内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

残心とはどういうことか

2021-12-01 23:59:59 | 読游摘録

 修士の演習で読んでいる新渡戸稲造の『武士道』との関連で、武士と武士道に関する本をいくらかまとめて通覧した。その中の一冊にアレクサンダー・ベネットの『日本人の知らない武士道』(文春新書 2013年)がある。本書の第一章「残心――武士道の神髄」をとりわけ興味深く読んだ。不勉強で「残心」という言葉は本書を読むまで知らなかった。剣道の世界では最も重要な心身の構えだという。
 著者は、剣道錬士七段、居合道五段、なぎなた五段という一流の武道家である。その著者によれば、「この残心こそが武士道を武士道たらしめているもの、武士道の神髄、武士道の奥義」である。この主張自体に対して歴史家たちが同意するかどうかはわからない。武士道を武道の本質をなす理念とするのも、歴史を無視した理想化の誹りを免れがたいようにも思う。ただ、著者自身にとって、残心がいかに大切なものであるかは本書を読むとよくわかる。残心は、武道そのものにおいてだけでなく、著者の「人格形成や生活態度に根源的な影響を与えてきた」という。
 著者によれば、残心はほとんどの武道に共通する心身の構えである。それぞれの武道において、残心とはいかなる心構えなのか。著者の説明を聞こう。
 弓道における残身(心のかわりに身をあてるようである)は、矢を射った後も心身ともに構えと集中力を崩さずに、目は矢が当たった場所を見据えることである。
 空手や居合道では、技を行った後、特定の体の構えを取る、相手との間合いを測って反撃方法を選ぶ、一拍おいて刀を収めるといった一挙動を残心と呼ぶ。
 剣道の場合は、一本が決まっても、気を抜かず、相手のどんな反撃にもただちに対応できるような身構えと気構えを指す。
 「武道の残心は、勝負が決まってからの勝負である。」「勝負の結果がどうあっても、心身ともに油断しない。興奮しない。落ち込まない。平常心を保つ。ゆとりを持つ。節度ある態度を見せる。周りを意識して行動する。負けた相手を謙虚に思いやる。感謝さえする。これすべて残心である。」
 著者によるこの定義に従えば、残心は、確かに人格形成や日常の生活態度においても根本原則の一つでありうるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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