・文春1位・本ミス1位


~感想~
著者初の歴史小説で五冠を制した話題作。飛び抜けた対抗馬の無い年ではあったがそれでもお見事。
まず戦国ファンなら誰でも知ってる黒田官兵衛の幽閉を安楽椅子探偵に仕立て上げてしまったアイデアが秀逸過ぎる。思いつきそうで誰もやらなかった。
短編一つ一つのトリックを取り出して眺めてみれば極めて地味で、これで五冠を制したのはやはり相手に恵まれた感はどうしてもあるのだが、それより歴史小説として見るにつけ、作者の恐ろしいほどの生真面目さが如実に出ているのが際立つ。
ほぼ史実ベースの物語で、登場人物のおそらく全員が実在。使われる用語は並の歴史小説よりも厳密かつ正確に用いられ、むしろこれほど生真面目にちゃんと書かれた歴史小説を他に知らないレベル。恐ろしいことに雑賀下針も千代保も無辺すらも(真偽はともかく)存在していて、しかも作中での描かれ方がほぼ史実ベース。このへん並の作家なら安易にオリキャラを出すところを生真面目すぎる作者はなんと必要なキャラを史実から頑張って探してきてしまう。偉い。すごい。
国民的作家の座に着いたか王手を掛けた米澤穂信と自分ごときを並べて語るのは恐れ多いが、歴史小説の大きな不満として安易にオリキャラを出すことが大嫌いだ。だって探せばいる。絶対いる。三国志で5千人、戦国なら数万人が実在していて、書きたい物語に必要な人間は絶対いる。歴史物にオリキャラは必要ない。それを米澤穂信はわかっているのだ。

本ミス1位を取ってるせいで「本ミス1位取るなら動機はこれで黒幕こいつだろうな」が当たってしまったのと、ラストシーンが戦国ファンならほぼほぼ知ってる事実なのが惜しかったが、文庫版で今さら読んだほうが悪いので些細な瑕疵である。
ただ「黒牢城」の黒田官兵衛と史実で関ヶ原後に長政を叱った官兵衛はたぶん同一線上に存在しないw
しないんだけどこの作者の頭の中にはたぶんそれを繋げる構想がきちんとあるし、いずれ官兵衛主人公でまた書いてくるかもしれないとさえ思えてしまう。
個人的にはミステリとしてそこまで評価はしないものの、歴史小説家としてのあまりにも真摯な姿勢は手放しで称賛したい。ぜひまた書いてくれ。


24.6.22
評価:★★★☆ 7
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