小金沢ライブラリー

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映画(DVD)感想―『ロッキー・ザ・ファイナル』

2009年05月31日 | 映画感想

~あらすじ~
現役を引退し、愛妻エイドリアンにも先立たれ、一人息子との関係もこじれて満たされない日々を送るロッキー・バルボアは、地元フィラデルフィアで小さなレストランを経営していた。もはやかつての栄光とエイドリアンとの思い出にすがって生きる日々だったが……。


~感想~
「無茶」という大前提にさえ目をつぶれば、普通に楽しめる映画ではある。
シリーズファン向けのなつかしいシーンやエピソードがちりばめられ、試合も普通に盛り上がり、ロッキーとして成立していることは間違いない。
だがわざわざ続編を撮る必要はあったのかなあ……という疑問は常に頭の端から去らないのもたしか。
「ダイハード」や「インディ・ジョーンズ」のような現実離れしたアドベンチャーではなくスポーツが題材だけに、今後もシリーズは続いていくという気配を見せず、一度っきりの復活、シリーズの後日談という位置づけは正解だと思う。
こんなこと言って続いたらどうしよう……。

評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『龍神の雨』道尾秀介

2009年05月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。
※コピペ


~感想~
これまで驚異的な高打率を残してきた作者だが、今までの作品を100とすると今回は70といったところか。

↓以下ネタバレ↓

タイトルに掲げた2つのモチーフのうち、龍が明らかに蛇足だったのでは。重要な場面に(錯覚や妄想の類とはいえ)そのものズバリ龍が現れ、啓示を与えていくのはちょっと浮きすぎの感。物語があまりにも現実的な、生々しいものだけに、超現実的なモチーフはそぐわなかったかように思えてならない。
また、今回も「表の事件を語ることで裏の事件を隠す」手法は健在だが、あまりにも登場人物が少なすぎて、6(重要キャラ)-4(主要キャラ)-1(明らかに犯人ではないキャラ)=1で真犯人が解ってしまうのは厳しいところ。
その真犯人も類型的を通り越して戯画的な、いまどきB級ホラー映画にも出てこないようなサイコっぷりで、これまた浮いてしまっている。
しかしラスト、溝田兄弟の行く末に希望の光を照らす一方で、添木田兄妹の行く末にどうしようもないような暗雲を立ち込めさせた(自首の電話はつながらず、埋めた死体は露出)対比は見事だし、物語の分岐点に用いた「雨」というモチーフ、キーワードは大成功なのだが……。

決して悪い作品ではなく、期待には十全に答えているものの、それ以上を期待した線を飛び越えはしなかったのは残念だった。


09.5.28
評価:★★★ 6
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映画(DVD)感想―『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

2009年05月29日 | 映画感想

~あらすじ~
パラレルワールドの英国。その世界では人々は、それぞれの心が動物の姿で具現化したダイモンと呼ばれる守護精霊と行動を共にしている。
12歳の少女ライラも“パンタライモン”というダイモンと常に一心同体。そんな彼女の周囲で子どもたちが行方不明になる事件が続発、親友ロジャーまでも姿を消してしまう。ライラは黄金に輝く“真理計”を手に、子どもたちが連れ去られた北の地を目指し危険な旅に出るのだが……。


~感想~
これはダメな映画だな……。
難点はいろいろあるが、人間につれそう目に見える魂・ダイモンという設定は面白いが、それが別段、物語に貢献していないのがまずひとつ。
子供向け作品ながら人が死にすぎるのも問題。撃たれてただ倒れるだけなら言い訳もできるが、ダイモン=魂が消滅しては明らかに死んでいるではないか。
またアクションシーンのほとんどがやけに暗い所で行われるので、なにが起きているのかさっぱりわからないのも痛い。
主人公のライラがあまりかわいくないのは置いといて、なにかというと無為無策に突撃しては捕らえられる(それも3回も)のもいただけないし、そんな無鉄砲なライラを「あの子は選ばれた子」だの「すばらしい子だ」とこぞって褒め称えるのも意味が解らない。あいつほとんど役に立ってないだろ。
また、登場人物がそろって人の言うことを鵜呑みにする性格で、異常にだまされやすいのもネックで、しかも一番だまされないし、逆にひとをだましまくるのがライラというのもなにか間違っている気がしてならない。
とどめにラストは「俺たちの冒険は始まったばかりだ」と大々的に「次回につづく!」なので物足りないことこの上ない。
総じて出来の悪いファンタジーというしかないだろう。


評価:★ 2
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映画(DVD)感想―『28週後...』

2009年05月28日 | 映画感想

~あらすじ~
「28日後...」の続編。
感染すると凶暴性を引き起こす新種ウイルス“RAGE(レイジ)”が猛威をふるったイギリス。
感染発生から28週後、米軍主導による厳重な監視の下、ようやく復興が始まったロンドン。スペイン旅行中で難を逃れたタミーとアンディの姉弟も無事帰国し、父親ドンと再会を果たす。
しかしその場に母アリスの姿はない。彼女は、人里離れた山荘に立て籠もっていた時、ドンの目の前で感染者に襲われてしまい……。


~感想~
前作とは比べものにならない進歩を遂げ、観られる作品にはなったものの、最大の弱点である「軍人がバカ」という点はまったく改善されていないのがネック。

↓以下ネタバレ注意↓

世界を滅ぼす(&救う)ウィルスの感染者に監視を置かないのは当然として、監視カメラももちろん設置してはいない。当たり前のように部外者が接触して感染し、市民を守るために隔離したら、そこに感染者が突入してパンデミック状態。
逃げ惑う人々と感染者の区別がつかないため、軍人は片っ端から撃ち殺すことを選択。(このあたりはテロリストと一般人の区別が付かないという見えない脅威に対する暗喩もあるのだろうが、そんな小難しい社会派な理屈はこの映画にいらない気がするんですけど……)
ここまででも相当にバカだが、反目した一人の軍人が市民をつれて逃げ始めてからバカがさらにエスカレート。救助に来たヘリは感染しているかもしれない市民の収容を拒否。ヘリの軍人は無理やり乗り移ろうとする市民をぶら下げ「振り落としてやるぜ!」とノリノリで蛇行運転。そこにゾンビたちが殺到すると「プロペラで殺してやるぜ!」とさらにノリにノッて大虐殺。
しかたなく逃げていくと車がエンストしてしまい、そこに「汚物は消毒だ!」と火炎放射器を構えた軍人が迫る。市民をつれて逃げている軍人はいちおう説得とか試みればいいのに「俺にかまわず先に行け」と考えなしの自己犠牲の心に目覚め、外に出て車を押し火だるまになって死亡。
戻ってきたヘリの軍人はさっきはノリノリで拒絶したくせに、今度はなぜか市民の救助を受け入れるという謎の心変わり。
そして結局、救助した市民のせいで感染がさらに拡大という身もふたもない結末でジ・エンド。

アメリカ人はバカだと思ってたけど、イギリス人ってもっとバカなんじゃなかろうかという思いを深くした映画でした。


評価:★ 2
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ミステリ感想-『ロードムービー』辻村深月

2009年05月25日 | ミステリ感想
~収録作品~
ロードムービー
道の先
雪の降る道


~感想~
「冷たい校舎の時は止まる」の後日談と前日談だが、読んでいればより楽しめるという造りなので、読んでいなくても覚えていなくても問題はない。
どうにかミステリと呼べるのは一編だけで、それも読者を騙してやろうというよりも、物語としての効果的な演出を求めたために仕掛けられたトリックであり、基本的には普通の小説ばかりである。
しかしその一編が、逆に「ここでこう来るか」という意外性をともなったため、なかなか驚かされた。分厚い大長編を得意とする作者だが、短編でもきっちりと仕上げる実力を持っていると窺わせてくれる。
が、正直言ってよほどのファンでもない限りは、わざわざ手に取る必要はないかな~と思ったのも事実である。


09.4.16
評価:★★☆ 5
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文学感想-『悼む人』天童荒太

2009年05月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
聖者なのか、偽善者か?
「悼む人」は誰ですか。
善と悪、生と死が交錯する至高の愛の物語。
第140回直木賞受賞作品。


~感想~
桜庭一樹「私の男」で痛い目にあったのに、懲りずに直木賞をまた。
いつの間にか直木賞は赤裸々に性を描かなければ獲れなくなってしまったらしいが、小説としての完成度は「私の男」なんぞ問題にならない、というか比べるのが失礼な出来栄えである。
とにかく「悼む人」静人の造型が抜群で、それだけで物語を支えうる力がある。それこそ彼を真似て「悼む人」になってしまう者が現れてしまいかねないほどに印象的で、本書を楽しめたか否かに関わらず、「悼む人」の存在はずっと脳裏に刻み込まれることだろう。
つまり言ってしまえば単なるキャラ小説で、「悼む人」のキャラひとつに勝負をかけただけの作品である。
だがこの強烈な存在感を放つ「悼む人」は、直木賞を獲るにそぐわしい、静かな輝きを放っている。
映画化したら「おくりびと」に勝てるんじゃね?


09.4.13
評価:★★★ 6
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 2』加藤元浩

2009年05月23日 | マンガ感想
~感想~
推理!? 違います
僕が今から話すことはそんな曖昧なものではありません
ここで起こった事実です



「六部の宝」★★★★ 8
手がかりのちりばめ方が抜群。なにげないところに伏線があるわあるわ。
言われてみればあまりにもあからさまなヒントが、序盤から惜しげもなく出されている。
「推理」ではなく「論理」で謎をひもとく、この作品の真骨頂。


「ロスト・ロワイヤル」★★ 4
一発ネタといっては身もふたもないが、頭の体操的な真相にちょっとがっかり。
「六部の宝」が力作だけに、息抜きの一編としては及第点。
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ミステリ感想-『検死審問』パーシヴァル・ワイルド

2009年05月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
リー・スローカム閣下が検死官としてはじめて担当することになったのは、売れっ子作家ミセス・ベネットの屋敷で起きた死亡事件だった。
女主人の誕生日を祝うために集まっていた、個性的な関係者の証言から明らかになる真相とは? そして、検死官と陪審員が下した評決は?


~感想~
「猫は勘定にいれません」のたけさんのレビューを読んで購入。たけさんの言ったとおりの楽しい作品でした。

とにかく証人たちがまともに事件の話をしやがらない。芝刈りに人生を賭けた男や、売れっ子作家を見出した編集者に、波乱の人生を送ったその売れっ子作家らが自分の言いたいことだけをひたすらしゃべるだけ。
それなのに、無駄話の中に動機も伏線も真相も隠されていて、駄弁に付き合っただけでいつの間にか事件が解決しているという、とんでもない構成。
しかも無駄だが面白い長話のおかげで、すいすいと読み進められてしまうのだからすごい。
チート気味なくらい辣腕すぎるリー検死官の活躍や、法廷と同時進行していく事件、終盤のどんでん返しの連発と、とても戦前の作品とは思えない。
これは次作「検死審問ふたたび」も買わなくては。


09.5.8
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『弁護側の証人』小泉喜美子

2009年05月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか?
弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか?
日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作がいま甦る。
※コピペ


~感想~
これはすごい。ぜひ事前情報や先入観なしで読んでもらいたい。
知っておくべきことは二つだけ。
本書は46年前、1963年に刊行された作品だということと、知る人ぞ知る幻の名作だということ。
どこがすごいのかというと、解説の道尾秀介の言が見事なので拝借すると「絵を描いたのはあなた」なのだ。
とにかくお試しあれ。

↓ネタバレ↓
こんなに奇をてらっていない(ように見える)トリックは珍しいのではないか。
こういったトリックを仕掛けた場合、作者はいかに効果的に種明かしをするかに頭を悩ませるだろう。
ところが小泉喜美子は、それをいたってこともなげに、自明のことのように明かしてみせる。
気がついたら足元に爆弾が転がっていたようなさりげなさで、不意に炸裂した爆風に驚き「ちょっと待て、お前らちょっと待て」とページを戻り、すべてはこちらの思い込みだったと気づかされるのだ。



09.5.15
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『四隅の魔』三津田信三

2009年05月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
城北大学に編入した入埜転子は、怪談会を主催するサークル"百怪倶楽部"に入部した。
だが、寮の地下室で行なわれた儀式"四隅の間"の最中に怪異が起き……。
転子から相談を受けた弦矢俊一郎が、忌まわしき死の連鎖に挑むシリーズ第2弾。


~感想~
都市伝説ファンにはおなじみの題材にまずはにやり。ただ前作とは打って変わって(以下ネタバレ)怪異のほとんどが現実に取って代わられてしまい、ホラーとしての怖さがさらに薄くなっているのが難点といえば難点。
しかし意外な真相や伏線は刀城言耶シリーズばりに仕掛けられ、ミステリとしての完成度がいやましている。二作目ながら早くも安定感のあるシリーズとなってきた。

それにしてもまだ一作しか出ていないのに「大人気シリーズ!」と大書する角川はどうしてしまったのだろうか。
歌野晶午の「ハッピーエンドにさよならを」を初の短編集(4作目の短編集である)とうたったり、道尾秀介の「鬼の跫音」に過分な賛辞を偏執的に連ねたり(ちなみに連作短編集という大嘘もついている)、いくら出版不況で必死とはいえ迷走しすぎだろ。


09.5.1
評価:★★★ 6
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