内的自己対話-川の畔のささめごと

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ハーモニーとリズムがもたらす魂の解放とその自己回復 ― アリストテレス『政治学』第八巻最終章第七章について

2017-03-30 18:41:21 | 哲学

 アリストテレスの『詩学』は、その悲劇論の中に見られるカタルシス理論で有名だが、現存する『詩学』のテキストでカタルシスという言葉が用いられているのはたった一回きりである(1449b28)。
 アリストテレスの『政治学』の最終巻第八巻は、都市における教育論である。その第五章から最終章第七章までの三章は、一種の音楽教育論になっている。その最終章にカタルシスという言葉が出てくる。その箇所で、アリストテレスは、ここではごく一般的な仕方でカタルシスについて語るが、この概念については後により明晰な仕方で『詩学』の中で再論すると注記している。ところが、残念なことに、そのカタルシス論は今日まで伝わっていない。あるいは、そもそも書かれなかったのかもしれない(ここでウンベルト・エーコの名作『薔薇の名前』がアリストテレス『詩学』の「失われたはずの」第三部「喜劇論」をめぐっての十四世紀前半の中世キリスト教世界を舞台としたミステリーであったことを思い出された方々もいらっしゃることだろう)。
 それはさておき、『政治学』のこの最終部分(1341b19-1342b34)の音楽論、私にはとても興味深い。ハーモニーとリズムがもたらす倫理的・教育的効果がそこで論じられている。ハーモニーとリズムをその場面に適切な仕方で用いることで、過度に哀れみの情に引きずられたり、恐怖で身動きが取れなくなったり、熱狂に我を忘れていたりする魂をそのような状態から解放し、我を取り戻させることができるというのがその議論の主旨である。このような魂の解放とその自己回復がカタルシスのようだと言われている。













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