内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

『神々の明治維新』・日本学術会議任命拒否問題・SNS時代の知的「権威」

2020-10-23 23:59:59 | 講義の余白から

 今日が前期前半最終日、明日から11月1日まで万聖節の休暇です(バンザ~イ)。毎年のことなのですが、九月一日の新学年開始から休みなしのこの最初の七週間が一年で一番しんどい。今年度は、その上、コロナ禍による特異な条件下でのスタートだったこと、学科内にこれまで経験したことのない問題が発生したことなどが重なり、ほんとうにきつかった。でも明日から小休止です(これって、権利ですよね)。
 今日の授業は、「近代日本の歴史と社会」と「メデイア・リテラシー」の二コマ。
 前者では、安丸良夫の『神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈―』(岩波新書 1979年)の「はじめに」をゆっくりと読みながら、「神仏分離と廃仏毀釈を通じて、日本人の精神史に根本的といってよいほどの大転換が生まれた」という著者の主張の拠って立つところを説明していったが、いつになく質問が多く出て、学生たちが問題に対して強い関心を示していることがよくわかり、大変手応えのある授業であった。
 安丸良夫の文章は、彼らにしてみれば語彙・構文とも難度が高すぎ、一度読んだだけでは構文さえうまくとれない。そういうところで難儀させることがこの授業の目的ではないので、特に大事なところは一文一文、私が直訳あるいはわかりやすく意訳し、細部に拘る必要がないと判断した段落はさっとまとめ、その合間に解説を挟み、質問が出れば、その都度答え、新書にして十頁ほどを一時間二十分で読み終えた。
 「メデイア・リテラシー」では、日本学術会議の任命拒否問題を論じた上久保証人の論説「菅政権ばかりか、日本学術会議も「学問の自由」を守れていない現実」(『DIAMONDE online』10月6日)を取り上げ、日本で今何が問題になっているのかを考えさせた。はじめに、「安全保障関連法に反対する学者の会」の呼びかけ人の中の八人が任命拒否を批判する声明を発表する際に行った14日の記者会見の模様を報道するNHKのニュースを見せた。佐藤学学習院大学特任教授の声明読み上げ、小熊英二、内田樹それぞれの発言内容、益川敏英から寄せられたコメントについて、その都度ヴィデオを止めて、問題の所在に関わる重要な表現への注意を促した。
 論説の本文三段落読んだところで、任命拒否された六人のうちの一人、宇野重規東大教授の『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫 2019年 初版2007年)の補章「二一世紀においてトクヴィルを読むために」(文庫版で付加)の一部を参考資料として読ませた。この補章には、「SNS時代の知的「権威」」と題された節があり、それがまさに私が学生たち出した課題レポートの問題「SNS時代におけるメディアと一般市民との関係はどうあるべきか。具体例を挙げてあなたの考えを述べなさい」にとってよいヒントになっていたからだ。その節では、情報のやりとりが双方向的なSNSの時代において、旧来の情報発信側の権威が相対化された結果として、現在どのような事態が発生しているかという問題が取り上げられている。
 授業の後は、昨年後期に担当した近現代日本文学の授業で書かせた小論文について詳しくコメントを聴きたいという学生との面談。彼がその小論文で取り上げたテーマは、正岡子規と尾崎放哉における色による視覚的表現性。昨日読み直して準備したコメントを述べる。その後、小論文を離れて、文学研究・歴史研究の方法論の話になり、さらには日本語作文能力の向上のためのヒントなど話し、面談はほぼ二時間に及んだ。
 その後、新任教員との面談四十分ほど。前期前半が終わったところでの総括を行う。懸案事項はもちろん残っているが、なんとか大過なく前期前半は終えることができて、今、少し安堵している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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