内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

社会存在の論理としての「種の論理」の多角的検討(承前)

2013-09-21 02:29:00 | 哲学

 学生たちのインターシップのレポートはそれぞれ数十枚あるので、さっと目を通すだけでもかなり時間がかかるものだが、幸い今回担当した4つのレポートは、いずれも要求された書式を忠実に守り、レイアウトも読みやすいように配慮され、フランス語もしっかりしていたので安心してスラスラ読めた。欲を言えば、インターシップでの仕事内容と大学で3年間自分たちが受けてきた教育内容との関係について、もう少し踏み込んだ分析と考察、さらには忌憚のない批判を展開してほしかった。書いたのが普段から大人しい女子学生たちだったということもあり、皆少し「お利口さん」すぎるところがある。しかし、いずれも十分に水準には達している。彼女たちはこれでめでたく学部卒業資格を満たしたことになる。今朝(20日)起抜けに評価表を書き終え、教務課事務が仕事を始める8時半前にはすべての書類を送信することができた。おかげで、午前中のうちに、自分が所属する研究グループで今構築中のサイトに掲載する個人紹介ページのための原稿作成や事務的書類の処理にすべて済ませることができた。
 それにしても、パソコンのダウンの影響は大きい。大学から持ち帰っている別のパソコンは、プリンタードライバーさえ大学の管理者の許可がないとインストールできないようにプロテクトがかかっているので、打ち込んだデータをGoogle DriveとSkyeDriveにアップして、そこからキーボードがまともに機能しない古いパソコンでデータを開いて、接続したプリンターで印刷したり、そのプリンターでスキャンしたデータを逆方向に処理したりと、実にアホらしく面倒な作業である。
 一仕事終えたということで、金曜日は夕方5時に開場するプールに行って一泳ぎしてきた。最初の5分間くらいはコースを一人占めして泳げたが、後はもうこの時間帯は次から次に人が来て、とても快適には泳げない。50分くらいで諦めてあがった。それでもなんとか1800mは泳いだ。

 さて、今日で第3回目になる「種の論理」をめぐる問題群の提示。第4項目から第6項目まで。前2者については今回は問題の所在に言及するだけにとどめる。まだそこから展開させるため準備ができていない。

 4/ 認識論的問題
 種々の社会存在を考察対象とするとき、それらについての悟性と感性それぞれによる所与の多様性・多層性・多元性が一定の方法論に従って厳密に分析されなくてはならないだろう。そのアプローチの中で、理性と情念、知性と感性、ロゴス的知解とパトス的受容などの間の対立的・相補的関係も問われうるだろう。 
 5/ 実存論的問題
 「種の論理」において、表現・思想の自由は個の根本的価値の一つとして維持されうるのか。しかし、種が基体でありかつ主体であるならば、実践の主体であるところの個の自由は存立しえないのではないか。言い換えれば、「否定的媒介」の名の下に、個人の自由は簒奪されざるをえないのではないか。この問題圏において、論理と倫理の関係も問われなくてはならないだろう。
 6/ 存在論的問題
 務台は『社会存在論』の中で、「文化的社会が基体となり主体となって、歴史的世界の中で一切の形態を形成する」として、この文化的社会を直ちに民族と同一視する。そこには基体=主体=民族という等式が何の論理的根拠の提示もなく前提とされているわけだが、この等式の批判的検討は「種の論理」一般についての考察にとって最も重要な論点の一つになるだろう。
 しかし、田辺の「種の論理」においては務台に見られるような基体と主体との不用意な同一化は注意深く避けられており、両者の「辯證法的統一」がその存在論の要となる。それだけにこの点は厳密に検討される必要がある。自身が構想する「絶対媒介の哲学」について、田辺は次のようにその存在論を規定している。「その内容を成す所の存在論は、古代の自然存在論の如く、所謂 Hypokeimenon として基体と主体とを同一視し、基体の外に主体を認めないのでもなく、さりとて近世の人格存在論の如く基体を主体に還元して主体のみを真の存在とするのでもなくして、基体即主体、主体即基体の弁証法的統一の真の存在とする所の存在論である。これが歴史社会の存在論であり、世界存在の存在論である。特に媒介の中心として種的基体を重んずる立場から、種の論理、基体の論理に相応するものとしての社会存在の存在論、或は社会存在論ということもできよう」(「種の論理と世界図式―絶対媒介の哲学への途」(1935年)、『田辺元哲学選Ⅰ』岩波文庫、2010年、332-333頁)。


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