内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

哲学は、隠されたものを顕にすることではなく、見えるものを見えるようにすることである ― ウィトゲンシュタインとフーコー

2020-08-24 03:34:35 | 哲学

 フランスを代表するウィトゲンシュタインのスペシャリストの一人であるクリスチアンヌ・ショヴィレ Christiane Chauviré の Voir le visible. La seconde philosophie de Wittgenstein, PUF, coll. « Philosophies », 2003 のキンドル版の宣伝メールがアマゾンから数日前に届き、そういう誘惑にことのほか弱い私は、危うく直ちにポチッと購入してしまいそうになった。が、あと一歩のところで、確かこの本は紙版を持っていたはずだよなと思い出し、書棚を探してみるとやはりあった。くわばらくわばら。
 普段あまり読まない本を並べてある最上段の書棚からその本を引っ張り出して頁をめくると、序説のエピグラフは、意外にも、ミッシェル・フーコーの日本での講演の一部だった。かつて読んだはずなのに、すっかり忘れている。
 その講演は、一九七八年四月に来日したとき、朝日新聞本社内の朝日講堂で四月二七日に「現代の権力を問う」という演題で行われたもので、同年六月二日発行の『朝日ジャーナル』に講演原稿の邦訳が掲載された。仏語の講演元原稿は、« La philosophie analytique de la politique » というタイトルで、Dits et écrits. 1954-1988, tome III : 1976-1979, Gallimard, 1994, p. 534-551 に収録されている。引用部分は以下の通り(Dits et écrits, t. III, p. 540)。

Il y a longtemps qu’on sait que le rôle de la philosophie n’est pas de découvrir ce qui est caché, mais de rendre visible ce qui est précisément visible, c’est-à-dire de faire apparaître ce qui est si proche, ce qui est si immédiat, ce qui est si intimement lié à nous-mêmes qu’à cause de cela nous ne le percevons pas. Alors que le rôle de la science est de faire connaître ce que nous ne voyons pas, le rôle de la philosophie est de faire voir ce que nous voyons.

Christiane Chauviré, Voir le visible. La seconde philosophie de Wittgenstein, op. cit., p. 9.

 哲学の役割は、かねてより、隠されたものを顕にすることではなく、まさに見えるものを見えるようにすることである。つまり、あまりにも身近で、あまりにも直接的で、あまりにも私たち自身に結びついていて、まさにそれゆえに私たちが知覚できなくなっているものをそれとして立ち現れさせることである。科学の役割が私たちに見えないものを認識させることであるのに対して、哲学の役割は、私たちが見ているものをそのとおり見させることにある。
 私たちの生活は、見えているのに見えなくなっているものに満ちているとさえ言える。それは、日常生活のレベルにおいてばかりでなく、人間関係においても、社会生活の諸相においても言えることだ。
 ところが、いや、だからこそ、と言うべきだろうか、見えているのに見えなくなっている状態にあることに気づくことなく、「あなたに見えているものの背後に実は見えない仕掛けがあり、それが見える世界を操っているのですよ」という類の言説に私たちは騙されやすい。
 見えるものをそのとおり見えるものとして見ることはそれほど難しい。どんなに科学が進歩しようとも、哲学の存在理由があるとすれば、そこにある、と私は言いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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Unknown (franoma)
2020-09-22 22:31:02
«見えているのに見えなくなっている状態にあることに気づくことなく、「あなたに見えているものの背後に実は見えない仕掛けがあり、それが見える世界を操っているのですよ」という類の言説に私たちは騙されやすい» それは、いわゆる《陰謀論》というもので、それにトラップされて生きている人も大勢おいでになり、一生そのままである可能性が高い…そういう現実も否認しては、現実に如何に対処するか?ということで[合意形成]が進められず、結果として[政治弾圧]やりたい放題が続けられてしまいます。《陰謀論》と言うだけでは如何ともしがたいので…では、どうするかと言うと、現場で[職業倫理]を守るだけではないかと個人的には考えます。

どうも、お邪魔しました。
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