内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

後からやってくる研究者のチャレンジを静かに待っている偉大な研究者

2019-09-25 23:59:59 | 哲学

 昨日の記事の続きで、本郷の解説から摘録しておく。
 戦後の歴史研究者のうち、歴史観を語れる中世史家として誰もが認める人として、本郷は以下の五人を挙げる。「幅の広い学問を統合し、一人の武士や庶民から社会像を構築した」石井進、「文字史料の限界に疑問を投げかけ、従来の二倍の社会像を復元してみせた」網野善彦、「天皇と京都の再認識を通じて、いわば京都史観を打ちだした」黒田俊雄、「文化を軸に民衆の側から、古代から近世までの叙述を成し遂げた」五味文彦、そして、「穏やかな唯物史観の立場を取り、中世全体を深く考察した」永原慶二である。

 永原の研究成果は、対峙する人間を選ばない。どんな立場から歴史を研究するにせよ、それが実証的であれば必ず、彼の到達に直面する必要に迫られる性質のものである。研究者は永原の提示した推論に学ぶ。それを学んで、乗り越えるべく努力を重ねていく。ある研究者は、努力の末に、永原論のある部分を乗り越えることに成功するだろう。ある研究者は懸命に挑戦しても、永原論の確かさを追認するだけにとどまるだろう。ともあれ、彼の研究業績は、後からやってくる研究者のチャレンジを静かに待っている。乗り越えられることを待っている。この意味で永原は実にフェアーで、尊敬すべき先達なのだ。中世史の良心というべき偉大な研究者、それが永原である。













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