内的自己対話-川の畔のささめごと

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陰翳をめぐる随想(九)― レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画作品に見事に適用されている視覚理論

2020-01-27 18:14:40 | 哲学

 ここ数日の記事で見てきたようなレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画論あるいはその前提となる視覚理論は、もしそれが単なる机上の理論的記述でしかなかったとすれば、私たちの関心をここまで引くことはなかっただろうし、見えるものへの存在論的考察へと導かれることもなかったであろう。
 実際には、ダ・ヴィンチの絵画作品における技法的実践のうちにそれらの理論の実践的適用とその成功例を見ることができる。例えば、ダ・ヴィンチがその創始者とされるスフマート(「空気に消えてゆく煙のように」、画面の明るい部分からごく暗い部分まで、境界線なしに、徐々に変化する諧調)がそうである。その最も有名な例が「モナ・リザ」である。スフマートが用いられた作品では、ヴェールで覆われたような雰囲気によってものの輪郭が消されているが、その効果は光と影の巧みな組み合わせによってさらに高められている。あるいは、和らげられた光の描写法にも視覚理論の適用を見て取ることができる。この技法によって、人の顔や物の細部にあたうかぎりの繊細さが与えられている。

顔立ちに優雅さを与える雰囲気をどのように選択すればよいか。もし君が亜麻布で覆うことができる中庭を所有しているのなら、そこでの光は好適なものとなろう。あるいは、誰かの肖像を描きたいとき、天気が悪い日か夕暮れ時を選ぶがよい。そして、モデルを中庭の壁の一つを背にして立たせよ。日暮れ時に街中で行き交う人々を観察してみるがよい。なんともいえぬ優雅さと繊細さがそこに現れているのに気づくだろう。[…]あるいは、雲が立ち込め霧がかった日没時に描くがよい。その雰囲気は非の打ち所がないものであろう。

 ダ・ヴィンチにおいて、宇宙の統一の深い意味、このうえない多様性をもった宇宙の諸側面の間の連続性の深い意味が、光と影の間の関係に関する理論と実践を通じて表現されている。同様な理論と実践をダ・ヴィンチから三世紀後のゲーテの色彩論の中に私たちは再び見出すことになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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