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ミステリ感想-『明智恭介の奔走』今村昌弘

2024年07月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
もう一人の泥棒に襲われたと主張する泥棒。オンボロビルを高値で買い取った謎の男。二日酔いから目覚めると密室の自宅で引き裂かれていた自分の下着。全く無意味だが不可能状況の試験問題漏洩事件。一見無差別にばらまかれるストーカーの手紙。
それは「屍人荘の殺人」で剣崎比留子に出会う前、葉村譲と明智恭介の事件。


~感想~
ドラマ原作の「ネメシス」は未読だが、短編でもその切れ味は健在どころかますます研ぎ澄まされ、たった一冊で短編ミステリの名手であることも証明してみせた。
冒頭の「最初でも最後でもない事件」からロジックとストーリー展開の上手さはもちろんのこと、「屍人荘の殺人」では尺と物語の都合でそこまで顕著ではなかった明智恭介のポンコツさが全開で、迷探偵ものとしても読めてしまう懐の広さをいきなり見せつける。

続く「とある日常の謎について」が個人的には白眉で、まさかやり尽くされたと思われたアレがこんな形で現れるとは夢にも思わなかった。アレに挑んだ作家は山ほどいるがこの切り口でやってのけるとは! ミステリマニア垂涎にして必読である。

「泥酔肌着引き裂き事件」はミステリ名物といえばそれまでだがあまりにも都合よくピンポイントで重大な手掛かりを忘れているのはともかくとして、話自体は面白く、「宗教学試験問題漏洩事件」は二転三転しつつひょっこり思いも寄らない大仕掛けが飛び出してくるのが楽しい。

そして末尾の書き下ろし「手紙ばら撒きハイツ事件」は時系列では最も古い、葉村と出会う前の話でちょっとごちゃつきすぎた感はあるものの、前日譚としてはこの上ない仕上がりで、掉尾を飾るに相応しかった。

「屍人荘の殺人」以降のネタバレは無いので、ここから読んでも大丈夫のシリーズ入門編だが、凝った仕掛けや趣向からやはりミステリマニアこそぜひ読んで欲しい一冊である。


24.7.9
評価:★★★★ 8
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